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英国の中央銀行であるイングランド銀行・カーニー総裁(写真:Press Association/アフロ)
円高の悪夢、再び到来の兆候…企業努力を吹き飛ばす威力、日本経済に大きな逆風
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16245.html
2016.08.10 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
8月4日、英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は、2009年3月以来、約7年5カ月ぶりの利下げを含む金融緩和を実施した。今回の金融緩和は市場の予想を上回るものであり、強いハト派姿勢を打ち出した。市場では英国の金利が大幅に低下し、株価も1%超上昇するなど、ポジティブな反応が見られた。
BOEのカーニー総裁は会見の場で「すべての政策には拡大の余地がある」と積極的な金融緩和姿勢を強調した。この表明は、英国のEU離脱交渉がどう進むか不確定要因が多いなか、投資家の先行きへの懸念を緩和することを目指したものといえる。
今回のBOEの金融緩和は、世界の主要中央銀行の金融政策がより緩和的な方向に向かうことを示唆する。欧州中央銀行(ECB)も先行きへの懸念を払しょくするために追加緩和に踏み切る可能性がある。対照的に利上げの可能性が残るのは米国だけだ。今後、世界的な金融緩和の流れが強まることは、日本の金融政策にも影響するだろう。各国が金融を緩和する背景には、短期から長期までの金利に低下圧力をかけることで、間接的に自国通貨の減価を誘発したいからだ。
短期的に為替レートは内外の金利差に反応しやすい。一方、市場では日本の金融政策の限界が指摘されている。冷静に考えると、日銀の追加緩和は容易ではない。先行きも不透明ななか、主要通貨に対して円が強含む可能性があることには注意が必要だ。
■予想を上回る金融緩和を決定したBOE
4日のイングランド銀行の政策決定会合を控えるなか、市場参加者は0.25ポイントの利下げを想定していた。一方、先行きの緩和余地を残すために、国債の買い入れ額は据え置かれるのではないかとの見方が多かった。英国の国民投票後の市場のパニックが短期間で収束したこともあり、緩和が見送られると考えた市場参加者もいたようだ。
これに対して、イングランド銀行は利下げ(0.5%から0.25%)、国債買い入れ額の増額(3,750億ポンドから4,350億ポンド)、社債買い入れの開始(100億ポンド)などからなる金融緩和を発表した。特に、国債買い入れの増額は市場にサプライズを与え、英金利は急低下し、ポンドは対ドルで1.5%程度急落した。
BOEが市場の期待を上回る緩和を打ち出した理由は、6月23日の国民投票で予想外にEU離脱が決定したため、先行きの景気見通し悪化の影響を緩和するためだ。現時点で、英国はEUに対して正式に離脱を申請してはいない。英国がドイツなどのEU加盟国や欧州委員会と、どのように交渉を進めるかは不透明だ。そのため、状況の進展を見守りつつ金融緩和を進めてもいいのではないかとの考えもあるだろう。
ひとたび通貨が乱高下したり株価が急落するなどして市場が混乱し始めると、それを抑えることは容易ではない。そのなかで金融緩和を進めても、緩和の規模や内容が市場の期待を下回れば、市場参加者は「中央銀行に裏切られた」と考えるはずだ。その結果、金利が急上昇するなど実体経済にも無視できない影響が及びやすい。
そこで、BOEは積極的な緩和姿勢を出すことで市場の信頼、安心感を得ようとした。決定後の会見でカーニー総裁は「すべての政策には拡大の余地がある」とハト派姿勢を鮮明に打ち出し、当面の懸念払しょくに力を入れる姿勢を示した。これは先行きのリスクを抑制する予防的措置といえる。今後、株式市場が下落するなど先行き不透明感が高まる場合には、BOEの追加緩和期待が高まりやすいだろう。
■世界的に強まる金融緩和の流れ
