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アフリカビジネス、6つの誤解
歩けば見える リアル・アフリカ
日本企業が知っておくべき現実とチャンス
2016年8月26日(金)
梅本 優香里
8月27日、28日にケニアの首都ナイロビで、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催される。安倍晋三首相をはじめ、日本からも多くの政府関係者、ビジネス関係者がケニアを訪れる。現地報道によると約4000人がやってくるという。
ナイロビの町に出現しているTICAD開催を伝えるサインボード
おかげで、アフリカビジネスに関する情報も日本語でよく出回るようになった。今回はアフリカビジネスに関わるよくある誤解について、書いてみたい。
当社ブースも準備を整えご来場をお待ちしております
誤解1:アフリカは人口が多い
アフリカ大陸全体の人口は12億人を誇る。人口構成はきれいなピラミッド型なので、これからも人口は増えていく。年齢の中位数は20歳前後で、46歳である日本と違い、消費力と労働力を備えた若い生産人口が中心だ。
ただし、人口大国であるナイジェリア(1億7000万人)、エチオピア(9700万人)、エジプト(9000万人)を除けば、1カ国あたりの人口は平均すると1600万人程度だ。これは、国内の1億2000万人のマーケットでビジネスをしてきた日本企業にとっては多い数ではない。
地域共同体の国をあわせれば人口規模は大きい、とする主張もあるが、マーケットとしてひとまとまりにカウントできるかどうかは、物流インフラの整備、関税をはじめとする越境コストの低さ、マーケット内でのニーズの統一性が条件だ。政治が決めた共同体がビジネスにおいてすぐに機能するわけではない。アフリカの国境は恣意的に引かれたと言われるが、独立から半世紀たった今、国の違いによる国民性や消費行動、商習慣の違いは予想以上に大きい。
さらに、ビジネスの視点でみるなら、都市部と農村部は明確に分けなければならない。消費行動やニーズにおける、ひとつの国の中での都市部と農村部の違いは、国と国の違いよりもずっと大きい。農村部は一般的に人口密度が低く、モノが流れる仕組みが整備されていない。マーケットのサイズを計算する際は、アクセス可能な人口のみを算入しなければいけない。おのずから、日本市場とは違うビジネス設計が必要となる。
誤解2:アフリカはブルーオーシャンだ
アフリカは「最後のフロンティア」と呼ばれるが、その言葉から受ける、需要が手付かずのまま残されているという印象は、たいていの場合正しくない。ひとたびビジネスの検討を開始するとすぐに、すでに誰かが似たビジネスを行っていることに気づくだろう。
たとえば、まだ電化が進んでいない地域へのオフグリッドでの電力供給。電力のニーズは高いものの、ソーラーランタンを売る企業はすでに外資、現地企業が無数に入り乱れている。10ドル〜20ドルで販売され、どこでも手に入る。このような市場に少しばかり長持ちする丈夫な日本製品を2倍や3倍の価格でもってきても、競争には勝てない。
「こういう商品はアフリカで売れますか」という質問をよく受ける。商品自体に問題がなくても、似たような商品はすでに出回っているのだから、価格を安くするか、販売力で相手を凌駕するか、ゲームチェンジャーになるしかない。
たとえば、ケニアには「M−KOPA(エムコパ。スワヒリ語で「モバイルで借りる」の意味)」というサービスがある。家庭用ソーラーシステムをモバイルマネーによって割賦販売するもので、装置内に組み込まれたSIMカードを使って配電と支払いを管理できるスマートメーターだ。東アフリカの農村地帯で売られている。ローンを支払い終えると、テレビなど追加の電化製品が購入でき、その支払いもまたモバイルマネーで管理する。ランタンの売り切りから、ローンを用いて家庭の電力需要を総取りするモデルへと変えたゲームチェンジャーだ。
M−KOPAの基本セット。ローンを支払い終えると、バッテリーにつなぐことができる電化製品を次々に追加できる
加えて700人の営業人員と1000のエージェントという販売力による面を取る営業を行っている。ところがさっそく、その売れ行きをみてドイツ企業やウガンダ企業が参入してきた。「どのような方法でアフリカで売るべきですか」と、売り方を聞くのが正しい質問なのだ。
