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三菱東京UFJ銀行が「国債市場特別参加者」(プライマリーディーラー)の資格を国に返上する(資料写真)
ただごとでは済まない三菱UFJ銀のPD資格返上 日本国債にノー、これは「すでに起こった未来」なのか?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47112
2016.6.20 加谷 珪一 JBpress
財務省を頂点に形成されてきた国債市場の厳格なヒエラルキーに綻びが見え始めた。三菱東京UFJ銀行が、有利な条件で国債の入札に参加できる「国債市場特別参加者」(PD:プライマリーディーラー)の資格を国に返上することが明らかになったからである。
日本の金融行政はかつて護送船団方式と呼ばれ、市場メカニズムとは遠くかけ離れた場所にあった。PDによる国債消化の仕組みはその名残りともいえる。
三菱UFJ銀行の離脱によって、すぐに国債の消化に問題が起きるわけではないが、将来的な金利上昇リスクは高まったとみてよいだろう。
■財務省を頂点とした特権クラブ
プライマリーディーラー制度は、国債の消化を最優先することを目的に導入された特殊な制度である。プライマリーディーラーの資格を持つ金融機関は、国債の入札について財務省と情報交換できる一方、すべての入札で発行予定額の4%以上の応札が義務付けられている。
情報交換というともっともらしいが、何のことはない、儲かることを保証する代わりに、国債の応札にノルマを課し、国債消化を確実にする役割が暗に求められている。これは一種の談合に近いシステムといってよい。
かつて日本における国債の発行市場は、大蔵省(現財務省)を中心に参加者の合議で価格を決めるシンジケート団が取り仕切っていた。その後、市場メカニズムへの移行が実施され、シンジケート団による国債の引き受け制度は廃止された。しかし、PD制度という新たな仕組みが導入されたことで、実質的にはシンジケート方式による国債消化に近い形が温存されている。
この制度が従来の枠組みを引き継いでいることは、本来、債券ディーラーではないはずのメガバンク各行が、プライマリーディーラーの資格を保有していることからも伺い知ることができる。
日本政府から国債を引き受け、機関投資家に販売する役割を持つPDは、流動性を確保するために存在しており、自身が投資家として積極的に国債を長期保有するわけではない。財務省から国債を引き受けたPDは利益を上乗せして機関投資家に転売することで利益を得る。
つまりPDは、最終的に国債を購入する投資家がいる限り、確実に利益を出すことができる。一方で、政府による国債発行のタイミングや機関投資家のニーズをうまく調整し、需給のバランスが崩れないようにうまく取引しなければならない。
■PD離脱の直接的な理由はマイナス金利政策
こうした役割は通常、証券会社が担うことになるのだが、日本の場合、少し様子が異なっている。現在、PD制度の資格を持つ金融機関は22社あるが(三菱UFJ銀行が抜ければ21社になる)、この中にはメガバンク3行が含まれている。
メガバンクは、本来、国債を購入する機関投資家であって仲介事業者ではない。つまり売り買いの間に入る事業者が国債の最終的な買い手を兼務している状態であり、市場の透明性を考えた場合、あまり望ましい状況とはいえない。理屈上、メガバンクは自社に有利になるように価格を調整することができてしまうからである。
だが、日本のPD制度はむしろそうしたことを念頭に置いて設計されている。国債の最大の買い手であるメガバンクをあえてディーラーに指定することで、政府が国債を安定的に消化できるよう取り計らっているのだ。メガバンクの中でも三菱東京UFJ銀行の立場は特別で、事実上、国債の消化に全責任を負う立場だった。
このような特権クラブの頂点に立っていた同行が資格の返上を検討するというのは、尋常なことではない。同行が資格返上を決めたのは、マイナス金利政策によって国債保有のメリットが大幅に低下しているからである。
メガバンク各行は、銀行の収益を悪化させるマイナス金利政策に強く反対している。このところ日銀との対立が先鋭化しており、特に三菱グループはマイナス金利について否定的な見解を何度も示している。同行は国債市場の環境変化以外に、資格返上の理由を明確にしてはいないが、日銀とメガバンクの対立が大きな要因になっていることはほぼ間違いない。
