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日本の経済と企業は、再び本格的な円高に備える必要がありそうだ
日本経済は円高で再び大きな試練が始まった
http://diamond.jp/articles/-/99590
2016年8月23日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
足元の為替市場で円高が進んでいる。18日には、ドル/円の為替レートが99円台半ばまで下落した。これは、英国のEU離脱決定の影響によって、投資家のリスク回避が進んだ6月24日(1ドル=99.02円)以来の水準だ。
この背景にはいくつかの要因がある。その一つは、米国経済の先行き不透明感だ。足元の経済指標やこれまでの景気循環を考えると、徐々に米国の景気がピークを迎える可能性は高まっている。
特に、昨年の夏場以降、米国の企業業績がドル高の影響で下落傾向を示していることは要注意だ。米国企業の海外収益の割合が高まっていることを考えると、ドル高は米国経済にとって無視できないマイナス要因だ。
米国政府は、これ以上のドル高を容認することは難しい状況になっている。経済専門家の間でも、「米国政府の為替政策はドル安に転換している」との見方が有力になっている。
ヘッジファンドなど大手投資家は、米国政府の政策展開を見逃すはずはない。彼らの投資姿勢は、既にドル安・円高を想定した持ち高に変わりつつある。そうした状況を考えると、今後も基本的に円高が続きやすくなるはずだ。
また、最近の世界経済を概括すると、欧州の大手銀行が抱えるシステミックリスクなど、無視できないリスクが高まっている。それだけ投資家のリスク回避の動きが出やすく、リスク軽減から円高は進みやすいと見るべきだ。
これまで、円高はわが国の企業業績を圧迫し、景気を低迷させてきた。ここで、わが国企業は円高への抵抗力を高め、経済の活力を引き上げることを真剣に考える局面に来ている。
■足元の為替市場を取り巻く経済環境
総合的に考えると円買い圧力は強まる
足元のドル安・円高は、米国の実質金利の上昇圧力の弱さに起因する部分が多い。短期的には、為替相場を動かす最も大きな要因は二国間の“実質金利”の差だ。
一般的に、投資資金は、低金利の通貨から高金利の通貨に向かいやすい。多くの投資家は高金利通貨を選好することが多いからだ。その結果、高金利の通貨は低金利の通貨に対して強含み、金利の低い通貨は弱含みとなりやすい。
現在、米国は主要国の中で唯一利上げ期待がある。本来であれば、ドル高が進んでもおかしくはない。しかし、これは表面的な利回り=名目金利を見た場合の議論だ。
問題は、通貨の価値の変動=インフレ率を加味した実質ベースの金利を見なければならないことだ。過去の相場を振り返っても、為替レートは、名目金利から物価の上昇率を引いた、実質金利に反応することが多い。
名目ベースではわが国の金利水準の方が低いのだが、米国のインフレ率を考えると、どうしても実質ベースで見た金利はわが国の方が高くなりがちだ。そのため、円が買われやすく、ドルが売られやすくなる。
米国のFRBは年内利上げの可能性を残しているが、会合の都度、金融政策の慎重な運営スタンスが示されている。市場参加者の利上げ予想も高まりづらく、金利の上昇圧力は弱い。
2016年上半期、わが国の経常収支(海外とのモノやサービスの取引状況を示す)の黒字幅は、10.6兆円と上半期として9年ぶりの水準に達した。経常収支が黒字であるということは、需給面からドル売り・円買いにつながりやすい。
わが国の企業が、海外からの売上などで得たドルなどの外貨を売り、円を買う可能性が高いからだ。これらの要素を総合的に考えると、円買い圧力が強まる可能性が高まる。
■自国の経済に下落圧力がかかると
ドル高を牽制し始める米国
昨年以降、米国政府のドルの為替レートに対する考え方=為替政策も変化している。過去を振り返ると、米国の経済が堅調な場合、米国政府はドル高に寛大だ。「強いドルは国益につながる」とのスタンスを明確にする。その場合、円安の進行も容認されてきた。
