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世界の金融政策、60年代に回帰か
JON SINDREU
2016 年 8 月 24 日 15:50 JST
ファッションの世界では、昔の流行がリバイバルすることがよくある。中央銀行の世界の場合、いわゆる「マクロブルーデンス政策」の活用について1960年代のような雰囲気が感じられる。
マクロプルーデンス政策は、自己資本や流動性に関する要件を定めることによって金融危機が将来発生しても銀行がより良く対処できるよう考案されたものだ。この種の規制は目新しいものではないが、中銀関係者らは現在、こうした措置を新たな形で活用しようとしている。いわゆる「カウンター・シクリカル・バッファ−」、つまり、銀行に多少なりとも資本増を課す措置を通じ、当局者らは好況時の与信を引き締める一方、不況時にはこれを緩和することができる。
英国が6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた後、英イングランド銀行(中央銀行)はまさにこうした措置を講じた。このバッファーを0.5%からゼロに引き下げ、金融機関を支えたのだ。当局者によると、銀行が新たな融資で経済を支えることを期待したものだった。これは、マクロプルーデンス政策が現在、従来の金利政策と合わせて、経済全体を管理する政策とみられていることをはっきりと示している。
イングランド銀行の調査では、こうした措置は実効性があり、特に銀行による与信量への影響という点では金利政策よりもはるかに効果的であることが示唆されている。
年間の銀行融資に対する影響(緑:与信管理、ピンク:銀行金利)
出所:イングランド銀行
イングランド銀が19日に発表した論文で同銀エコノミストらは、金融政策とマクロプルーデンス政策が現時点で持つ効力を計測するため、この双方の政策について1950年代から80年代初頭(両者が並行して実施されたのは80年代初頭まで)にかけての効果を調査した。
当時の経済運営についての総意は今とは全く違っていた。代表的なのは、英国の金融システムのオペレーションを評価する目的で英財務省の命を受けて1957年に設立された委員会が1959年に発表したラドクリフ報告だ。同報告は、経済政策としては与信管理と財政措置を主軸とすべきとの見解を発表した。
報告は「経済や国際収支の短期的な安定を図る上で、金融政策だけに依存できる可能性は低いとみられる」と記している。
与信管理には、自動車や家具といった特定品目の購入に対する与信の制限に加え、許容される融資の総額規制も含まれる。
実証データがないため確たる結論を出すのは難しいが、このほどのイングランド銀行の調査では、こうした規制は融資の抑制に役立ったものの、政策金利引き上げの効果は「統計的に有意ではなかった」ことが示唆されている。また、与信管理は金融全般の安定にも寄与したが、金利政策はほぼ効果がなかった。
イングランド銀行のエコノミストらは「われわれの調査結果は、金融の安定という目標の達成には金融政策よりマクロプルーデンス政策の方が適しているという見解をある程度まで支持するものとなった」としている。
英国の政策金利
この結論は、住宅バブルや金融バブルを回避するため利上げすべきだとか、借り入れコストの引き下げが世界金融危機の主因の一つだったとする一部エコノミストの意見と対立するものだ。実際、金利が信用需要に与える影響は部分的だということを示す証拠も見られる。また、資金調達が安価でできることも、銀行の融資決定に与える影響は小さい。
論文によると、これとは対照的に、金利はインフレや製造業生産に与える影響の方がずっと大きかったようだ。言うまでもなく、当時の金利には現在より大きな変動余地があったのに対し、現在は先進国全般でゼロ近辺にあり、下げ余地はほとんどない。
一方、マクロプルーデンス政策ではこれまで引き締めていた措置を緩和する余地があるだけで、現在の硬化した成長を押し上げる力は弱い。
金融政策であれマクロプルーデンス政策であれ、経済学者ジョン・メイナード・ケインズの中銀に対する警告が今ほど有効な時はないだろう。その警告とは、中銀は糸を引っ張る(政策を引き締める)ことはできる。しかし、糸を押す(政策を緩和する)ことはこれよりもはるかに難しい、というものだ。
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米銀、住宅ローン堅調で低金利の痛み和らぐ
7月の米住宅販売は引き続き堅調だった(写真は米フロリダ州の販売物件) PHOTO: LYNNE SLADKY/ASSOCIATED PRESS
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AARON BACK
