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両大統領候補が誤解する自由貿易
貿易赤字は本当に悪者か
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世界最大のコンテナ港であるオランダのロッテルダムに停泊するコンテナ貨物船 PHOTO:HUGO DE WOLF/36CLICKS CREATIVE/MASTERFILE
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GENE EPSTEIN
2016 年 8 月 23 日 08:23 JST
•攻撃対象となる自由貿易
大統領選において自由貿易は往々にして攻撃の対象となり、2012年に再選を目指していたオバマ大統領も、中国に対する姿勢で共和党のミット・ロムニー氏を酷評していた。しかし、今年のドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補は、貿易バッシングを新たなレベルへ押し上げるとともに、両陣営とも欠点のある主張にのっとっている。つまり、米国人は、安価な輸入によって損害を被る労働者としてのみ言及され、安価な輸入が実質所得を押し上げる消費者としては描かれていない。両候補による雇用喪失の懸念も極めて限定的であり、外国企業との直接競争によって失われた米国内の雇用だけが問題となっている。
安価な輸入に依存している米国内の雇用は、両陣営の関心の外にある。一例は、中国の安価な労働者によって組み立てられているスマートフォンだ。比較的安価で供給可能だからこそスマホが広く普及し、そのおかげで配車サービスのウーバーを利用する運転手からスマホ販売店の従業員、さらには新たなアプリを開発するプログラマーまで、全ての技能水準における米国内の雇用が活性化されている。
トランプ氏は、メキシコや中国からの輸入に関税を課すだろう。クリントン氏は、一時は支持していた環太平洋経済連携協定(TPP)について、トランプ氏同様に反対の立場に回った。TPPにおける関税引き下げと貿易割当量の緩和は懸案事項だが、5500ページに及ぶ文書は貿易以外もカバーしており、自由貿易推進者でさえ異議を唱えている。とはいえ、両候補はそのようなニュアンスを無視し、クリントン氏はTPP反対の理由として、「TPPが雇用と賃金を増加させると米国人の前では言えない」ためと述べている。
重要なことに、貿易赤字の拡大は好景気との相関性が高く、貿易赤字の縮小は景気低迷や景気後退との相関性が高い。従って、大統領候補が好景気を望むのであれは、ほぼ必然的に貿易赤字拡大に直面することになる。
大統領候補の揚げ足を取りたくもなる。クリントン氏には、海外自動車メーカーが国内自動車メーカーよりも安く売ることを同氏が拒否するので値上げを強いると米国人に言えるのか、輸入価格上昇によって実質賃金が減少すると労働者に言えるのか、鉄鋼やその他の原材料価格上昇で雇用を失う可能性があると労働者に言えるのかと聞いてみたい。トランプ氏には、主に安価な輸入品を販売しているウォルマート・ストアーズで買い物をする多数の消費者に対して、グローバル化が貧困以外の何物をも生み出さないと言えるのかと聞いてみたい。
•サービス収支は黒字
トランプ氏は、「昨年だけで貿易赤字が8000億ドル近くに達した」と引用した際に、モノの貿易赤字だけに注目し、モノとサービスを合わせた貿易収支を無視していた。実際には、サービスを含む貿易赤字は約5000億ドルだ。
上は米国のGDPに対するモノの純輸出額、下は米国のGDPに対するサービスの純輸出額
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モノの貿易赤字でまず注目すべきは長期的な傾向である。モノの貿易収支は、1950年代から60年代半ばまでほぼ均衡していたが、海外の安価な労働コストが国内の高価な労働コストに対する競争力を高めるにつれて、赤字に転じるようになった。その後は海運コストを引き下げる技術革新と、関税および貿易に関する一般協定(GATT)下での1950年代と60年代の自由貿易協定によって赤字が拡大した。さらに、90年代の冷戦終結で旧共産圏の東欧諸国やアジアの安価な労働者の雇用が可能となり、赤字は一段と拡大した。2001年には中国が世界貿易機関(WTO)に加入。それ以降は米国におけるモノの貿易赤字拡大分の約80%は、対中貿易赤字の拡大が原因となっている。