しかし、ひとたび米国経済に下落圧力がかかると、米国は手のひらを返してドル高を牽制し始める。最近、G7やG20等の場で、ジャック・ルー米財務長官は一貫して「為替相場は秩序立っている」と発言している。
米国政府が、ドル高を懸念する最大の理由は企業業績の悪化だ。近年の米国経済を見ると、ドル高が企業業績を圧迫してきた。大手企業の業績は2016年4〜6月期まで4四半期連続の減益に陥っている。
また、米国では3四半期続けて労働生産性も低下している。労働生産性が低下する中、新規の採用は労働コストの増加につながり、追加的に利益を圧迫する可能性がある。そうなると、雇用の削減=リストラを進める企業も出てくるだろう。
過去の景気循環を振り返ると、2009年6月に米国経済は景気の底(ボトム)を打ち、それ以降、7年超の景気拡張の中にある。平均的に米国の景気拡張期間が5年程度であったことを踏まえれば、景気はピークまで7合目程度まで来ていると言えるだろう。
米国政府にとって大きな課題は、いかに企業収益を支え、景気の下支えを図るかだ。その方策の一つとして、企業経営者からも指摘されているドル高の影響を軽減することは欠かせない。輸出の促進のためにも「緩やかなドル安がいい」のが米国の本音だろう。
そうした状況を考えると、繰り返しとなるが、明らかに米国政府の為替政策は転換している。わが国をはじめ、自国通貨安で輸出促進などの景気支援を図りたいとの考えに対する牽制だ。そのため、FRBも利上げには慎重にならざるを得ない。そうした米国政府の政策変化を、海千山千のヘッジファンドマネージャー連中が見流すはずはない。
彼らは敏感にそうした変化を察知し、ドル売りを仕掛け、これまで売ってきた円を買い戻している。これは、2011年11月〜2015年半ばまでのドル独歩高の修正とも言える。
■中国経済の減速と欧州の政治混乱に
米国経済のピークアウトが重なれば…
足元の世界経済を俯瞰すると、これまで米国の景気回復が世界全体を牽引してきた。今後、米国景気の先行きに不透明感が高まると、世界全体の景況感悪化は避けられないだろう。
中国は、過剰な生産能力の問題を抱え経済成長率が低下している。欧州では英国のEU離脱の影響、イタリアでの政治不安など不確定要因が多い。米国でも、生産性の伸びがマイナスに落ち込むなど気掛かりな点は多い。
仮に、中国経済の更なる減速、欧州の政治混乱等に米国経済のピークアウトが重なると、世界経済は未知の低迷リスクに直面する恐れがある。米国に代わる世界経済の牽引役が見当たらないからだ。
今後、さらにドルが下落すると、これまで以上の速度で円売り・ドル買いのキャリートレード巻き戻しが進むことが考えられる。その場合には、資金調達通貨である円の買い戻しが進み円高が加速する可能性もある。
為替市場の変動に加えて、世界的な需要の低迷から資源価格が一段と下落し、投資家のリスクオフがさらに円高圧力を高める可能性もある。その場合、わが国の景気にも相応の下押し圧力がかかるだろう。
わが国経済の問題は、円高による国内企業の収益悪化懸念だ。企業の海外進出の影響もあり、わが国は海外経済の動向、それに起因する為替レートの変化に影響されやすい。
それを克服するためには、政府が労働市場などの構造改革を進め、企業の積極性を引き出す必要がある。それは、アベノミクスが掲げた成長戦略の本義であるはずだ。
同時に各企業にも、自助努力によって技術革新を進め、新しい製品やサービスを断続的に生み出すことが求められる。そうしたイノベーションこそが、企業の競争力を引き上げ、わが国の潜在成長率を高めるために必要な要素だ。それができないと、社会全体の活力が低下した状態から抜け出すことは難しい。円高は、再び、わが国経済に大きな試練を与えようとしている。
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