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若年層の消費実態(2)−食料費や被服費の減少と住居費の増加、薄まる消費内容の性差
生活研究部 准主任研究員 久我 尚子別ウィンドウで全文表示(PDF)
■要旨
• 「若年層の消費実態(2)」では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出の主要項目の変化を確認する。男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少、「住居」や「光熱・水道」は増加している。
• 1989年と2014年を比べると、男女とも「食料」の支出は約3割減少しており、男性では外食費、女性では個別品目の全体的な減少が影響している。また、「被服及び履物」は男女とも約6割も減少しているが、個別品目を見ても全体的に減少している。
• 一方、「住居」は増加しているが、若者が住環境にこだわるようになったというよりも、調査対象の変更や景気低迷による企業の福利厚生制度の縮小等により「家賃」への支出が増えた影響と考えられる。
• 消費支出主要項目の男女差を見ると、「食料」や「教養娯楽」を除くと、おおむね女性の方が多い。また、1989年と2014年の支出の男女差を比べると、主要10項目のうち7項目で男女差が小さくなっており、若年単身勤労者世帯では消費内容の性差が薄まっている可能性がある。
■目次
1――はじめに
2――消費支出主要項目の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化
〜「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
2|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の男女差
〜「食料」・「教養娯楽」以外は女性が多い、薄まる消費内容の男女差
3――おわりに
1――はじめに
「若年層の消費実態(1)」では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の家計収支に注目した。よく世間では、「今の若者はお金がない」「お金を使わない」と言われるが、単身勤労者世帯の可処分所得はバブル期より増えており、「今の若者はお金がない」わけではないようだ。一方、消費支出は2009年頃までは増加傾向にあったが、可処分所得の増加に対して抑えられており、直近ではバブル期より減っていた。つまり、手元のお金が増えても消費を控えるようになっており、今の若者は確かに「お金を使わない」傾向がある。
第二弾の本稿では、消費支出の変化に注目する。「全国消費実態調査」では、消費支出の内訳を「食料」をはじめとした10の項目で捉えており、本稿ではそれら主要項目の変化を確認する。
2――消費支出主要項目の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化〜「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出主要項目の推移を見ると、男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少傾向、「住居」や「光熱・水道」は増加傾向にある(図表1)。また、「交通・通信」や「教養娯楽」は1999年前後頃に増加し、近年はやや減少している。
これらの変化により、1989年では、男性の消費支出額は1位「食料」(4.9万円)、2位「交通・通信」(2.8万円)、3位「教養娯楽」(2.4万円)の順に多かったが、2014年では1位「住居」(3.9万円)、2位「食料」(3.7万円)、3位「教養娯楽」(2.5万円)と変わり、「住居」が上位にあがっている。一方、女性では、1989年は1位「食料」(3.1万円)、2位「住居」(2.7万円)、3位「被服及び履物」(2.1万円)であったが、2014年は1位「住居」(4.2万円)、2位「交通・通信」(2.9万円)、3位「食料」(2.7万円)と変わり、男性と同様に「住居」の順位が上がっている。また、女性では、上位に「交通・通信」があがる一方、「被服及び履物」は姿を消している。
なお、「食料」や「被服及び履物」の消費者物価指数(CPI)は、1989年と比べて2014年では上昇しているため(図表2)、これらの支出額の減少は価格下落による影響ではない。仮にCPIが支出額と同程度に低下していれば、価格下落の影響により支出額が減ったことになる。
「食料」と「被服及び履物」について、CPIを考慮した実質増減率を見ると、いずれも大幅に低下している(図表3)。「食料」について1989年と2014年を比較すると、男性では4.8万円から3.7万円(実質△34.7%)、女性では3.1万円から2.7万円(△25.8%)へ減少しており、男女とも3割程度も支出が減っている。また、「被服及び履物」は男性では1.1万円から約5千円(実質△58.6%)、女性では2.1万円から約9千円(△61.6%)へ減少しており、男女とも実に6割程度も支出が減っている。男女とも「被服及び履物」の実質増減率は、消費支出の主要項目の中で最も低下している。