景気サイクルの観点に立つとモノの貿易赤字は景気後退前に縮小する傾向があり、貿易赤字の縮小はまるで景気後退の先行指標のようだ。モノの貿易収支が前回均衡したのは1980年と60年で、どちらの年も景気後退局面にあった。一方で、モノの貿易赤字が直近で急増したのは90年代後半だが、これは北米自由貿易協定(NAFTA)の調印を受けたものである。当時、大統領候補のロス・ペロー氏は米国の雇用がメキシコに奪われると予想したが、実際の失業率は95年の5.6%から、2000年には3.9%へ低下した。
1950年代と60年代の米国のサービス収支が赤字となった一因は、観光客が米国から海外へ一方通行に流れたためで、これは恐らく米国人が外国人よりも比較的裕福だったことを反映している。その後、70年代と80年代には米国へ流入する外国人観光客の数が増加し、観光関連のサービス収支は均衡した。90年代に観光関連のサービス収支は黒字が定着した。従って、トランプ氏が米国に保有するホテル、カジノ、高級住宅は、サービス黒字から恩恵を受けていることになる。
しかし、1990年代から、米国のサービス黒字拡大の原動力はグローバル化そのものとなり、通信事業の強化を意味している。この環境では、米国の娯楽、法律、金融、投資、会計、保険、建築、エンジニアリング、経営コンサルティング、特許収入を含む、サービス輸出における競争優位性の態勢が整ったことになる。
•貿易赤字の雇用への影響
とはいえ、貿易赤字が雇用喪失につながったことに間違いはない。本誌は貿易赤字に伴う雇用喪失を以下のように試算している。
米労働統計局は1990年代、民間セクターの雇用増加と雇用減少を表す企業雇用動態調査という新たなデータシリーズを開始した。例えば、企業雇用動態調査が20万人の民間部門の雇用増加を報告した際には、100万人の雇用喪失が120万人の雇用増加で相殺されたことを意味する。新規失業保険申請件数が、1週間当たり30万件から40万件であることから、月間100万人の雇用喪失は驚くべき数字ではない。
米国における総雇用増加数の推移(青)と総雇用喪失数の推移(赤点線)
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次に、労働統計局の数字を外国との競争によって失われた雇用と比較する。左派寄りの米国の経済政策研究所は、2001年12月から13年12月までの12年間に、対中貿易赤字によって320万人の雇用が失われたと推計している。ちなみにこの数字は、マサチューセッツ工科大学のデービッド・オーター教授などが調査で一般的に引用する240万人を約33%上回っている。ここでは多い方の320万人を採用する。さらに、米国におけるモノの貿易赤字に占める対中貿易赤字の割合が80%を占めるという前提に基づいて残りの20%を加えると、貿易赤字全体の増加による雇用喪失は合計400万人となる。
この数字は一見多いが、米国の雇用市場におけるより大きな動向と比較すると非常に小さい。12年間で400万人の雇用喪失は、年間では33万3000人となる。企業雇用動態調査によると、同期間の年間平均で、民間セクターの新規雇用が1250万人だったのに対し、雇用喪失は1240万人だ。前述の33万3000人は、年間の新規雇用または雇用喪失と比較すると約10日分でしかない。
また、33万3000人の雇用喪失は貿易の一面しか見ていない。残念ながら、貿易による雇用創出を推計する最近の試みはない。ちなみに雇用は、サービス収支の黒字、低価格品の輸入による個人消費の増加、低価格原材料の輸入による事業収入によって創出されてきた。
労働者が職を失えば、その人に対しては何らかの補償が必要で、財務的な困難に陥れば手を差し伸べなければならない。しかし、そのような労働者に対して大統領候補ができる最善の策は、米国経済に創造的破壊をもたらす政策に焦点を当てることだ。自由貿易バッシングは票の獲得にとっては良い手段かもしれないが、有権者を支援する意味ではひどい手段だ。
コラム:
日銀検証とジャクソンホール結ぶ点と線
木野内栄治大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト
[東京 23日] - 8月25―27日に開催される米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)では、26日にイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の講演が予定されている。
市場は、当面の金融政策運営に関するイエレン議長の発言に最大の関心を寄せているようだが、筆者の注目点は異なる。ジャクソンホール会議で、将来の緩和策のオプションが列挙され議論が行われることの方が重要だ。日銀による9月の総括的な検証にも大いに影響すると見ている。以下、日銀総括検証とジャクソンホール会議を結ぶ点と線について考察したい。
