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アメリカ経済は楽観できない! ITバブルの崩壊も予見したデータから、変化の兆しを読む 「フィンテック」もピークアウト?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48865
2016年06月09日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済 現代ビジネス
■6月利上げの可能性は遠のいた
先週金曜日の米国雇用統計では、ヘッドラインの非農業部門の雇用者数が3万8千人増と市場の事前予想を大きく下回る結果となったことから、6月14日、15日開催予定のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げが実施される可能性は大きく低下した。
雇用統計発表後の記者会見で、イエレンFRB議長は落胆の色を隠そうとしなかった。よって、6月利上げの可能性は遠のいたと言ってよいだろう。
一方、イエレン議長の落胆ぶりから推測すると、FRBは6月利上げに向けて準備を進めていたのかもしれない。雇用統計で米国の雇用環境の良好さを確認したうえで2度目の利上げを実施する腹づもりだったのだろう。
だが、雇用統計の内容自体は、決して米国景気の先行きを悲観するような内容ではなかったと考えられる。
5月の非農業部門の雇用者増加数は、4月の12万3千人から8万5千人減少した計算になるが、これには、通信業の雇用者数が3万7千人、企業向けサービス業の派遣社員(「Temporary Help Service」)が2万6千人それぞれ減少したことが大きく寄与した(両業種で6万3千人なので、両業種の雇用者数減で5月の雇用統計の悪さの約75%を説明できる)。
このうち、通信業は、米大手通信社ベライゾン社のストライキによるものであり、ストライキで仕事をしなかった労働組合に所属している社員の属性が「雇用者」から「非労働力人口」に変わったというテクニカルな要因が雇用者の増加数を減らした。
だが、ベライゾン社のストライキは、ベライゾン社が賃上げに応じたことから終息しているので、6月の雇用統計では再び「雇用者増分」としてカウントされることになる(さらにいえば、この要因は5月の完全失業率を4月の5.0%から4.7%へ大きく低下させた)。また、企業向けサービス業の派遣社員の減少も契約が1回切れるという再雇用契約のタイミングの問題に過ぎないと思われる。
したがって、5月の雇用統計の悪化は、「特殊要因」によるものであって、米国の景気の先行きに急激に暗雲が立ち込めた訳ではないだろう。それどころか、6月の雇用統計は、その反動で急増する可能性もあり、これが逆に7月の利上げを後押しするかもしれない。
■フィリップス曲線の左下方シフトが意味するもの
5月の雇用統計が発表されるまでの米国経済指標は全般的に持ち直しの動きが強かった。例えば、5月のISM製造業景況観指数は、51.3ptとなり、3ヵ月連続で景気判断の分かれ目となる50ptを超えた。
ドルの名目実効為替レートは1月から反落(ドル安方向に転換)しており、これが製造業の景況観を改善させた可能性がある。さらに、金利の低下が続いていることもあり、ローン環境と密接に関わっている新築・中古住宅販売件数や自動車販売台数も依然として底堅く推移している。
このように考えると、米国は、景気がそこそこ強いのだから株価はもっと上昇してもよいのではないかと考えたくなる。また、7月に利上げが実施されたとしても、それは「米国が先進国で最も早く経済の正常化に成功した」象徴として、株価上昇要因になりうるという希望的観測を抱きたくなる。
個人投資家も含め、有望な投資先がない中、米国株に唯一の光明を見出したくなる気持ちもわからないわけではない。
だが、筆者は米国株についてそれほど楽観的ではない。以下、この点を米国のマクロ経済との関連性、特に今回は、「サプライサイド」に分類される要因から考えてみよう。
筆者は、個人的には、米国のフィリップス曲線(縦軸にインフレ率、横軸に失業率をプロットしたもの)の動きに注目している。米国のフィリップス曲線をみると、2015年8月以降は、景気拡大局面特有の左上方へのシフトを続けていることがわかる(図表1)。
