http://www.asyura2.com/16/hasan109/msg/599.html
Tweet |
有効求人倍率が高くても、決して歓迎できない理由
http://diamond.jp/articles/-/92727
2016年6月9日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
有効求人倍率が高くても、雇用条件の改善を意味している訳ではなさそうです
厚生労働省が先日発表した4月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は、3月から0.04ポイント上昇して1.34となった。これは、1991年11月の1.34と並ぶ、24年5ヵ月ぶりの高水準だ。また、就業地別の求人倍率が全都道府県で初めて1を超えた。
厚生労働省は、有効求人倍率の上昇を、「景気が緩やかに回復していることに伴い、雇用情勢も改善している」ことの反映だとしている。
しかし、内容を分析すると、高い有効求人倍率が示すのは、人手不足の深刻化であり、賃金が低い分野での超過労働需要であることが分かる。
■求職者の減少の影響が大きい
有効求人倍率の上昇
第1に注目すべきは、求職者の減少の影響が大きいことだ。
有効求人倍率は、求人数の増加(つまり、雇用条件の改善)だけでなく、求職者の減少(つまり、人手不足の深刻化)によっても上昇する。
これまでは、両者がほぼ同じような影響を与えていた。
2015年12月以降を見ると、求職者の減少の影響のほうが大きい。
図表1に見るように、求職者は、15年12月以降、かなり減少している。16年4月を15年12月と比較すると、約8万6000人の減(4.4%の減)だ。
それに対して、求人数は、4月には増加したのだが、3月まではあまり顕著な増加ではなかった。16年4月を15年12月と比較すると、約1万9000人の増(0.8%の増)にすぎない。
つまり、この期間では、求職減のほうが約4.5倍の規模だったのである。
◆図表1:求人数・求職者数
(資料)一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
■労働人口の減少で
長期的にも労働力不足は深刻化
長期的に見ても有効求人倍率は上昇している。それは、求人数が増えたことにもよるが、労働力人口の減少によって求職者が減ったことの影響もある。
これについては、この連載ですでに指摘した(2015年6月4日、第15回「雇用情勢は好転ではなく、むしろ悪化している」の図表6:有効求人数と有効求職者数の推移)。
長期的に見て労働の需要がどうなるかは分からないが、労働の供給が減ることは間違いない。したがって、労働力不足が深刻化することも間違いない。
今後の日本経済にとって重要な課題は、人手不足に対処することである。厚生労働省は有効求人倍率が高まったことで「雇用条件の改善が進んでいる」としているが、有効求人倍率の上昇は決して無条件に歓迎できるデータではないのだ。
日本経済は長い間、潤沢な労働供給の下に成長を続けてきた。経済政策の課題は、雇用を確保することだった。人々の考えはこのように固定化されてしまっていて、問題の性質が逆転したことを、なかなか理解できない。
■求人倍率が高いのはパート
平均値だけでは判断しがたい
有効求人倍率に関して注意すべき第2点は、平均値だけでは判断しがたい面が多いことだ。
まず、雇用形態別に見ると、倍率上昇が顕著なのは、新規学卒とパートだ。一般の労働者についての倍率が上昇しているわけでは必ずしもない。
図表2では、有効求人倍率を全体、正社員、パートに分けて示してある(この数値は季節調整値ではない)。図から明らかなように、有効求人倍率が継続的に高いのは、パートタイムである(図には示していないが、2012年9月から継続的に1を超えている)。
それに対して、正社員は1をかなり下回る。16年4月には0.85でしかない。パート、新規学卒を除くと、有効求人倍率は1近辺である。
有効求人倍率が高いので、パートタイムの賃金は上がりつつある。しかし、以上のような状況を考えると、賃上げが正社員まで波及するかどうかは分からない。
なお、図表2で分かるように、パートの有効求人倍率は、ごく最近では下がっている。3、4月とかなり急低下し、それによって全数の倍率も低下していることが注目される。
◆図表2:雇用形態別有効求人倍率
(資料)一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
■人手不足はサービス業が中心
職業別にも大きな差
産業別に見ると、教育・学習支援業や医療・福祉、宿泊・飲食サービス業における求人倍率の上昇が顕著だ。
宿泊・飲食サービス業で新規求人が増えているのは、外国人旅行者の増加を反映したものである。しかしこれは円安によって生じた一時的な現象である可能性が強く、今後も継続するかどうかは不明だ。
都道府県別では、最高が東京の2.02、最低が沖縄の0.94だった。
有効求人倍率を職業別に見ると、図表3のとおりだ。
最も高いのは「サービスの職業」であり、2016年4月で2.67になっている。
その中でも、「家庭生活支援サービスの職業」「生活衛生サービスの職業」「接客・給仕の職業」は、3を超えている。
これと対照的に、「事務的職業」では、有効求人倍率は0.36にしかなっていない(表には示していないが、一般事務では、0.28でしかない)。
「サービスの職業」と「事務的職業」を比較すると、有効求人者と有効求職者の関係がちょうど逆になっている。すなわち、事務的職業では求人者が約20万人しかいないのに対して、求職者は58万人もいる。それに対して「サービスの仕事」では、有効求職者が約22万人しかいないのに、有効求人は約58万人いる。
なお、一般的に人手不足が深刻といわれる建設部門は、図表3の「建設・採掘の仕事」で見ると2.84である。また、介護サービスでは2.69だ。「接客・給仕の職業」は3.56で、これらを超えている。
◆図表3:職業別有効求人倍率
(資料)一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
■求人倍率が高いのは賃金の低い分野
決して歓迎できることではない
以上で見たように、有効求人倍率の値は、産業、職業、就業形態、地域などによって大きく異なる。つまり、労働者に対する需要と供給される労働者との間には、隔たりが大きい。
ただし、これは単純なミスマッチではない。ミスマッチとは、需要が大きい分野と供給が大きい分野がたまたま食い違っていることである。それは需要側と供給側がお互いの状況に関する情報を手に入れれば、原理的には調整できる。
しかし以上で見たのは、そうしたことではない。上で述べたことを要約して言えば、「賃金の低い分野で有効求人倍率が高くなっている」ということだ。
正規労働者に比べてパートタイム労働者の賃金が低いことは、言うまでもない。また、図表3において求人倍率が高い分野であるサービス産業(家庭内サービスや接客等)は給与が低い。そして、これらでは、パートタイムが多い。また、労働条件も、概して良好でない。
つまり、現代の日本において需要が大きいのは、給与が低い労働力なのである。それに対して、労働の供給側は、できるだけ賃金の高い安定した労働を求めている。
これはシステマティックな食い違いである。
したがって、情報を増やしただけでは、食い違いを調整することができない。
ところで、有効求人倍率が示すのは、ハローワークにおける求職と求人であり、全体の労働市場の中では限界的な部分だ。しかし、労働力調査などによって全体の姿を見ても、非正規雇用が増加していること、生産性の低い職業の労働者が増加していることが確かめられる(これについては、本連載の第57回「消費停滞は消費税のせいではない 増税再延期では解決しない」の図表5:正規と非正規の職員・従業員を参照)。
このため、経済全体の賃金の上昇率が低くなり、物価上昇によって実質賃金が下落してしまうのである。そして、このことが消費の低迷をもたらしている。
したがって、有効求人倍率の上昇は、その裏にある状況を考えれば、決して歓迎できることではない。
日本経済の活性化のためには、生産性が高く給与も高い分野での雇用が増加することが必要だ。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民109掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。