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ロシア・モスクワの風景(資料写真)
雨降って地固まったロシア経済、資源国の弱点克服 経済制裁が構造改革促し、急速に進む輸入代替
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47398
2016.7.25 大坪 祐介 JBpress
■ロシアの景気後退は底打ち?
7月14日、IMF(国際通貨基金)はロシアの経済見通しを発表した。
2016年のGDP(国内総生産)成長率は貸出条件の厳格化と実質所得の減少、さらに国内投資の低迷を背景にマイナス1.2%と依然マイナス成長であるが、前回見通しのマイナス1.5%からは上方修正されている。
さらに2017年については、金融緩和と国内需要の緩やかの回復を背景にプラス1.0%の成長を見込んでいる(図表1)。
(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらでこのあとの図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47398)
しかも、この予測の前提となる原油価格(年平均)は2016年が42.2ドル、2017年が48.8ドルである。足許の原油価格の推移を見ると原油価格はこれらの予測値を上回って推移しており、GDP成長率もさらに上方修正される可能性もある。
実際、7月初にロシア連邦統計局が発表した2016年第1四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス1.2%と市場予想よりも下落率は小幅にとどまった。
前回の拙稿(「世界唯一のインフレファイター、ロシア中銀総裁語る」)ではロシア政府当局による景気先行きへの強気な見方を紹介したが、ロシア経済に対して最も悲観的かつ批判的であるIMFすらも今回上方修正を行ったことに留意が必要だろう。
日本のメディアではいまだに「欧米諸国の経済制裁の影響によって経済が苦境にあるロシアでは・・・」という決まり文句がよく聞かれるが、そろそろ新たなフレーズを用意する必要がある。
ロシア経済が「底打ち」した理由はまず第1に原油価格の反発である。
さらにもう1つの理由を挙げるとすれば経済構造がルーブル安に適合し始めた、つまりルーブル安を有利に使い始めたことだろうか。すなわち「輸入代替」の進展であり、この輸入代替の動きは農業と軽工業に顕著に見られる。
ロシアにおいては1998年、2008年と経済危機が起こり、ルーブルが急落するたびに輸入代替の動きが顕著に見られたのだが、今回の経済危機においてはこれまでの輸入代替とは異なる質的な変化があるように感じる。
■農業における輸入代替
ロシアには広大な農地があり本来であれば有力な農業生産国になるポテンシャルがあるはずである。モスクワから南部の地方都市へのフライトの際に飛行機の窓から眺めていると日本では考えられない規模の農地や温室農場を随所に見かける。
しかし、原油高に支えられてルーブルが長い間高値を維持していたため、ロシア人は野菜、食肉などを自国で生産せずに諸外国から輸入する体制がすっかり定着してしまった。
こうした状況はクリミア紛争以降、ルーブル相場の急落と欧米諸国の経済制裁に対抗するロシア政府の食糧輸入禁輸措置によって変化を余儀なくされた。
もちろん、後者については欧米諸国以外からの輸入に代替すればいいのだが、ロシア政府は経済政策に加えて食糧安全保障の観点からも国内での食糧生産を積極的に支援するようになっている。
筆者は先日、モスクワから南方に車で2時間ほどのところにある野菜栽培の温室農場を見学する機会があった。この農場は2015年2月から造成を始め10か月で完成、現在は5ヘクタールの温室でキュウリを栽培している(下の写真)。
キュウリを栽培する温室の内部 設立1年目ということもありロシアとは思えない完璧な環境が保たれている。 ドミトリー・メドベージェフ首相も視察に訪れたという
温室と言っても日本のビニールハウスとはその規模が大きく異なる。
鉄骨とガラスで組み立てられた温室は天井高が5〜6メートルはあるだろうか、1つのユニットが1ヘクタールとのことで、反対側の壁がはっきり見えないくらいの巨大な温室である。
栽培技術はオランダから最先端の水耕栽培装置と技術を導入しており、通年での栽培が可能である。
この農場は今夏に規模を22ヘクタールまで拡張してトマト栽培を開始する計画で、造成工事が急ピッチで進められていた。農場の経営者によると、同農場はロシアではまだ小規模な部類であり今後も規模拡大を計画しているという。
