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経済制裁を科した欧米諸国から食料品の全面輸入禁止を指示したロシアのドミトリー・メドベージェフ首相〔AFPBB News〕
経済制裁で美味しくなったロシアの牛肉、今や世界一 コルホーズ、ソホーズの経験生かし、一気に生産拡大
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47046
2016.6.9 菅原 信夫 JBpress
旅先での思い出は、良いも悪いも食事にまつわることが多く、ロシア旅行も例外ではない。ロシアへ団体旅行をされた方からよく聞くのは、旅行中に食べた牛肉料理について、予想以上に美味しくなかった、というコメントである。
曰く、硬い・味がない・臭みがある・食感がぱさぱさ、などなど。また、ステーキをどのように焼くか、とウェイターが聞くので、ミディアムと指示したところ、出てきたのはウエルダンだった、という話もよくある。
食事での失望が、ロシア旅行全体の印象を悪くするとは、友人の添乗員の言葉である。
ところが、我々、ロシアで生活している人間は、ロシアの牛肉は世界一ではないか、とまで思っている。そこで、今回はロシアの牛肉について、少しご紹介し、ロシアの印象を改善するお手伝いをしたいと思う。
■経済制裁で高級牛肉の輸入が停止
美味しいロシア産牛肉がスーパーに現れ、そのビーフステーキを主たるメニューに据えたステーキレストランがモスクワの街に点々と現れたのは、実はつい最近、2010年頃からのことである。
特に、2014年のウクライナ・クリミア紛争を契機に、欧米諸国が対露制裁に入り、ロシアは制裁国からの食料の輸入を禁止した。このため、従来輸入されていた高級牛肉はすべてロシア産に切り替わり、国産肉を提供するステーキレストランが一挙に増えた。
それまでの牛肉の質と言えば、実は冒頭に書いた旅行者のコメントが、まさに正鵠を射ている。
肉が固く、味がないため、ビーフステーキという料理はしっかり味付けをしたソースときのこを載せて、牛肉の存在を忘れるような料理にするか、あるいは、ストロガノフと言われる、牛肉を細く切ったものをシチューで煮込んだ料理に化けるか、とにかく肉だけを食するステーキはほとんどなかった。
シャシリクという、コーカサス風焼き肉でも、人気のあるのは、ポーク(豚)とラム(羊)で、牛肉は値段が高いだけで美味しくない、と散々の評判であった。
なぜ、ロシアの牛肉が美味しくないのだろうか。多くの解説によると、これはソ連時代からの歴史的遺産なのだと言う。ソ連時代から、ロシアは乳製品が大変豊富で、その製造のために乳牛の飼育は全国的に盛んだった。
このあたりから、肉を食べるのは、豚や鶏、そして羊、という常識が出来上がり、牛は乳を搾るために飼育される乳牛を指すようになった。牛肉は食べても牛乳生産を終えた乳牛の肉ということになり、美味しいステーキになりようがないのである。
しかし、ソ連が崩壊し、2000年代からロシアはエネルギー資源の輸出で新興金持ち国グループに入る。お金の力で美味しいものはなんでも輸入することができるようになる。
ここでロシア人は輸入された牛肉に接し、肉の本当のうまさに気づくことになる。街には「ルイジアナ」という米国産ビーフの専門店、「TOROグリル」というアルゼンチンビーフの専門店など、各国から輸入される牛肉を使用したレストランが活況を呈するようになった。
しかし、これに慣れてくると、疑問を感じる人たちも出てくる。
「世界的に牛肉は肉の王様と言われていて、欧米ではどの都市にも有名なステーキレストランが自国産ビーフを自慢げに出して、大変な人気を博している。なぜ我々ロシア人は、自国産の美味な牛肉にありつけないのか」
■肉牛改良プロジェクト
「No Fish」レストランの開店直後の様子。肉を提供することだけに特化しているため、力の必要な給仕人は全員男性。肉塊の切り分けも鮮やか。素晴らしいレストランである
