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リーマン・ショックは2008年9月15日に起きた。今回の英国のEU離脱はリーマンとどう違うのか(2008年9月16日の日経平均、AP/アフロ)
「EU離脱ドミノ」は本当に起きてしまうのか 「英国EU離脱」と「リーマン」の違いとは?
http://toyokeizai.net/articles/-/124762
2016年06月28日 近藤 駿介 :金融・経済評論家/コラムニスト 東洋経済
■「金融ショック」と「政治ショック」はどこが違うのか
英国のEU離脱ショックで、世界の金融市場はまさかの大波乱に陥った。6月26日付の日本経済新聞は、「24日一日で世界の株式時価総額の約5%に相当する3.3兆ドル(330兆円強)が消失した」と報じている。
株価の下落幅や円高の幅が2008年のリーマン・ショック時を上回ったことで、メディアからは「英国のEU離脱ショックはリーマン・ショック以上である」との指摘も出てきている。
しかし、「金融市場での短期的値幅」でショックの大きさを測るというやり方は、あまり賢明なものではない。リーマン・ショックと英国のEU離脱ショックの間には「ショックの質」に大きな違いがあるからだ。
それは、前者が「金融ショック」であるのに対して、後者は「政治ショック」だという点である。「金融ショック」も「政治ショック」も、金融市場や経済に大きな影響を及ぼすという点では同じである。異なるのは「貸したカネが返ってこない」という事態を伴うかどうかだ。
「金融ショック」は簡潔に言うと「貸したカネが返ってこない」ことによって生じるショックである。これに対して、今回の英国のEU離脱ショックは、想定外の出来事ではあったが「貸したカネが返ってこない」という事態が原因だったわけではない。
「貸したカネが返ってこない」恐怖に直面した投資家は、他にも「貸したカネが返ってこない事態」に見舞われることを恐れ、資金回収に走ることになる。それ故に「金融ショック」による負の連鎖は、投資家が投資資金を回収し終え、不安から解放されるまで続くことになる。
■リーマン・ショックは、カネの回収に半年かかった
リーマン・ショックが発生したのは2008年9月15日だった。NYダウはその日のうちに500ドル強下落し、この後さらに半年に渡って4370ドル、率にして約40%下落し続け、その後の安値6547ドルを付けたのは、ショック発生から半年が経った2009年3月9日であった。
これは、投資家が貸したカネの回収を終え、「貸したカネが返ってこない」恐怖から解放されるまでに、半年という時間を要したということである。
2010年に表面化したギリシャ危機は、一見「政治ショック」のようであるが、その本質は「国債が償還できない」という「金融ショック」だった。それ故に、金融市場は「ギリシャの次」を探し続け、南欧全体の危機に広がっていくことになったのである。
今回の英国のEU離脱という事態を受け、多くのメディアが「EU離脱ドミノ」が起きる危険性を指摘している。確かに「EU離脱ドミノ」はあり得る。しかし、それは「貸したカネが返ってこない」という事態が引き起こすものではないため、金融市場や実体経済に及ぼす影響は、「金融ショック」とは異なるものになるという認識が必要だろう。
英国のEU離脱という欧州の秩序を崩す出来事が、世界経済と金融市場に及ぼす最終的な影響は、リーマン・ショック以上になるかもしれない。しかし、金融市場における反応は、これから2年以上続く離脱交渉の行方を睨みながらの長期戦になる可能性が高く、リーマン・ショック後の反応とは異なって来る可能性が高い。
巷では「英国の次」として、日本時間27日に総選挙が行われたスペイン(結果はEU協調派の与党が勝利)や、EUに否定的なローマ市長が誕生したイタリア、極右政党が勢力を伸ばしているフランスやオランダの名前が取沙汰されている。しかし、この中にEU離脱を問う国民投票が決まっている国はない。
「英国の次」になる候補国で国民投票の実施が決まり、さらに国民投票で離脱という結論が出るまでには、相当の時間が必要である。金融市場が「EU離脱ドミノ」シナリオに賭けるには、あまりにも時間が掛かり過ぎるうえ、不確実性も高過ぎる。こうした現実を考えると、現在のような噂の段階で金融市場が「EU離脱ドミノ」を理由に暴力的になることは考えにくいといえる。
■もしユーロ採用国がEUを離脱するとどうなる?
