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TICAD VIが開催されるケニア・ナイロビ〔photo〕gettyimages
急成長がストップした「経済大陸アフリカ」で、日本企業はどう動くべきなのか TICAD VIの意義を考える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49453
2016年08月23日(火) 平野克己 現代ビジネス
文/平野克己(日本貿易振興機構 理事)
「アフリカ開発会議」(TICAD)は今年、一大転機を迎える。
5年おきの開催が3年になり、日本とアフリカ交互で開かれることになって初めての会議が、8月末にケニアの首都ナイロビで開催されるからだ。
アフリカ連合(AU)の強い要請を日本政府が呑んで、TICADは「中国アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)と同じ形式に変更されたわけだが、これほど密度の濃い恒常的チャンネルをアフリカとの間に設置しているのは、世界で日本と中国だけである。日中は、アフリカという場で、それぞれTICADとFOCACを掲げて相対峙することになったわけだ。
■援助からビジネスへ
そもそもTICADの潜在的動機は、国連安全保障理事会改革に向けてアフリカとの連携を深めることであり、発足当時は、開発と援助について話し合うフォーラムだった。
安保理改革のほうは2005年に一旦頓挫したが、開発と援助におけるTICADイニシアティブは1997年の「DAC(OECD開発援助委員会)新開発戦略」に結実して、これがミレニアム開発目標(MDGs)の母体となった。
つまり20世紀中のTICADは、客観的にみれば、日本外交よりも国際開発における貢献が大きかったといえる。
しかし、アフリカ開催初回となるTICAD VIのテーマは「ビジネス」で、主役は企業だ。日本とアフリカ双方の企業代表を集めたビジネス会議と、100社近くの日本企業が参加する展示会がサイドイベントの目玉で、本会議においても、企業CEOたちの出番が組まれている。
TICADに企業が参画するようになったのは2008年のTICAD IVからである。TICAD IVとTICAD Vの舞台は横浜だったが、いずれも準備段階から経済産業省、経団連、貿易振興機構(JETRO)等が参画し、本番ではビジネス会議とアフリカ物産展示会(アフリカフェア)が開催された。
2003年から全般的に資源価格の高騰が始まり、アフリカ経済は史上かつてない高成長を呈したが、日本企業のアフリカ参入も徐々に動き出していたのである。
日本の対アフリカ投資は2013年にようやく100億ドル台に到達した。ここ10年で10倍に増えたのだが、それでも、日本の対外投資総額に占める割合は1%にも届かない。英米仏のアフリカ投資ストックに比べればその20%にとどかず、中国のそれの3分の1程度だろう。
その中国は、2015年に南アフリカのヨハネスブルグでFOCAC VIを、サミットに格上げして開催した(元首級会議であるTICADと異なり通常FOCACは閣僚会議である)。ここで習近平は600億ドルという巨額の対アフリカ資金投入と、一帯一路構想をアフリカまで延長して展開することを表明した。
■アフリカ開発の焦点
アフリカ、特にサブサハラ・アフリカ諸国の開発と貧困削減は既に四半世紀に及ぶグローバルイシューであり、開発経済学のメインテーマとして多くのトピックが議論されてきた。ここでそれらをなぞることはしないが、筆者がもっとも注目していることを一つだけ挙げておきたい。それは、中国からアフリカへの製造業移転である。
習近平政権になってからの中国はアフリカの資源獲得にはほとんど興味を示さず、専らインフラ建設に注力している。
また、習近平みずから「労働コストの急激な上昇により中国はまもなく国際競争力を失う」と語っており、その観点から中国企業の国外進出に熱心だ。アフリカは進出先の一つとして想定されており、その観点から中国と連結する輸送路の建設とインフラ整備が不可欠だ。中国のアフリカ政策はここにおいて一貫している。
製造業世界生産の4分の1を産出するに至った「世界の工場」中国から今後どれだけ生産シフトを惹きつけられるかが、世界中の低所得諸国の開発にとって鍵であり、特にサブサハラ・アフリカにおいてはそうである。
中国製造業のアフリカ移転は、アフリカ諸国のなかで賃金水準が低く、政府が製造業誘致に熱心なエチオピアを主要舞台としているが、今年に入って中国からの対アフリカ製造業投資が激減してしまった。エチオピアの経済特区が計画どおり進展するかどうか。これが、今後を占う一つの指標となるだろう。
