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日銀の政策立て直しへの注意点
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kubotahiroyuki/20160820-00061326/
2016年8月20日 11時38分配信 久保田博幸 | 金融アナリスト
9月の日銀金融政策決定会合での総括的な検証を元にして、日銀は金融政策そのものの立て直しを図る可能性がある。しかし、その際に注意すべきポイントがいくつか存在する。
そのひとつが2013年1月に内閣府と財務省、日本銀行の連名で公表された「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同文書である。いわやるアコードである。このなかに下記の文章が存在する。
「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。」
日銀はここで「消費者物価の前年比上昇率で2%」という物価目標を設定している。これは政府との約束事でもあり、日銀が独自でこの旗を降ろすことはできない。もしこの日銀の目標を名目GDPに変えるとか目標の数字を変えるとなれば、あらためて政府と共同文書を結び直す必要がある。これは日銀単独の作業とはならない(日銀が自ら縛りをつけてしまった感もあるが)。
この共同文書には下記の文章も存在していた。
「日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく。」
9月の日銀の総活はこの共同文書の趣旨に則ったものとの見方もできるかもしれない。そうであれば、「金融面での不均衡の蓄積」などが総活のひとつのポイントになる可能性がある。特にマイナス金利政策でこの面のリスクが指摘されており、マイナス金利政策については深掘りどころか、その修正が求められることになると予想される。
そして量という側面からみると日銀の政策を縛りかねない別の目標が存在する。それがこの共同文書が出されてから数か月後に決まった「量的・質的緩和政策」にある。2013年4月4日の金融政策決定会合議事要旨には下記のような記述がある。
「量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、金融市場調節方針を以下のとおりとする。」
現在の日銀の金融政策の操作目標は何かと出題されたら、公定歩合や無担保コール翌日物金利という解答は不正解である。答えはマネタリーベースとなる。つまり、日銀にとっては本来、金融政策の変更を行うのであればこのマネタリーベースの数字を変える必要があったはずである。たとえば政策目標が公定歩合であったときはその金利の上げ下げが政策変更であった。
日銀は2014年10月に量的・質的緩和政策の拡大を決定した際にマネタリーベースの目標値を変更したが、今年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入の際には、この政策目標の変更はせずにマイナス金利に該当するものが政策金利であることも明確にしないなかでの政策変更を行っている。
このあたりから操作目標がかなり曖昧となってしまった。今年7月にはやはりマネタリーベースの目標は据え置いて、ETFの買入れ額の増額だけを決定している。これを日銀は追加緩和としているが、このときの声明文のタイトルが「金融緩和の強化について」としたのは白川総裁時代の政策金利を維持した上での資産買入等の基金の増額時と同様の認識があったものとみられる。
このように現在の日銀の金融政策は短期決戦を狙っていたが効果が出なかったこともあり、金融政策が今年に入って継ぎ接ぎのような格好となってしまっている。今回の総活ではこのあたりの整理も必要ではなかろうかと思われる。つまりもし量と質と金利の三本柱で今後も走るのであれば、もう少し明確な操作目標の設定も必要ではなかろうか。そうすればあらためて追加緩和の可能性を広げることも可能かもしれない。ただし、べき論からすれば、そんなことよりも出口を見据えた戦略を練ってほしい気がするのだが。
久保田博幸
金融アナリスト
フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。
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