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コラム:
9月緩和なしか、日銀政策運営は柔軟化へ
岩下真理SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 15日] - 筆者は前回コラムで、日銀の7月追加緩和の可能性は五分五分と見ていた。物価見通しの大幅下方修正を回避し、達成時期も据え置くなら、追加緩和の理由を説明することは難しいと考えていたからだ。そのうえで、近い将来に、目標達成時期の柔軟化、枠組みの見直しに取り組むしかないだろうと指摘した。
7月の結果が上場投資信託(ETF)買い入れの倍増のみにとどまると、市場の一部に「今回は小粒」との失望感を招いたが、これまでの黒田日銀のサプライズ感ある政策決定のツケと言えよう。筆者は、マイナス金利の副作用や量の限界を理解した良識的な判断だったと評価したい。従来のバズーカ路線から転換の一歩だ。
加えて、日銀が政策検証を事前に発表したのは、市場とのコミュニケーションを改善したい気持ちが伝わってくるものだった。様々な副作用が指摘される状況下、黒田東彦総裁が行った初めての予告は大いなる進歩と言える。
<政府内からも日銀に政策検証を促す声>
市場では、9月の政策検証に伴い何かが行われると予想する向きが多いが、その見方は大きく2つある。1つは政策運営の見直し、もう1つはさらなる追加緩和実施だ。
筆者の見方は前者であり、さらなる追加緩和の可能性は極めて低いと見ている。かつて白川方明前総裁時代に、議長が執行部に指示した「宿題会合」で、発表内容に追加緩和が伴った記憶はない。
そもそも7月会合での追加緩和の目的は、英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択などによる不確実性が企業や家計のコンフィデンスの悪化につながるのを防ぐことだ。政策運営の第2の柱、下振れリスク対応の追加緩和を実施してからわずか7週間後にさらなる緩和措置を講じるのは、経済情勢の悪化などの明確な理由がなければ、普通は考え難い。
8日発表の7月会合における「主な意見」を見ると、内閣府からの出席者の発言にヒントが隠されていた。「金融政策運営の変更に関し、日本銀行としての考え方について、対外的に丁寧に説明していただくことが重要である」との部分だ。政策運営の変更を期待していることがうかがえる。
また、13日付の日本経済新聞朝刊1面によると、金融庁がマイナス金利の影響で「3メガ銀行グループの2017年3月期決算で少なくとも3000億円の減益要因になる」との調査結果をまとめ、日銀に懸念を伝えたという。そのような政府内にあるマイナス金利政策への批判が、政策検証を促したように思われる。
<重要な鍵を握る4人のメンバー>
筆者は、今回の政策運営見直し議論で重要な鍵を握るのは4人のメンバーだと考えている。執行部では、マイナス金利導入を決断した黒田総裁とリフレ派の岩田規久男副総裁の2人。審議委員では、マイナス金利に反対票を投じ続ける佐藤健裕委員と木内登英委員の2人だ。
この4人が合意できる形を考えると、現在の双方の距離感があり過ぎるため、具体的な数値を変更するのはややハードルが高いように思える。よって、政策運営の柔軟化という曖昧さに落としどころがあるのではないだろうか。
黒田総裁は7月の定例会見で、「マイナス金利の効果は非常に大きいものがある。すでに市場だけでなく実体経済にもプラスの影響があり、何か限界が来ているとは考えていない」「おそらく国債の3分の1はすでに取得しているが、まだ3分の2は市場にある。量的限界が来ているとは思わない」と従来通りの発言を繰り返した。総括的な検証をもとに、もう少しソフトな説明に修正するだけでも、印象は大きく異なるだろう。
4日に岩田副総裁は講演後の会見で「検証の結果、今までの金融緩和の程度を縮小するといったようなことはあり得ない」と語り、市場は好感した。しかし、それ以外に岩田副総裁は重要なメッセージを発信していた。
具体的には、「もう少しデリケートな問題が3つの組み合わせに関してはあるかもしれない」「もう少しデリケートな、その微妙な調整の仕方に関しては、もう少し検証し、気配りのある金融政策を行っていきたい」という発言だ。3次元緩和の限界をほのかに認めつつ、持続可能な金融政策とするために、気配りのある形に軌道修正する意向が読み取れる。
その一方で、佐藤委員、木内委員の2人は、マイナス金利について市場機能や金融仲介機能および国債市場の安定性を損ねることを理由に反対している。
佐藤委員は、マイナス金利は国債買い入れ減少と合わせて実施すべきとの主張だ。木内委員はかねてより、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、柔軟な政策運営のもとで現行政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続することを提案。昨年4月からは国債買い入れを45兆円に減額することも提案し続けている。反対票の2人には、数値にこだわることなく、政策運営の柔軟化という妥協点を模索してほしい。
<3次元政策の限界も認めるべき>
10日付のロイターの記事によれば、7月会合の数週間前に検証のドラフトは作成されており、その内容は枠組みの根本的な見直しでなく、現状維持を正当化するものであるという。
