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主会場になる新国立競技場の建設予定地。建設計画が迷走し、建設費の見込み額は乱高下した。開催費用全体も当初予想より大きく膨らみそうだ(撮影/写真部・岸本絢)
東京五輪は、本当に景気を上向かせるのか? 経済効果は最大60兆円!?〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160822-00000075-sasahi-bus_all
AERA 2016年8月29日号
景気停滞からの出口が見えないなか、「五輪効果」に最後の期待がかかる。しかし、今のままではとらぬタヌキの皮算用になりかねない。
熱戦が続いたリオデジャネイロ五輪。各競技会場は世界中から訪れた観客たちでにぎわったが、開催国ブラジルは深刻な景気後退にあえいでいる。
開催地のリオデジャネイロ州は五輪開幕が迫った6月、税収減によって「治安や公共交通が崩壊する」として財政非常事態を宣言。ブラジル政府が急遽、資金支援を決めた。その翌月には、警察官らによる給料未払いへの抗議デモが激化し、リオ市内の国際空港にこんな横断幕が掲げられた。
「地獄へようこそ。給料が支払われていないので、リオに来る人は安全ではない」
中国やインドと並ぶ「BRICs」の一角として脚光を浴びた新興国ブラジル。ここにきて主な輸出品である鉄鉱石や原油の価格急落が景気を直撃。今年の実質国内総生産(GDP)の成長率は2年連続のマイナスに沈むという予測が大勢だ。
米金融大手ゴールドマン・サックスが7月に公表したリポートで、執筆者の一人のアルベルト・ラモス氏はこう指摘した。
「ブラジルは史上最も長く、深い経済収縮のさなかだ。五輪と(2014年に国内で開かれた)サッカーW杯関連の投資は、規模が大きいブラジル経済に顕著な刺激を与えるには力不足だった」
それでも20年に次の大会が開かれる日本では、東京五輪の経済効果に期待する声が目立つ。アベノミクスが始まって3年余りたった今も景気停滞を脱する兆しが見えないなか、ほぼ唯一の好材料が五輪だからだ。
●増加分はほんの少し
東京都が開催決定前の12年6月に公表した試算によると、13〜20年に1兆2239億円の需要が直接的に生み出されるという。内訳は、競技会場や選手村といった施設整備費3557億円▽開・閉会式、輸送や警備にかかる大会運営費3104億円▽観戦客や大会関係者が交通・宿泊・飲食・買い物に使うお金、家計がテレビや関連グッズ購入にあてるお金といった「その他」5578億円。
これらの新たな需要が生まれることに伴い、もうかった企業が社員の給料を上げて消費が盛り上がるなどすれば、五輪と関係ない分野の需要も増える。都はこうした間接的な効果も含む経済波及効果を2兆9609億円とはじいた。一般に「経済効果」と呼ばれる数字だ。だが、これがまるまる日本の経済規模を示すGDPの増加分ということにはならない。都によると、経済効果のうち名目GDPの増加分は1兆4210億円。15年度の名目GDP(約500兆円)をもとにすると、13〜20年の累計でもほんの0.3%ほどだ。
●焼け石に水の五輪効果
これは経済効果の範囲を比較的狭くとった試算と言われる。民間シンクタンクや日本銀行は軒並み、より大きな効果を見込んでいる。五輪開催決定に伴うイメージアップなどで来日する外国人が増え、ホテルの建設も増える。鉄道や道路といったインフラ整備が前倒しされる。「五輪景気」を当て込んで民間の都市再開発事業も盛んになる──。こんな予想に基づく。ただ、民間3機関の試算を見ると、経済効果は6兆7780億〜60兆円と差は大きい。
「実際には五輪開催による効果だけを厳密に区別するのはきわめて難しい。試算結果については十分な幅を持って見る必要があります」(みずほ総合研究所の矢野和彦主席エコノミスト)
とはいえGDP押し上げ効果は、今回紹介したなかで最も大きいみずほ総研の試算でも、7年間の累計で15年度の名目GDPの6%弱にすぎない。
これらの試算に盛り込まれていない「マイナス効果」にも要注意だ。たとえばテレビや五輪関連グッズの消費が盛り上がっても、家計の総収入が増えなければ代わりにほかの分野の消費が減るおそれがある。建設業で人手不足が深刻化するなか、ある再開発事業が進む代わりに別の事業が遅れるかもしれない。
そもそも日本経済の実力が落ちている。経済がふつうに推移した場合の“巡航速度”と言える潜在成長率は、少子高齢化などで0%台前半に落ち込んでいる、という見方が目立つ。多少の上乗せでは焼け石に水だ。
結局、五輪効果だけで景気が劇的に上向く見込みはきわめて薄い。それでも開催は決まっている以上、チャンスを最大限に生かすにはどうすればいいかを考えるべきだろう。みずほ総研の矢野氏はこう提言する。
「何もしなくても五輪効果によって日本経済の成長力が大きく高まる、というわけではありません。私たちが試算で示した経済効果を現実に引き出すためには、政府の成長戦略と、それに呼応した民間の取り組みが重要となります」
●国や都の財政に打撃
建設業などの人手不足解消には、子育てや介護に追われる人が働きやすい環境を整え、外国人労働者の受け入れを拡大する、といった政策が選択肢になり得る。日本を訪れる外国人を増やすには、民泊や自動運転タクシーなどの新ビジネスを育て、受け入れ態勢の充実につなげるのも課題だ。
規制緩和などによって経済の実力を地道に引き上げる成長戦略は「アベノミクス第3の矢」と位置付けられてきた。だが、これまでは日銀による金融緩和(第1の矢)と、政府予算の大盤振る舞い(第2の矢)ばかりが目立つ。規制緩和には既得権を持つ層の抵抗が根強く、成長戦略は遅々として進まない。この難題をクリアできなければ、ささやかな五輪効果でさえ絵に描いた餅になりかねない。
もう一つ大きな問題がある。経済効果はタダでもたらされるわけではない。私たち納税者が支払う「コスト」のことも忘れてはいけない。
東京五輪の開催費用は、都を中心に作った招致計画では7千億円ほど。その後、建設計画が迷走した新国立競技場といった施設整備費が膨らむなどした結果、2兆〜3兆円規模になるといった見方も飛び交う。
開催費用や、東京五輪にかこつけたインフラ整備の費用が大きく膨らめば、国や都の財政に打撃を与えかねない。特に1千兆円を超える借金を抱える国の財政事情は先進国で最悪レベルだ。日本総研の山田久チーフエコノミストはこう警告する。
「安倍政権が2度も消費増税を延期したことを見ても、財政規律の緩みがうかがえます。五輪をきっかけに財政危機が表面化する、といった最悪の事態は絶対に避けなければなりません」
(編集部・庄司将晃)
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