このように、若年単身勤労者世帯では「食料」や「被服及び履物」の支出が大きく減っている。それぞれの内訳の変化を大まかに述べると、「食料」の減少は男性では主に外食費の減少、女性では各種食材の全体的な減少によるものである。また、「被服及び履物」の減少は、男女とも「洋服」や「シャツ・セーター類」をはじめとした個別品目の全体的な減少によるものである。これらの詳細については後続レポートの個別分析にて、社会環境の変化等にも触れながら見ていくこととする。
一方、「住居」はCPIの上昇幅を上回って増加しており、物価上昇の影響以上に増えている。1989年から2014年にかけて、「住居」は男性では1.8万円から3.9万円(+79.3%)、女性では2.7万円から4.2万円(+29.6%)へ増えており、特に男性で著しく増加している。
この点については、「全国消費実態調査」では、2009年より調査対象から下宿や賄い付き世帯を除いている。よって、「住居」の内訳の大半を占める「家賃」の平均額が増えたことで住居費が増えた可能性がある。また、このことは「光熱・水道」の支出増にも影響している可能性がある。
また、バブル期以降で長らく続く景気低迷を背景に、福利厚生制度を縮小する企業も出てきたこと(社宅保有率の低下1、住宅補助制度の縮小等)や若年層における非正規雇用者の増加などから、勤務先の福利厚生制度を利用できずに、自ら家賃を払わざるを得ない層が増えたことで、「家賃」の平均額が増えた可能性もある。
以上より、住居費の増加は、若者が住環境にこだわるようになり、お金をかけるようになったというよりも、調査対象の違いや景気低迷といった外的要因の影響が大きいだろう。
さて、1999年前後で増減している「交通・通信」と「教養娯楽」については、それぞれの内訳に近年のCPIの動向が大きく異なるものが含まれているため、項目全体としては傾向が捉えにくい。例えば、「交通・通信」のCPIは、1989年から2009年まで低下傾向を示して2014年に上昇しているが、内訳に含まれる「交通」のCPIは一貫して上昇傾向にあり(1989年を100.0とすると2014年は121.2)、「通信」は低下傾向にある(同様に2014年は68.9)2。また、「教養娯楽」のCPIは一旦上昇した後に近年低下しているが、内訳である「教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラなどの家電製品等)」のCPIは大幅に低下している(1989年を100.0とすると2014年は5.9)。一方、「教養娯楽サービス(旅行費や月謝類等)」のCPIは上昇している(同様に2014年は119.7)。よって、後続レポートにて個別品目の状況を見ていきたい。
________________________________________
1 財団法人労務行政研究所「社宅・独身寮の最新動向(2008)」
2 総務省「消費者物価指数」
【次ページ】若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の男女差
2|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の男女差〜「食料」・「教養娯楽」以外は女性が多い、薄まる消費内容の男女差
消費支出の主要項目について男女差を見ると、1989年も2014年も、「食料」や「教養娯楽」を除くと、おおむね男性より女性の方が消費支出額も消費支出に占める割合も大きい(図表4)。なお、「交通・通信」では1989年では男性の方が多いが、2014年では女性の方が多くなっており、男女逆転にしている。これは、内訳である「自動車等関係費」が男性で減少する一方、女性で増加していることが影響している3。30歳未満の単身勤労者世帯では、男性では自動車保有率が低下する一方、女性では自動車保有率が上昇し、2014年では男性並になっている。
なお、男性で多い「食料」については、男性では女性より外食費が多いことが影響している。また、同様に「教養娯楽」については、男性で旅行費や書籍費等が多いことが影響している。
なお、1989年と2014年の消費支出額の男女差を比べると、「食料」や「住居」、「光熱・水道」、「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「交通・通信」、「その他の消費支出」では男女差が小さくなっている(正・負の値によらず絶対値が小さくなっている)。また、消費支出に占める割合を見ても同様である。つまり、主要10品目のうち7品目で男女の支出差が小さくなっており、詳細を見る必要はあるが、若年単身勤労者世帯においては消費内容の男女差は薄まっている可能性がある。