<6月には総括検証の実施を決意か>
黒田東彦日銀総裁は8月20日付の産経新聞のインタビュー記事で、総括検証は金融政策の予見可能性と関係していると説明した。日銀が予見可能性を重視するスタンスを表明したのは6月20日の総裁講演が初めてで、この時期には総括検証を実施することを決めていた可能性が高い。サプライズ演出からの転換と話題になったので、覚えている方も多いだろう。
6月17日にセントルイス連銀のブラード総裁が、いきなりハト派の筆頭に転換する論文を発表して周囲を驚かせた。2年半で必要な利上げは1度だけだという。この数週間前には向こう数年で徐々に利上げをする根拠の方が多いとの見方を示していた。ブラード総裁には意見がころころ変わるとのレッテルが貼られているが、中銀関係者の中での風向きの変化を敏感に表していたとも言える。
黒田総裁やブラード総裁の意見の転換を見ると、世界の中銀関係者の中で6月に何かがあった可能性が高い。筆者は、6月2日のFRBの発表が後押ししたのだと思う。
つまり、ジャクソンホール会議のテーマが「将来のための強靭な金融政策の枠組みの構築 (Designing Resilient Monetary Policy Frameworks for the Future)」であり、イエレンFRB議長が2年ぶりに出席すると発表された。世界の中銀関係者は、FRBがこのテーマを定め、議長が出席する意味が何であるかを、察知したのだと思う。結果、黒田総裁やブラード総裁は予見可能性の重視やハト派的なスタンスに転換してきたのだろう。
<バーナンキ前FRB議長へのシンパシー>
さて、イエレン議長の心中を推測してみたい。3月27日の講演ではイエレン議長は「長期停滞論」をリスクシナリオの筆頭に挙げた。昨年12月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「長期停滞が存在するとの見方は委員会にはない」と明言していたので、3月までにスタンスを変化させるような「何か」が起きたのだろうと思う。
長期停滞論とまで行かなくても、次の景気後退時に何ができるかを論じたバーナンキ前FRB議長のブログ(What tools does the Fed have left?)の連載が行われたのが3月18日から4月11日だ。ブログは金融工具箱(monetary toolbox)にどんな手段が残っているかとの問いかけで始まったが、類似したキーワードがジャクソンホール会議でのイエレン議長の講演タイトル「The Federal Reserve's Monetary Policy Toolkit」で前面に出ている。イエレン議長は前任者の意見にシンパシーを感じていることは間違いないと思う。
このように見ると、イエレン議長や世界の中銀関係者の問題意識は、3月から6月にかけて長期停滞論や次の景気後退に対して何ができるかに収斂(しゅうれん)したと言えるだろう。
<緩和オプションめぐり議論百出は必至>
では、ジャクソンホール会議ではどのような議論が出てくるのだろうか。バーナンキ氏は前述したブログで、金利の釘付け政策、マイナス金利、ヘリコプターマネーをテーマに、フォワードガイダンスや量的緩和などにも触れながら、事細かにオペレーションまでも論じていた。
イエレン議長の側近で、議長に考えが近いとされるウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁は、8月15日公表の論文の冒頭で「金融政策の枠組みの見直しを検討すべき時が来た」と主張し、インフレ目標の水準引き上げや、名目国内総生産(GDP)目標をその手段として挙げた。
今週末のジャクソンホール会議では、FRBや各国中銀関係者、学術研究者がこうした政策オプションを列挙して議論するだろう。各国金融政策の効果に関しても学術的な見地から検証されると思われる。
一方、市場では当面の金融政策に向けた直接的なイエレン議長発言があるかもしれないと注目されている面もある。筆者はイエレン議長が直接的な発言をするとは思わないし、お気に入りの最適コントロール手法で書かれた最新のスタッフ論文の結論を繰り返す可能性も高いと思う。量的緩和とフォワードガイダンスを用いれば急激な景気悪化に対処できるとのありきたりな結論だ。
それでも、多くの参加者から、長期的な政策に影響を及ぼす議論が百出するだろう。こちらの方が米金融政策ウォッチャーらを大いに賑わすことになるし、短期的にも緩和バイアスやドル安圧力として市場で注目されると思う。
<日銀も対抗して政策オプション列挙へ>
そして、筆者は日銀による9月の総括検証も、ジャクソンホール会議での議論百出と類似すると見ている。
