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中国製品、脱ニセモノ化も「ブランド確立」の高い壁
http://diamond.jp/articles/-/98504
2016年8月12日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
「中国、こんな商品まで売られているんです」
出張先の上海で会社経営者の林田聡さん(仮名)は、カーナビゲーションが日本円にして3000円ほどで販売されているのを通販サイト「タオバオ」で発見した。日本地図こそインストールされてはいないが、日本の量販店で購入しようとすれば、パナソニックの「ゴリラ」の売れ筋で5〜6万円はする。
「これはニセモノだろうか?」と首をひねる林田さんだが、それは日本ブランドのコピー品ではなかった。商品名はある。だが、中国の自動車業界を熟知する林田さんですら知らない“無名ブランド”だった。「名もない中国企業でも日本ブランドと同等のものが作れるようになったということですね」と林田さんはつぶやく。
しかし、林田さん警戒を解かない。「この商品、コピー品ではないけれど極めてグレーですよ」。
林田さんが不安になったのはほかでもない。この商品にブランドがないためだ。例えば、パナソニックのゴリラなら、多少値段は高いがそれに見合ったサポートを得ることができる。故障しても期間内であれば保証を受けられるし、地図を更新するにも期間内であれば無料で更新できる。
仮にこの3000円のカーナビを購入して日本で使うならば、「使い捨て」を覚悟しなければならない。トラブルが発生しても、この中国メーカーによるサポートは期待できない。そもそもアフターサービスという概念が定着していない中国では、商品を売り逃げするメーカーはまだまだ多いのだ。
近年は、日本のカー用品アフター市場に中国メーカーが生産した部品や付属品が入り込むようになってきている。“中国製・無名ブランド”は通販サイトなどで散見されるが、さすがに大手流通小売業界では「権利侵害はしていないが、どこか怪しげなパーツ」には距離を置く。都内のカー用品の販売に携わる専門店従業員は次のように明かす。
「以前、うちでも中国の“無名ブランド”のカーアクセサリーを扱ったことがありますが、取引開始後3年も経たずして会社ごと消えていたことがありました。大手量販店などは信用問題にかかわることから、日本に拠点すらない無名の中国メーカーとの取引を敬遠しています」
■ニセモノづくりから足を洗いたいが
消費者に振り向いてもらえない
知的財産権の侵害に悩む日本企業に向けて、戦略的なサポートを提供する企業にGMOブライツコンサルティング株式会社(本社:東京都)がある。同社に在籍していた上海出身の平安(ピンアン)さんは、当時顧客からの依頼で、タオバオなど通販サイトで出回る「疑わしい対象」を抽出し、情報提供する業務に就いていた。驚くのは、この3年間での中国の知財意識の変化だ。平さんはこう話す。
「3年前は証拠を集め、コピー品の製造現場を探し出し、弁護士事務所に依頼するなど、模倣品対策は大変手間のかかるものでしたが、最近は中国の通販サイトが知財保護を強化するようになり、証拠となる情報を専用サイトにアップロードしさえすれば出品削除に応じてくれるようになりました」
確かに、アリババグループを中心とする通販サイトは模倣品対策に力を入れており、専用サイトのガイドラインに基づいて手続きを行えば、不正な出品の削除がより簡単にできるようになった。
その一方で、情報提供を受けた顧客が、現地弁護士を通じて通販サイト上の権利侵害者に対し警告文を送ると、「相手から反論が返ってくることがある」(同)という。中国ではコピー品の販売が知財侵害だと認識できない企業や個人がまだまだ多いようだ。
こうした業務を繰り返す中で、平さんはこんな案件に遭遇した。
「ある通販サイトで、中国企業のA社が『商品は日本B社の某ブランドと同じパーツを使っています』というフレーズを使用しているのを見つけました。これは『日本の某ブランドの新製品ではないか』と誤認させる言い回しでもあり、不正競争防止法に抵触するという判断からB社に報告、その後削除申請を行うことに決めたのです」