■これまでやりたい放題だった格付け会社がなぜか無言
三菱東京UFJ銀行がプライマリーディーラーの資格を返上したからといって、すぐに国債市場に影響が出ることはないだろう。残りのメガバンク2行は当面静観の構えであり、三菱グループも、系列の証券会社を通じて大量の国債を購入するなど、引き続き、国債の安定消化に責任を負うというスタンスを示している。
だが、長期的に見た場合、同行が離脱する影響は大きいと言わざるをえないだろう。日本の国債管理政策はまさにガラス細工であり、ごく小さな綻びでも、全体のバランスを大きく崩してしまうリスクをはらんでいる。過大な政府債務を抱えながら、日本国債の金利が低いままで推移しているのは、こうした特殊な入札方式によるところが大きく、この体制が崩れてしまった場合には、国債価格を維持できる保証はなくなってしまう。
このところ日本国債の価格維持に関する象徴的な出来事が続いている。安倍首相は6月1日の記者会見において「新しい判断」をもとに、消費増税の再延期と財政出動の実施を表明した。また外資系格付け会社は今回の決定になぜか反応せず、今度は三菱UFJ銀行がPDを離脱してしまった。
日本政府は2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという公約を掲げている。安倍氏は、プライマリーバランス黒字化という目標は堅持すると付け加えたが、今回の表明は事実上、目標の撤回に近い。これまで財政再建目標の実現は「かなり難しいが不可能ではない」という水準だったが、今回の表明で、財政再建は「ほぼ不可能」という新しい段階に入った。
プライマリーバランスは、単なる指標の1つであり、絶対視するようなものではない。だが、これまで掲げてきた目標値の達成を事実上放棄したというのは、長い目で見た場合、重要な折り返し地点になった可能性がある。
格付け会社が今回の出来事に反応していないことも気になる点である。外資系格付会社のこれまでのロジックを考えると、今回の決定は当然、引き下げの対象となるはずである(彼等のロジックの是非はともかくとして)。だが米S&Pグローバル・レーティングと米ムーディーズの2社は現状の格付けをなぜか維持した。
リーマン・ショックの例を引き合いに出すまでもなく、格付け会社というのは、本当に危機が迫っている時には、あまり役に立たない存在である。今回、引き下げを実施した場合、国債の金利上昇の引き金を引くのではないかという心理的なバイアスがかかっていたのだとすると、これは逆に憂慮すべき事態であるともいえる。
■一連の出来事はすでに起こった未来?
量的緩和策が続く限り日銀は国債を買い続けるので、今のところ国債価格が変動するリスクは小さい。しかし、量的緩和策にもいつかは限界がやってくる。仮に取得した国債を永久債的な扱いとして、出口戦略にシフトしないとしても、国債の価格維持がままならなければ、日銀に損失が発生し、最後は国民の負担となってしまう。
日本の財政が破たんし、国債が紙切れになる可能性は限りなく低い。しかし、国債金利の数%台への上昇は十分にあり得る話である。国内では金利が上昇することはないといった過度な楽観論も目立っているが、バブルが崩壊していた1992年ですら、金利は5%台後半だったという事実を忘れてはならない。
ちなみに、今の政府債務の水準から大きく改善しない場合、金利が数%に上昇しただけで、利払い額は税収に近づき、事実上、日本政府は予算を組めなくなる。政府は支出を大幅に削減せざるをえなくなるだろう。
公的年金や医療は国民からの保険料だけで運営できているわけではない。公的年金は収入の22%が、医療費については25%が国庫からの補助となっている。歳出が一律削減となれば、これらにも影響が及ぶことになる。
このような変化は通常、非連続的に発生するものである。つまり、その日は突然やってくる。だが、大きな変化が訪れる前には、必ずその兆候が観察されているはずだ。経営学者であるドラッカーの名言に「すでに起こった未来」というものがある。財政再建目標の事実上の撤回、格付維持、プライマリーディーラーからの離脱といった出来事は、単体で見れば小さな出来事かもしれない。しかし、長い目で見れば、これは、すでに起こった未来なのかもしれない。
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