2016 年 8 月 25 日 07:24 JST
米国では住宅市場の活況を背景に銀行融資が勢いづいている。
極端な低金利は融資事業の収益を低下させるため、銀行にとっては有り難くない。それにもかかわらず、米大手銀は融資の拡大により金利収入を増やすことができている。
ここ数年の成長を主導したのは商工業向け融資だ。だが、最近は石油・ガス部門の資金調達需要の減少が一因となり、その勢いは鈍っている。一方で消費者向け融資、とりわけクレジットカードの融資残高は伸びが加速してきた。ここへ来てさらに、住宅ローンの大幅な増加がもう一つのけん引力となっている。
米住宅ローン金利は過去最低近辺にあり、雇用市場も堅調なことが幸いして住宅市場が活況を呈している。米政府が23日発表した7月の新築住宅販売戸数は2007年以来の高水準となった。
全米不動産協会(NAR)が24日公表したデータによると、より重要度の高い中古住宅販売件数(年率換算)は7月に前月比3.2%減少した。だが、それまで数カ月は大きく伸びており、7月も9年ぶり高水準をわずかに下回ったにすぎない。IHSのエコノミストらの推計によると、このまま行けば今年の中古住宅販売は06年以来の水準を記録する勢いをまだ保っている。
その上、住宅価格は上昇しており、7月の中古住宅の販売価格中央値は前年同月比5.3%上昇した。つまり、販売戸数が増えずとも、住宅ローンの貸出額は大きくなるのだ。
住宅ローンは堅調
米銀の7月の住宅ローン融資残高(季節調整済み年率換算)は10.5%増加した
銀行はまた、ローン債権を譲渡せずに保有し続けている。米連邦準備制度理事会(FRB)のデータでは、米銀の7月の住宅ローン融資残高(年率換算)は10.5%増と、11年以来の大幅な伸びを示した。銀行の住宅ローン債権保有比率は金融危機前の水準をまだ下回るが、着実に伸び続けている。
記録的な低金利は借り換えも後押しするはずだ。これは銀行にとり諸刃の剣だ。借り換えは融資の伸びにつながる一方、既存ローンが新たに低金利のローンで置き換えられることを意味するためだ。住宅ローン担保証券(MBS)の保有額が大きい銀行にとってはとりわけ問題となりかねない。
6月下旬には英国のEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票を受け金利が大幅に低下し、一時的に借り換えが急増したが、その後は落ち着いている。金利が一段と低下すれば、住宅ローンは新規も借り換えも再び需要が急増するとみておくべきだ。
ブレグジットを決めた国民投票が過ぎて間もなく7-9月期に入った。多くの銀行にとり、英国民投票後の市場の変動と住宅ローンの借り換え急増は今四半期の業績押し上げにつながるはずだ。これは住宅ローン貸出の増加とあわせ、超低金利という足かせを少なくともいくらか和らげる可能性がある。
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米短期金融市場、9月に波乱が見込まれる理由とは
ワシントンの米証券取引委員会本部 PHOTO: AP
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JON SINDREU
2016 年 8 月 25 日 11:10 JST
米ドルのロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は先週中に低下したが、来月にかけての短期金融市場の円滑な展開は期待できない。
1カ月物および3カ月物の米ドルLIBORは2009年以来の高水準をつけており、銀行間で米ドル資金がこのところ一段と高くなっている。投資家が今後の金利上昇を確信したことによるLIBORの上昇は起きていない。その証拠に、先行きの金利水準についての市場の尺度となる翌日物スワップ金利(OIS)はLIBORと同じペースで上昇してはいない。
むしろLIBORが上昇した原因は、米証券取引委員会(SEC)が10月14日にマネー・マーケット・ファンド(MMF)市場に対して施行する新しい規則にある。この日以降、コマーシャルペーパー(CP)や譲渡性預金証書(CD)などの民間債権に投資するMMFは、純資産価格(NAV)を保有資産の価値に応じて変動させねばならない。現在、MMFの多くは一口あたりのNAVを1ドルに固定して提示している。
【高まる資金調達圧力】3カ月物(緑)と1カ月物のドルLIBOR
新規則の施行が近づくにつれ、投資家はいわゆるプライムMMFを解約し、国債だけを投資対象とするために規則の適用を受けないMMFにその資金を移動していることが、米国投資信託協会(ICI)の統計で示されている。このため銀行やその他企業にとっての主な短期資金調達源が絞られ、短期資金の調達コストが押し上げられている。
最近は短期金利も落ち着いたかに見えるが、1カ月物LIBORは9月に不安定な動きをみせる可能性がある。