主要国のなかで年内の利上げの可能性があるのは、米国だけといえる。ほかの地域を見ると、日本、ユーロ圏等の中央銀行は金融を緩和してきた。ここに英国の金融緩和が加わり、主要国の金融緩和の流れは追加的に高まった。これは為替レートの切り下げ競争が進む可能性を高めている。
米国の経済動向は各国の為替レートに大きな影響を与える。円の動向は日本の事情で決まるわけではない。それは米国を基軸とする世界経済の動向に左右される。そこで注目したいのが、米国の金融政策の動向だ。
これまで、中国経済の減速等が市場を混乱させてきた。それでも世界経済が危機的な状況に陥らなかったのは、米国経済が緩やかな回復を続けてきたからだ。それが利上げ期待を高め、昨年半ばまでのドル高につながった。歴史的に、米国政府は経済が好調でドル高の影響を吸収できると考えられる場合、多少のドル高は許容し寛大にふるまうことが多かった。
しかし、いつまでも米国の緩やかな景気回復が続くわけではない。景気循環の周期に照らすと、米国経済は2009年6月にボトムを付け、景気拡張は7年超に及んでいる。過去の平均的な拡張期間は5年程度だ。徐々に景気はピークに近づいている可能性がある。
昨年ごろから米国の企業経営者は、ドル高による収益減少を懸念してきた。米国政府の関係者も、ドル安を志向している。世界の金融緩和の流れが徐々に強まるなか、今後、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに積極的になれば、多くの投資家はドル買いに殺到するだろう。それが米国経済を追加的に圧迫するリスクは無視できない。
一方、英国が今後も追加緩和を進めることを示唆した以上、ドル買いの圧力は徐々に高まりやすい。そうなると、FRBはこれまで以上に慎重に利上げの可能性を吟味せざるを得ないかもしれない。米国の利上げの可能性が残るとはいえ、タカ派色は強まりづらいはずだ。そうなると、ドルが主要通貨に対して一方的に強含む展開は想定しづらい。
■わが国への影響
では、日本にはどのような影響が考えられるだろう。もっとも重要な影響の波及経路は、円の為替レートの変動だ。
今回の会合でBOEのカーニー総裁は積極的な緩和姿勢を強調した。これに対して、日本の金融政策は限界に直面し、市場ではその修正が必要との見方が増えている。ECBも追加緩和の可能性があるが、策は限られつつあるようだ。
つまり、各中央銀行が金融緩和というレースを進めるなか、現状では英国の積極的なハト派姿勢が一歩抜け出し、投資家の注目を集めている。その分、目先の金利低下への思惑が高まり、ポンドの下落圧力は高まりやすいだろう。
すでに、日本の金融緩和に対してはマイナス金利が金融機関の経営を圧迫し経済を壊すとの懸念さえ出始めている。現実的に考えると、さらなる緩和は期待しづらい状況にある。米国が積極的に利上げを進めづらいことも考えれば、円の上昇圧力は高まりやすい。
いうまでもなく、円高はわが国の経済にマイナスだ。4日にトヨタ自動車が発表した2017年3月期の業績見通しでは、営業利益が前期比44%減の1兆6,000億円になると示された。前期のドル/円の実績レート(120円)を102円に修正した結果、当初の見通しに比べ営業利益は1,000億円減少する。つまり、為替レートの変動は、原価改善や営業の努力を消し去るほどのマグニチュードを持つ。
中国の景気リスク、米国の景気回復の動向、英国のEU離脱交渉など、世界経済の先行きに関するリスク要因は増えつつある。世界経済の成長率が上向くとの期待が高まらない以上、投資家はリスク回避を念頭に行動するだろう。それは、ドルなどに対する円の上昇圧力を高めやすい。
そして、世界的に需要が低迷するなか、多くの国が金融を緩和して為替レートの減価圧力を高め、当面の景気を支えようとしている。英国もこのレースに参加し、各通貨の切り下げ圧力は高まりやすい。円高リスクが高まっていることは冷静に考えたほうが良いだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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