中国はインフラや資源のみならず、アフリカにおける軽工業への投資に力を入れており、アフリカ大陸に15の工業団地を持つ。ただし、アフリカでの競争相手は中国のみではない。外資企業のみならず現地企業が先行者利益を得ている商材も多い。
最近は、これまでアフリカとは関係が浅いと見られてきた国々の企業のアフリカ進出も目立ってきている。たとえばベトナムの通信会社ベトテルは、モザンビークの携帯通信事業でトップのシェア。アフリカで朝食として食べられているインスタントヌードルにおいて、6割を超えるシェアを持つのはインドネシアの企業インドミーだ。アメリカは中国への対抗意識からアフリカに注力し始め、トルコは企業団を頻繁に送り込んでいる。
ナイジェリアで販売されているインドミー
誤解3:アフリカはモバイルマネーが普及している
ケニアで携帯電話のSMSを使ったバンキングシステムである「M−PESA(エムペサ)」が爆発的に普及したことで、アフリカはリープフロッグ(蛙跳び。新しい技術が、それより古い技術が存在していないのに一足飛びに導入されること)により携帯が普及し、銀行口座を持たない人のあいだでモバイルバンキングが一般的になっているという印象が持たれている。
M−KOPAもそうだが、モバイルマネーを下敷きにした新たなサービスも、多く生まれている。モバイルマネーやSNSに蓄積された情報を信用情報として用いて、少額ローンをモバイルマネー経由で提供するサービスは、ケニアで大人気だ。まさに「フィンテック」の実例がここにはある。
ただし、国によって普及度には大きな違いがある。正確にいうと、これほどモバイルマネーが普及しているのは、アフリカの中でもケニアだけだと言ってもよいかもしれない。
ムーディーズが今年発表した調査によると、アフリカ各国のモバイルマネー口座保有率は、ケニアが圧倒的に高く6割弱、続くのはウガンダの35%、コートジボワールの25%となる。他の国はそれより低い。
当社が拠点を持つ国でも、ケニアはモバイルマネーを使っていないと逆に「なぜ?」と聞かれるくらい常識である一方、ナイジェリアは既存の金融機関が強いため、普及しているのは銀行口座をモバイルで操作できる、日本の銀行が提供しているのと同じようなモバイルバンキングのみだ。携帯のみで金銭のやりとりができる、M−PESAのような狭義のモバイルバンキングは、ナイジェリアでは今年になってようやく始まったばかりだ。
コートジボワールにはモバイルバンキングは存在しているものの、当社推計では実際の使用率は10%未満だ。ケニアでは一般のパパ・ママショップがモバイルマネーと現金を交換するエージェントとなったことで、普及が進んだ。パパ・ママショップは日銭があるため資金供給を受けずとも独自資金で換金のための運転資金を回すことができ、どんな田舎にも存在するため多くの人々が利用できる。コートジボワールの場合はまだ小売の密度が高くないために、エージェント網が発展しないのだ。
逆にいうと、ケニアで起こったようなモバイルマネーの普及とそれを基盤にしたさらなるサービスの誕生と発展が、アフリカのあちこちでこれから始まるという膨大な可能性が残されているとも言える。
誤解4:日本企業にとってアフリカは遠い
筆者は、1960年代に作られた、アフリカで事業を行っている日本企業のリストを見たことがある。業種も多様な、驚くほど多くの、いまは大企業となった日本企業が名前を連ねていた。そのリストを見る限り業種や製品は多様で、ODAビジネスに限定されることなく、電化製品などの消費財、製造業の原料、サービスに至るまで存在し、アフリカに工場を持っていた企業も今よりあった。
当時の話を年配の方から伺うこともあるが、コンプライアンスも組織管理も不十分なままに、アフリカで貪欲に商売を作ろうとしていたその様子を聞くにつれ、当時はどの日本企業もまるでベンチャー企業のようだったのだと実感する。80年代、その勢いは続いたものの、ベンチャーのようだった企業も成熟した大企業となり、90年代にはアフリカ側の政情不安や日本側のODA予算の減額もあって、アフリカで事業を行う日本企業は激減した。