まず、ジャクソンホール会議において、日銀が実施した政策の効果が海外の学者たちによる検証対象となるだろう。昔から、日本は格好の検証対象だ。
筆者の専門分野で例を挙げれば、マイナス金利を導入した国の株価収益倍率(PER)は、そうでない国と比べて3―4倍ポイントほど低くなってしまうことが観測される。2014年以前は英国とドイツのPERは連動していたが、欧州中銀(ECB)がマイナス金利政策を導入してからは大きく差がついてしまった。
英国と日本のPERも2014年頃は連動していたが、いまでは大きく差がついている。ジャクソンホール会議でこうした議論が提示されるだろうから、日銀の総括検証に影響しないわけがない。
日銀は、「量的・質的金融緩和」「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行う、としている。一義的には、三次元の政策効果の検証と読めるが、例えば黒田総裁は欧州の事例を挙げてマイナス金利の深掘り余地を説明することが多い。このように、日銀においても海外の事例も検証対象になり得る。
以上述べた通り、ジャクソンホール会議での議論と日銀の総括検証は、結果的に一体的な議論となるのではないかと思う。何よりも緩和手法の議論で日銀がFRBの後塵を拝することは、円高リスクや株安リスク、ひいてはデフレ圧力につながってしまう。
黒田総裁は6月20日の講演では、政策の予見可能性を高めるためには「平時から、ゼロ金利制約に直面するような極めて大きな外的ショックへの政策対応のオプションを示しておくことが、金融政策の有効性を高めていくうえで重要」と指摘している。
9月の決定会合では日銀も政策オプションを列挙することになるだろう。ジャクソンホール会議では、その一部の議論があらわになると捉えた方が良さそうだ。
*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-eiji-kinouchi-idJPKCN10Y045?sp=true
各国中銀、「金融政策連合」の様相
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日銀の黒田総裁、ECBのドラギ総裁、FRBのイエレン議長(左から) PHOTO: BLOOMBERG NEWS
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RICHARD BARLEY
2016 年 8 月 23 日 07:57 JST
各国の中央銀行が別々の道を歩むのは極めて困難なものだ。金融政策がかい離するとの見方は、低成長と低インフレの世界で現実化するのが難しいことが明らかになってきた。
ワイオミング州ジャクソンホールで開かれる年次経済シンポジウムが近づく中、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げへ向けた取り組みは確かに注目の的になっている。だが、世界を見渡せば先進国ではさらなる金融緩和が主流となっている。今年は日本銀行のマイナス金利導入や欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れ策、さらに英イングランド銀行が英国のEU離脱(ブレグジット)対策として打ち出した包括緩和など、主要中銀の大胆な行動が話題をさらってきた。
しかもこうした動きは、例外とはほど遠い。ここ1年でオーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデンもそれぞれ政策を緩和し、それまでの利上げ路線を反転させるケースも出た。
議論の余地はあるかもしれないが、FRBもこの流れに沿っている。2016年を迎えた時点では、最大4回の利上げ予想を示していた。だが市場は今や、1回の利上げすら到底定かではないとみている。こうした期待の変化だけでもかなりの緩和効果につながり、米長期金利の低下という形で反映されている。世界に目を向ければ、政策は実のところかい離というより収束しているように見える。
その背景には二つの大きな要因がある。一つ目の要因は、世界の金融市場と各国中銀の政策設定が対照をなしていることだ。スタンダード&プアーズ(S&P)はリポートで、世界銀行のデータに基づけばマイナス金利を導入している国は世界の国内総生産(GDP)の約25%を占めると指摘した。ゼロ金利に比べればどのような水準であれプラス圏の金利は高く見えるため、金融政策をわずかに引き締めるだけでも金融市場では大ごとに思えるようになるのだ。緩和的な金融政策の広がりにより、高い投資収益を求めて資金が国境を越えてあふれ出し、より高金利の国の通貨を押し上げている。