一見するといつもの削除申請につながる情報提供業務だが、このコメントからは中国企業の新たな変化が見て取れるのだ。
“日本B社の某ブランド”を日本の楽器メーカーだと仮定しよう。中国には楽器メーカーの生産工場があり、多くの中国メーカーが部品を納入している。そのうち一部の中国メーカーが、部品の生産と納入に飽き足らず、自前で部品を集め組み立てて同じ楽器を作ろうと発想する。そこに日本の楽器メーカーに似た商標をつければそれがコピー品となる。中国企業は知ってか知らぬか、過去に何度となくこうした行為を繰り返してきた。
だが、このA社は商標権侵害まではせずに踏みとどまった。平さんによれば「安易であからさまなコピー行為に及ぶ中国企業は減少傾向にある」という。恐らく通販サイトの模倣品対策の強化も奏功しているのだろう。
むしろ問題はそこから先だ。もしA社の商品に“中国名の自社ブランド名”をつけたら、中国の消費者はこれを購入するだろうか。
中国の消費者には「聞いたこともない中国ブランドは疑ってかかれ」という暗黙の了解がある。簡単には人を信用しない中国人に、確立されたブランドなくして商品の良さを説得するのはほぼ不可能だ。
つまり、A社は最初から「負け」を知っていたことになる。だからこそ編み出したのが「日本のB社の某ブランドと同じパーツを使っている」という苦肉のキャッチフレーズなのだ。
「ニセモノづくりから足を洗いたい、だが、自社ブランドでは客が振り向かない」という中国企業のジレンマ。“脱ニセモノ”を試みる中国企業には大きな壁が立ちはだかっている。
■製造技術だけでは通用しない
国際ブランドとして問われるのは信用力
確かに中国の製造業は日進月歩であり、一部の技術はすでに日本に追いついていると言えるものもあるが、信頼できる国産ブランドは多いとはいえない。ましてや、世界が認めるブランドもほとんどない。“精巧なものづくり”ができるようになった中国の最大のチャレンジはここにある。
大東文化大学の某名誉教授は、中国の製造業と知財意識を端的に物語る事例として「紫砂壺(ズーシャーフー)」を挙げる。「紫砂壺」は江蘇省宜興市で生産される素焼きの急須のことだ。
紫砂壺について同教授は「中国の長い歴史の中で知的財産権という概念やブランドという概念が出てきたのはごく最近のこと。優れた伝統工芸品であるにもかかわらず、『紫砂壺』ですらこれを守ろうという動きがなかった」と指摘する。
「紫砂壺」は原料と技術、そして焼き方で決まるといわれる工芸品だが、小規模な生産元が乱立しており、たまに名人は輩出されても、高品質を維持しブランドとして名を馳せるまでには至っていない。そのため、市況が悪化すれば投げ売りに出るなど、市場は不安定な状況に置かれてきた。
それでも最近はようやく自社で開発・設計を行い、商標登録に乗り出すなど、ブランディングの第一歩を踏み出す企業も出てきている。「紫砂壺」はほんの一例だが、これまで価格だけで戦ってきた中国の製造業の競争が、質的に変化しようとしていることがわかる。
一方、こうした変化に対し、楽観は禁物とする声もある。ものつくり大学の田中正知教授はこう指摘している。
「昔の日本がそうだったように、中国は今、ライセンス生産から自社ブランドを立ち上げる時期に入っています。その先は海外進出も視野に入れているでしょうが、果たして国際市場に受け入れられるかどうか。国際ブランドとして問われるのは信用力だからです」
国産ブランドのアイスクリームバーはたった5元で売られているが、ハーゲンダッツは40元もする。高齢者が使う国産携帯は300元程度で買えるが、アップルのスマホは6000元だ。名もない中国メーカーのカーナビが3000円なら、パナソニック製ナビは6万円の値段がつく。
たとえ自社ブランドを確立しても、国際ブランドとのその差は埋めがたい。その差は「信用力の欠如」、この一言に尽きるといえるだろう。
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