日本は第二次世界大戦後、すべてを失い、多くの企業はゼロから事業を立ち上げていった。国内市場はいまほどの購買力と成熟度を持っておらず、自ずと外で稼がなければ生き残れなかった。独立後、新しく国と経済を再建中であったアフリカ諸国と、経済の発展段階が合っていたのだと思う。いま中国の製品がアフリカで売れているように、国内市場で販売しているものとアフリカで販売するものとの間にも大きな乖離はなかったのではないか。いまよりずっとアフリカと日本の心理的な距離が近かった頃があった。いまも昔もアフリカと日本の間の地理的な距離は変わらない。日本や日本企業の発展の段階や外部環境が、ビジネスにおける距離を遠ざけてきたのだ。
誤解5:日本の製品はアフリカの市場に適合しない
では、現在の日本のビジネスや製品は、アフリカのマーケットに適合しないのだろうか。答えはNOだ。すでに多くの製品が実はアフリカで使用されている。
たとえば、製造業における機械・機器や原料といった分野がある。先述のインドミーが使う製麺機は日本製だ。ナイジェリアのラゴスで、インドミーの工場長は「日本企業以外の製麺機は使いたくない」と筆者に話した。筆者はアフリカ中の多くの工場を訪問して回っているが、日本企業の製品を見かけることは意外と多い。縫製工場ではJUKIやブラザー工業のミシン、豊田自動織機の織機が使われ、YKKのジッパーが購入されている。
工業用刺繍機世界トップメーカーである日本企業バルダンの刺繍機。ケニアの工場にて
食品工場では日本製のオートメーション装置が使われ、ラベルプリンターや検査機器にも日本のものを見る。高度なパッケージの原料も使われている。建設産業ではマキタの工具が人気だ。島津製作所の画像診断装置や堀場製作所の糖尿病検査機器をもっと輸入したいと病院から頼まれる。大手の輸出農家に行けばブロッコリーを始めとしたサカタのタネの種子が必ず使われているし、アフリカの女性向けつけ毛の工場が買う原料はカネカなど日本の化学メーカーが提供しているのは有名な話だ。
アフリカでの競争は厳しいと先に述べたが、信頼性や丈夫さ、効率性に大きな優位性がある日本の産業資機材は、比較的競争に巻き込まれず、営業費用も多くは必要とせず、販売することができる。アフリカでも、事業継続性や品質の担保、効率が大事な生産現場では、価格が高くとも日本企業の製品を使いたいのだ。
もっとも、このような品質一番の商材以外にも、日本企業にとってアフリカで事業可能性がある産業や商材は、より広範囲にわたる。企業規模の大小に関わらず、効率を重視する、安定した経営を行うようになった日本企業に、アフリカでのビジネスは、グローバルな競争に伍せる企業や、新興国で収益を生める企業になるための、または失ってしまったベンチャースピリットを取り戻すための、機会を提供する面もある。
関西ペイントは、日本ではリーディング企業でも、世界のシェアでみると二番手集団に過ぎない。トップグループに入るために、自動車から建築用塗料へ重点を移すことを決めた後、アフリカの来たる大きなマーケット獲得のため、南アフリカの塗料メーカーを買収した。買収によって、マーケットという直接的な恩恵のみならず、世界で伍していくためのマインドセットを得たという。同社は「アジアのみで事業をやっていたときと比べて、世界市場という地図の見え方ががらりと変わった」と言う。アジアは日本にとってやはり、日本の延長線上でビジネスができる場所だ。コンテキストを同じくしないアフリカは、よその人といっしょにやっていくグローバルビジネスの入り口なのだ。
パナソニックはアフリカにおいて家電の販売を強化することを発表しているが、先日、スマートフォンの販売をケニア、ナイジェリア、ガーナで開始すると新聞報道された。インドですでに中国メーカーへの生産委託によるスマートフォンを販売しており、その現地会社のインド系社長はパナソニック本体の役員でもあることが、新興国での本気度をうかがわせる。生産体制もマネジメントの方法も、おそらく日本風ではない方法になるのだろう。パナソニックがアフリカでのスマートフォンビジネスをやりきったときには、ガラパゴスなどと言わせない、新興国で他のどんな商材でも売れる強いメーカーとなっているだろう。アフリカにおいて製造業の進展や世界のサプライチェーンへの参入は喫緊の課題だ。アフリカと日本が、その両者の利害によって、再び近づく時がきている。
