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日本銀行(撮影=編集部)
日銀の異次元金融緩和、行き詰まり鮮明…出口なき緩和拡大で未知の領域突入か
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16162.html
2016.08.04 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
日本銀行の金融緩和に関して、次第に選択肢が狭まっている。
7月28、29日に開催された日銀金融政策決定会合の結果、追加緩和として上場投信(ETF)の買い入れ増額とドル資金供給の拡充が発表された。この内容は市場の期待を下回り、その後の円高、金利上昇につながった。また、国債買い入れの増額が見送られたことに対して、日銀の限界を示したとの見方も多かった。決定会合後の声明文で、日銀は9月の会合で経済状況や政策の効果を包括的に検証すると表明した。多くの市場参加者は、この検証がマイナス金利の凍結など金融政策の修正につながるとみているようだ。
つまり、市場は金融政策が限界を迎え、その修正が進むと考え始めている。日銀の積極的な金融緩和にもかかわらず、日本経済のデフレからの脱却は進んでいない。これは、日銀の積極的な金融緩和で景気回復を目指した、“金融政策一本足打法”のアベノミクスの限界を露呈しているともいえる。それは日銀も認識しているだろう。金融業界からのマイナス金利に対する批判も強い。
しかし、金融政策の修正は口で言うほど簡単ではない。日銀を批判しつつも、多くの投資家は日銀の金融緩和を頼りに、収益チャンスを狙ってきた。その状況に変化が生じるなら、金利が急上昇するなど、市場は混乱に陥る恐れがある。
一方、依然として、黒田東彦日銀総裁は「追加緩和に限界なし」と強弁を貫いている。この事実を踏まえると、市場参加者が期待する金融政策の修正が本当に実現するかどうか、慎重に考えたほうがよい。
■期待を裏切る追加緩和が決定された理由
7月の日銀決定会合を控えるなか、多くの投資家やエコノミストは、日銀が国債買い入れの増額、マイナス金利の深掘り、そしてETFや不動産投資信託(REIT)の買い入れ増額を決定すると期待していた。マイナス金利に対する批判を和らげるために、日銀が銀行にお金を貸し出す際の金利にマイナス金利を適用し、銀行の資金繰りを支援する措置なども決定されるのではないかとの見方もあったようだ。
こうした“3次元緩和”への期待に対して、ETFの買い入れ倍増を中心とする日銀の追加緩和は、事実上“1次元”の追加緩和だったといえる。そのため、発表後の国債市場では金利が急上昇(国債価格は下落)して円高が進むなど、“失望トレード”が進んだ。
問題は、なぜ日銀が市場の期待を下回る追加緩和を決定したかだ。その理由は、政府が経済対策をまとめるタイミングに合わせて追加緩和を決定し、景気サポートの相乗効果を狙ったことが考えられる。これは決定会合後の声明文でも明記されている。
また、市場環境が安定しているなかで、本当に追加緩和が必要かという議論もあったはずだ。7月に入ってから世界の金融市場は英国の国民投票後の混乱から立ち直ってきた。中旬には米国の株式市場が史上最高値を更新するなど、概ね投資家心理は強気に転じてきた。6月末に利下げなどを示唆したイングランド銀行(英国中銀)も、7月の金融緩和を見送ったほどだ。
そのなかで追加緩和を打ち出せば、後々の政策発動余地が少なくなってしまう。そこで、日銀は国債買い入れなどを温存したのではないか。これは日銀がサプライズの演出を重視していることの裏返しと考えることができる。
政府の経済対策が進むタイミング、事前の市場期待の高まりを考慮すると、これまで以上に現状維持に対する批判、失望が高まり、円の急騰など市場が混乱する恐れもあった。そのため、日銀はETFの買い入れ倍増で株式市場を下支えする姿勢を示し、体裁を取り繕おうとしたのだろう。
■限界が意識され始めた日銀の金融政策
事実上1次元のみの追加緩和が決定されたことを受けて、多くの投資家やエコノミストが、日銀は自ら政策の限界を市場に示した、と考え始めている。
