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年収600万の夫を持つ女性は「貧困」か
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160728-00002660-besttimes-soci
BEST TIMES 7月28日(木)6時0分配信
「下流老人」に代表される高齢者をはじめとして、子ども、ひとり親家庭など社会のあらゆる世代の「貧困」が問題となっていると感じている人は多いのではないでしょうか。しかし、その中にはまだ当然すぎるからこそ埋もれてしまっている部分があるようです。 貧困を通して見える日本の社会構造にはどのような欠落があるのか、立命館大学産業社会学部丸山里美准教授にご寄稿いただきました。
◆「女性の貧困」報道から抜け落ちているもの
2000年代に入ってから、貧困に社会的関心が集まっている。現在、日本の貧困率は16.1%といわれており*1 、メディアでも頻繁にその数値がとりあげられるようになった。当初は、ネットカフェ難民や派遣村などで見えやすい男性の姿が報道の中心だったが、最近では女性の貧困にも注目が集まり、シングルマザーとその子どもの困窮する生活実態や、貧困ゆえに風俗ではたらかざるをえない女性たちの様子も頻繁に報道されるようになっている。
私のような女性の貧困を追いかけてきた研究者にとっては、これは歓迎すべき事態である。貧困に社会的関心が集まれば、その対策も講じられていくからである。しかし女性の貧困に関するこれらの報道から、決定的に抜け落ちているといつも感じている点がある。それはいったいなんなのか。
◆女性は「貧困にもなれない」?
Aさんは50歳。現在、賃貸マンションで夫と中学生の娘と暮らしている。夫は自営業で年収600万円、娘は目に障害があり、本人は専業主婦である。以前からときどき夫に暴力をふるわれていたが、最近になって暴力は徐々にエスカレートしており、娘に手がかからなくなってきたために離婚を考えはじめている。しかし彼女自身にはキャリアも特別なスキルもなく、仕事が見つかるか不安である。彼女名義の貯金もなく、この先、離婚をして暮らしていけるのかと考えると、なかなか家を出る決心がつかない。
Bさんは31歳。現在妊娠中。資産家で会社役員の夫は暴言がひどく、最近うつと診断された。夫は生活費・医療費なども渡してくれず、結婚前に貯めた自分の貯金を切り崩して生活している。彼女が仕事をしようとすると嫌がり、友人づきあいも制限されている。数ヶ月前に家を出て、兄宅に年金暮らしの母とともに身を寄せている。夫とはときどき会う程度。精神科の医療費を軽減しようと自立支援医療制度に申請したが、夫に所得制限を超える収入があるため、申請は受けつけられなかった。
AさんもBさんも、貧困者支援をしている相談機関に相談に来たケースである*2。Aさんは夫からのDVにあっており、離婚をしたいと考えている。しかし専業主婦である彼女には自分の収入がなく、その後の生活を考えると、別れられない。Bさんも、夫からの身体的なDVはないが、暴言がひどく、夫から生活費ももらっていないため、精神的・経済的DVにあっているといえるだろう。彼女はすでに夫と同居しておらず、実質的には結婚生活は破綻しているが、離婚はしていないため、制度上は夫の収入があるとみなされ、医療費の軽減制度の利用が認められなかった。
AさんもBさんも現時点では夫に収入があるため、一般的な「貧困」であるとはいえないだろう。それでも彼女たちは生活に困っているが、そのような女性の困窮状態は、世帯を単位に貧困をとらえている限り、見えてこない。つまりこうした女性たちは、「貧困にもなれない」状態なのである。
◆世帯単位で貧困を把握することの問題
現在のところ、貧困を把握する際の単位として、世帯が用いられるのが一般的である。たとえば貧困を示す指標としてしばしば用いられる「貧困率」は、「世帯の可処分所得を世帯人員数の平方根で割った中央値の50%(貧困線)に達しない世帯員の割合」とするのが一般的である。このとき世帯は一体のものであり、所得は世帯内で平等に分配されていることが前提になっている。
