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ロールアウトしたMS-21
世界最大の航空機市場に殴り込みかけるロシア ボーイングとエアバスの牙城を崩す勝算とは
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47274
2016.7.7 渡邊 光太郎 JBpress
6月8日にロシアの新型旅客機「MS-21」のロールアウト式典があり、その姿が公開された。現在のところ今年12月から来年2月までの間に初飛行するとされている。
MS-21は「ボーイング737」、「エアバスA320」と同等の座席数をもつ航空機である。
既にロシアで量産している「スホーイスーパージェット」は、リージョナルジェットという小型旅客機であり、ターゲットはエンブラエルとボンバルディアが3位争いを繰り広げてきた市場だが、MS-21はボーイングとエアバスという2大メーカーがトップ争いをしている1つ上の市場に参入することになる。
ロシアの新規参入には勝ち目がないのではないかという声も聞こえる。航空機産業の参入の難しさやこれまでの歴史から見ると、そのような声は当然出てくるだろう。
しかし、ただ新規参入であるというだけで、または、ロシア製であるというだけで勝ち目がないと決めつけるのは短絡的である。例えば、エアバスも当初は懐疑的に見られていたし、苦しい時期も長かった。
果たしてMS-21に勝算があるのかについて検討してみたい。
■MS-21はどのような飛行機か
MS-21を一言で表現すれば、「150人くらい乗れる旅客機」である。前述のとおりボーイング737やエアバスA320もサイズの違う派生があるが、大雑把に言うとこの「150人くらい乗れる旅客機」になる。
なお、正確には、MS-21には「MS-21-300」と「MS-21-200」の2つの派生の開発が進められており、先行する300型は2クラスで163席、200型は2クラスで132席である。
対して、日本の「MRJ」やスホーイスーパージェットは「100人以下の旅客機」である。
「150人くらい乗れる旅客機」と「100人以下の旅客機」では市場のサイズに決定的な違いがある。
2015年の旅客機の引渡し数で需要を数えると、前者はボーイング737とエアバスA320の合計で986機に達するのに対し、後者はエンブラエル、ボンバルディア、スホーイのリージョナルジェットの合計で175機に過ぎない。
市場の大きさに5倍以上の差がある。MS-21は年間約1000機売れる最も大きな市場を狙うことになる。
MS-21の特徴は3つある。1つは胴体が若干太いことである。この恩恵として、客室がA320よりも11センチ広くなっている。狭い座席で長時間過ごす乗客にとってはありがたい。
MS-21のエンジンは米国プラット・アンド・ホイットニー製「PW1400G」。エアバスA320neoやMRJと同系列のエンジンで燃費向上を実現するギアードファンを備える
2つ目はスホーイスーパージェットと同じく、機体構造はロシア製で最終組立もロシアで行われるものの、エンジン、油圧システム、空調システム、電子機器、複合材部品の素材には広く海外の製品が採用されている。
スホーイスーパージェットと比較すると、一部では国産化が進んだが、やはり大半は輸入品である。この点では、品目に違いがあれども、MRJと事情は似ているだろう。
なお、この輸入品には日本製のものも含まれる。例えば、MS-21-300のエンジンの正式名称はPW1431G-JMだが、このJはPW1400Gの開発に参加し部品を供給する日本を指している。
余談だが、MS-21の日本製部品はTier2(2次サプライヤー)としてのものであるが、ロシア製の旅客機であってもグローバルな航空産業の結びつきにより、日本製部品が含まれることは興味深い。
3つ目の特徴は、最新の製法で作られた炭素繊維複合材主翼である。
ライバルのボーイング737は737MAXという最新派生機種を生み出し、エアバスA320はA320NEOという最新派生機種を生み出しているが、主翼は双方とも従来のアルミ合金である。
