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ギクシャクする日銀と政府の関係
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kubotahiroyuki/20160614-00058808/
2016年6月14日 9時23分配信 久保田博幸 | 金融アナリスト
日銀に対する追加緩和期待も市場の一部では強まっているようで、むしろ多くの市場関係者が追加緩和を予想していないことでサプライズ狙いの黒田総裁が動くのではとの期待もある。参院選を控えて安倍首相がアベノミクスの再スタートをスローガンに挙げており、それに呼応する形での日銀の追加緩和を期待する声も出ている。
しかし、サプライズ狙いだとしても日銀にできることは限られている。それでも国債の買い入れ額を10〜20兆円もしくはそれ以上増やすこともできないわけではない。ETFやREITの買入をさらに増やすこともできないわけではないが、いずれもあまり現実味はない。
国債の買い入れを増額させればさせるほど日銀の国債買入が未達となる時期を引き寄せるだけである。ETFやREITの買入増額にもその市場規模から限界があろう。それならば米国債の大量買入はどうか。いま為替絡みで事を起こすと、せっかく関係が改善しつつある米国が黙ってはいない。まして米大統領選挙も控えている。となれば日銀の追加緩和は米国も納得できるよほどの事態の裏付けがないと難しいことになる。もちろん米国の顔色を見ながら政策変更をするわけではないが、自国通貨安政策に対しては国際的な非難を浴びかねない。
そしてアベノミクス絡みでの日銀の動向については、アベノミクスがスタートした頃と現在ではずいぶんと様相が変化している。端的に言えば首相官邸と日銀の関係が当初の二人三脚の関係から、いまはかなり冷え込んだ関係になっていると予想されるのである。
その要因として最も大きいのは消費増税を巡る動きにあろう。特に2014年10月の日銀による量的・質的緩和の拡大の背景のひとつが、消費増税実施を前提に、その景気への配慮が意識されていた。ところが安倍首相は消費増税を先送りした。過去の黒田総裁の発言からも日銀が国債を大量に買い入れている状況下、国債への信認維持のための財政健全化は、財政ファイナンスと意識されないためにも、大きな前提条件となっていたはずである。ところがそのための前提条件であったはずの消費増税について、安倍首相は二度に渡り延期を決定している。日銀としてもこれは心中穏やかではないのではなかろうか。
さらにアベノミクスのリフレ政策の大きな柱ともなった通貨安政策に対して、米国がはっきりとノーを突きつけてきただけでなく、国内の企業などからも過度な円安に対して批判的な声が出ていた。政府としても通貨安狙いとされる日銀の追加緩和に対しては参院選を考えるとそれほど望ましとは考えてはいないのではなかろうか。
今年1月のマイナス金利政策の導入についても、官邸は日銀に対して何をしてくれたのだという見方になっているのではなかろうか。国民の評判が良くない上に、金融機関も日銀に対してプライマリー・ディーラーの資格返上などを通じて暗黙の批判を投げかけている。ここからのマイナス金利の深掘りは、すでに国債のイールドカーブが想定以上に引き下げられているなか、長期金利の低下を通じたものとの理屈において効果はほとんどない。仮にアナウンスメント効果狙いであるとしても、こからのマイナス金利の深掘りは、金融機関、国民さらには選挙も控えた政権をも敵に回すような懸念すら存在している。
最後にここが一番重要なのだが、そもそもアベノミクスによる異次元緩和で物価目標がいっこうに達成されていないという現実がある。それが日銀と政府の関係を余計にギクシャクさせているのではなかろうか。だから追加緩和が必要だとの言うのであれば、それがどのように物価を押し上げるのかを説明する必要もある。
もちろん政府も日銀もアベノミクスとその柱の異次元緩和は成功したと表向きは主張したいところであろう。しかし、それが結局は成功しなかった事実により、サミットを利用して妙な説明を行ったり、異次元ではなく三次元なる緩和を決定したりした。
これらが市場にすでに見透かされていることは、それらに対する株式市場や外為市場の反応からも伺える。これは今後の日銀の追加緩和に関しても同様であろう。その間、リスク回避として日本国債は異常なまでに買われ、その分の国債のリスクを増加させている。
久保田博幸
金融アナリスト
フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。
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