筆者は温室内で説明を受けながら、勧められるままにその場でもぎ取ったキュウリを試食させてもらった。品種はロシアでよく生食、あるいはピクルスにされる長さ10センチ程度のやや丸みを帯びたキュウリである。
説明によると温室内で使用する農薬は生物農薬なので洗わずそのまま食べても人体に害はないと言う。味に関しては同行したロシア人によれば「とてもおいしい」とのことであった。
筆者は農業の専門家ではないので、この農場に対する評価を加える立場にはないが、一ビジネスパーソンとして「こんなに巨大で儲かるのかな」という疑問だけが残った。というわけで農場の経営者にストレートに聞いてみたのだが、返事は「儲からないならやるわけないだろう」。
もっとも、ロシアでこうした巨大農場が設立されるのには合理的な背景がある。
1つはロシアの農業が株式会社化されていることである。1990年代は資源・エネルギーを中心とする国営企業の民営化(とその結果としてのオリガルヒの誕生)が中心であったが、2000年代に入って、それまで手つかずだった農業部門の民営化が進んだ。
ロシアの農業のポテンシャルに着目した内外の投資家たちが壊滅状態にあったソ連時代の集団農場(コルホーズ)や国営農場(ソホーズ)を底値で買い集め、株式会社化し、さらには上場させたケースがいくつもある。
上場企業であるということは、それだけ資金調達力があり大型化が可能であるということである。
もう1つはロシア政府による農業、特に温室野菜栽培に対する補助金の存在である。
筆者は具体的な法令までは確認していないのだが、関係者に聞いたところでは温室の建設費用の4割近くは政府からの補助金で賄われているという。
この制度を利用して近年は多くの大手農業会社、あるいは投資グループがロシア各地に数十ヘクタール規模の温室農場の建設に乗り出しているという。
こうした農業の輸入代替がロシアの食品加工分野にも好影響を及ぼしていることはモスクワ市内のスーパーの棚を見ると明らかである。肉製品、乳製品を中心に従来のヨーロッパからの輸入品に代わってロシア製の加工食品が並んでいる。
ここ数年はワインすら国産品が棚の一角を占めており、市内の高級レストランでもワインリストにロシア産ワインが加えられるようになった。価格はロシアにおけるチリ・南ア・グルジアワインと概ね同じレベルである。
■ファッションにおける輸入代替
さて次に筆者が気になるのは分野は繊維業界、と言うよりもファッション業界である。ルーブル下落前は欧米の有名ファッションブランドにとってロシアは上客であった。
もちろんこれらのブランドの多くは今でもモスクワ市内に店を構えているのだが、かつてのような賑わいは感じられない。その一方で、ロシア人のデザインによる、ロシア国内で生産されたファッションブランドを街中でよく見かけるようになった。
最近、筆者が街中で見かけた例を挙げてみよう。
ザポロージェッツ・ヘリテージ。衣類はロシア製だが帽子は中国製だった
市内の高級ショッピングセンターで見つけた「ザポロージェッツ・ヘリテージ」は若者向けカジュアルウエアのブランドである(右の写真)。
「ザポロージェッツ」とはソ連を代表する国産小型車で粗悪品の代名詞である一方、庶民にとっては親しみ深い車である。それをあえてブランドにするのもひねりが利いていて面白い。
また市内の中心部にブティックを構える「グランジ・ジョン・オーケストラ・エクスプロージョン」は、名前こそ英語名であるが製品のラベルには「メイド・イン・ロシア、モスクワの某所で製造」と書かれている。
同ブランドはアディダスとのコラボ・モデルなども発表する実力派で、市内の高級デパートでも取り扱われている。
ロシア版Swatch ? パベーダ(勝利) 中身はロシア製だがパッケージがおしゃれになった
価格はTシャツが8000〜1万円と決して安くはないが若者中心に人気のようである。ロシア製でもそれだけ製品のデザイン・品質が上がっており、それだけのお金を支払う消費者が存在するということだろう。
足許のロシア経済は、民間消費の回復の遅れが景気回復の足かせとなっている。
消費の低迷はもちろん実質所得の減少によるところが大きいのだが、ルーブル安や経済制裁によって一度は高品質の輸入品に親しんだロシアの消費者のニーズを満たす製品が存在しなくなったことも要因の1つとも考えられる。
現在進行中の輸入代替が、ロシア国内の「量」の需要を満たすだけでなく、「質」の需要も満たすようになれば国内消費の回復ペースも早まるのではないだろうか。
グランジ・ジョン・オーケストラ・エクスプロージョンの市内本店。決して大きな店舗ではないが筆者の記憶する限り2〜3年前からこの場所に存続している
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