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EUと英国の離脱交渉がどのように進むかは不透明だ
英EU離脱で世界の混乱はこれからだ
http://diamond.jp/articles/-/94371
2016年7月5日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■EU離脱の国民投票以降
政治への不透明感が高まる
6月23日の国民投票で英国のEU(欧州連合)離脱が決まって以降、英国、欧州の政治に対する不透明感が高まっている。英国やEU諸国、わが国の参院選挙や米国の大統領選挙など、今後、主要国の政治イベントが目白押しだ。
今後、世界経済の先行きを考える上で、最も重要なリスクは政治に移っている。政治情勢の不安定さが続くようだと、世界景気の足を引っ張ることにもなりかねない。
足元で、英国の政治は混乱を深めつつある。一部の国民はEU離脱の決定を後悔し、懸念を募らせているようだ。既に350万人以上が国民投票のやり直しに署名し、ロンドンの独立を求める動きまである。
元々、EUからの離脱か残留を決める選挙を、過半数の多数決で決すること自体がかなりのリスクを孕んでいた。それに加えて、離脱派が主張していた内容に偽りが含まれていたこともあり、国民投票の再実施を求める声は今後も高まる可能性がある。
与党保守党の新党首選びは不透明であり、野党労働党でも党内の対立が鮮明化している。スコットランドや北アイルランドは独立、EU残留を示唆し、「大英帝国」は崩壊の危機に瀕している。
一方、EUと英国の離脱交渉がどのように進むかは不透明だ。英国以外のEU加盟各国は、EU離脱の“ドミノ倒し”の拡大を防ごうとしている。欧州委員会(EC)の関係者、そして、ドイツ等の主張を見る限り、正式な離脱申請前に英国との交渉を進められないとしている。
欧州委員会からも、正式な離脱交渉を早期に進めることを強く求める声が出ている。EU側から有利な条件の引き出しを狙った、英国の目論見は早々に困難な状況に直面している。
欧州の政治動向、米中の景気減速などが同時に進む状況が発生すれば、世界経済が大きな混乱に陥りかねない。
■世論は大きく揺らぐもの
多数決による国民投票の問題点
一国の将来を左右する事項を、多数決による国民投票で決めることは最適な方法なのだろうか。多数決は、これまでの民主主義を支える重要な方法論の一つだった。しかし、EU離脱決定後の英国を見ると、多数決による民主主義が最適な方法なのか疑問を禁じ得ない。
一般的に、世論は大きく揺らぐことがある。一時の熱狂や雰囲気、投票時の天候など様々な要因が影響する。今回の英国の国民投票でも、離脱主張の代表格であるボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、移民や難民が英国に押し寄せ、雇用や社会保障、治安を脅かすと世論に恐怖心を植え付けた。
離脱派の政治家は、“主権を取り戻せ”とのスローガンの下、ドイツを中心としたEUから、大英帝国の栄光を取り戻そうと呼び掛けた。欧州の経済が財政危機、その後の低迷に陥っただけに、世論は「今よりも少しは良い未来があるかもしれない」と離脱派の主張に乗せられてしまった面は大きい。
EU離脱の決定を受けて、イングランド、北アイルランド、ウェールズ、スコットランドから成る「グレートブリテン」は大きく揺らいでいる。スコットランドはEUに残留する意向を表明しており、その延長線上に独立が視野に入る。
北アイルランドにも、そうした動きが出ている。そうした動きが現実のものになると、英国そのものの形が変わってしまうかもしれない。
■離脱派は虚偽の主張で
世論を煽った!?