________________________________________
3 後続レポートにて詳細を記述する。
3――おわりに
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出の主要項目の変化を確認した。1989年以降、男女とも「食料」や「被服及び履物」の支出が減少傾向にある。1989年のバブル期と2014年を比べると、「食料」は3割程度、「被服及び履物」は6割程度も減っていた。一方、増加している「住居」については、調査対象や社会環境の変化等の外的要因の影響がうかがえた。また、「交通・通信」や「教養娯楽」は増減しているが、内訳に近年のCPIの動向が大きく異なるものが含まれているため、後続レポートにて個別品目の状況を見ていきたい。
消費支出の主要項目の男女差を見ると、1989年も2014年も、「食料」や「教養娯楽」を除くと、おおむね男性より女性の方が支出は多い。なお、男性で多い「食料」は外食費の影響、「教養娯楽」は旅行や書籍等の影響である。また、1989年と2014年を比べると、主要10品目のうち、「食料」や「被服及び履物」等の7品目で男女の支出差が小さくなっており、詳細を見る必要はあるが、若年単身勤労者世帯では消費内容の性差が薄まっている可能性がある。
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生活研究部 准主任研究員
久我 尚子 (くが なおこ)
研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング
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http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53117
若年層の消費実態(1)−収入が増えても、消費は抑える今の若者たち
2016年06月06日 生活研究部 准主任研究員 久我 尚子
要旨
• 総務省「全国消費実態調査」は、1959年から続く5年毎調査で、国民の消費生活を捉える上で最も大規模なものである。これから数回に渡り、同調査の最新値等を用いて若年層の消費実態を見ていく。分析では、「お金を使わない」現在の若者と消費意欲が旺盛な「バブル期」の若者を対比する。第一弾では家計収支の動向を示す。
• 1989年以降、30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得は男性では増加傾向、女性では2009年まで増加し2014年で減少。バブル期と直近を比べると、男女とも実質増減率が増加しており(男性では1割以上)、決して「今の若者はお金がない」わけではない。
• 一方、若年層では経済状況の厳しい非正規雇用者の増加により、一人暮らしが難しい層も増加。20代の非正規雇用者の手取り収入を推計すると、30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を下回るが、20代後半で大卒以上であれば月々20万円以上手にしており、バブル期の単身勤労者世帯より手にしている。非正規雇用者でも一律に「今の若者はお金がない」わけではない。
• 30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出は2009年頃までやや増加傾向にあったが、2014年で減少。一方、消費性向は1989年以降で低下傾向。また、概ね男性より女性で消費性向が高く、男性より女性の方が消費意欲は強い。
• 今の若者は手元のお金が増えても消費は控える傾向が強まっており、「お金がない」わけではないが、「お金を使わない」ようになっている。
■目次
1――はじめに
2――可処分所得の変化
1|若年単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高
〜バブル期より概ね増加、男性の増加が目立つ
2|若年非正規雇用者の手取り収入
〜20代後半の大卒・大学院卒はバブル期の単身勤労者世帯より多い
3――消費支出の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出の変化〜バブル期より増加、
可処分所得は増えても消費は抑える、女性の方が高い消費意欲
4――おわりに
1――はじめに
2年前に、拙著「若者は本当にお金がないのか?―統計データが語る意外な真実」(光文社新書、2014年6月)にて、総務省「全国消費実態調査」をはじめとした政府統計を用いて若年層の消費状況について分析した。「全国消費実態調査」は1959年から5年毎に実施されている政府の基幹統計調査で、国民の消費生活を捉える上で最も大規模な調査である。著書執筆時点では2009年のデータが最新であったが、その後、新たな調査結果が公表された。そこで本稿を皮切りに、これから数回に渡って、「全国消費実態調査」の最新値等を用いて若年層の消費実態を見ていきたい。なお、「お金を使わない」と言われる現在の若者の特徴をより明確に把握するために、消費意欲が旺盛と言われた「バブル期」の若者と対比していく。まず、第一弾の本稿では、家計収支全体の変化に注目する。
