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高橋是清はヘリコプターマネー政策によってデフレ脱却に成功したが、終着点は敗戦直後のハイパーインフレだった。アベノミクスの結末は…… (c)朝日新聞社
究極のばらまき「ヘリコプターマネー」期待相場の末路〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160802-00000179-sasahi-bus_all
AERA 2016年8月8日号
空からお金をばらまけば景気は良くなる。そんな「ヘリコプターマネー」の導入観測をネタに、市場は盛り上がる。アベノミクスは末期症状だ。
「今度の経済対策は、景気の回復軌道を一層確かなものとするものでなければなりません。事業規模で28兆円を上回る総合的かつ大胆な経済対策を取りまとめたいと考えています」
安倍晋三首相は7月27日、福岡市での講演で、秋の臨時国会に出す政府の今年度補正予算案や、来年度予算案で、公共事業などの支出を増やして景気をてこ入れすると表明した。補正予算案は数兆円規模とみられる。
その2日後。日本銀行もほぼ半年ぶりとなる追加の金融緩和を決めた。株式投資への呼び水とするため買い入れてきたETF(上場投資信託)の購入額を年6兆円に倍増させるのが柱。内容は「小粒」(市場関係者)だったが、日銀は発表文で政府の経済対策に触れ、「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている」と明記。政府・日銀の連携ぶりを強調した。
●政権に時間稼ぎの機会
日銀が民間金融機関から国債(国の借金証文)を大量に買うなどして市場にお金を流す「異次元の金融緩和」(第1の矢)、財政出動による政府予算の大盤振る舞い(第2の矢)、企業がビジネスをしやすい環境を整える規制緩和などの成長戦略(第3の矢)。「3本の矢」を掲げてデフレ脱却を目指すアベノミクスが始まって3年余り。いまだに日本経済は停滞から抜け出せていない。
金融緩和と財政出動はあくまでも一時的な景気の落ち込みに対処する「カンフル剤」であり、深刻な少子高齢化などによって日本経済の「基礎体力」が弱っている今の局面では効き目がきわめて限られる。
基礎体力を地道に鍛えるための成長戦略は、既得権を失いかねない層の反対が強く、なかなか進まない。安倍首相が参院選でも繰り返した「アベノミクスは道半ば」という強弁もさすがに通用しづらくなってきた。政権への支持をつなぎとめるためには、効能が怪しい金融緩和と財政出動の積み増しによって「デフレ脱却への努力」をアピールするしかないのが実情だ。
安倍政権の生命線と言える株価は、英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が多数を占め、世界経済への懸念が広がった6月下旬に急落。一時は1ドル=99円台まで円高が進み、日経平均株価は1万5千円を割った。しかし、7月中旬から為替も株価も反転傾向に。ひとまず一時の混乱は脱したかに見える。
「金融政策にしても財政政策にしても、残された手は少ない。それだけでは市場の期待をつなぎとめることはできません。政府と日銀が『ヘリコプターマネー』という思い切った政策を導入するのではないかと市場関係者が連想し、結果として政権にとっては時間稼ぎになっているのが現状でしょう」
ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフ・エコノミストはそう解説する。
●バーナンキ氏が提案?
