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試験飛行中のMRJ90 1号機
開発5年遅れで販売延期連発のMRJ、「飛べない」公算高まる…たった0.6トン重すぎる
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15934.html
2016.07.18 橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学特任教授、運輸総合研究所客員研究員 Business Journal
三菱航空機の小型旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の試験飛行と開発が、いよいよ佳境に入ろうとしている。5月31日からは試験機2号機が加わり2機体制で飛行試験が行われ、日に複数回のフライトも実施しながら、開発が急ピッチで進められている。7月末には、米ワシントン州のモーゼスレイクへと旅立ち、米連邦航空局(FAA)とも連携を取りながら、夏以降4機体制で本格的な飛行試験が行われる運びである。MRJの納入予定時期は当初13年だったが、開発の遅れを理由に度重ねて納入は延期され、昨年12月には従来の17年春から18年半ばに先送りすると発表されていた。そんなMRJの開発も、今や順調な軌道に乗ったようにみえる。
ところが、仮発注も含め300機以上も発注を得た主たる市場である肝心の米リージョナル航空会社(地域航空会社)で、MRJ90(88席)を現状では運航できそうにないのである。その理由は、大手航空がパイロット組合と結ぶ労使協定にある。
■強いパイロット組合
アメリカの大手航空会社は、破綻と破産法11条による再生を繰り返しながら、今やデルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空のビッグスリー3社に集約されている。各社は自社で国際線と国内線の基幹路線(ハブ)を運航し、小需要の路線(スポーク)についてはリージョナル航空会社に運航委託している。これが「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる路線形態である。
そして、実は大手航空はこのリージョナル航空への委託契約によって、最終利益の大部分を得ており生命線である。しかし、大手航空のパイロット組合から見れば、このリージョナル航空への委託が増えることは、自分たちの職域を侵すものにほかならない。ましてや、リージョナル航空が運航する機体(リージョナル・ジェット)が大型化してきたことは看過できない事態であった。そこで、労使交渉の末、スコープ・クローズと呼ばれる協定を結び、機材の席数、大きさを制限することになったのである。
航空会社間で微妙な違いはあるが、代表的なスコープ・クローズによるリージョナル・ジェットへの制限は、「席数:最大76席」「最大離陸重量:39トン(8万6000ポンド)」である。このため、リージョナル航空会社は、90席クラスのリージョナル・ジェットを、大手航空の要求でもあるファーストクラス(ビジネスクラス)を設け全体席数を76席に抑えて、大手航空ブランドで運航している。規制緩和の流れのなかで、この制限値は早晩緩和されるものとみられていたが、つい最近まで労使交渉は暗礁に乗り上げている。
■わずかに0.6トン重すぎる
MRJ90の最大離陸重量は標準型で、39.6トン(8万7303ポンド)である。つまり、スコープ・クローズの制限値39トンより、わずかに0.6トン重いだけなのである。それでも制限オーバーには変わりなく、米国内では運航できない。
そこで、当面50機導入予定のトランス・ステイツ社のリーチCEO(最高経営責任者)は、5月にノースカロライナ州シャーロット市で開催された全米リージョナル航空コンベンションでの記者会見で、「欲しいのはもちろん90席クラスのMRJ90なのだが、スコープ・クローズの制限値が変わらないのなら、軽いMRJ70(76席/36.65トン)への切り替えを考慮せざるを得ないかもしれない。決断のタイミングを計っているところだ」と述べている。
70席クラスのMRJ70を決定した後、重量制限が緩和される可能性も十分あり、トランス・ステイツ社として難しい判断である。一方、100機導入予定のスカイウェスト航空CEOのチャイルズ氏は、「現段階では、MRJ90しか考えていない。とにかく、スコープ・クローズの制限値が交渉のテーブルに乗るのを待つだけだ」と述べている。
三菱航空機は米国の情勢を見て、MRJ70についても、MRJ90の後に型式証明がとれるよう準備を開始している。しかし、最良の策は、若干航続距離を犠牲にして、最大離陸重量39トンのMRJ90アメリカ版型式証明を追加することである。なぜなら、世界のリージョナル・ジェット市場では、50席、70席クラスは退役の方向であり、航空会社は90席、100席クラス以上に向かっているからである。
ましてや、米国国内線では大手航空の要求でファーストクラス、ビジネスクラスを設定するため、結果的にMRJ70は全体座席50〜60席の中途半端な使い勝手の悪い機材になる可能性が高い。最大離陸重量を下げることはボーイングでもよくやられることで、飛行試験が必要なわけでもなく、当局の書類審査だけで済む。
ただ、三菱としては多大なエンジニアリング・コストがかかり、また、重量制限が緩和されれば徒労となってしまうため、難しい判断を迫られる。
■ピンチはチャンス
MRJ90の開発が足踏みし何度も遅延を繰り返すなか、今やリージョナル・ジェットで世界一の座にあるブラジルのエンブラエル社は、着々と新型機E2シリーズを開発中である。今年の5月23日には、予定より早くE190-E2(130席クラス)の初飛行に成功し、航空会社への引き渡しも早まる方向。
MRJ90の直接のライバルとなるのは、E2シリーズで最も小さい90席クラスのE175-E2であり、2020年には航空会社に引渡し可能となっている。このE175-E2には、MRJ90と同様の燃費性能の高い新型エンジンが搭載され、MRJ90の売りである燃費性能の優位性は小さくなってきている。
しかしながら、着目すべきはライバルであるE175-E2の重量である。同型機の最大離陸重量は、44.8トン(9万8767ポンド)とスコープ・クローズの制限値より5.8トンも重いのである。とても調整できるレベルの差ではない。つまり、スコープ・クローズ制限がある限りE175-E2の米国市場での出番はなく、MRJ90が最大離陸重量を変えた場合、一人勝ちになる可能性すらあるのである。最大のピンチは、最大のチャンスでもある。
米国には、90席クラスのリージョナル・ジェットは欲しいが、スコープ・クローズを気にして決断を躊躇している航空会社がいくつもある。もし三菱が最大離陸重量39トンのMRJ90の型式証明の追加予定を早々とアナウンスすれば、堰を切ったように受注オーダーが増えるかもしれない。
多大なコストをかけて最大離陸重量39トンに変えた直後に組合の重量制限が緩和されて徒労に終わるリスクと、早期に最大離陸重量39トンをアナウンスして一気にアメリカ市場で受注を拡大するメリットを天秤にかけるならば、最大離陸重量39トンのMRJ90アメリカ版型式証明の追加取得は、十分検討に値するものと考える。
(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学特任教授、運輸総合研究所客員研究員)
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