誤解6:アフリカは暑い
アフリカ大陸は日本の80倍の面積があり、気候も多様である。よって一概には言えないが、南アフリカのヨハネスブルグなど、主要な都市は標高が高い場所にあることが多く、年中冷涼だ。TICADが開催されるナイロビは1年を通して年中軽井沢のような気候で、ちょうどいまは東京でいうと11月頃の気温だろうか。
寒いといってもよいくらいで、朝晩は10度程度まで冷え込み、筆者はナイロビの家で毎日フリースを着ているほどだ。TICADに向けてアフリカを訪れるみなさんも、暖かい洋服を用意して体調に気をつけてきていただければと思う。
このコラムについて
歩けば見える リアル・アフリカ
人口増加が確実で将来有望な消費市場として、そして製造拠点の新たな立地として注目を集めるアフリカ。ただ企業関係者にとっては、「アフリカ」の「どこの国」で「どういうビジネスチャンス」があるのか、具体的なイメージはまだ獏としている。当欄では、毎回特定の国と産業を取り上げ、そこでは実際に何が起こっておりどういったビジネス環境にあるのかについて、足で集めた情報を提供する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/250027/082500005/
国による再配分強化では、地方の自立は進まない
磯山友幸の「政策ウラ読み」
地方交付税制度を抜本的に見直せ
2016年8月26日(金)
磯山 友幸
地方交付税の交付総額は、15兆6983億円
「地方創生」を安倍政権が看板政策に掲げて2年になる。「地方の自主性」が強調されてはいるものの、結局は国に頼らなければ地域経済は回らない仕組みのままだ。創意工夫で税収を増やすと、翌年の交付税が減額されてしまうという側面もある。地方交付税制度を抜本的に見直す必要がある。
総務省が7月26日、2016年度に国から地方自治体に配分する地方交付税の交付額を決定した。都道府県分と市町村分を合わせた交付額総額は15兆6983億円。前年度に比べて0.3%減とほぼ横ばいだった。
地方交付税とは、所得税や法人税、消費税の国税分などを、いったん国が税収として吸い上げ、地方自治体の財政状態に応じて再配分する制度。どの地域に住んでいる国民でも、一定以上の行政サービスを受けられるようにするという趣旨で設けられている。
この地方交付税交付金に頼らないで財政運営する自治体を「不交付団体」と呼ぶ。総務省の発表によると今年度は全国で77。前年度は60だったので、17増えたことになる。アベノミクスに伴う企業業績の好転などで、地方税収が増えていることが背景にある。
平成28年度 不交付団体の状況
出典:総務省
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/082500029/pho_zu_01.jpg
不交付団体は、都道府県では、前年度に引き続き東京都だけ。政令指定都市としては川崎市が今年度から不交付団体になった。都道府県別に不交付団体の数をみると、愛知県が17でトップ。次いで東京都が11、神奈川県が8、千葉県と静岡県が6となった。愛知県では今年度から岡崎市と田原市、高浜市の三市が新たに不交付団体となっている。トヨタ自動車に代表される中京圏の企業業績好調が鮮明に表れた格好。このほか、首都圏の自治体も企業業績の好調による税収増を背景に良好な財政状態を保っている。
平成28年度普通交付税不交付団体一覧表
(注1)千葉県君津市、静岡県富士市、静岡県御前崎市は財源不足団体であるが、調整率を乗じた結果、不交付団体となったものである。
(注2)*印は、平成28年度の一本算定は不交付団体であるが、合併の特例により交付税が交付される市町村である。(12団体)
(注3)平成28年度に不交付団体から交付団体になった団体はない。
出典:総務省
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/082500029/pho_zu_02.jpg
財政的に「自立」できている自治体は全国で4%に過ぎない
不交付団体の数は、2010年度の42を底に増加傾向にあるとはいえ、ごくわずかだ。全国には1765の自治体が存在しており、その中で財政的に自立できているのは4%に過ぎないということになる。