短期金融市場に特化した統計会社クレーン・データの資料によると、プライムMMFが保有する大量のCPとCDが9月に期限を迎え借り換える必要がある。同時に、バンクオブアメリカ・メリルリンチの調査では、プライムMMFの顧客の半数は、新規則の施行まで1カ月以内になるまで解約を検討しておらず、9月から10月にかけては解約額が2000億〜3000億ドルに達する可能性がある。
プライムMMFは10月14日以降に解約が一段と増えることを恐れ、期限がこの日よりも後に到来する資産に資金を置くことを嫌い、それよりも期限の短い資産に移動している。
もちろん、借り手も貸し手も期日が翌日ないし1週間程度のレポ(買い戻し条件付取引)や期日物預金に資金を一部移す可能性が高い。一部の米銀行は、連邦準備制度理事会(FRB)の預金ファシリティーで資金を作り、市場からの資金調達を控えることもできるだろう。
だが、少なくとも資金調達を急いでいる一部の企業は、より高い金利を支払って債権の買い手を引きつける必要があるだろう。クレーンの資料によると、9月14日以降に借り換える必要のある短期債の主な発行体はカナダの銀行で、その総額は162億ドルとなっている。この調達圧力が1カ月物LIBORに反映する公算が大きいが、一部の借り手が従来の短期で資金を調達する戦略を全てあきらめ、長期金利にも影響がでる可能性が高い。
【満期は近い】プライムMMFが保有し、9月以降に満期を迎えるコマーシャルペーパーと譲渡性預金証書の残高(単位:10億ドル)
メリルリンチのアナリスト、マーク・カバナ氏は「発行体はレポ取引を増やすことを検討するか、期日物(債券)の発行を通じた長期に固定した資金調達を模索するかもしれない。2年ないし3年の資金水準は、短期資金金利が上がってきたために妙味が高まっている」と述べた。
7月下旬から8月にかけて、MMFからの急速な資金流出に銀行は意表を突かれ、LIBORを押し上げた。銀行には備える時間があるので、9月にはその影響はより小さくなるだろう。
クレーン・データのピーター・クレーン最高経営責任者(CEO)は「(銀行は)8月に資金調達が切られるとは予想していなかったのだ。LIBORはあまり大幅に上昇しないと期待している」と語った。
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ギグエコノミー、高齢者の存在感高まる
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デジタルプラットフォームを通じた単発の仕事で所得を得ている米国民のうち、65歳以上は約40万人に上る PHOTO: JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES
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ERIC MORATH
2016 年 8 月 25 日 10:09 JST
配車アプリを使ってタクシーを呼んだら運転手が老婦人だった、なんてことがあるかもしれない。
JPモルガン・チェース・インスティテュートの新たな報告によると、配車サービス大手のウーバーや空室賃貸仲介サイトのエアビーアンドビー(Airbnb)などのデジタルプラットフォームを通じた単発の仕事で所得を得ている米国民のうち、65歳以上が40万人を超えることが明らかになった。また、所得源としてこうしたプラットフォームに依存している割合は若年層よりも高齢層の方が高いことも分かった。
同社はJPモルガン・チェースの数百万人分の匿名化した顧客データを調査。それによると、2015年9月までの1年間にこうしたプラットフォーム経由で所得を得ている顧客のうち、65歳以上は1%に満たなかった。この比率は「ギグエコノミー(ネットを通じた単発請負型の非正規雇用形態)」で所得の一部を得ている国民全体の3.1%より低かった。
%THE WALL STREET JOURNALSource: JPMorgan Chase InstituteGig EarningsShare of annual income earned from online platforms amongregular participants, by age. Labor platforms include Uber andTaskRabbit. Capital platforms include eBay and Airbnb.All ages65+Labor platformCapital platform0.010.020.030.0
オンラインプラットフォームを通じて得た所得が年収に占める割合【左:労働集約型プラットフォーム、右:資本集約型プラットフォーム、青:全年齢、緑:65歳以上】