これがますます金融政策に影響している。ニュージーランド準備銀行は直近の政策判断で、成長見通しを引き上げ住宅価格の上昇に懸念を示しながらも、こうした通貨高を直接要因に挙げ利下げした。FRBは先日公表した7月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録でより長期的な金融政策について論じ、米国における金融政策の浸透は「まさしく世界と広くつながっている」市場を通して発生すると指摘している。ドル高は米国のみならず中国や新興国に影響を及ぼす。中国と新興国はFRBが利上げで足踏みするのに恩恵を受けると同時に、FRBの積極姿勢にブレーキを掛ける原因ともなった。
二つ目の要因は、債券市場が目下の傾向に満足しているらしいことだ。ドイチェ・アセット・マネジメントは先頃、同社の投資戦略は全て中銀の政策に「直結」させてあるとし、「その名に値するほどの利上げ局面を目にすることはないだろう」との見方を示した。低金利と量的緩和(QE)の勢いは、目下主流となっている政策路線に反対する声をかき消したようだ。
主要国の政策金利の推移
https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-PM691_policy_G_20160822055832.jpg
さらに、こうした困難な状況の核心には世界的な低インフレがあり、この先混乱を引き起こしかねない原因として残る。一つ、鍵を握る逆転現象がある。原油相場が急速に持ち直し、ここ2年余りで初めて、ブレント原油先物価格が前年同期を上回っているのだ。世界的なインフレの下押し圧力が弱まるかもしれない。
だが、インフレ回復のリスクをさほど織り込んでこなかった市場心理が変わるまでには時間がかかる可能性がある。それまでは、各国中銀の奇妙な「金融政策連合」のごとき行動が続くことになる。
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FRB、インフレ目標引き上げの正当性とは
かつてIMFのチーフエコノミストだったオリビエ・ブランシャール氏 HARRER/BLOOMBERG
By GREG IP
2016 年 8 月 22 日 14:34 JST
6年前、当時国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストだったオリビエ・ブランシャール氏は、各国中央銀行はインフレ目標を2%ではなく4%にすべきだと提言した。彼が間違っている理由を数え切れないほど同僚に説明したことを覚えている。
だが間違っていたのは私だった。2010年以降の出来事から、私の反論はもはや当てはまらないとの結論に至ったのだ。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ目標の引き上げについて真剣に考えなければならない。
一部のFRB当局者も考え直している。サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁は先週、インフレ目標引き上げの正当性をニュースレターで主張した。ワイオミング州ジャクソンホールで今週開催される年次経済シンポジウムでこのテーマが話題になることはほぼ確実だろう。
ブランシャール氏は、同僚のパオロ・マウロ氏(ブランシャール氏と同様、現在はピーターソン国際経済研究所勤務)、ジョバンニ・デルアリッシア氏と共同執筆した論文で、低インフレの正当性はこれまで、高インフレは有害なゆがみをもたらしリセッション(景気後退)の頻度を高めるという前提に基づいていたと指摘した。中央銀行は紙幣を増刷することによりインフレを容易に押し上げられるという理由で、低インフレやデフレはささいなリスクだった。
だが2008年、世界各国の中銀は政策金利をゼロ近辺まで引き下げ、紙幣を大量に増刷したが、さえない経済成長が後に続いただけだった。論文では「平均インフレがより高い水準にある、つまり名目金利が最初からより高い水準にあれば、より大幅な金利引き下げが可能になり」、リセッションはそれほど深刻にならないだろうと指摘された。
以下に、当初の私の反論とそれがどう変わったかを示したい。
1. 中銀は2%の目標に信頼を注ぎ込んでいる。それを引き上げれば、国民は再び引き上げがあると想定し、期待は急速に抑えが利かなくなるだろう。
非従来型の金融政策を繰り返してもインフレが実際のところ緩やかに低下しているという事実は、インフレにはかなりの慣性があり、信頼性の問題で簡単に押しのけられるようなものではないということを浮き彫りにしている。むしろ中銀の信頼性は非常に高い。投資家は2%を中間点ではなく、上限と信じているようだ。