大都市圏以外の自治体で「自立」しているのは、北海道泊村や青森県六ケ所村、佐賀県玄海町などで、原子力発電設備が立地している自治体が目立つ。原発を引き受けていることで、電力会社などから巨額のおカネが自治体に入っていることが背景にある。財政的に自立しているといっても、イレギュラーなケースなのだ。
地方交付税の建前は、地方税相当分を国が代わって徴収して再配分することで、どんなに税収の少ない自治体でも財政的に自立できるようにする、ということになっている。つまり、再配分によって地方の自立を促すための制度だというわけだ。
交付税に頼らず「自立」するのは夢のまた夢
だが現実には逆の結果になっている。
「交付税に頼らずに自立するというのは夢のまた夢。そうあるべきだとは思うが現実には無理だ」
地域起こしに向けて様々な手を打っている、ある自治体の改革派市長はこう言って目を落とす。結局は、どうやって交付税を増やしてもらうか、が市長の手腕だという。交付税だけでは十分ではないので、国の事業などを引っ張って来ることも重要になる。月に何度かは東京の霞が関や永田町を回り、陳情して歩く。特に多額の補正予算が検討されている今年は、長年待ち望んでいた高速道路の早期開通を働きかけている。
自助努力するのが無駄になる仕組み
「結局は国頼みをしないと地域経済は回りません」とこの市長は言う。とうてい財政的な自立など無理だというのだ。交付税に頼らない自治体が全国の4%に過ぎない実状を考えると、財政で見る限り「地方自治」とは著しくかけ離れた状況なのだ。豊かな半分の自治体が厳しい半分の自治体を賄っているというのなら「再配分」と言えるが、圧倒的多数の自治体が国から降ってくる交付金に「頼っている」のである。自立を促しているはずの地方交付税制度が、逆に自立を妨げているのだ。
地方自治体の「自立」を促進するのならば、自治体が自らの地域から上がる税収でどうやってやり繰りするかを考えることから始まるべきだろう。税収をどうやって増やすかを考え、一方で支出をどう効率化して抑えるか、実行していくことが不可欠だ。ところが自助努力で財政を建て直し、仮に黒字になった場合、交付税が打ち切られることになってしまう。努力するのが無駄になる仕組みなのだ。
首都圏に近い観光資源が豊富な自治体ではかつて、首都圏から富裕層の移住を働きかけたことがある、という。首長自らが人脈をたどって別荘を誘致、住民登録してもらうことで税収を増やした。結果、税収を増やすことに成功したのだが、翌年の交付税が減額されてしまう。「やっただけ無駄だと思った」と振り返る。
国の関与をさらに増やす方向に進んでいる
本来は交付税による再配分を縮小し、自治体の自立を促すべきだと思うのだが、方向は逆に進んでいる。
2008年以降、国は「法人事業税の暫定措置」というのを始めた。本来は地方税である法人事業税の一部を「地方法人特別税」という名の国税にして国が徴収、地方交付税の「原資」として再配分に回しているのだ。消費税率が10%に引き上げる段階で撤廃されることになっていたが、消費増税の先送りで撤廃も先送りされている。
さらに2014年10月からは、地方税である法人住民税の一部を国税化し「地方法人税」を創設した。さらに総務省はこの国税化の割合を拡大しようと検討している。「地方間の財源調整」を名目に、さらに国の関与を増やそうとしているのだ。こうした「国税化」によって愛知県豊田市の場合、年間100億円近い財源が国に吸い上げられることになると試算している。
かつて、小泉純一郎内閣から第1次安倍内閣の時期には地方分権を進める手法として「三位一体の改革」を行うとされていた。「国庫補助金の廃止や縮減」や「地方交付税交付金の見直し」を行うのと同時に、「国から地方への税源移譲」を進めるとした。この三つを同時に行うというところから「三位一体」と呼ばれたのだ。
地方への税源移譲計画はどこかに消えてしまった
ところがその後、補助金の廃止や交付税の削減が行われたものの、地方への税源移譲は遅々として進まなかったため、地方自治体の財政が一気に悪化した。民主党政権は地方の困窮の声に応える形で、地方交付税の増額にカジを切った経緯がある。
