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英国のブレグジット(EU離脱)が英国税制と日本企業にもたらす計りしれない影響とは?
ブレグジットが英国税制と日本企業にもたらす深刻な影響
http://diamond.jp/articles/-/96472
2016年7月25日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員] ダイヤモンド・オンライン
■大きな税制の変化を
もたらすブレグジット
英国の国民投票の結果としてのブレグジット(BREXIT、EU離脱)は、世界の為替・株式市場に大きな混乱を与えたが、新たな首相も決まり、市場にも落ち着きが戻ってきた。これからは英国の交渉技術・能力が世界の注目を浴びることになる。
筆者は、1988年から91年までロンドン・シティに事務所を構えて、欧州金融統合の行方を探る仕事をしていただけに、今回のブレグジットは驚愕である。その後の20年、30年の間に反グローバリズムや反エリート主義が拡大し、それが大英帝国の威信を取り戻せという声と共鳴した結果なのだろうか、いまだ整理がつかないでいる。
さて、英国のEU離脱は税制に大きな影響を及ぼす。1つは、英国とEUとの取引が「域外」取引になるので、ヒト・モノ・カネ・サービスの自由な移動を裏付けていた様々な税制上の特権を一気に失うことになる。これは、英国を欧州のゲートウエーと位置付けてきた日本企業の戦略にも、深刻な影響をもたらす可能性がある。
一方で、英国はEUのくびきから逃れることになるので、租税政策の自由度を取り戻す。「ウインブルドン型(貸し座席型)」政策をとる英国が、OECDメンバー国としての限度・節度はあるものの、相当程度の優遇税制を導入してくることは容易に予想される。
これに対してEUは、これまで英国の反対で進まなかった法人税の課税ベースの統合(CCCTB)や、金融取引への課税など、より統合度を高め、域内であることの優位性を訴える方向に舵を切ることが予想される。
加えて、個別国レベルで法人税・所得税などの優遇税制を仕掛けてくる可能性もある。
このようにブレグジットは、様々な方向で欧州の税制に大きな変化をもたらす可能性がある。以下、限られた情報ではあるが、今後の税制(関税を除く内国税)の行方を占ってみた。
■英国がEU域外国になることの
メリットとデメリット
まずは、英国がEU域外国になることによって生じる税制上のデメリットである。
これまでEUは、ヒト・モノ・カネ・サービスの自由な行き来を阻害しないよう、税制の簡素化を図るべく、税制に関する共通指令や共通規則を導入してきたが、これが適用除外になる。
まずはVAT(消費税)について。EU域内取引は非課税であるが、離脱以降は輸入の際にVATが課税されることになる。VATの場合は、仕入(輸入)に際して負担した税金は、仕入れ税額控除となるので企業に直接の影響は及ばない。しかし、そのための余計な納税の手間がかかったり、つなぎの資金が必要となる。
次に親子会社指令(Parent-Subsidiary Directive)である。この指令は、グループ会社が域内各国間で配当をやり取りする際の源泉税を免除する規定である。さらに受け取る際にも非課税としているが、域外国となるとEU域内国から英国企業への配当の支払い時に、源泉税がかかることになる。
最後に利子・使用料指令(Interest and Royalty Directive) である。この指令は、域内国のグループ会社間での利子やロイヤルティ(特許の使用料など)を支払う際、支払う会社の居住国でかかる源泉税を免除する規定であるが、これがかかることになる。
このような二重課税を排除し、取引を促進しようという観点から締結された指令が適用されなくなるので、英国を起点として欧州諸国にビジネスを展開する企業にとっては、ストラクチャーを見直す必要が出てくる。
英国は、このようなデメリットを排除するべくEUと、あるいは個別国と租税条約を結ぶなどの手を尽くすだろうが、それには困難と時間がかかるだろう。「いいとこ取りは許さない」というドイツをはじめとする国々の反対に会うことは、容易に想像がつく。
■自由度が与えられた
英国税制とEUの対応
一方で、EUから離脱することによって、英国は税制の自由度を取り戻すことができる。そこで、OECD加盟国としての限度(節度)の範囲内で、EU離脱に伴う経済的マイナスを取り返すべくアグレッシブな優遇税制を導入してくる可能性がある。
第一に、パテントボックス税制である。これは、国外で開発された知財など無形資産を自国に呼び寄せる目的で、英国やオランダで導入されている税制だが、この税制をめぐって自国の知財流出の懸念を持つドイツと英国は対立を繰り返してきた。これが、英国の自由度が高まることになり、パテントボックス税制の深堀り(優遇度の増加)が行われるかもしれない。
一方で、米国企業などの租税回避には、より厳しい対応をしてくる可能性もある。英国は2015年4月1日以降に発生する利益に対して、迂回利益税(Diverted Profit Tax、DPT)を導入した。この税は、英国の課税を意図的に回避した利益を対象にして、法人税とは別の要件で25%の税率で課税するもので、グーグルを念頭にしたのでグーグル税と呼ばれている。
第二に、法人税率の引き下げである。キャメロン政権は、立地の競争力の確保という大義名分で、法人税率を段階的に引き下げてきた。16年現在20%と主要先進国の中では最低水準にあるが、キャメロン政権は17年に19%、20年には18%と段階的に引き下げる方針を公表していた。オズボーン前財務相は、離脱決定直後に15%に引き下げると発言した。
英国の産業政策は、基本的にウインブルドン型である。第二次大戦後の英国は、特定の産業を自国で育てる政策が失敗、日本の自動車産業などを呼び寄せて自国の雇用を確保しつつ、大陸諸国に輸出することによって外貨を稼ぐといった政策に転換した。
シティも同様で、かつて大英帝国を支えた英国マーチャントバンクはとうの昔に没落し、支えているのは米系・日系・ドイツ系などの外国金融機関である。EU離脱で大きなハンディキャップを負うことになるのだが、ヒト・モノ・カネが集まれば英国は繁栄するというウインブルドン政策に、ますます磨きをかけることになるだろう。焦点は、金融センターであるシティの魅力の維持・向上である。フランスが主張した金融取引税に強硬に反対してきたのも、その理由からだ。
■ブレグジットが反グローバリズムに
つながらないように
これに対してEUも黙ってはいないだろう。
英国が離脱することによって、税制統合を加速させることが予想される。これまで英国のせいで税制統合が進まなかったわけだが、今後は域内共通源泉徴収制度の導入や、法人税の統一課税ベースづくり(CCCTB)などが進んでいく可能性がある。それはEUの競争力を高め、英国からのシフトをもたらす要因となる。
また個別国レベルで、英国からの流入・移転を促すような法人税・所得税の優遇を考える国も出てくるだろう。
一方で、英国は財政赤字を抱えており、優遇税制で税収を失うような減税はできないという見方もある。議論はこれからが本番だが、英国は英語、島国という類似性、かつての日英同盟などわが国にとって欠かせない国である。
離脱が世界の反グローバリズムや偏狭な排外主義につながり、世界経済の縮小につながることだけは避けたい。
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