2. インフレの上昇に伴い、個々の物価は一段と変動が大きくなり、経済の効率性は低下し、好不況が生じやすくなる。
これは今でも確かだが、そうした背景に照らすと、実質金利をこれ以上引き下げられないことの弊害は想定よりはるかに大きいことが分かる。一方、インフレ上昇がマクロ経済に与える打撃はつかみにくい。全米経済研究所(NBER)は最近公表した論文で、1970年代末から80年代初頭にかけての高インフレ期に物価変動の絶対規模が拡大した証拠はないことを明らかにした。
3. 現在はインフレが2%を下回っており、押し上げるための新たな手段はないため、目標の引き上げで中銀の信頼性は損なわれるだろう。
日本はインフレを目標の2%までではないが、ゼロ以上に戻すことに成功した。これはより高いインフレ目標を導入すれば期待や行動に変化が生じ、実現に寄与する可能性があることを示唆している。
4. インフレ目標の引き上げで実質金利のマイナス幅が拡大すれば、利回り追求などの行き過ぎた投機を促す恐れがある。
これは確かだが、さらにひどい可能性も考えられる。中央銀行が金融政策を緩和しすぎているため、金利は長期にわたりゼロ近辺にある。各中銀は時期尚早な政策引き締めで景気が悪化し、金利が再びゼロ近辺で動かなくなることを懸念している。インフレ目標が引き上げられればその可能性は低くなるため、中銀は低金利を継続しないかもしれない。また、量的緩和などのリスクをはらむ非従来型政策措置の必要性も薄れるだろう。
5. 08年に起きたことは異例だった。1世紀に恐らく2回しか起きないことのために目標を変更する理由は何か。
金利は今や7年以上にわたってゼロ近辺にとどまっており、同じような症状が再び出現すると考えられる理由は十分にある。これがウィリアムズ総裁の主張の本質だった。総裁は足元の経済について懸念しており、目標の引き上げ(もしくは同じ目的を果たす名目国内総生産=GDP目標)を提案してはいない。総裁は実際のところ、FRBは近いうちに追加利上げすべきだと考えるほど楽観的だ。
サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁 ENLARGE
サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁 PHOTO: NOAH BERGER/BLOOMBERG
ウィリアムズ総裁はむしろ、実質自然利子率が根深い構造的要因によってリセッション前の2.5%前後から現在1%まで低下している証拠が十分にあるとみている。さらに低下する可能性もある。
この背景にある要因が消える気配はない。生産性の伸び減速と高齢化で投資が冷え込む一方、世界的な安全資産需要で貯蓄が増える。インフレが2%にとどまる場合、1%の実質自然利子率を加味すると、次のリセッションは約3%の名目金利の下で始まることになる。FRBは過去のリセッション期において、一般的には5%以上の利下げを実施している。インフレ目標を4%に引き上げることは、次のリセッションが約5%の名目金利と共に始まり、FRBの政策余地が復活することを意味する。
FRBはインフレ目標をいま変更すべきなのか。判断は難しい。現在の非常に刺激的な金融政策はさらに長期化すると投資家を説き伏せることにより、さらなる成長支援を果たすことはほぼ確実だろう。だが、ゴールドマン・サックスのエコノミストらが指摘しているように、経済はすでに完全雇用に近づいている。インフレが新たに引き上げられた目標に到達する時までに、経済は明らかに通常の潜在能力をはるかに上回り、リセッションを押さえ込めるかもしれない。
ウィリアムズ総裁がまだ目標変更を迫っていない理由はここにあるのかもしれない。総裁は検討を求めているにすぎない。新たな目標が採用されるまで、FRBの金利正常化のペースが実際に変わることはないだろう。
だが、ウィリアムズ総裁が主張するように、長続きする金融政策とは「変化への適応力が最も高い」。世界が変化したため、FRBが金融政策の枠組みについて再考する必要性にも変化が生じている。
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FRB構造改革案の具体策を公表=元顧問ら
FRBの元特別顧問、ダートマス大学のアンドリュー・レビン経済学教授
By MICHAEL S. DERBY
2016 年 8 月 23 日 12:05 JST
米連邦準備制度理事会(FRB)の元特別顧問、ダートマス大学のアンドリュー・レビン経済学教授らは22日、4月に明らかにしたFRB構造改革案の具体策を公表した。