日本のJETROが7月にエチオピア事務所を開設したことは、この点からも注目に値する。JETROがエチオピア政府から期待されているのは、日本製造業の工場進出だ。エチオピアの経済環境改善は、日中両国にとってのみならず、国際開発全体にとって重要である。
■TICAD VIに期待されるもの
資源価格の低落でアフリカ経済には急ブレーキがかかった。サブサハラ・アフリカの今年の経済成長率を世界銀行は、人口増加率と同じ2.6%、IMFは1.8%と予測している。
前回のTICAD Vも前々回のTICAD IVも「経済成長著しいアフリカ市場に乗り遅れるな」というのがスローガンだったし、官民連携の志もそこにあったが、今回は違う。景気後退局面に入ったアフリカで日本企業はどう行動すべきか。TICAD VIの一つの課題がこれである。
中国は破格の資金提供をコミットすることでこれに応えた。一方、日本は質の高い貢献を謳うことで応えようとしている。
先述したように国際開発の観点からは、現在中国に集積している製造業が次にどこに移転するかが最重要事項であり、これを実現するにあたって日中が協力することが、もっとも効率的であるには違いない。中国企業が企業としての合理性に基づいて行動する主体なら、アフリカにおける日中共同はありうべき選択肢である。
経済の効率性は不況期に向上する。十年続いた好況のなかで叢生した地場企業や、世界中から蝟集した企業は、これから、厳しくなる環境のなかで競争と淘汰を経験するだろう。いうまでもないがそのなかで日系企業には生き残ってもらわなくてはならず、その過程でシェアを拡大し、グローバル企業としての体力を強化してもらいたい。
そこでは、感染症対策や治安対策など、かならずしも企業の守備範囲に入らない課題をクリアしなければならないだろう。そこに官民連携の使命があり、そのプロセスがアフリカの経済社会を質的に向上させる。こういった理解をアフリカ諸国と共有する場が、すなわちTICAD VIなのである。
■アフリカの国々が中国支持?
それはそれとして、今回私がもっとも懸念しているのは南シナ海問題だ。
7月12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海における中国の領有権の主張を斥けた。この裁定に中国は猛反発しているが、このような態度は、国際社会の一員として常軌を逸したものといわざるをえない。
中国は「領土問題は関係国が相対で協議すべき事柄で、国際問題化すべきではない。我々の方針を世界60ヵ国以上が支持している」と強弁している。
その弁に従えば、うち30ヵ国がアフリカなのだが、アフリカの元首たちには、中国の経済支援欲しさのみならず、スーダンのアルバシール大統領やケニアのケニヤッタ大統領が訴追された国際刑事裁判所に対する反感が、もしかしたら働いているのかもしれない。
しかし、たとえ不完全であってもグローバル・ガバナンスの機構と機能を尊重しなければ、国際社会は弱肉強食のホッブズ的世界になる。グローバル・ガバナンスは小国のためにある。習近平政権がときどき匂わせる強国主義は、リアリズムというより19世紀的である。19世紀において最大の苦悩を背負った地域の一つは、アフリカではなかったのか。
アジア海域における中国の覇権主義はアジア全体にとっての脅威だ。いかなる事情が働いているにせよアフリカの国の多くがアジアの平和を支持しないというのなら、どうして日本はアフリカの開発を支援しなければならないのか。アフリカの人々には、国際社会においてアフリカ国家のあるべき姿について真剣に考えてみてほしい。
このように、国連安保理改革という旧来の課題に加え、緊急性の高い外交課題がTICAD VIには課せられたと思うのだが、どうだろうか。TICAD VIにあわせ日本AU友好議員連盟に所属する政治家たちがアフリカ各国に派遣されるが、ナイロビ宣言の仕上がりに注目したい。
平野克己(ひらの・かつみ)
JETRO(日本貿易振興機構)理事。1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院経済研究科修了。スーダンで地域研究を開始し、外務省専門調査員(在ジンバブエ大使館)、笹川平和財団プログラムオフィサーを経てアジア経済研究所に入所。在ヨハネスブルク海外調査員(ウィットウォータースランド大学客員研究員)、JETRO(日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長などを経て、2015年より現職。著書に『経済大陸アフリカ:資源、食糧問題から開発政策まで』 (中公新書)、『アフリカ問題――開発と援助の世界史』(日本評論社)、『南アフリカの衝撃』(日本経済新聞出版社)など多数。2011年、同志社大学より博士号(グローバル社会研究)。
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