以前の記事で触れたとおり、この複合材主翼は最先端の製法で作られている。この製法は、性能に重要な影響を及ぼすことはないが、従来製法より安価に製造することができる。
■MS-21は既存機種より優れているか
では、MS-21に勝算はあるだろうか。多少優位な点があるからと言って、それだけで売れるわけではないのが旅客機である。信頼と実績が要求されるため新参には不利であるし、カスタマーサポートの体制も要求される。この点では、ボーイングやエアバスより不利である。
なお、中国と違い、FAAやEASAの形式証明は取得できると思われるので、旧ソ連圏のМАК АРの認定が通用する地域でしか売れないという状況に陥ることは考えにくい。ロシアのスホーイスーパージェットはEASAの形式証明を取得し欧州への輸出実績がある。
これまでの実績不足やサポート体制の不利を克服する優位性をいかに出していけるかが、MS-21の成否を左右する。しかし、それはMRJでも同じことである。MS-21は機体規模や日本とロシアの航空産業がこれまで歩んできた経緯が違うとは言え、ある意味ではMRJと置かれた立場に共通性がある。
MS-21と既存機種であるボーイング737とエアバスA320のどちらが優れているかは、MS-21が就航しておらず、実際に飛ばしてみての評価が定まらない以上、現状で明らかになっている情報から推察するしかない。
まず、工業国としてのイメージが良くないロシア製であることから性能や品質で劣るのではないかという偏見にさらされる。もちろん、これは偏見であるが、実際にソ連時代に開発されたMS-21の先代にあたる「Tu-204」は特に燃費が悪いとしてボーイング737やエアバスA320と勝負にならなかった。また、電子機器に劣り、航空機関士を必要としていることも評価を大きく下げた。
しかし、MS-21はロシア製旅客機最大の弱点であった燃費を左右するエンジンと電子装備では、ボーイングやエアバスと同等のものを採用している。
イルクーツク航空機工場で生産されているエアバスA320の前脚室(出所:イルクートWebsite)
もちろんMRJが脚やアクチュエーターなど競争力がある日本製装備品を国産化しているように、MS-21でもロシア製の装備品を採用しているが、やはり大半はボーイング社やエアバス社と取引のあるサプライヤーが製造した輸入品である。
エンジンはエアバスA320の最新版であるA320neoと同じ系列のエンジンであるPW1400Gを搭載する(なお、規模は異なるがMRJも同系列のエンジンを搭載する)。また、電子機器も開発にロシアの関与があるが大手航空機用電子機器メーカーのロックウェルコリンズやターレスなどが参加している。
ソ連時代の機種のように装備品の低性能が足を引っ張ることはなさそうだ。
なお、MS-21はロシア製エンジンも選択可能で、現在、PD-14エンジンがMS-21用として開発中であるが、こちらを搭載する機体はやはりPW1400Gを搭載した機体ほどのパフォーマンスは出ないと思われる。ロシア製エンジン搭載機は価格が安くなると推察され、燃費よりも価格などを重視する航空会社向けになろう。
生産時の品質についても完全に同等と言い切れるほどの比較はしていないが、生産設備もソ連時代からは刷新され、Brotje製のオートマチックリベッターの並ぶ組立ラインは最新のものである。もちろん、部品製造に用いる工作機械なども西側で使われているようなものを用いている生産現場が多い。
すでにエアバス製旅客機にサプライヤーとして部品を供給する能力があるとされている企業もある。
MS-21の最終組立をするイルクート傘下のイルクーツク航空機工場もその1つで、エアバスA320のキールビームや前脚室といった1次構造部材の製造を請け負っている。また、MS-21のエンジンパイロンはエアバスA320のエンジンパイロンを作っているVASOが製造する。
こうした事実からは、すべての部品に当てはまるわけではないかもしれないが、類似の部品では生産品質は同じだろうし、その他の部品でも極端に生産品質に劣るようなことはないことが推定できる。
しかし、以上のことは、せいぜいボーイング737やエアバスA320と同等と言う材料に過ぎない。優位性はあるのだろうか。