また、EU離脱と、ユーロ離脱を混同してはいけない。
今回英国がEU離脱に踏み切れたのは、共通通貨ユーロを採用していなかったことも大きい。これに対して「英国の次」となる候補国のほとんどは共通通貨ユーロの採用国である。
忘れてならないことは、ユーロ採用国がEU離脱をするということは、ユーロから離脱することにもなるということである。
ユーロから離脱するということは、その国は自国の通貨を持つことになるということだ。現在のユーロの価値は、中心的な役割を果たしているドイツ経済に大きく依存している。こうした中で、ユーロから離脱して、ユーロに対して強い通貨を持てる国がどのくらいあるのだろうか。
欧州の主要国は国債の40%前後を海外に頼っている。このような状況下で新たに発行される自国通貨がユーロに対して安くなってしまえば、対外債務が増えることを意味する。海外の投資家が国債を購入してくれているのも、ユーロ採用国には為替リスクがないからである。
つまり、ユーロを離脱し自国通貨を採用するということは、海外投資家に為替リスクを生じさせることになる。新たに為替リスクが生じるとしたら、海外投資家がこれまでと同じように国債を購入してくれるとは限らなくなる。
自国通貨が弱くなれば海外からの調達が難しくなることで財政的破綻リスクが高まり、緊縮財政を強いられることで自国経済の悪化を招くことになりかねない。
このように考えると、ユーロ採用国がEU離脱をするためのハードルは極めて高いといえる。ちなみに、財務省の資料によると、英国国債の海外保有比率は27%(2015年6月)と、39%のイタリア、40%のフランス、60%のドイツなどと比較して欧州の中で相対的に低い水準になっている。この点でもユーロ採用国よりも影響が少なくて済む立場にあったともいえる。
一方、「EU離脱ドミノ」だけでなく、英国内からもスコットランドが独立してEUに参加しようとする動きも出てきている。しかし、これも非現実であるといえる。
スコットランドが独立してEUに加盟するということは、EU離脱を決定したイングランド、ウェールズ、北アイルランドとの取引において関税等が掛かるようになるということだ。さらに、仮にスコットランドが英国から独立してEUに加盟することになれば、イングランド銀行が発行するポンドではなく、共通通貨ユーロを採用することになるはずである。
ということは、スコットランドと、イングランドなどEU離脱を決定した旧英国との間では、関税と為替リスクが生じるということになる。しかも、英国のEU離脱によってポンドが対ユーロで値下がり(ポンド安)になるとしたら、スコットランドから旧英国への輸出は減る可能性が高い。
■「EU離脱ドミノは広がらない」と気づく瞬間が来る
さらに、スコットランドがユーロ採用国になるということは、旧英国との貿易において、他のEU諸国をライバルに回す危険な選択でもある。
英国EU離脱決定に備えて、主要国は為替市場でポンドが急落した場合の対応を協議していた。しかし、事前協議では、英国側が協調介入でポンドを買い支えることに難色を示したことが報じられている。これは、英国が「政治ショック」による経済的打撃を、自国通貨ポンド安によって和らげることを考えていることを示唆したものである。
もしスコットランドが英国から独立してEU及びユーロに加盟した場合、英国とは反対に、ユーロ高のリスクを背負い込むことになる。
こうした現実的な問題を抱える中で、スコットランド国民が本当に英国から独立してEUに加盟するという選択をするのは、可能性として高くないと思われる。
スコットランドが大英帝国の一員としてEUに残留するということと、英国から独立してEUに加盟するということは、EUの一員であり続けるという点では同じかもしれないが、金融・経済的に全く異なることになる。
英国のEU離脱ショックは、最もEUから離脱しやすい国が起こした「政治ショック」だといえる。噂としての「EU離脱ドミノ」は広がる可能性はあるが、「水は低きに流れる」ということを考えると、最もEUから離脱しやすい英国で起きた「EU離脱」が、より離脱が困難な国に広がっていき「EU離脱ドミノ」を招くという見方には懐疑的にならざるを得ない。
しばらくは「EU離脱ドミノ」が金融市場を動かす主役になるかもしれない。だが、金融市場が「EU離脱ドミノ」がいつまでも主役を張り続けることは出来ないということに気付くまで、それほど長い時間を必要としないはずである。
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