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国民にお金をバラ撒く政策への期待高まる…急速に経済悪化でナチス・ドイツを生んだ劇薬
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15980.html
2016.07.22 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
7月10日に投開票された参院選で、自民党を中心とする改憲勢力は3分の2超の議席を確保した。これを受けて安倍晋三首相は経済対策の取りまとめを指示した。一方、7月12日、米連邦準備制度理事会(FRB)の前議長だったベン・バーナンキ氏が来日し、安倍首相と会談したことをきっかけに市場の雰囲気は大きく変わった。いわゆる“ヘリコプターマネー”への期待が高まったのだ。
ヘリコプターマネーとは、上空からお金をばらまくように、政府が現金などを国民に給付する経済政策だ。政府が発行する国債を中央銀行が引き受けることで、政府は無制限に資金を使うことが可能になる。いわゆる財政ファイナンスだ。
現在、日本の法律は財政ファイナンスを禁じている。しかし、バーナンキ氏はヘリコプターマネーに前向きな考えを持つことで知られてきた。日本の経済政策を見ても、さらなる経済対策を打ち出す余裕はなくなっている。公的な債務はGDPの200%を超えており、金融政策ではマイナス金利という非常事態の政策が進んでいる。
ただし、ヘリコプターマネーはマイナス金利をはるかに上回る劇薬だ。歴史を振り返ると、財政ファイナンスを通して中央銀行が紙幣を乱発することで、最終的に急速な物価上昇、さらには社会不安につながった歴史がある。
■ヘリコプターマネーの意味
ヘリコプターマネーとは、金融政策と財政政策を融合した経済政策だ。この起源は、米国の著名経済学者であるミルトン・フリードマンが1969年にまとめた論文「最適貨幣量」にある。ここでフリードマンは、「政府がヘリコプターを飛ばして上空から紙幣をばらまき、直接、国民にお金を配ればどうなるか」との議論を展開した。
フリードマンの提言エッセンスは、政府が新しく刷られた紙幣を国民に給付することにある。つまり、対価を求めず、空からばらまくのである。実際に政府がヘリコプターを飛ばし、お金を上空から無尽蔵に落とすわけではない。ヘリコプターマネーが導入された場合、政府は地域振興券などの商品券を国民に給付し、需要を喚起することになる。
1999年には日本で地域振興券という商品券の一種が発行された。広い意味でいえば、この政策はヘリコプターマネーの一種といえる。政府は対価を求めることなく、消費者に商品券を配ったからだ。
現在、主要国では財政政策(政府=財務省が管轄する、国家財政の歳入と歳出に関する管理)と金融政策(中央銀行が管轄する、物価の安定やお金=銀行券の発行に関する政策)は切り離されている。つまり、政府は自由にお金を発行することはできない。中央銀行は政府から独立した存在だといわれるゆえんである。日本では財政法第5条によって、日銀による国債引き受けが禁止され、「国債の市中消化の原則」が定められている。
ここで、中央銀行が政府の管理下に置かれた場合を考えると、まず、政府が政策資金を調達するために国債を発行する。その国債を中央銀行が引き受け(財政ファイナンス)、引き換えに新しくお金を印刷する(通貨の供給)。政府は中央銀行からお金を受け取り、自由にお金をばらまくことができる。これを繰り返せば、政府は物価水準が達成されるまでお金を国民に給付し、需要を刺激することが可能になるだろう。
政府が発行した国債は、政府の一機関である中央銀行が保有する。政府内で債務の発行と保有が完結するため、合計すると実質的に債務の残高は増えない。このようにしてヘリコプターマネーが進む場合、財政政策と金融政策の境目はあいまいになる。財政の規律、中央銀行の独立性がなくなることはいうまでもない。
■ヘリコプターマネーは劇薬
政府と中央銀行が合体するということは、わが国をはじめ主要国が進めている経済政策では想定されていない。なぜなら、政府が中央銀行に対する影響力を持ち始めると、政治家が望むままに国債が発行され、引き換えに新しいお金が印刷されることになりかねないからだ。