これまで、市場参加者は、金融機関が売却できる国債にも限度があるため、日銀が想定通りに国債を買い入れることは難しくなると警戒してきた。これが、札割れリスクだ。また、マイナス金利に対しては銀行、生命保険業界からの批判が強い。
そのため、国債の買い入れ増額とマイナス金利の深掘りが見送られたことを受けて、多くの投資家らが「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が限界に達したと考えるのは自然な反応かもしれない。
決定会合直後に公表された声明文で、日銀は9月の会合時に経済や物価の情勢、これまでの金融政策の効果を総括的に検証すると記した。これを受けてエコノミストらは日銀がこれまでの金融政策を見直し、新しい枠組みの金融政策を進めるのではないかと考えているようだ。具体的には、マイナス金利の凍結や、年間約80兆円に相当するペースで進められてきた国債買い入れの修正等が想定されているようだ。
では、金融政策の修正は可能か。理論的には可能だが、実際は口で言うほど簡単ではない。なぜなら、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の内容が弱められることになれば、金利には上昇圧力がかかりやすいからだ。
多くの投資家が、日銀の国債買い入れを活用して収益を得ている。これが日銀トレードだ。そして、マイナス金利への批判がある一方で、さらなる深掘りがあるとの見方が一部投資家の国債購入を支えている。そのため、市場が現行の金融政策の効力が弱められると考えるような修正は、金利急上昇などの混乱につながる恐れがある。
決定会合後の黒田総裁の発言を確認すると、従来通り「追加緩和に限界はない」と強気な姿勢を崩していない。そのため、日銀が政策の限界を認めるとは考えづらいのも事実だろう。むしろ、さらに強力な金融の緩和が進められる可能性もあるだろう。この点で、日銀がどう金融政策を進めるか、先行きの不透明感は高まっている。
■今後の展望
今後の金融政策を考える際、政府が進める経済対策と日銀の金融政策の関係がどうなるかがポイントだろう。参議院選挙後、安倍首相は政策総動員を強調し、アベノミクスをより強力に進めることを表明している。
ここでアベノミクスの実態を確認しておこう。
それは、円安による企業業績のかさ上げ、株価上昇と賃上げ気運の演出だ。2011年11月〜15年半ばまで、為替相場ではドル高が進んだ。これは米国の緩やかな景気回復に支えられていた。その上で13年4月から日銀は量的・質的金融緩和を進め、海外要因で進んできた円安の流れを人為的に強めようとした。このためにアベノミクスは金融政策一本足打法だと揶揄するエコノミストもいる。
より強力なアベノミクスには、さらに強力な金融緩和が欠かせないのではないか。財政政策の発動余地が限られ、金融政策にも手詰まり感が出つつある。もう一度、金融市場の高揚感を醸し出すためには、さらに強力に市場に資金を供給することが重視されてもおかしくはない。そのために、日銀と政府は一種の協定などを結んで連携を強めるかもしれない。
経済対策の財源確保のために、政府は国債を増発するだろう。これは日銀の追加緩和を支えることにもつながる。増発された国債を流通市場で日銀が買い入れることが進めば、政府は低金利を活用して財政の悪化を抑えつつ経済対策を策定できる。そして、国債の増発によって、日銀は追加緩和の余地を確保する。それは、金融政策によって景気回復を進めようとしてきたアベノミクスに技術的な限界がないことを示すために重要だ。
これはひとつのシナリオにすぎず、金融政策の動向は日銀関係者などの発言を確認しながら考える必要がある。市場参加者の期待するように、金融政策の修正が進むかもしれない。
物価が下落するなかでも、日銀は17年度中の物価目標達成を据え置いた。目標達成のためには、より強力な政策が必要ではないか。金融政策が限界に直面するなか、さらなる対策は日本を出口なき金融緩和に踏み込ませるかもしれない。徐々に、わが国の経済政策が未知の領域に踏み込みつつあることは慎重に考えるべきだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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