バーナンキ前FRB議長の顧問を務めたレビン氏と、左派系団体「人々のための民主主義センター」の「フェド・アップ(Fed Up)」運動に加わるジョーダン・ヘドラー氏、経済政策研究所(EPI)のバレリー・ウィルソン氏は論文で、自分たちの提案はFRBの重要な近代化につながると指摘している。
ウィルソン氏は会見で、「FRBの構造は単に時代遅れであり、その政策決定は公共の利益になりにくくなっている」と述べた。「われわれに(FRBの)大幅な変革ができないことは十分承知している」とした上で、自分たちが求めているのは「実践的かつ超党派の姿勢」だと説明した。
改革の要は、準民間機関である12の地区連銀を完全な政府機関とすることにある。論文の著者らは、連銀理事会から銀行出身者を排除するようあらためて求める一方、FRB幹部の再任を不可能とするほか、FRBの行動に対する政府監査を強化するよう提案した。
この論文は、4月に初めて公表された構想に基づいており、改革がどのように実現するかの詳細を明らかにしている。レビン氏は記者団に対し「当初は(改革の)『理由』だったが、今回は『方法』を示している」と語った。
レビン氏とフェド・アップは、FRB改革に向けた運動で成功を収めている。民主党議員や同党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏の選挙陣営は今年、12地区連銀の理事会から銀行出身者を排除することに支持を表明した。現在の議長は女性のイエレン氏だが、いまだ白人男性に偏っているFRBの多様化に向けたフェド・アップの取り組みも、民主党議員の間で支持を集めている。
地区連銀は地元の加盟銀行が株式を所有しているという点で主要中銀の中でも特異な存在だ。この構造が金融機関に政策決定への不当な影響力を与えるとの懸念も聞かれるが、連銀総裁らは事実無根だと反論している。
連銀当局者らは、FRB内で多様化が進むことは望ましいとしながらも、現在の構造に手を加えることには消極的だ。論文では、FRBの金融政策策定機能の監査も提案されている。当局者らは経済への悪影響につながるとして、この案に反対してきた。
著者らは、加盟銀行への株式保有義務付けを取りやめ、各行へその資本を返済することにより、連銀は容易に政府機関になり得ると主張する。
その資金はFRBに生み出すことができるという。また、FRBは銀行へ配当を支払う必要がなくなることから、より多くの利益を政府に還元できるだろうと論文はしている。FRBは今後10年間で超過利益のうち約30億ドルを追加で還元でき、政府の財政赤字縮小に寄与する可能性があるという。
完全な政府機関とする案には複数の連銀総裁が反対している。ニューヨーク連銀のダドリー総裁は5月、「金融政策の実施に関してFRBの独立性を守るという点でも、ご存じの通り実際にかなりの成功につながっているという点でも、現行制度は実にうまく機能している」と指摘した。
論文の著者らは、FRBを完全な政府機関にすることにより、各地区連銀を監督する理事会から銀行や他の金融部門出身者を除外することが可能になると述べた。FRB理事会の承認を得ることを条件に、連銀理事会は議会のメンバーか州知事の指名制にすべきだという。
規制する側の運営を規制される側の金融機関が監督することで生じる利害の対立を避けるため、連銀の理事は金融部門出身であってはならないという案にも、FRBの一部から反対の声が上がっている。フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁は7月、「ペンシルベニア州の小さな街の銀行関係者が(地域の状況について)大変重要な示唆を提供してくれている」とし、そうした人物を理事会に置きたい考えを示した。
論文はさらに、FRBの政策決定を米政府監査院(GAO)の審査対象とするよう求めている。この監査はFRBの政策決定の妨げにはならないとし、年1回の実施を呼び掛けている。また、議会の要請で行われることはなく、GAOはいかなる金利判断についてもコメントできないようにすべきだとしている。
著者らはまた、当局者の政策見解や、FRBの物価・雇用面の責務に照らした経済実績、見通しやリスクの詳細、政策決定モデルの詳細について記した金融政策報告を四半期ごとに公表するようFRBに求めている。
FRB改革は最終的に選挙で選ばれた議員に委ねられる。イエレン議長は2月の議会証言で、「構造はやや変わる可能性があり、決めるのは議会次第だ。私はもちろんそれを尊重する」と述べた。
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米左派団体、連銀理事候補を推薦−FRBに多様性求める
米FRB特集
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