その後成立した第2次安倍内閣以降では、「三位一体の改革」という言葉はほとんど使われなくなった。地方への税源移譲はどこかへ行ってしまったのである。その代わりに出てきたのが「再配分強化」策としての、地方税の国税化なのだ。最近では「道州制」の議論もすっかり下火となり、地方の自立はほとんど議論にならなくなった。
いつまでも国が地方を支える仕組みでいいはずはない
だが、そうした「国による丸抱え」とも言える政策で、地方の財政は改善していくのだろうか。国全体の財政も厳しい中で、いつまでも国が地方を支える格好でいいはずはない。
もともと霞が関は再配分強化に動く「傾向」がある。再配分機能を拡大させれば、当然、それに伴う権限も大きくなるからだ。また、国会議員にとっても「再配分」は魅力的だ。地元の要望を聞いて国の事業を地方に持って行くという「昔ながら」の仕事が増えるからだ。つまり、霞が関にとっても、永田町にとっても「国税化による再配分強化」は自らの利権拡大につながるのである。
霞が関の官僚に頼らずに税収を再分配する方法はないか。可能性があるのは「ふるさと納税」だろう。最近では返礼品競争にばかり注目した報道がされているが、自治体の「努力」によって税収を獲得しようとする制度が機能し始めたのは好ましいことだ。安倍内閣はこのふるさと納税の拡充に力を入れており、今年度からは企業版のふるさと納税もスタートした。
官僚による再配分 VS 納税者による再配分
霞が関では「ふるさと納税」を批判する声が強いが、それは自分たちがコントロールできない「税の配分」が行われ、それがどんどん拡大していっているからだ。だが、考えようによっては、官僚が再配分するよりも、納税者が「選択」した結果、再配分される方が理屈に叶うことかもしれない。いずれにせよ、各自治体に創意工夫がもたらされたのは良いことだ。今後、企業版ふるさと納税で、地方自治体の知恵比べが始まるだろう。
もっとも、そうした努力によって財政が改善しても、地方交付税制度で交付金が減らされるようなことになれば、何のために努力しているのか分からないということになりかねない。
国土の均衡ある発展──。戦後、日本は、どの地方も同じように発展するのが良いことだ、という思想のもとに、地方自治政策が取られてきた。焼け跡から復興するには等しく物質的に満たされることが不可欠だったのだ。それを支えてきたのが地方交付税制度だったともいえる。
だが、人々の感じる豊かさが多様化する中で、地域ごとに特色ある発展が不可欠になっている。そろそろ地方交付税制度を抜本的に見直すことが必要だろう。
このコラムについて
磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/082500029/
ジュネーブが法人税率引き下げ提案へ、成否は「究極の戦い」
Albertina Torsoli、Dylan Griffiths
2016年8月26日 07:03 JST
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欧州連合(EU)がスイスに外国企業に対する税制優遇措置を廃止するように圧力を高めたことで、国内最多の1000社前後に上る多国籍企業が拠点を置くジュネーブ州は影響必至だ。これに対し同州は、法人税率引き下げで魅力を高める意向だ。
事情に詳しい関係者3人によれば、ジュネーブ州は8月30日に法人税率を現行の24.2%から13.49%への引き下げを提案する。5年間の移行期間中はこれをやや上回る13.79%となりそうだと、情報が非公開であることを理由に関係者2人が匿名で明らかにした。クレディ・スイス・グループによれば、改正後の法人税率は多くの外資系企業に優遇措置で現在提供されている平均税率を2.2ポイント上回るものの、ジュネーブの競争力改善につながる。
ジュネーブを拠点にする法律事務所ボナード・ローソンのティエリ・ボアテル弁護士は、「ジュネーブの競争力がかなり高まると予想できる」とし、「多国籍企業は新税率の適用時期がある程度明確になれば歓迎するだろう」と評した。
スイスの他州同様にジュネーブはフラン高や移民制限をめぐる懸念で打撃を受け、銀行の秘密主義廃止も同州の金融業界を冷え込ませている。プロクター・アンド・ギャンブルを始めとする多国籍企業は7万6000人の従業員を抱え、ジュネーブ経済の40%を占めることから、税率改正を図る政治家にとって成否は極めて重要だ。
