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ソニー・日産電池撤退、電気自動車は韓中主導で再編加速か
http://diamond.jp/articles/-/99295
2016年8月19日 桃田健史 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
■90年代から「深い関係」にあった
ソニーと日産がリチウムイオン電池撤退
最近、「次世代のクルマ」といえば、自動運転やライドシェアリングが話題の中心だ。
一方で、EV(電気自動車)については、テスラやアップルの自動運転車の「構造の一部」として取り上げられる程度に止まっている。EVが「次世代のクルマ」の話題の中心だった5〜6年前と比べて、社会の状況は大きく変わった。
そうしたなか、7月末から8月上旬にかけて、ソニーと日産がそれぞれ、リチウムイオン電池事業から撤退することが報道された。
この2事案には直接的な関係はないのだが、実は、2社はEV向けのリチウムイオン二次電池において「深い関係」にある。
EVだけでなく、携帯電話など日常生活で欠かせない最新型の電池であるリチウムイオン電池。その原理は欧米で発明され、その後に大学などで基礎研究が進んだが、商品として大量生産したのは、日本のソニーが最初だ。
日産が90年代に開発した小型EVの「ハイパーミニ」 Photo:NISSAN
筆者は、ソニーのリチウムイオン電池開発の初期段階で重要なポジションにいた人物と交流があったが、彼の言葉を借りると、開発当時は「試練の連続」だったという。量産化に踏み切ってからも、試練は続く。日産の小型EV「ハイパーミニ」向けに世界初の車載用リチウムイオン二次電池を提供したが、電池の性能を安定化させるための努力は「甚大だった」と語る。
また「ハイパーミニ」の企画者も筆者の知り合いなのだが、当時の日産社内では「EVは時期尚早」という声が主流であるなか、ソニーとの協業を含めてかなり強引に事が進んだようだ。その背景には、新しいクルマの発想をできるだけ早く具現化させたいという、彼自身のエンジニアとしての夢があった。
だが、事業としての結果は惨敗。ハイパーミニの需要は“官民のお付き合い”がほとんどであり、商品として短命に終わり、その結果として、ハイパーミニなどEVに関係した日産とソニーのエンジニアの一部が会社を去った。
そして2000年代後半、「リーフ」向けとして、日産がNECとの合弁でリチウムイオン二次電池開発、及び自社製造を立ち上げた際、「昔の関係」から旧ソニーのエンジニアたちが“お助け隊”として神奈川県座間市の電池工場に参上。「リーフ」向け電池製造での歩留まりを上げるために尽力している。
■韓国LG化学が入念な市場調査
EV事業の世界的な再編を睨む
ソニーと日産のリチウムイオン二次電池事業撤退が報道される約1ヵ月前、韓国のLG化学が筆者に直接コンタクトしてきた。同社は、リチウムイオン二次電池の世界シェアで、韓国サムスン電子、パナソニックに次ぐ、第三位のポジション。米GMの電動車「VOLT」向けなど、自動車産業界向けでも大手サプライヤーである。
実は、筆者の著書が韓国語版で発刊されている。その内容を見て、EV事業に詳しい日本人ジャーナリストのひとりとして、筆者が彼らのインタビュー対象のリストに載ったという。
要件は、EV事業の世界的な再編に関する意見交換だ。筆者のコメントを、同社が社内外に向けて作成している技術広報誌及びウェブサイトに公開するというものだ。
今になって思えば、あの時点で同社は、ソニーや日産の「動き」を察知していたに違いない。数週間に渡り日本国内で情報収集すると言っていた。
米サンフランシスコ市街地を走る、テスラ「モデルS」。世界市場で最も認知されているEVとして、テスラの存在感は増す Photo by Kenji Momota
LG化学側が用意してきた資料には、自動車のEV化による自動車産業の変革の可能性について、様々な図表や図式を用いた“仮定”が描かれていた。その詳細をここで紹介することは控えるが、全体としては、世界市場における各社のEV事業が「大きな曲がり角」に立っていることを示唆していた。
インタビューを通じて、筆者とLG化学側は、「今後のEV戦略は、米ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制より、中国のNEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)政策の影響が大きくなる」という点で一致した。
一方、彼らがあまり指摘しなかったのが、「EV・自動運転・ライドシェアリング」が三位一体として普及する際の「サービス事業」についてだ。今回のインタビューの趣旨が「製造」寄りだったこともあるが、筆者は、製造からサービスまでの「一括体制」のなかで、EVの製造コストを考慮するべきだと主張した。
■EVは「ドンガラ」化に最適
電池再編でクルマもPC同様に!?
LG化学の資料のなかに、自動車部品のサプライチェーンの再編の記載があった。それは、EV化によって、これまでの内燃機関型と比べて、自動車の構成部品点数が大幅に削減され、その結果として既存のサプライチェーンが崩れるというものだ。これはLG化学が指摘するだけでなく、日系自動車メーカーを含めて自動車産業界での「定説」である。
また、モーターや二次電池など、EVの構成部品は商品としての差別化が難しく、自動車メーカーとしての「個性がなくなる」というのも、業界の「定説」である。
自動車メーカーはこれまで、リチウムイオン二次電池の開発・製造を自社の傘下に置くことで、「量産効果によるコストダウン」と「独自開発による企業の個性」の両立を図ろうとしてきた。2000年代後半に、「リーフ」と三菱「i-MiEV」が切り開き、さらに独ビック3(ダイムラー・BMW・VW)も、こうした手法を模索してきた。
そしていま、日産がこの手法を諦めた。
では、これからどうなるのか?
日産本社にて以前撮影した、「リーフ」に関する展示。車体の床部に、リチウムイオン二次電池を搭載 Photo by Kenji Momota
例えば、クルマは技術的な商品としての個性が減り、製造者は「ドンガラ」、つまりかろうじて差別化が可能なボディ周りだけを作るという、現在のパソコン産業のようなイメージになり、そして「ドンガラ」が自動運転やライドシェアに活用されていく…。
ソニーと日産のリチウムイオン二次電池事業撤退は、自動車産業の「潮目」を変える大きな出来事であるように思えてならない。
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