そうなると、増税による負担などを伴わずなんの裏付けも持たないお金が際限なく印刷され、国民に給付されるおそれがある。ヘリコプターマネーが進むことによって、お金の価値は薄まり、ハイパー・インフレーションなど悪性のインフレが進むかもしれない。これが、ヘリコプターマネーが劇薬といわれるゆえんだ。
歴史を振り返ると、財政ファイナンスが進むことによって物価が急上昇し、経済は混乱に陥ってきた。その場合、お金の価値は薄まるという程度ではとどまらず、破壊されてしまう。
第1次世界大戦後のドイツで進んだハイパー・インフレはその典型例だ。大戦に敗れたドイツは、莫大な賠償金を支払わなければならなかった。そして、ドイツの支払いが滞ったことに対して、フランスはドイツ経済の心臓部であったルール地方を占領した。これに対して労働者はストライキを起こした。この時、当時のドイツ政府はライヒスバンク(中央銀行)に国債を引き受けさせて、お金を刷らせることで賃金を支払った。こうしてドイツは財政ファイナンスによって紙幣を乱発し、急速なインフレに陥った。その後の世界恐慌の影響も重なり、ドイツでは社会不安が高まり、ナチス・ドイツが台頭した。
日本でも明治初期、西南戦争の戦費調達のために政府紙幣が増発された。この結果、悪性のインフレが進行し、松方財政による緊縮策につながった。今日、中央銀行の独立性が重視されている背景には、際限なき通貨供給が禍根を残したという歴史の教訓がある。ドイツは欧州中央銀行(ECB)が進める積極的な金融緩和に対して、批判的な態度を貫いてきた。その背景には、第1次世界大戦後の急速なインフレ進行への反省があるのだろう。ドイツには「通貨供給が際限なく進む余地を少しでも与えれば、底なし沼にはまるも同じ」という危機感があるのかもしれない。
■ヘリコプターマネーに対する市場の反応
いくつかの報道を見ると、バーナンキ氏は政府が流通性のない永久債(満期のない債券、パーペチュアルと呼ぶ)を発行し、日銀に引き受けさせることでヘリコプターマネーが実行できると考えているようだ。一見すると、この政策は魅力的なものに見えるかもしれない。
日本のように財政出動の余地も限られ、追加の金融緩和も難しい状況下、財政ファイナンスを通してヘリコプターマネーを実施することは、政府債務残高の増大を回避しつつデフレ脱却を可能にするととらえられがちだ。
この報道が流れた7月14日、為替相場では104円台から105円台後半までドル高・円安が進んだ。それが金利と株価の上昇につながったようだ。冷静に考えるとヘリコプターマネーは、長期的に通貨の価値を破壊し、円の減価につながると考えられる。しかし、具体的にどのような経済政策が発動されるのか、今回の報道だけを頼りに全貌をつかむことはできない。
おそらく、市場の動きは特定の材料に影響されたものではなく、投機の動きに煽られたのだろう。その動きに「新しい経済対策が出る」との期待が重なり、多くの投資家がドル買いに走った。足許、米国の経済指標が概ね予想を上回っていたことも、ドル買いを支えたはずだ。
ヘリコプターマネーを実施するためには、財政法第5条の改正など多くの作業が必要になる。参議院選挙後の経済対策期待が高まりやすいなかで、ヘリコプターマネーを主張してきたバーナンキ氏が来日しただけに、未知の経済政策への期待は高まりやすかった。ヘリコプターマネーへの関心は、わが国だけでなく世界の金融市場にも波及し、株価の上昇などリスクオンの温床になったようだ。
現行の経済政策に対する手詰まり感が漂うなか、新しい対策は市場の期待を高めやすい。しかし、歴史はヘリコプターマネーの発動が経済を混乱させたことを客観的に示している。一歩、ヘリコプターマネーに足を踏み出せば、後戻りは難しいだろう。未知の経済政策の先に、何が待ち構えているのか、今こそ過去の教訓を確認する意義は大きい。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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