ただ、同プラットフォームを利用している高齢者の場合、そこからの所得が所得全体に占める割合は一般より高かった。
配車サービスのリフトや仕事請負仲介サイトのタスクラビットなど労働集約型のプラットフォームを通じて働く65歳以上の人々は、所得全体の28%をこうした仕事から得ており、全労働人口の同26%をわずかに上回った。同様に、エアビーアンドビーやネット競売大手イーベイなどの資本集約型プラットフォームを利用する高齢者は、所得全体の11.5%をこれらの仕事から得ており、全労働人口の同10.7%より高かった。
JPモルガン・チェース・インスティテュートのファレル最高経営責任者(CEO)は「大半の人々はこれらのプラットフォームから副収入を得ている」とした上で、「高齢者は他の仕事を持たない確率が高いため、この(ネット経由の)仕事により柔軟に対応でき、そこからの収入も多くなっている」と指摘した。
米国の多くの高齢者は完全には引退しておらず、所得の一部を労働で得ている。今回の調査によると、65歳以上の人々は所得の25%を労働で得ていた。一方、社会保障給付金が収入に占める割合は43%だった。
ギグエコノミーに参加する高齢者が最も利用するプラットフォームは資本集約型のものだった。ファレルCEOは、このことから高齢者は労働力を提供するより別荘などの保有資産を活用することで追加収入を得やすい立場にあることが分かると述べた。
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米1ドルショップ、低所得層の賃金上昇が予想外の追い風
好調なダラー・ゼネラルとダラー・ツリー(写真)は25日に第2四半期決算を発表する
STEVEN RUSSOLILLO
2016 年 8 月 25 日 14:34 JST
米1ドルショップ最大手ダラー・ゼネラルと同業のダラー・ツリーが米株式市場で勝ち組になっている。しっかりした売上高の伸びや客足増加を受けて、株価はともに過去1年間で20%超上げている。中核となる客層の賃金上昇により、こうした好調な時期が持続する可能性がうかがえる。両社はともに25日に5-7月期(第2四半期)決算を発表する。
両社ともにPER倍率がS&P500種と比較して高い
両社はリセッションの最中やその後に好調となり、それ以来、売り上げを伸ばしている。ダラー・ゼネラルが1?5ドルの商品の品ぞろえを増やしていることも利益率の押し上げにつながっている。一方、ダラー・ツリーは1年ほど前に同業のファミリー・ダラーの90億ドル(約9040億円)での買収を完了したが、引き続き経営統合を進めている状況だ。
両社はともにより小規模な店舗形式を取っており、そのほうが通常、他の小売店舗よりも速いペースでの良好なキャッシュフローにつながっている。また、ネット通販大手アマゾン・ドット・コムや小売り大手ウォルマート・ストアーズといった小売業者にもそれほど脅かされていないようだ。
ダラー・ゼネラルの今後1年間の予想PERはダラー・ツリーと比べて20%割安
25.0
Dollar GeneralJune 21, 201314.59
労働市場の逼迫がさらなる追い風になっている。所得額が下から4分の1に分類される米フルタイム労働者の週間賃金は第2四半期(4-6月)に前年同期比3.1%増加した。労働省によると、これは2009年以降で最大の増加率。ダラー・ゼネラルのトッド・バソス最高経営責任者(CEO)は5月の電話決算説明会でこの点に触れ、買い物客は「恐らく若干信頼感を強め、少し消費を増やしている」と述べた。
ただ、顧客がもっと主流の小売業者に流れるというリスクは存在する。しかし、1ドルショップは通常、住民が頻繁に少額の購入を行う低所得地域に位置することが多いため、こうした心配はあまりない。
問題は、両社の株価が上昇し過ぎているかどうかだ。5月の2-4月期(第1四半期)決算発表を受けて、両社の株価は過去最高値に急伸し、それ以降、上値を伸ばしている。また、両社ともにPER(株価収益率)倍率がS&P500種と比較して高い。ダラー・ゼネラルの今後1年間の予想PERは約19倍で、ダラー・ツリーと比べて20%割安だ。
こうした高いバリュエーションでも投資家は逃げ出さないほうが賢明だ。両社の株価は今後も堅調に推移しそうだ。
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米国の有権者、不満の種は賃金以外に
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【社説】中国の投資受け入れ、必要な安全保障と市場開放のバランス
2016 年 8 月 25 日 17:40 JST