ヘリマネ論議がにわかに盛り上がったのは、12日に米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長が首相官邸を訪れ、安倍首相と面会したことがきっかけだ。会談の詳細は明らかになっていないが、バーナンキ氏は「ヘリコプター・ベン」の異名をとったヘリマネ論者だけに臆測を呼んだ。
その2日後には米通信社ブルームバーグが、安倍首相の経済ブレーンである本田悦朗・前内閣官房参与が次のように語ったという記事を配信した。本田氏と4月に面会したバーナンキ氏は日本経済が再びデフレに戻るリスクを指摘し、選択肢としてヘリマネに言及。それを聞いた本田氏は安倍首相に「会ってほしい」と要請した──。
菅義偉官房長官や黒田東彦日銀総裁はヘリマネの検討や実施を否定したが、国内外の市場関係者の間で「何か出てくるのでは」という期待感はくすぶり続け、株価を押し上げた。
大手証券会社の幹部が7月中旬にアジアへ出張した際、訪問国の投資家たちは日本のヘリマネ政策の話題で持ちきりだった。この幹部に、複数の投資家がこう問いかけたという。
「ふつうに考えたら、ないとは思うよ。でも、参院選で大勝した安倍政権なら何でもできてしまうのでは?」
ヘリマネ政策とは何か。一般的な考え方を単純化すれば、「中央銀行がどんどんお札を刷り、それを元手に政府が国民にお金を配る」というものだ。ヘリマネという言葉は、後にノーベル経済学賞を受けたフリードマンが1969年の論文で初めて使ったと言われる。今の日本で実施するなら、日銀が買った国債を、返済期限がなく利子もつかない「無利子永久債」という「永遠に返す必要のない借金」に変換したうえで、政府が財政出動する手法などが取りざたされている。
●「高橋財政」で脱デフレ
日銀が異次元緩和に伴って民間金融機関から買い入れている国債は、経済が本格的な回復軌道に乗った段階で保有量を徐々に減らすので、市場に出回るお金も減っていく。日銀はそう説明している。その通りなら、政府はいずれ借金を減らさざるを得なくなる可能性が高い。
「政府は大盤振る舞いしているけれど、財政はさらに苦しくなるのだから、いずれ増税するに違いない。もらったお金は将来への備えにとっておこう」
安倍政権が繰り返し経済対策を打ち出して予算をばらまいても一向に消費が盛り上がらないのは、そう考える人が多いのが一因だ。経済学では「リカーディアン効果」と言われる。永遠に返す必要のない借金で用立てたお金をばらまくヘリマネなら、将来の増税は不要なので、理屈の上では「今の異次元緩和+財政出動」よりも景気を押し上げる効果は大きい。ただ、そんなにうまい話があるのだろうか。
実は日本でもヘリマネ政策が実行されたことがある。1930年代の「高橋財政」だ。
29年の米株式市場の暴落をきっかけとする世界恐慌のさなか、日本経済も深刻な景気悪化とデフレに陥った。首相や日銀総裁を歴任した重鎮、高橋是清が蔵相として再登板。日銀が直接国債を買い入れ(引き受け)、それを元手に政府が農村での公共事業などでお金をばらまいた。目論見どおり日本経済はデフレを脱却し、回復に向かった。
こんにち、まともな国ではヘリマネは「禁じ手」とされている。歯止めがきかないと世の中に出回るお金が増え続け、激しいインフレを引き起こすからだ。高橋も日銀による国債の直接引き受けを「一時の便法」と明言し、日本経済が回復軌道に乗ればストップする考えだった。
●禁断の打ち出の小づち
現実は違った。軍事費増額を求める軍部の圧力がどんどん強まり、直接引き受けは続いた。歯止めをかけようとして軍部と衝突した高橋は、36年の二・二六事件で青年将校に暗殺された。政府の財政赤字は膨らみ続け、敗戦直後のハイパーインフレにつながったのは周知のとおりだ。
「軍国主義の台頭や戦争という特殊事情が財政規律の喪失を加速したのは事実です。しかしそもそもの発端は、日銀の国債直接引き受けという打ち出の小づちを政府に渡したことでした。人間は弱い。選挙で政権の座を争う民主主義国の政治指導者が、この誘惑に勝つのはきわめて難しい」(ゴールドマンの馬場氏)
だからこそ日本を含む多くの国は法律などで、中央銀行の国債直接引き受けを原則として禁じている。安倍政権が本当にヘリマネ導入を宣言しようものなら、極端な「日本売り」を招いて日本経済は大混乱しかねない。ヘリマネを巡る一連の流れは、「もしや」というムードだけを盛り上げ、マネーゲームのネタを提供して株価を維持する「官邸の情報操作」(日銀OB)だという見方は少なくない。
ただ、今の日銀は直接引き受けこそしていないが、来年には発行済みの国債の半分近くを一手に引き受けることになる。高橋財政のころより、「打ち出の小づち」としての役割はむしろ大きくなっている。
法政大学の小黒一正教授はこう警告する。
「現状はすでにヘリマネに近い。このまま日銀が国債を買い続け、政府が財政出動を繰り返し、異次元緩和の手じまいが不可能となれば、いずれ本当のヘリマネと同じ結果を招きます」
(編集部・庄司将晃)
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