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7月29日の追加緩和を受け、乱高下する東京市場(写真提供:Rodrigo Reyes Marin/アフロ
黒田総裁は何を指示したのか “意味深な一文“から日銀の思惑を読み解く
https://thepage.jp/detail/20160819-00000005-wordleaf?pattern=4&utm_expid=90592221-68.lfBehu-SRAaVoElq1eS33g.4&utm_referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F
2016.08.22 08:00 THE PAGE
「2%の『物価安定の目標』をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、『量的・質的金融緩和』・『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととし、議長はその準備を執行部に指示した」
金融市場の話題は日銀が7月29日の声明文に記載した上記一文の解釈に集中しています。これが何を意味しているのか、市場関係者の間では三者三様の見方が示されており、予想が割れています。7月29日の総裁会見では、この一文について記者からの質問が集中しましたが、総裁はほとんどヒントを与えませんでした。そこで本稿では、議長(総裁)が執行部(いわゆる事務方)に何を指示したのかを予想するとともに、現在、市場で示されているいくつかの見方を整理し、その妥当性を第一生命経済研究所の主任エコノミスト・藤代宏一さんが検証していきます。
■<参考>総裁の回答で主要な部分(抜粋)
海外経済・国際金融市場 を巡る不透明感などを背景に、特に物価見通しに関する不確実性が高まっている状況を踏まえて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、この 3 年強の間の色々な金融緩和の下での経済・物価の動向、あるいは政策効果について、総括的な検証を行うことにしました。もちろん、スタッフは常に分析をしているわけですが、「量的・質的金融緩和」を導入して 3 年強、そして「マイナス金利」を導入して半年――1 月に決定して実際に適用されたのは 2 月からですから半年位―― というところで、「総括的な検証」を政策委員会において行うということです。 政策委員会の全てのメンバーがこうしたことが望ましいと言われまして、この公表文に示したということです。具体的に、「総括的な検証」を行った後の金融政策については、「総括的な検証」を行ったうえでのことですが、明確なのは、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何が必要かという観点から、「総括的な検証」を行うということです。
「量的・質的金融緩和」の導入にあたっては、「できるだけ早期に」という際に念頭に置いている期間として、2 年程度という期間を示しました。「量的・質的金融緩和」の導入後、すでに 3 年以上経過しているのは事実ですが、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという方針に変化はありませんし、今後もそれを変更する考えはありません。
以上は「総裁会見の抜粋」です。
■この一文は「追加緩和の布石」と読むべきなのか
まず最初の分岐点は、この記事の冒頭で提示した一文が、「追加緩和の布石」なのか否かです。「議長が執行部に指示」という文脈を見て真っ先に連想されるのは欧州中央銀行(ECB)ドラギ総裁が得意としている追加緩和の「予告」です。ドラギ総裁は、ECB内部の意見調整、追加緩和期待をつなぐという目的もあって、次回会合における追加緩和を強く示唆するという手法を採ってきました(たとえば量的緩和導入時など)。この手法は次回会合までの1カ月ないしは2カ月の間、市場で追加緩和を巡る憶測が飛び交うことで、そのこと自体が緩和効果を生み出すという利点がある一方、期待が膨らみ過ぎると失望を誘うリスクが高まるという弱点があります。この一文にはそうした意図がこめられているのでしょうか?