ジュネーブ商工会議所のバンサン・スビリア副ディレクター(国際関係・仲裁担当)は、「われわれにとって究極の戦いだ」とし、「ジュネーブの魅力のほか、今後数世代にわたるジュネーブ経済の姿が脅かされる。このため負けることはできない」と指摘した。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/i1siwmCXMmx4/v2/-1x-1.png
原題:Geneva’s Corporate-Tax Fight Becomes ‘Mother of All Battles’ (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-08-25/OCGGX06K50YJ01
【インサイト】ヘッジファンドの流血騒ぎ、起死回生の方法探る好機か
Christopher Langner
2016年8月26日 07:30 JST
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ヘッジファンドの7月の解約額が252億ドル(約2兆5300億円)に上った。一部が閉鎖に追い込まれるような痛い話だが、業界全体の規模を考えれば、どうってことはない。
悪いニュースとしては、流血騒ぎはこれで終わらないということだ。運用担当者はこの先をよく考えなければならない。
米調査会社イーベストメントのリポートによると、7月のヘッジファンド解約額は月間ベースで2009年2月以来の大きさ。6月は235億ドルの純減で、今年に入ってからの資金流出は計559億ドルに達した。ものすごい金額だが、バークレイヘッジのデータによれば、業界全体の運用資産は2兆7000億ドルもある。
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09年以降の業界への力強い資金流入を考えれば、その反転が起きたのはごく自然だったかもしれない。今年に入って商品ファンドがけん引し、過去1年2カ月の流入額は103億ドルに達した。また、マイケル・リーガン記者が先日指摘したように、業界全体というより、ロング・ショート戦略のファンドがひどくやられた。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iItqyD4E1oM8/v2/-1x-1.png
以上の2点からすると、ヘッジファンド業界は息絶える寸前というより、調整が起きたという見方が最新動向で裏付けられるようだ。解約が起きたのは運用成績がマイナスのファンドが中心で、年初からの成績がプラス7%を超えるようなファンドには資金が流入している。
ファンド側は移ろいやすい投資家に愚痴の1つも言いたいかもしれないが、それはだめだ。運用資産の2%と利益の20%を手数料・運用報酬として徴収される投資家からすれば、より大きい利益を上げるファンドに乗り換えるのは当然。こうした手数料慣行が変わらない限り、ヘッジファンド業界では今後も、勝者がより多くの資金を集める一方、敗者は復活のチャンスも与えられないことだろう。
さらに、運用環境が恐ろく厳しい事実がある。主要な中央銀行は低金利にすることで、不動産から未公開株(PE)投資まで長期資産を押し上げたが、ヘッジファンドなど短期ベースで運用する資産には逆に働く。資産運用の最善策はこのところ、指数連動だ。だが、ヘッジファンドはそんな戦略はまず取らない。
米金融当局も欧州中央銀行(ECB)も日本銀行も「通常」の金融政策に戻る日が近いとは言えないので、ヘッジファンドを取り巻く問題は残る。つまり、業界全体でリターンは一段とさえなくなり、解約が増えるということだ。
ヘッジファンドが存続の危機に見舞われるまでには、7月のような状況が数十カ月も続く必要があるだろうが、現在のような資産流出は止まらない公算が大きく、各社にとっては運用方法を再考するいい機会かもしれない。
(クリストファー・ラングナー)
(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピーの意見を反映するものではありません)