2――可処分所得の変化
1|若年単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高〜バブル期より概ね増加、男性の増加が目立つ
よく世間では「今の若者はお金がない」と言われるが、実際のところ、毎月どれくらい手にしているのだろうか。また、過去と比べてどうだろうか。
30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得は、2014年では男性23.0万円、女性18.3万円である(図表1)。1989年以降の推移を見ると、男性は2009年でやや減少しているものの、概ね増加傾向にある。女性は直近の2014年では減少しているが2009年までは増加傾向にある1。また、バブル期の1989年と2014年を比較すると、男性は+4.6万円、女性は+2.0万円増加しており、消費者物価指数を考慮した実質増減率は男性+12.2%、女性+0.5%である(図表2)。
また、30歳未満の単身勤労者世帯の貯蓄現在高は、2014年では男性190.3万円、女性148.9万円であり、女性は調査年による増減が大きいが、男性は概ね増加傾向にある。1989年と2014年を比較すると、男性は+52.3万円(実質+23.8%)、女性は+16.9万円(同+1.3%)である。
以上より、30歳未満の単身勤労者世帯では、男性はバブル期より可処分所得が1割、貯蓄が2割増え、女性でもいずれも若干増えている(2009年では1989年を大きく上回る)。つまり、30歳未満の単身勤労者世帯に注目すると、決して「今の若者はお金がない」わけではない。
________________________________________
1 総務省「全国消費実態調査」では単身勤労者世帯の集計世帯数が減少傾向にあり、特に2009年から2014年にかけて30歳未満の女性の世帯数で減少が目立つ。よって、当該年度だけでなく過去からの傾向にも留意する必要がある。
2|若年非正規雇用者の手取り収入〜20代後半の大卒・大学院卒はバブル期の単身勤労者世帯より多い
一方、若年層では非正規雇用者が増えており2、経済状況の厳しさから親元同居率も上昇している3。よって、現在の単身勤労者世帯、つまり、一人暮らしができる若者には、大企業の正規雇用者をはじめ同年代の中でも経済状況に余裕のある層が多い可能性がある。そこで、より経済状況の厳しい若者として、非正規雇用者に注目して月々の可処分所得を推計する。
図表3に、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から非正規雇用者の月当たりの手取り額を推計した結果を示す。なお、同調査で示される賃金は所得税や社会保険料等を控除する前の税込み額である。よって、可処分所得を確認するために、同調査から推計した月収推計から、総務省「全国消費実態調査」の30歳未満の単身勤労者世帯の非消費支出(実収入と可処分所得の差分)を差し引いた。また、図表3の注1に示した通り、「正社員・正職員以外」の非消費支出は単身勤労者世帯のものより小さい可能性があり、さらに20〜24歳では年齢区分の違いも加わって、図表3の非正規雇用者の月当たりの手取り額の推計値は実際より少ない可能性がある。
図表3を見ると、非正規雇用者の月当たりの手取り額は、男性の学歴計では20〜24歳が16.6万円、25〜29歳が19.8万円、女性の学歴計では20〜24歳が15.4万円、25〜29歳が17.6万円であり、いずれも2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を下回る。また、非正規雇用者の月当たりの手取り額は、20代前半より後半の方が多く、同じ年齢階層では女性より男性、学歴計より大学・大学院卒の方が多い。この中で比較的手取り額の多い大学・大学院卒の25〜29歳では、男性は22.1万円、女性は20.2万円であり、年齢区分の違いもあるが、いずれも1989年の30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を上回る(実質ベース)。さらに、大学・大学院卒で25〜29歳の非正規雇用女性は2014年の30歳未満の単身勤労者世帯をも上回る。なお、「正職員・正社員以外」のうち大卒・大学院卒は、20〜24歳では男性15.2%、女性15.9%、25〜29歳では男性32.8%、女性30.5%を占める。
以上より、20代の非正規雇用者の収入は、男性では同年代の一人暮らしの若者より少ないが、女性では20代後半で大卒以上であれば上回る。また、非正規雇用者でも、男女とも20代後半で大卒以上であれば(同年代の非正規雇用者の約3分の1)、月々20万円以上手にしており、バブル期の一人暮らしの若者の収入を上回る。つまり、より経済状況の厳しい非正規雇用者でも、20代後半で大学・大学院卒であれば、バブル期よりも収入があり、一律に「今の若者はお金がない」わけではないようだ。