こう言ったのは、時に欧米寄りの姿勢が批判されるドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)であるが、彼のお声がけもあり、「ロシアにおける牛肉をより美味しくするプロジェクト(肉牛改良プロジェクト)」が法律として成立したのが2008年11月である。
その後、このプロジェクトはどのように進められたか。農業省がリーダーとなり、あらゆる専門家が参加したチームは、最初から生産する肉牛種をブラックアンガス種に絞っていたようだ。
このブラックアンガス牛を短期間のうちに繁殖させて、ロシア全国でその食肉が供給できるようにするには、最初から大規模な産業構築が必要となる。そこで、当時海外より食肉を輸入していた最大手の輸入企業2社をまずピックアップした。
それが「Miratorg」社と「Zarechnoe」社であった。この2社に対して巨額の資金を貸しつけ、垂直的統合生産方式による、ブラックアンガス牛の国産化を国家として要請したのである。
ちなみに、垂直的統合生産方式というのは、畜産業の場合、繁殖、肥育、牛肉生産、加工、販売といった各事業を、すべて自社の手で行う方法を指す。
日本の銘柄牛のように、農家が数頭の肉牛を飼育し、適当な時期に業者に売られるような、それぞれの業務段階で個別の企業が業務を担う形式とは全く異なる。
ロシアでは、ソ連時代から新規産業の展開において、国がリーダーとなり、垂直統合で組織を組み立てることがよく行われてきた。例えば、AvtoVAZを始めとするソ連時代の自動車工場がまさに垂直統合だった。
農業省は21世紀の現代においてなお、この考え方を牛肉生産のための畜産事業にも持ち込もうとしたわけだ。
食肉の輸入を通して、欧米事情に詳しく、現地にパートナーを持つこの2社は相次いで米国に支援を求める。
2000年代に入り、米国の畜産業は、鶏からスタートした垂直統合が、豚で成功し、次には肉牛の生産も大企業がすべてを担う時代に入っていて、その意味では米国とロシアは同じテンポで畜産業の近代化を実現させていったと言える。
■米国の牧場と瓜二つ
Miratorg社はブリャンスクに広大な牧場を持つ。毎年ロデオショーが開かれ、飼育方法だけでなく、こういう娯楽も含め米国から輸入する懐の深さには感心する。ビジネスでは 米ロ両国が非常に接近していることを忘れてはならない
米国に提携企業をもとめ、そこから必要な人材をロシアに派遣してもらう。そこは、まさに米国の牧場をロシアに移築するような情景だったと言われている。
また、ブラックアンガス牛の繁殖も、米国から持ち込まれた遺伝子により、それぞれの企業で進められた。
そもそもブラックアンガスという牛は、スコットランドを誕生の地とする。それが肉牛として世界最高というお墨つきを得て、世界中で飼育されるようになるが、最も飼育に成功したのが米国である。
現在、世界のブラックアンガスは米国で発達した飼育方法がスタンダードとなっている。米国のカウボーイも参加するロデオショーがロシアの草原で行われているMiratorgの写真を見ると、本当に経済には国境のないことを実感する。
ロシアの計画経済はうまく行かないのが当たり前で、計画通りに進むのは、よほど担当者が目標値を低くみていた場合など、例外的なケースである。そういう目には、この肉牛改良プロジェクトは非常にうまくいった例に見えるだろう。
「Miratorg」社の場合、2008年に数頭でスタートしたブラックアンガス牛飼育事業は、今やモスクワの南に位置するブリャンスク市を中心に、37箇所の牧場に20万頭もの牛を飼う規模にまで成長している。
「Zarechnoe」社は、牧場など生産関連施設をボロネジ市に置いているが、実はブリャンスクとボロネジは直線距離にして、300キロ程度だ。こういう近接した地域に2大畜産企業が施設を構えるというのも興味があるが、実はロシアの牧畜業の始まりは、この西部平原にある。
ソ連時代、各地に建設されたソホーズ、コルホーズという国営集団農場にあっても、この地域の場合は牧畜・畜産業が非常に盛んであった。従い、その伝統がいまだ残るこの地に、垂直統合型の新しい肉牛飼育産業を作るのは極めて合理的である。