まず、前述の胴体幅が広いというのは乗客にとってはありがたいが、それが決定的な優位性となることは困難である。なぜなら、実際エアバスA320はボーイング737と比べ16センチキャビン幅が広いがエアバスA320に対し決定的に優位ではない。
MS-21のライバル機種に対する優位性があるとすれば、機体構造だろう。
MS-21は、ボーイング737やエアバスA320よりも軽くできていると推察される。それは、イルクートが低い運航コストをアピールするとおり優れた燃費に結びつく。
ボーイング737やエアバスA320は改造に次ぐ改造を重ねてきたとは言え古い。これらの最新派生機種は最新エンジンを搭載し、各所に改造をほどこしているものの、A320は30年以上前に開発されたもので、現行のボーイング737の全面リニューアルも20年前の話である。MS-21ほどの最新技術を注ぎ込めていない。
MS-21の主翼。世界最先端の方法で製造された炭素繊維複合材製である
MS-21の機体構造で最も特徴的なのは、前述のとおり、炭素繊維複合材製主翼で、ライバルであるボーイング737やエアバスA320の主翼は従来のアルミ合金製である。
同仕様の機体構造をそのままアルミ合金から炭素繊維複合材にすると約2割重量が軽くなると言われている(程度については議論がある)。この特徴はライバル機の持たないもので、優位性となる。
もう1つ、MS-21がライバル機種に対し優位としているのは価格である。
確かにエアバスA320neoのカタログ価格は若干サイズが小さいにもかかわらず、MS-21-300のカタログ価格より15%ほど価格が高い。旅客機がカタログ価格で販売されることは稀であるので、参考程度であるが、イルクートは価格には自信があるようだ。
ボーイング、エアバスと比べると、近年のルーブル安によりロシア国内で発生するコストは安い。実際に価格面で優位性を出すには高い生産効率での量産が課題となるが、必ずしも根拠のないもではない。
もちろん、コストがドルやユーロに連動する輸入品の多いことは現在のロシアでは厳しい点であるが、対ボーイング、エアバスの比較で考えれば彼らは装備品だけでなく、機体構造のコストもドルやユーロであり、MS-21の製造原価がボーイング737やエアバスA320を下回っても不思議ではない。
以上、まとめると、ソ連時代の弱点、品質についてはライバルであるボーイング、エアバスと同等かそれに近いと推察され、複合材主翼は明らかな優位点であり、価格競争力が宣伝されている機種である。述べたとおり、これまでの実績やサポート体制による不利もあるが、MS-21はある程度の勝負はできる機種と思われる。
■MS-21の勝算
では、MS-21は優位性を生かし、ボーイング737、エアバスA320のシェアを食っていき、現在、エアバスとボーイングで2分する市場は、近い将来、エアバス、ボーイング、MS-21で3分するようになるだろうか。
実際には、それは難しい。ボーイング737もエアバスA320も毎月40機生産されている(毎年ではなく毎月である)。例えば、エアバスが毎月の生産数を毎月60機に増やそうとしているように、さらなる拡大もある。
月産40機はゼロから立ち上げる機種がそう簡単に到達できる数字ではない。また、実績、サポート体制の不利をひっくり返すのは容易ではなく、販売数を増やしていくのも時間がかかるだろう。
しかし、だからといって負けと評価するのは間違いだ。そもそも、現時点ではイルクートでもボーイング737とエアバスA320の「150人くらい乗れる旅客機」市場で高いシェアを取ることを短期間に目指しているわけではないと思われる。
なぜなら、イルクーツク航空機工場の規模は限られ、MS-21の組立ラインは、シアトル近郊のレントンに大規模な737専用工場を持つボーイングや、最終組立ラインを北米や中国も含め何本も持つエアバスとは比べ物もないほど小規模である。
イルクーツクの現状の工場では月産5〜10機ができるかどうかという規模と推察する。とてもボーイング737やエアバスA320と同じような数を作れない。
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