リーマンショック以降の米国のフィリップス曲線は、特に2012年3月以降、左下方へのシフトを強めてきた。
フィリップス曲線の左下方へのシフトを現象面からみれば、雇用環境の改善が景気過熱や賃金上昇圧力を伴わない形で進んでいることを意味しているが、これは、企業サイドからみれば、何らかの要因が生産性の上昇をもたらし、雇用環境改善による賃金上昇圧力を相殺して余りある状況を作りだしていたことを意味する。
確かにこれは、労働者サイドからみれば、低賃金労働者の増加による所得格差の拡大という負の側面があることも否定できない。
だが、これは、米企業の資本分配率の上昇(裏返せば労働分配率の低下)による株価の回復を演出し、米国経済のリーマンショックからの回復を後押しした点で、マクロ経済的にはプラス要因であったと考えられる。
■ITブームの盛衰も予見していた
同様の現象が、S&L危機という金融危機からITブームへ移行する90年代前半にもみられた(図表2)。当時、米国のフィリップス曲線の左下方へのシフトは1992年7月より始まった(実際のITブームは1995年から顕在化した)。
しかも、非常に興味深いのは、フィリップス曲線が左下方にシフトする前のトレンドからの乖離率の動きが、米国のハイテク株の動きに約半年先行していた点である(図表3)。すなわち、フィリップス曲線の左下方へのシフトは、その後のITブームを予見したことになる。
さらにいえば、米国の「ITバブル」は2000年初めに崩壊過程が始まったが、フィリップス曲線の左下方へのシフトはITブームの最中、人々が米国経済、及び米国株式市場の先行きに対し、楽観的であった1999年半ばにすでに止まっていた。つまり、ITブームの崩壊をも予見していた。
リーマンショック後の米国の株式市場では、当初は、「シェール革命」をはやして、資源関連株の上昇が全体を牽引していたが、それとともに株価の上昇が顕著だったのは「フィンテック」に代表される「ハイテク株(特にソフトウェア関連)」であった。
そこで、ITブーム期、2011年から2012年にかけての2年間のフィリップス曲線との乖離率を計算し、その推移をみると、ITブーム期ほど鮮明ではないが、ハイテク関連株に6ヵ月先行して動いていることがわかった(図表4)。
昨年8月以降、フィリップス曲線の左下方へのシフトは止まりつつあるが、アップルやインテルの株価をみればわかるように、ここにきて米国のハイテク株の動きもさえなくなってきている。
■米国株はこれから調整局面を迎える
今回は、ハイテク株自体がITブームほどのバブル的な急騰を演じている訳ではないため、暴落の可能性は低いものの、フィリップス曲線の動きから推測すると、これまで米国株式市場を牽引してきたハイテク株にピークアウトの兆しがみえてきたのではなかろうか。
すなわち、株式市場における「フィンテックブーム」も終焉を迎えた可能性がある。そうすると、牽引役を失った米国株市場全体の上昇も見込みにくくなっているのかもしれない。
また、米国の労働分配率の推移をみると、2015年以降、上昇が顕著になってきている。ここまでの議論の流れから考えると、フィリップス曲線の左下方へのシフトで示すことができる生産性の改善が止まり、フィリップス曲線が左上方にシフトし始めた局面で労働分配率が急上昇し始めていることがわかる(例えば、1999年半ば、及び2015年半ば)。
また、労働分配率が上昇する局面では、企業の利益マージンが低下するため、企業業績は鈍化し、株式市場も調整局面を迎えることが多い(図表5)。
以上より、企業サイド(サプライサイド)から今後の米国株式市場の動向を考えた場合、生産性の悪化による利益率の低下から株価は調整局面を迎える段階に入りつつあると考える。
なお、この米国株式市場の動きを、米国のマネタリーベースの動きからみた場合にも、同様の結論が導き出される。すなわち、最近のマネタリーベースは再び減少トレンドに移行しつつある。
過去、マネタリーベースの減少は株価の調整に波及することが多かった。FRBが次の利上げを実施する場合には、マネタリーベースがさらに減少することに注意しておく必要がある。
いずれにせよ、米国の株価は、他の主要国の株価とも連動する部分が多いので、これは当然、日本株の先行きにも警戒すべきであることを示唆していると考える。
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