すでに執行部による検証はいったん終わっているようだが、お盆休み明けから本格的に取り組み、9人のボードメンバーの意見調整に時間を割くことが見込まれる。9月会合当日は、検証結果をどう判断するのか、徹底的に議論する場となるのだろう。
日銀は結論ありきではなく、虚心坦懐にこの3年間を振り返ってほしい。それにはまず、昨年5月時の検証にはなかった、政策を量、質、金利ごとに分け、物価もしくは期待インフレ率の引き上げに、各政策がどれだけ貢献できたかを示すべきだろう。
量の部分では、実質金利を引き下げたと結論付ける前に、国債買い入れとは別にマネタリーベースと期待インフレ率の関係、前回の検証になかった質の部分では、ETF増額とリスクプレミアムの関係を説明する必要があるのではないか。
マイナス金利については、住宅関連への好影響を強調するのではなく、想定外のイールドカーブフラット化により、金融機関の収益面での打撃、年金運用への悪影響も説明すべきだ。消費増税や原油安などの逆風がなければ、本当に効果が出るものなのか、政策の不確実性と3次元政策の限界も認めるべきだろう。
そのうえで残り1年半(総裁任期まで)での2%物価目標達成のため、少しでも柔軟な運営方針を示すことが望ましい。従来路線の堅持だけでは失望に終わる。例えば、物価動向の検証を踏まえて、物価目標達成には時間が必要だと素直に認め、物価目標の柔軟化を示唆する。そして、その先の方向性として、マイナス金利のフォワードガイダンスの修正を視野に入れる。
次に量の部分の検証を踏まえて、国債買い入れの柔軟化を示す。具体的には、買い入れ額を現在のフローからストック(残高目標)へ変更することや買い入れ年限の短期化など、やり方はいくつか考えられる。ドラスティックな枠組み見直しはできなくても、最初の一歩を進めることが大切だ。
この検証結果の発表は、これまでチグハグ感のあった日銀と市場とのコミュニケーションを、改善できる数少ない機会だ。現在のような曖昧な情報発信を続けていては、毎回会合で各種報道により、市場は妄想と迷走を繰り返すことになってしまう。その連鎖を断ち切ってほしい。
*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-mari-iwashita-idJPKCN10Q0MW?sp=true
米国株のバリュエーションに危険な兆候
12日の米株式市場では主要3指数がそろって終値ベースで過去最高を更新した。写真はニューヨーク証券取引所
By STEVEN RUSSOLILLO
2016 年 8 月 15 日 18:22 JST
12日の米株式市場で、主要3指数がそろって終値ベースの過去最高を更新した。これは1999年以来のことだ。こうした状況で払われるべき注意があまり払われていない危険な兆候がある。バリュエーション(株価評価)の上昇だ。これは個人投資家だけでなく、投資目標で運用の好不調を判断する公的年金基金にとっても重要な意味を持つ。両者はばかばかしいほど楽観的なように見える。
バリュエーションが高いからといって、必ずしも株価が下落に向かうとは限らないが、公会計の赤字が実際よりもおそらく数千億ドル少なく評価されている可能性がある。窮地に陥る恐れのある地方債の保有者や納税者は気を付けた方がいい。
PER(株価収益率)は変動が大きいが、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のロバート・シラー氏が世に広めた投資指標「CAPEレシオ(景気循環調整後PER)」はPERより安定している。CAPEレシオは長期的な株価の割高・割安を判断するもので、S&P500種株価指数を構成企業の過去10年間のインフレ調整後平均1株利益で割って算出する。足元の数値は27.1倍で、長期的な平均値の約16倍を大きく上回る。
1880年代以降のデータに基づくと、現在のバリュエーションは過去10番目の高水準にある。CAPEレシオが今のように高い時、次の10年間のS&P500の年平均利回りは約4%となる。短期的なマーケット・タイミングツールではないものの、株価バリュエーションが高くなると、10年後にリターンが最も低くなることが多い。
これは年金基金が直面している難題だ。こうした基金の多くは既存の前提に全ての資金を投じているわけではない。一般的な運用目標は7.5%だが、株式60%、債券40%という昔ながらの運用比率では、少なくとも向こう10年は目標達成はほとんど不可能に見える。
例えば、米国債10年物と社債の組み合わせによる利回りは約1.75%だ。つまり、年金基金が今後10年間で運用目標を達成するには株式投資で年間約11.4%の利回りを実現しなければならない。これは、バリュエーションが最も不利な今のような状況の時の平均値をはるかに上回る。
ポジティブ思考だけでは、投資家と納税者のできることはたかが知れている。
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アクティブ運用型の米株投資、巻き返しなるか
By JUSTIN LAHART
2016 年 8 月 15 日 15:59 JST
アクティブ運用型の株式投資家は今年何度か痛い目にあったが、そろそろ巻き返しを図れるかもしれない。
