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“安全資産”ではない円が買われる本当の理由
2016年07月04日(月)塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
大きな危機が発生すると、円高ドル安になる場合が多く、そうなるとニュース解説などでは「危機が発生したので、投資家たちがリスクを回避する姿勢を強めたため、安全資産である円が買われたものです」といった説明がなされます。円はドルより安全だから、ドルよりも円が買われてドル安円高になった、というわけです。しかし、円は本当にドルよりも安全な資産なのでしょうか?
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円が安全資産だったのはリーマン・ショックの時
リーマン・ショックの時、大幅なドル安円高となりました。リーマン・ショックは米国発の危機であり、米国や欧州の金融機関は大きな痛手を被っていました。そうした中で、日本の銀行は、不良債権が少なく、相対的に安全でした。その意味では、円が文字通りの安全資産だったわけです。そこで、「今日も安全資産である円が買われました」といった報道がなされていたわけです。
しかし、リーマン・ショックが終わり、米国や欧州の金融機関が健全になってみると、円が安全資産という表現は不適切にも思われます。米国は、経常収支こそ赤字ですが、世界最強の軍事力を持っており、世界最大の経済力を持っています。
一方の日本は、経常収支こそ黒字ですが、自衛力は限定的で、経済力も米国には遠く及びません。政府の財政赤字は巨額で、財政が破綻するのではないかと心配している人も少なくありません。そんな国の通貨が米ドルよりも安全資産だ、というのは理解不能です。
そこで本稿では、危機が起きると円が買われる本当の理由について考えてみましょう。
経常収支黒字分は投資家が買っている
貿易収支、経常収支が黒字の国では、輸出企業等が持ち帰ったドルを売りに出しても、輸入企業等が全部は買ってくれないので、残りは投資家が買うことになります。
日本人投資家は、「円をドルに換えて、米国債を買おう。ドルを持っていると、円高になって損をするリスクがあるが、米国債は日本国債より金利が高いから、儲けを狙ってリスクをとろう」と考えてドルを買います。もちろん、金利だけではなく、「今のドルは安いから、暫く持っていればドルが値上がりするだろう」と考えてドルを買う投資家もいますし、米国の株などを買うためにドルを買う人もいますが、いずれの投資家も「今ドルを買えば儲けが期待できるから」という理由でドルを買っているわけです。
外国人投資家の中にも、日本の銀行から円を借りてドルに換えて米国の株を買う人がいます。彼等は、「米国の銀行からドルを借りるより、日本の銀行から円を借りる方が金利が低いから利益が出る。返済するためにドルを円に換える時、円高ドル安になっていると為替差損を被るリスクはあるが、儲けを狙ってリスクをとろう」と考えるわけです。
日本は長い間、貿易収支や経常収支が黒字でしたから、こうして内外の投資家に買われて行ったドルが巨額にのぼっています。こうしたドルは、「いつか円に換えなくてはならないドル」なので、「投資家のポジション」と呼びます。米国人が米ドルを持っているのは普通のことですが、米国人投資家が「日本人から借りた円をドルに換えて持っている」とすれば、それはその米国人投資家のポジションなのです。
問題は、ドルのポジションを持っている投資家が、ドルを売りたくなった時に、ドルを買ってくれるのは他の投資家しかいない、ということです。つまり、巨額のドルのポジションが、投資家の間を行き来しているのです。
投資家の判断基準は「リスクとリターン」
投資家が投資判断をする際に考えることは、どれくらいのリスクがあって、どれくらいの利益が見込めるのか(期待リターン、すなわちメリットがあるか)、ということです。「儲かりそうなら(期待リターンが大きいなら)、リスクをとっても構わない」という判断になるわけです。
ここで大切なのは、期待リターンの大きさ、リスクの大きさと、今ひとつ投資家たちのリスクに対する考え方です。世の中には「リスクがあっても挑戦したい」という人と「リスクがあるならやめておこう」という人がいますし、同じ人でも局面によって判断が変わることもあります。投資家たちが「リスクがあってもリターンを狙って投資をしたい」と考える時、投資家たちが「リスク・オン」状態だと言います。反対にリスクを避けたいと考える時、「リスク・オフ」状態だと言います。
投資家たちがリスク・オン状態の時は、多少期待リターンが少なくても、多少リスクが大きくても、投資を行ないますが、リスク・オフ状態のときは、多少期待リターンが高くても、リスクがあれば投資は行ないません。
今の円高は投資家のリスク・オフ化によるもの
今回の英国のEU離脱というニュースに接し、投資家たちは「何か大変なことが起きるかもしれない。とりあえず為替リスクなどのリスクをとらずに、何が起きても困らないような状態でしばらく静かにしていよう」と考えました。「リスク・オフ」状態になったのです。
そうなると、ドルの「ポジション」を持っている投資家は、ドルを売ろうとします。いつかはドルを売って円に換えなければならないというポジションを持っていると、円高ドル安になった時に損をしてしまうので、そうしたリスクを避けようとするわけです。
問題は、ドルを買おうという投資家が少ないことです。投資家たちが「リスク・オフ」になっているわけですから、積極的に「米国債は金利が高いからドルを買って米国債に投資しよう」という投資家は少ないのです。そこで、売り注文が買い注文より多くなり、ドルは値下がりしていきました。
ドルの値下がりが止まるのは、ドルが充分に値下がりして、投資家たちが「今ドルを買えば、大きな利益が見込めるから、リスクは避けたいけれど、こんなチャンスは見逃せない」と考えるようになった時です。
リーマン・ショック時はトリプルパンチだったが……
リーマン・ショックの時は、投資家たちが極端なリスク・オフになりました。何が起きるか全くわからないので、今回と比べても遥かに明確に、とにかくリスクをとらずに静かにしていよう、という事だったわけです。
加えて当時は、米国の景気が急激に悪化し、米国の金融が緩和され、米国の金利が下がりました。日本の景気も悪化しましたが、日本の金利はリーマン・ショック前からゼロだったので、日本の金利は下がりませんでした。そうなると、投資家たちにとって、「日本国債を売って米国債を買う」あるいは「ドルを借りる代わりに円を借りて投資をする」ことのメリットが小さくなります。
投資家にとって重要なのは、日米の金利差なのです。米国の金利が高くても、日本の金利も同じくらい高ければ、わざわざリスクをとって米国債を買ったり日本から円を借りたりする必要は無いからです。
ドルを持っていることのリスクが変わらないとすると、メリットが小さくなり、しかも投資家たちがリスク・オフになったのですから、ドルにとってはダブルパンチで売られることになったのです。
さらに、冒頭に記したように、当時は円が文字通りの安全通貨でしたから、「米国や欧州では何か大変な事が起きるかもしれないが、日本は大丈夫だろうから、資産は日本円で持っていよう」と考えた投資家も多かったわけです。
つまり、当時はトリプルパンチで大幅なドル安円高になったので、今回はシングルパンチですから、前回と同様の幅でドル安円高になることは到底考えられない、というわけです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7174
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