離脱決定後、離脱派である英独立党のファラージュ党首は、「EU財政への拠出金をカットしても当初の主張の通り国民医療サービス(NHS)の財源が確保できるわけでない」とあっさりと認めた。つまり、離脱派は虚偽の主張を繰り広げ、世論を煽ったということになる。
そうした状況が明らかになるにつれ、英国民の多くがEU離脱の決定を後悔し“レグレジット”(Regrexit:後悔とEU離脱をかけた)なる造語まで出ている。この状況は、1回限りの多数決で重要事項を決める危うさを示している。
国のリーダーは、より長期の視点で国政に臨むことが求められるだけでなく、国民が適正に意思表示ができるような工夫をすべきだ。それが、今回のような1回限りの過半数による選挙結果で十分だったとは考えにくい。より公平かつ客観的な判断を担保する仕組みが必要だろう。
■今のところは小康状態の金融市場
今後厳しい状況に直面する英国
英国の政治混乱などが顕在化する中、国民投票後の金融市場は今のところ小康状態を保っている。英国の中央銀行であるイングランド銀行をはじめ、各国の中央銀行がドル資金を金融システムに供給していることもあり、今のところ金融機関の流動性に問題はないようだ。新興国の金融市場でも大きな混乱は見られず、概ね投資家は様子を見守ろうとしている。
しかし、これで問題が解決したわけではない。今後、英国はより厳しい状況に直面することは避けられないだろう。すでに、EU首脳は、新しい保守党党首が選出される9月以降に離脱交渉を進めると表明した。
そうしたEU側の厳しいスタンスによって、英国が目指していた、国民投票の結果をEUに突き付け、有利な条件を引きだすために交渉する余地は閉ざされた。そして、EU各国は「英国のEU離脱決定に後戻りの道はない」との立場を示している。
ドイツのメルケル首相は「いいとこどりは許さない」、「単一市場にアクセスするためには義務を果たさなければならない」と厳しい発言を繰り広げている。この背景には、EUから離れる決断をした国は、その責任を取らなければならないという強い考えがある。
厳しいスタンスを表明することで、EU各国が離脱に傾き欧州の政治がより不安定になることを防ごうとしている。当面、ドイツの姿勢が簡単に変化するとは考えづらい。英国は困難な交渉に直面するだろう。
有利な条件を引き出したかった英国、それを許さないEU、明らかに両者の利害は対立している。その状況の中、離脱交渉、今後の通商交渉がスムーズに進むとは考えにくい。EUが少しでも譲歩の姿勢を示せば、欧州懐疑主義を掲げる各国の政治家の動きが活発化し、離脱を求める声の連鎖が起きる恐れがある。
ドイツ等は英国に対してより厳しく、一切の甘えを許さない勢いで離脱を迫る可能性がある。それは英国内での政治をさらに混乱させるだろう。スコットランドなどが想定以上の速さでEU加盟の手続きを始めれば、英国世論は今以上にEU残留論を求めるはずだ。
そうなると、国民投票の再実施などの機運が高まり、再度、残留と離脱双方が舌戦を繰り広げることになるかもしれない。状況はより不安定に向かいやすい。様々な問題が顕在化するのは、むしろこれからと考えた方がよい。
■EUの政治不安が日本にも影響
経営戦略の見直しを迫られる企業も
わが国では、英国と関連する経済規模が相対的に小さいことから、「EU離脱の影響は軽微」との指摘を効くことが多い。しかし、今回の問題はEUという共同体、単一市場をベースに考えるべき問題だ。
なぜなら、金融市場は欧州全体の政治動向を懸念しているからだ。28ヵ国から成るEUは、世界のGDPの20%のシェア、5億人の人口を誇る。中国からの輸出を例にとってみると、日本向けの割合が6%程度である一方、EUのシェアは16%程度になる。
EUの政治不安が金融市場の混乱につながった場合、直接投資の落ち込みや消費者心理の悪化は避けられない。それが、わが国に与える影響は軽視すべきではない。
短期的に、英国の政治動向、EUの対応や各国の離脱機運などを受けて、為替、株式の市場は不安定な展開になる可能性が高い。米国の利上げも期待しづらく、円は買われやすく円高が進むことが想定される。それは、企業業績の下振れなどを通してわが国の景気を圧迫する要因だ。
トヨタや日産、日立など、英国に拠点を置く企業は戦略の見直しを迫られるだろう。また、EU離脱が実現するのであれば、単一パスポートの失効により、金融機関も欧州事業の再考を迫られるはずだ。
英国のEU離脱による企業の経営戦略の変更は不可避と言え、先行き不透明感を嫌う投資家心理が株への売り圧力を高めやすい。
■中長期的には影響が出かねない
世界の安全保障や経済への懸念
中長期的には、世界の安全保障にも影響が出かねない。欧州と英国が離脱交渉を進めている隙を狙って、中国が欧州進出を画策したり、ロシアがウクライナへの圧力を強める可能性がある。その場合、「欧州政治の不安定化が、北大西洋条約機構(NATO)の抑止力を低下させている」との懸念が高まるかもしれない。
また、中国経済が減速する中で、世界経済を支えてきた米国経済の先行きにも少しずつ不安要素が見え始めている。今すぐ米国の景気が大きく減速するとは考えづらいが、労働市場が完全雇用に近いとみられる中、徐々に景気はピークを迎える可能性がある。
主要国の金融・財政政策が策を打ち尽くした状況にある中、米国に代わる世界経済の牽引役が見当たらないことも問題だ。
仮に米・中の景気減速、更なる欧州の政治混乱が同時に進むと、世界の経済はこれまでに経験したことのない厳しい状況に直面する可能性がある。その場合、わが国も円高、株安、そして企業業績の悪化など、多くのマイナス要因に直面するだろう。
英国のEU離脱は政治リスクに端を発する金融市場の混乱を通して、わが国にも無視できない影響を与える恐れがあることは冷静に考えるべきだ。
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