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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第183回 量的緩和とプライマリーバランス目標の不整合
http://wjn.jp/article/detail/1249150/
週刊実話 2016年7月28日号
日本の長期金利は相変わらず下がり続けており、7月1日の市場における10年債の利回りは▲0.26%に低下し、過去最低を更新した。しかも、7月5日の国債入札では、落札利回りが過去最低の▲0.243%を記録。政府は2兆4000億円の国債を発行し、約600億円「もうけた」という話になってしまった。
日本の国債利回りが「超低迷」しているのは、日本銀行が量的緩和政策を継続しているためだ。
今年6月、日本のマネタリーベース(以下、MB)が400兆円を突破。MBとは、政府が発行する貨幣(硬貨)、日本銀行が発行する現金紙幣、日銀当座預金残高の合計である。
日本銀行は現在、年に80兆円の純増となるべく市中銀行から国債を買い取り、日銀当座預金残高を増やす量的緩和を続けている。結果的に、6月末のマネタリーベースの残高が400兆円の大台を突破してしまったのだ。
筆者は民主党政権期に、現日本銀行副総裁の岩田規久男教授(上智大学・学習院大学名誉教授)と話す機会があり、教授が、
「デフレはMBを増やすことで脱却できる」
と、説明したのをはっきりと記憶している。驚いた筆者は、
「MBですか? マネーストックではなく?」
と、確認したわけだが、岩田教授は、
「MBです」
と、断言した。
岩田教授の「期待インフレ率理論」は、
「日本銀行がインフレ目標をコミットメントし、量的緩和を継続することで、期待インフレ率が上昇し、実質金利が下がり、投資(主に)が増え、デフレ脱却できる」
というものだった。岩田教授のロジックが正しいならば、確かに量的緩和でMBを拡大すればデフレ脱却できる「はず」である。
ところが現実には、MBが岩田教授の日銀副総裁就任以降、250兆円近くも増えているにもかかわらず、直近のインフレ率(コアCPI)は▲0.4%。コアコアCPIにしても0.4%と、上昇ペースが鈍ってきている(注:コアCPI=価格変動の大きい生鮮食品を除いた消費者物価指数。食料とエネルギーを除いた指数がコアコアCPI)。
当たり前だ。MBを拡大するだけでデフレ脱却できるはずがない。理由は、インフレ率とはモノやサービスの購入で決まるためである。すなわち、総需要だ。
もちろん、岩田教授にしても「MB拡大=インフレ率上昇」と説明したわけではない。MB拡大の後には、期待インフレ率の上昇、実質金利の低下、投資の拡大(=需要の拡大)と、総需要不足を補うまでのプロセスが想定されていた。
とはいえ、現実にはインフレ率を押し上げるほどの総需要の拡大は起きなかった。安倍政権が消費税増税やら、支出削減やら、国債発行の抑制やら、総需要を減らす緊縮財政を推進していた以上、当然の結果だ。
すなわち、日本銀行が責めるべきは「安倍政権」なのである。ところが、日本銀行は責任を市中銀行に押し付ける「マイナス金利政策」を採用した。
ちなみに、筆者は別に「日銀は金融政策をやめろ!」などと言いたいわけではない。と言うよりも、現時点で日本銀行が量的緩和の縮小を始めると、ブレグジット(英国のEU離脱を指す造語)を上回る金融ショックが世界を駆け巡ることになる。
現在の日本銀行は、決して安易な「金融引き締め」に走ってはならない。リーマンショック同様に、日本経済はもちろんのこと、世界経済がクレジットクランチ(信用収縮)に突っ込む可能性が高い。
とはいえ、このまま年純増80兆円規模の国債買い取りを続けると、今後2年ほどで日本の預金取扱機関(銀行など)の国債が尽き、量的緩和は強制的に終了に向かわされることになってしまう。来年の今頃には、「日本銀行が金融引き締め(量的緩和の縮小)に転じるXデー」が話題になっていることだろう。
日本銀行のXデーを避けるためには、政府が国債を発行し、預金取扱機関の国債保有残高を増やすことで量的緩和の継続を担保するしかない。ところが、政府は「プライマリーバランス黒字化(以下、PB黒字化)」にこだわり、国債増発ができないでいる。
短期でPB黒字化を目指す以上、政府は新たに負債を増やすことはできない。すなわち、国債の発行は抑制せざるを得ないのだ。
政府は国債の発行を抑制する。日本銀行は量的緩和政策で市中銀行から国債を買い入れ続ける。
最終的に、何が起きるのか。落ち着いて考えてみれば誰でも分かるはずだが、「日本銀行が国債を買い取る量的緩和政策」と、「日本政府が国債発行を抑制するPB黒字化」は、明らかに不整合であり、長期的な両立は不可能なのだ。それにもかかわらず、わが国はPB黒字化と量的緩和という二つの政策を同時に進めている。
もちろん日本銀行にしてみれば、これほどMBを拡大したにもかかわらず、インフレ率がマイナスに戻ってしまうなどということは想定外だったのだろう。日本銀行は2%のインフレ目標達成時期を2018年3月に先送りせざるを得なかった。
とはいえ「デフレは総需要の不足である」ことを理解すれば当然の結末なのだ。
日本銀行のXデーを回避するためにも、量的緩和政策とPB黒字化は不整合であるという当たり前の事実を、国民や政治家が認識する必要がある。政府はPB黒字化目標を破棄、もしくは「無視」し、デフレギャップを埋める国債発行の拡大と大規模財政出動を決断する必要がある。
さもなければ、日本が世界的な「金融危機」「経済危機」の発端となる「日本銀行のXデー」は避けられない。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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