米規制当局は今週、中国国有化学大手の中国化工集団によるスイスの農薬・種苗大手シンジェンタの買収について、国家安全保障にとって脅威にはならないとの判断を下した。この2週間前、豪当局は安全保障上の懸念を理由に中国企業による豪電力公社オースグリッドの支配権の取得を阻止する決定を下していた。いずれも賢明な判断だ。これは、欧米政府が中国の「反則行為」を警戒しつつも、同国からの投資に門戸を開放し続ける必要があることを物語っている。
中国化工のシンジェンタ買収は中国企業による外国企業の買収として過去最大となる。430億ドルという買収額は、2013年に中国の食肉加工業者、双匯国際控股が米同業スミスフィールド・フーズの買収に支払った金額の約10倍で、2012年の中国の外国投資総額の約半分に達する。米調査会社ロジウム・グループによると、中国企業が昨年過半数株式を取得した米企業は103社。2014年の100社や2010?13年の平均43社、2006?09年の平均13社と比較して増えている。
大規模な産業スパイ行為やハイテク資産に対する買収攻勢など中国は往々にして敵対的な態度を取っていることから、対米外国投資委員会(CFIUS)は中国企業による買収にますます厳しい目を向けている。CFIUSは財務省をはじめとする米機関の代表者で構成され、財務長官が委員長を務める。最新データが入手可能な2014年にCFIUSの審査を受けた中国企業による買収案件は24件と、3年連続で他国の案件数を上回っている。
CFIUSの責務には重要資産や秘密情報、防衛関連技術、政府施設の保護も含まれており、そうしたリスクの高まりに警鐘を鳴らしている。「外国政府や企業が重要技術の研究や開発、生産に携わる米企業を買収しようとしている可能性がある」――CFIUSは2013年と14年の案件を精査した上でこう報告した。こうした見解は2012年には報告されていなかった。では、中国企業にコントロールされると危険な技術とは何を指すのだろうか。
中国はさすがに主要な米軍需企業に買収を仕掛けるようなことはしない。しかし、高い技術を持つ企業に買収を申し入れ、CFIUSから承認を得られなかったことは何度かある。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)によるスリーコム(2008年)と3リーフ・システムズ(2011年)への買収提案や、今年の中国華潤微電子と北京清芯華創投資管理によるフェアチャイルド・セミコンダクター・インターナショナルへの買収提案がそうだ。中国企業による買収提案のほとんどは、携帯電話のハードウエアメーカーや油田、豚肉加工会社、ホテルなど比較的ローテクな企業や神経を使う必要のない企業が対象で、CFIUSの承認も得られている。
シンジェンタはその一例だ。同社は米国の多くの州で事業展開し、米国内の大豆供給シェアは10%、トウモロコシは6%だ。しかし、同社は米政府から機密業務を請け負ってもいなければ、重要な米政府サイトの近くに施設を持ってもいない。中国企業がシンジェンタの支配権を握っても、米国の食糧供給が中国にコントロールされるわけではない。
中国化工による買収は遺伝子組み替え食品に対して中国市場を開放することになる上、中国企業のガバナンス(企業統治)向上につながる可能性もある。中国化工がシンジェンタの知的財産の保護に乗り出す可能性があるためだ。中国では知的財産の窃盗が横行し、同国に進出しようとする欧米企業を悩ませている。
一方、オーストラリアのオースグリッドに関する措置は教訓となる反例だ。モリソン豪財務相は、中国企業によるオースグリッドの買収は「国家の利益に反する」との予備決定を下し、その理由に「オースグリッドが企業や政府に極めて重要な電力や通信サービスを提供している」ことを挙げた。オースグリッドは同国最大の都市シドニーを含め、米ニュージャージー州にほぼ匹敵する範囲の地域をカバーしている。
そのようなサービスを破壊工作の可能性から守ることは、どの国の政府にとっても極めて重要だ。米国や他国の情報当局が報告している通り、中国は過去に発電所や電力網、ガスパイプラインをハッキングしている。
また、そうした措置はお互いさまでもある。中国は自国の電力や通信会社に対する外国企業の投資を制限している。米中が二国間投資協定を結び、中国経済が2001年の世界貿易機関(WTO)加盟時のように大きく開放されれば、そのような制限は弱まる可能性がある。しかし、両国の協議は8年も長引いており、中国の習近平・国家主席はその現状に満足しているようだ。
欧米にとっての課題は、今後急増する可能性のある中国投資を厳しく吟味しつつ、いかにして世界経済において自由市場のルールを維持し続けるかということだ。米国の次期政権は、自国の利益のために自由な制度を乱用する中国のような国々に特に目を光らせつつ、自由な投資を促すことに努める必要があろう。
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