しかし現実にはそのようにはなっていない可能性があり、世帯のなかのある人だけが貧困状態にあるということもある。特に、自身の収入がなかったり少なかったりする女性や子どもは、夫や父に経済的に依存せざるをえず、そのような状態になりがちである。また、世帯を一体のものとする現在の貧困の把握の仕方では、今は貧困ではなかったとしても、別居や離婚をすれば世帯のなかの誰かが貧困に陥るリスクがあることをとらえられないのである。
◆女性が家から出られない社会に未来はあるか
日本は現在も、性別役割分業が前提とされた社会になっている。そのため女性の賃金は、正社員同士で比べても男性の約7割しかなく*3、家事・育児などのために仕事をやめたり非正規労働を選ぶ女性も少なくない。そんな女性たちが、離婚をしたり、独身のまま生きていくことは、いまだに容易ではないだろう。
貧困世帯のなかで、女性が世帯主の世帯の割合が増えていくことを「貧困の女性化」というが、「日本の女性は貧困の女性化を達成するほど自立していない、経済的自立には手が届かないのだ」と、かつて皮肉な形で述べた研究者がいた*4。実際、日本は他の先進国と比べて女性が世帯主の世帯が少ないが、日本は女性が自立して生きていくという選択をしにくい社会なのである。このことが、女性の貧困を家のなかに押しとどめ、見えにくくさせている。
それは、女性のホームレスが少ない理由でもあるだろう。路上生活をしている人のうち、女性の割合はわずか3.1%である*5が、このことも、女性が家から出られない社会であることを反映している。
これまでの研究では、妻自身の収入が増えれば増えるほど、妻が自分自身のための消費する金額や夫に対する発言力は増加していくことが明らかになっている*6。こうして今後、女性の経済的自立度が高まっていけば、女性は未婚のまま、あるいは離婚して生きていくという選択をしやすくなる。そうなれば、女性たちの自由と引き換えに、女性の貧困はますます顕在化していくことになるだろう。
◆これから女性の貧困をどのようにとらえるか
以上のことから、女性は家を出て稼ぎ主になってはじめて、その貧困が顕在化すると考えられる。その最たるものが、メディアで頻繁にとりあげられるシングルマザーや単身の女性なのである。しかし同時に、世帯のなかに隠れて見えにくい女性たちの困窮状態も、同じ性別役割分業のひずみのもとに存在する。しかしそれは見えにくいため、女性の貧困としてとりあげられることは、ほとんどないのである。
世帯のなかに隠れて見えにくい女性の貧困を、どのように見ていくか。ここには、貧困をどのように把握するか、という問題が横たわっている。女性の貧困をとらえようとすれば、貧困を世帯単位ではなく、個人単位で見る必要が出てくる。また、女性の貧困が暴力やメンタルヘルスの問題とも密接につながっていることを考えあわせれば、貧困の概念自体を経済的なものから広げてみることも必要になっているのかもしれない。
*脚注
*1 厚生労働省, 2013, 『国民生活基礎調査』
*2 一部、プライバシー保護のために改変しているところがある。
*3 厚生労働省, 2015,『賃金構造基本統計調査』
*4 Axinn, June, 1990, “Japan: A Special Case,” Gertrude Schaffner Gordberg and Eleanor Kremen eds., The Feminization of Poverty: Only in America? , New York: Praeger Publishers
*5 厚生労働省, 2015, 『ホームレスの実態に関する全国調査』
*6 御船美智子, 1995,「家計内経済関係と夫婦間格差――貨幣と働く時間をめぐって」『家計経済研究』25, 57-67 ; 坂本和博, 2008,「世帯内における消費・余暇配分の構造」チャールズ・ユウジ・ホリオカ/家計経済研究所編『世帯内分配と世代間移転の経済分析』ミネルヴァ書房など。
文/丸山 里美
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