筆者の見解はNOです。こうした見方を示しているのが(おそらく)少数派であることを先に断っておく必要がありますが、これまでの黒田総裁の言動を踏まえると「検証の結果、金融緩和が不十分だったので今回新たに○○を追加する」などといった具合に過去の誤りを認めるような見解が示されるとは考えにくいからです。2013年4月以降の検証、つまり3年4カ月前との比較という視点で金融政策を評価すれば、「所期の効果があった」と結論付けることができるでしょう(「所期の効果」という言葉は日銀が好んで使います)。
この間、コアCPI(生鮮食品を除いた消費者物価指数)は原油価格の影響をダイレクトに受けたので参考にならないとしても、コアコアCPI(食料・エネルギーを除いた消費者物価指数)が一時1%に迫る上昇を記録したほか、日銀版コアCPI(生鮮食品・エネルギーを除いた消費者物価指数)が一時1%台半ば付近へと水準を切り上げたことは、金融政策に太鼓判を押す証拠として十分でしょう。最近のコアコアCPIの減速については、7月29日の追加緩和(3兆円から6兆円へとETF購入枠を拡大)で対処したから問題なしとの見方が示されるのではないでしょうか。
■「サプライズ型」から「予告型」で、より大胆な緩和策を導入するという見方も
一方、この記事の冒頭で提示した一文を「追加緩和への布石」と捉える向きは多いです。日銀が追加緩和をほのめかすような一文を挿入したのは今年1月29日のマイナス金利導入があまりにも唐突で、そのサプライズ感が金融政策の不透明感を通じて投資家マインドに悪影響を与えたとの反省から「サプライズ型」のコミュニケーションに区切りをつけ、「予告型」に変更したとの見方です。
今回、採用が見送られた「マイナス金利深掘り」、「長期国債の買い入れペース増額」は、その突発的な発表が債券市場のボラティリティ(変動率)上昇や銀行株の急落といったネガティブな事象に直結する可能性があります。それに配慮してECB型の予告をしておけば事前の織り込みが進むため、大胆な緩和策が導入できるというわけです。
来月9月会合でマイナス金利深堀り(▲0.1%→▲0.3%)、長期国債の買い入れ増額(80兆円→100兆)が加わり、2会合越しでフルパッケージの追加緩和が完成するとの予想もあります。
■7月のETFのみの追加緩和は、日銀の自信か?
ただし筆者は今回日銀がETF単独の追加緩和を採用した理由を、日銀が名目金利の低下に満足したことにあるとみています。その見方が正しければマイナス金利深堀り、長期国債の買い入れペース増額のような金利に影響を与えるオプションが9月会合で採用される可能性は低いとの結論にたどりつきます。そのほかでは、(1)量・質・金利という現在の枠組みを抜本的に見直す、(2)マイナス金利撤回、(3)テーパリング(≒量的緩和縮小)を示唆、など多くの憶測が飛び交っています。
まず(1)については、金利の操作目標を翌日物金利から5年・10年といった長期ゾーンに時間軸を伸ばすといった枠組み変更が選択肢として考えられますが、すでに超長期ゾーンまで日銀のコントロール下にある現状を踏まえると、それをすることによって得られるメリットがあるのか疑問です。(2)ついては「マイナス金利は副作用が大きい」との結論が示されることを意味するため考えにくく、(3)については、「金融政策に限界は感じていない」との黒田総裁の発言に完全に逆行するため、その可能性は極めて低いでしょう。
■日銀の掲げる目標、”2年”と”2%”についての再確認
また、これはとは別の議論で「(物価目標達成の時期として)2年を放棄するのではないか?」、「2%の目標に柔軟性をもたせるのではないか?」といった観測も一部で生じています。
まず前者に関しては、そもそも日銀が2年という期間を目標にしていないという事実を再確認する必要があります。時間的目標はあくまで「できるだけ早期」で、2年というのは分析に基づく物価目標達成時期の「予測」という位置づけです。日銀が2年を撤回するとは、そもそも可能性がゼロです。
後者については、2%というピンポイント目標から2%±0.5%へと幅を持たせる、あるいは一段の金融緩和に否定的な見解を持つ木内委員が主張するように「2%の『物価安定の目標』の実現は中長期的に……」といっ具合にトーンを弱める可能性が指摘されていますが、2%目標の撤回は購買力平価説(PPP)に基づく通貨高を容認することになるので、そのハードルは極めて高いと判断されます(PPPでは物価上昇率の低い通貨ほど通貨価値が高くなる)。各国中銀がおおむね2%のインフレ目標を掲げるなか、日銀だけがそのコミットを弱めれば為替市場で「デフレ通貨」のレッテルが貼られ、強烈な通貨高にさらされることは想像に難くありません。
以上みてきたように、9月会合で示される「総括的検証」が追加緩和の予兆であるかは疑わしいと考えます。市場では9月会合における追加緩和が意識されていますから、「ゼロ回答」だった場合の失望は大きいでしょう。もっとも、このような追加緩和期待が生じることを承知のうえ、なぜ日銀が“意味深”な一文を挿入したのかという疑問は残ります。追加緩和や抜本的な枠組み変更の可能性が否定できないのも事実です。9月会合までに得られる日銀関係者(正副総裁はじめ審議委員含む)の発言等を精査し、考えを整理していきたいと思います。
【連載】いちばんわかりやすいマーケット予想(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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