この地で生産されたブラックアンガスがどんな味か。Zarechnoe社を視察したある米国人食肉コンサルタントは、同じブラックアンガスでも、ロシア産にはより細かい「さし」が認められるという。
■レストランを席巻したロシア産
モスクワでステーキハウスを経営する青年実業家グループ。他事業での成功経験を持つ青年たちが飲食業に乗り込んできた。 彼らのステーキレストラン「チャバンハウス」は、一等地にあり 結婚披露宴ができるとあって予約で満杯
このため、実際にステーキとして提供する際には、脂肪のバランスが非常に良い肉となるそうだ。この理由は、広大な牧場の面積とそこを自由に歩き回るストレス・フリーな飼育方法にあると語っている。
今、消費者はこの「旨いブラックアンガス」を求めて、都心のスーパー、そしてステーキハウスに列をなしている。欧米諸国からの食品輸入に規制がかかったままのロシアで、当然ながらこのロシア産ブラックアンガスには、何ら規制はない。
食べたいだけ食べられる数少ないグルメ食品となっている。
一言つけ加えると、ステーキとくれば、ワイン。ワインもこの1〜2年、ロシア産がめっきり力をつけ、そのうちにロシア産ワインのご紹介も当コラムでさせていただきたいと思っているほどだ。
さて、そんな人気のレンストランの代表は、モスクワの一等地、ルビヤンカ広場からニコルスカヤ街に入ったところに、昨年10月オープンした「NO FISH」というレストランである。
(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで写真をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47046)
このレストランは、「Miratorg」社と欧米でも高級レストランを経営する「Novikov Restaurants」が共同経営している。
肉は、もちろん100%Miratorg社が提供する熟成肉。サービススタッフは、Novikov社が派遣する食肉に精通したスペシャリストとソムリエたち。価格は、同等のレストランよりは幾分安い。
例えば、プライムクラスの、リブアイあたりで300グラム2500ルーブル(約4000円)と、日本のステーキハウスより若干安い程度。この店の特徴としては、もちろん1人前のカットもあるが、グループで来店し、1キロ、2キロといった肉塊を切り分けながら豪快に楽しむ「lump」サービスというメニューがある。
先日も、数人の日本人仲間とこの店でランチを楽しんだ。驚いたことに、それほど広くはない店内に、何と3組の日本人グループがいた。
日本人は実は肉が大好きなのである。店側はそんな日本人を一箇所にまとめて座らせるようなことは絶対にしない。予約の段階で、国籍を聞き、テーブルの位置を調整するのだ。さすが、Novikov !
■日本航空の機内食にも
モスクワのレストランは、ここ1、2年進歩が著しい。最近の傾向としては、店で仕入れた食材を、一部を料理に使用せず、「マーケット」と称して小売りする。レストランだけあって、珍しい食材も多く、客は大喜び。写真の店でも行われている
ただし、問題もある。予約がなかなか取れない。
この日本人とロシア人両方に高い人気を誇る「Miratorg」製ステーキに注目をした日本企業があった。日本航空モスクワ支店である。
浜田支店長は、このステーキを機内食として提供できないか、昨年の段階で東京との交渉をスタート、そしてついに今年6月からモスクワ発東京行き422便での提供が決まった。日本航空に乗れば、話題のロシア産プライムミートが食べられる。これはJALのフライトに一層の魅力を加えてくれる。
もし、読者の方がロシアにお出かけの際は、ロシア産プライムミートのステーキをご賞味あれ。あなたのロシアイメージがガラッと変わること、間違いなし、です。
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