________________________________________
2 総務省「労働力調査」より、若年雇用者に占める非正規雇用者の割合は上昇傾向にあり、2015年では15〜24歳の男性47.2%、女性53.6%、25〜34歳の男性16.5%、女性41.3%を占める。
3 総務省「親と同居の若年未婚者の最近の状況(壮年未婚者も含む)(2012年)」
【次ページ】消費支出の変化
3――消費支出の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出の変化〜バブル期より増加、可処分所得は増えても消費は抑える、女性の方が高い消費意欲
消費支出については家計収支の明確さから単身勤労者世帯に注目する。
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出は、1989年から2009年までは男性では増加傾向、女性でも一部増加が見られるが、2014年では男女とも減少している(図表4・5)。2014年の消費支出は、男性は15.6万円(対1989年実質△9.3%)、女性は16.4万円(同△5.4%)である。
なお、前節で示した通り、30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得は男女とも概ね増加傾向にあった。また、調査年毎に可処分所得と消費支出の対1989年の実質増減率を比べると、いずれも可処分所得の方が高くなっている。つまり、バブル期以降、若年単身勤労者世帯の消費支出は、可処分所得の増加ほどは増えておらず、2014年の直近ではむしろ減っており、消費性向は低下傾向が続いている。
なお、消費性向については、概ね男性より女性の方が高いことが特徴的である。実は、年収階層別に男女の消費性向を比べても、年収階層によらず男性より女性の消費性向が高く4、女性は男性より消費意欲が高い傾向がある。
以上より、今の若者は「お金を使わない」と言われるが、2009年頃までは特に男性ではバブル期と比べて「お金を使わない」わけではない。しかし、消費性向は低下傾向にあり、手元のお金が増えても消費を抑える傾向は強まっている。さらに、2014年ではバブル期より消費も減ることで、今の若者は「お金を使わない」状況にもなっている。
________________________________________
4 久我尚子「女性の消費は日本経済を活性化させる?」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2013/12/10)
4――おわりに
「お金がない」「お金を使わない」と言われる今の若者の状況を確認するために、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の家計収支の状況を見た。その結果、可処分所得はバブル期より増加傾向にあり、今の若者は決して「お金がない」わけではないようだ。また、経済状況の厳しい若者として非正規雇用者の状況を確認したところ、20代後半で大卒以上であれば男女とも月々20万円以上手にしており、非正規雇用者でも一律に「お金がない」わけではないようだ5。
また、消費支出については、2009年頃まではバブル期より30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出は増加が見られ、「お金を使わない」わけではない。しかし、消費性向は低下傾向にあり、直近の2014年ではバブル期より消費も減少しており、可処分所得が増えても消費は抑える様子がうかがえた。
以上より、今の若者はバブル期と比べて決して「お金がない」わけではなく、2009年頃までは特に男性では「お金を使わない」わけでもなかった。しかし、手元のお金が増えても消費は控える傾向は強まっており、今の若者は「お金を使わない」状況になっている。
若者の消費はどう変わったのか。次稿からは、30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出の内訳に注目するとともに、消費社会の状況にも触れながら、若者の消費行動の変化について考察していきたい。
________________________________________
5 しかし、諸所で指摘されている通り、非正規雇用者は将来的な年収増を望みにくく、独身の一人の生活では「お金がない」わけではないが、家族を持つ将来の生活を考えると厳しい状況にあるだろう。
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53061?site=nli
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