原題:Hedge-Fund Bloodletting Should Prompt Contemplation: Gadfly(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-08-25/OCGE3R6TTDSL01
金融市場異論百出
2016年8月26日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
人手不足で「アミーゴ紹介求む」金融緩和を左右する移民政策
群馬県邑楽郡の大泉町には日系ブラジル人が多く、看板に並ぶブラジル国旗やポルトガル語の多さに驚かされた?Photo by Izuru Kato
?群馬県邑楽郡の大泉町は日系ブラジル人が多い街だ。先日訪れたところ、ポルトガル語の看板の多さに驚いた。
?スーパーマーケットにはブラジルの国旗が多数掲げられ、かの地の食材が並ぶ。併設のレストランでは「リオ五輪開催中の土日はブラジル料理ビュッフェ食べ放題1780円」といったキャンペーンも目に入った。また、駐車場にはブラジルの大手銀行のワンボックスカーの姿もあった。送金やローンの相談を受けているのだろう。
?その店に置いてあった無料の情報誌には、ポルトガル語で膨大な数の求人広告が載っていた。弁当など食品関連の工場の仕事は時給900〜1100円程度だが、自動車関連の組み立てやハンダ付けとなると、1200〜1400円といった高時給も見受けられる。
?大泉町近辺にはパナソニックや富士重工業の生産拠点があり、下請け企業の工場も多い。人手不足は深刻で、「Urgent」(至急)の文字が求人広告には散見された。「アミーゴ(友人)を1人連れてきたら2万円ゲット!」と書かれた広告や、日本語レベルが高い人材を正社員として求める募集もあった。
?過去を振り返ると、バブル経済期に日本政府は人手不足緩和策として、ブラジルから日系人を誘致した。しかし、日系人であればOKという選考基準で、教育水準や労働スキル、日本語能力の審査はなかった。外国人労働者の受け入れにおいては入国後のケアが非常に重要だが、日本政府はあまり関心を向けなかったのだ。
?そのため、日本語教育など地元に溶け込むために必要な費用は各自治体の負担となってしまった。その結果、十分なケアがないまま職場に適応できず、生活保護に依存する外国人労働者も現れた。
?リーマンショック後の不況で解雇されたブラジル人労働者に対して日本政府は、日本に当面戻ってこないことを条件に飛行機代などの帰国支援金を支払った。日本での労働条件に失望して帰国した労働者も大勢いる。
?しかし、国内の少子高齢化などの影響で人手不足は再燃。帰国支援金で帰国した人も2013年から再入国が可能になったが、今後は見識を持った移民政策を検討する必要がある。わが国の人手不足はさらに深刻化していくからだ。
?また、外国人労働者は需要の担い手にもなる。前出の日系ブラジル人向け情報誌には戸建て住宅の広告も多数載っていた。販売価格は1000万円台後半が中心だ。永住権を持ち、正社員であれば金融機関から住宅ローンを受けやすくなる。大都市を除けば空き家が社会問題化している日本だけに、彼らの住宅需要は貴重と思われる。
?その情報誌には運転免許教習所や中古車、フィットネスクラブの広告もあり、需要が多岐にわたっていることが見て取れる。
?外国人労働者の需要の影響を大きく受けているのがスウェーデンだ。15年の住宅価格上昇率を見ると、欧州連合(EU)圏の平均が3.8%であるのに対して、14.2%の上昇とEU内で最も高騰。スウェーデンでもマイナス金利政策が実施されているが、その効果よりも労働年齢人口の急増の影響の方が大きい。特に移民や難民の住宅需要が急増しているのだ。
?国際通貨基金(IMF)によれば、昨年のスウェーデンの実質国内総生産(GDP)成長率は4%を超え、今年も3%台後半が予想されている。日本のように労働年齢人口が急減している国では、超金融緩和策を実施しても需要は刺激されにくいといえる。
(東短リサーチ代表取締役社長?加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/99578
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