プロにとっても市場を打ち負かすのは常に難しい。最近は一層難しさを増している。バンクオブアメリカ・メリルリンチによれば、2015年までの10年間を平均すると、大型株のミューチャルファンドのうちラッセル1000指数を上回った割合はわずか37%だった。今年は最初の7カ月間でたった14%しか上回っていない。
その一因はコストだが、他にも問題がある。個別株を保有する米国人の数は1990年代以降着実に減っており、ファンド運用担当者がゲームでカモにできる相手は少なくなっている。インデックスファンドに資金が殺到し、銘柄選別の有効性が低下している。
不安定な世界経済と企業収益の弱さの影響が相まって、ここ最近はアクティブ運用にとって特に状況が厳しくなっている。ただ、少なくともその面では近いうちにある程度の救いがあるかもしれない。
金融市場は個別企業の業績よりも世界経済の見通しの変化に動かされており、株式は各社のファンダメンタルズにはわずかにしか連動しないバスケットへひとくくりにされている。その結果、バンカメ・メリルのストラテジスト、ジル・ホール氏が指摘するように、各銘柄の相関性が強まって、アクティブ運用がアウトパフォームする余地は狭くなっている。
企業利益の不振が長期化していることも足を引っ張っている。アクティブ運用は企業利益が動意となる市場で好成績を収める傾向がある。そうした市場では企業の財務基盤に注目することが実を結ぶ。さらに問題を難しくしているのが低利回りの環境で、債券のような株式、つまり企業価値判断に基づく投資家が引かれる特性には欠けるが高配当の銘柄にとって有利となっている。
トリロジー・グローバル・アドバイザーズのアナリストらは最近、バリュエーション(株価評価)スコアを使って世界の株式を四つに分類した。一つは低価格の低成長株。もう一つは高価格の高成長株。三つ目はそこそこ低価格の高成長株で、GARP(妥当な価格水準にある成長株)と呼ばれることが多い。最後の分類は高価格の低成長株、つまり反GARPだ。今年は世界的にGARPが最も不振で、反GARPが最も良い成績となっている。
だが現在、アクティブ運用にとって環境は改善し始めているようだ。英国の欧州連合(EU)離脱に伴うリスクは抑えられているもようで、世界的な景気懸念は棚上げにされている。企業利益は近く再び伸びるように思われる。事実、S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズの定義に基づく営業利益は4-6月期に伸びを記録した。
ここでアクティブ運用担当者にとっての朗報は、今年この後実際に個別銘柄を選別する機会が得られるかもしれないということだ。だが悪い知らせとして、運用成績がアンダーパフォームした場合の言い訳はさらに少なくなるだろう。
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アクティブ米国株投信、7月は過去最大の資金流出−パッシブ型に流入
John Gittelsohn
2016年8月13日 13:56 JST
米国株を買い入れるアクティブ運用型の米投資信託から7月に329億ドル(約3兆3300億円)が引き揚げられ、1993年からのデータで月次として最大の資金流出となった。モーニングスターが明らかにした。低コストのパッシブ運用型投信に資金が向かっている。
モーニングスターのアリナ・ラミー調査員(シカゴ在勤)は12日のインタビューで、アクティブ運用からの流出額とほぼ同じ338億ドルが米国株に投資するパッシブ型投信に流入したと述べ、「ほとんど完璧なバランスだ」と指摘した。
原題:Record $33 Billion Pulled From Active U.S. Stock Funds in July(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-08-13/OBTZWN6S972801
中国人民銀:マネーサプライの伸び反発へ、「流動性のわな」兆しない
Bloomberg News
2016年8月15日 21:45 JST
中国人民銀行(中央銀行)は7月の新規融資が2年ぶりの低成長にとどまったことについて、統計上のゆがみだとし、8月と9月の統計では反動がみられるとの見通しを示した。
人民銀行は15日、自行のウェブサイトに掲載した質疑応答形式の発表文で、投資家は特定の月に関する短期的なデータを拡大解釈するべきではないと呼び掛けた。銀行システムの流動性は潤沢だとも指摘した。
12日に発表された7月の中国経済全体のファイナンス規模は4879億元(約7兆4260億円)とブルームバーグが調査したエコノミスト予想の1兆元を下回り、2年ぶりの低い伸び。マネーサプライ(通貨供給量)M2の伸びは10.2%で、昨年4月以来の低さだった。
人民銀は慎重かつ柔軟な金融政策を続け、適切な時期に微調整する方針を確認。7月はM2とM1の伸びで差が拡大したが、いわゆる「流動性のわな」に陥りつつある兆しとして捉えられるべきではないと注意を促した。
原題:PBOC Says Money Supply Growth Will Rebound, No ‘Liquidity Trap’(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-08-15/OBY8D86JIJV001
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