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次の消費増税は「若者のための増税」にしなくてはならない
http://diamond.jp/articles/-/92582
2016年6月7日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長] ダイヤモンド・オンライン
安倍晋三首相は、2017年4月に予定されていた8%から10%への消費増税を、2019年10月まで2年半延期することを決定した。この連載が指摘してきた通り、安倍首相はノーベル経済学賞受賞者やG7を、消費増税延期の「国際的なお墨付き」を得るのに使った(第131回・p5http://diamond.jp/articles/-/90484?page=5)。しかし、予想が当たったなどというつもりは全くない。首相の動きが、あまりに露骨で、わかりやすすぎて、正直あきれ果てている。
■そして、100%の政治家が
増税延期支持となった
岡田克也民進党代表の「増税延期先出し戦術」に続いて、安倍首相が「増税延期」を決定したことで、参院選で「財政再建を真剣に考える国民」にとっての選択肢が完全になくなった(第132回http://diamond.jp/articles/-/91758)。自民党には、麻生太郎財務相や谷垣禎一幹事長など、良識的な政治家がいると思っていたが、首相と直接会談した後で折れた。これで、自民党から共産党まで、すべての政治家が「増税延期」で一致したことになる。
かつて、野田佳彦政権時に与野党を超えて約80%の政治家が消費増税に賛成票を投じた時、「大政翼賛会並み」と評した(第40回http://diamond.jp/articles/-/21651)。だが、そのわずか4年後に、100%の政治家が増税延期で一致するという状況が生じたことは、いったいどう表現すべきだろうか。
しかも違和感があるのは、国会内の状況とは異なり、国論が消費増税延期で一致しているわけではないことだ。各種世論調査では、増税延期への賛成は60%台だ。企業経営者は、増税延期に概ね歓迎であるが、財政再建や社会保障への悪影響を懸念する声は小さくない。そして、エコノミストの賛否は完全に割れている。
■「増税延期賛成論」VS
「増税延期反対論」
増税延期賛成論では、主に景気悪化の理由を、2014年4月の5%から8%への消費増税と中国などの海外要因であるとし、アベノミクスは成功していると主張する。それは、主に金融緩和による雇用の改善を根拠としている。16年4月の有効求人倍率は1.34倍と24年5ヵ月ぶりの高水準だし、失業率も3.2%まで下がっているからだ。
しかし、景気悪化を放置しておくと、そのうち雇用状況まで悪くなってしまう。景気悪化の原因は消費増税なので、理論的には消費減税(8%から5%)をすべきであると考える。ただし、消費税は社会保障目的税なので、実際に減税する場合、社会保障関係予算の組み替え等が必要となり、実務的・政治的に困難だ。そこで、減税の代わりに、実質的に同じ経済効果となるような財政支出を行うべきだ、というのが増税延期賛成論の主張である(高橋洋一「増税見送りは当然、財務省の権益拡大を許すな」http://diamond.jp/articles/-/92304)。
一方、増税延期反対論は、景気悪化は国際経済の悪化も消費増税も関連がないと指摘する。むしろ、景気悪化の真因は実質賃金の下落であるとする。消費税の影響ではないとする根拠は、2015年と現在で、消費税率が変わってないにもかかわらず、消費が減少しているからである。
消費増税による消費の落ち込みは、前回の1997年の引き上げ時にも生じたが、このときには、実質賃金の増加により、2年後には消費税増税直前の値に戻り、その後増加に転じている。しかし、今回は2年たっても消費が回復していない。それは、実質賃金が2012年以降連続して減少しているからである。
そして、実質賃金の減少は、消費増税という短期的な現象ではないと主張する。むしろ、高齢化の進展による労働人口の減少、経済の先行きに確信が持てず設備投資や賃金引き上げを行えない企業経営という構造問題であるとする。
さらに、増税延期賛成派が主張する雇用の増加は、非正規雇用者の増加に過ぎず、むしろ経済基盤が確立せず結婚や子づくりに踏み出せない若者が増加していると指摘する。その上、消費増税がなかなかできないことで、社会保障の財源手当てがなされていないため、将来における施策の持続可能性に関して大きな不安があり、家計は消費拡大に慎重ならざるをえない状況になっていると主張する(野口悠紀雄「消費停滞は消費税のせいではない 増税再延期では解決しない」http://diamond.jp/articles/-/89206)。
このように、増税延期に対するエコノミストの見解は完全に割れている。それにもかかわらず、国会では自民党から共産党まで100%増税延期支持というのには、非常に強い違和感を持たざるを得ないのだ。
■増税延期賛成派の主張には、
日本政治のリアリティが欠けている
筆者は、増税延期反対派に同意する。それは、政治学者の立場から見ると、増税延期賛成派の主張には日本政治のリアリティが欠けていると考えるからだ。
この20年を振り返れば、「景気対策」という財政出動・金融緩和が何度も繰り返されてきたが、それは建設業や輸出産業など「斜陽産業」の延命策を続けたに過ぎなかったことは明らかだ。しかし、斜陽産業の延命策からは、日本経済の復活につながる新しいものはなにも生まれてこなかった。斜陽産業は、延命策が切れた時、元の瀕死の状態に戻るだけで、新たな延命策を求めるだけだった。時の政府はその求めに応じて、さらなる景気対策を行った。結局、「カネが切れたら、またカネが要る」の悪循環を繰り返した結果が、先進国最悪の巨額の財政赤字である(第129回http://diamond.jp/articles/-/89437)。
アベノミクスが従来の経済政策と違ったのは、延命策が異次元に巨額だっただけだ。「カネが切れたら、またカネが要る」ということは以前と全く変わらない。「黒田バズーカ」「バズーカ2」「マイナス金利」と続き、それでもさらに金融緩和や財政出動が期待される構図は、結局アベノミクスが従来のバラマキとなにも変わらないことを示している。しかも、巨額であるがゆえに、従来にない深刻なリスクに日本経済は晒されることになった。
この20年間、景気対策というバラマキが繰り返されたのは、族議員、省庁、財界、業界団体、そして労組をバックにした野党のすさまじい政治的圧力の結果である。それを乗り越えて、斜陽産業の延命をやめて、新しい成長産業に投資するには、政治家の尋常を超えた強力なリーダーシップが必要となる。しかし、現在の日本にそんな政治家は存在しない。近年、最も強力な政治的リーダーシップを発揮し、構造改革を断行したと評価される小泉純一郎政権でさえ、政府債務残高を538兆円(00年度末)から827兆円(05年度末)へ、289兆円(54%)も増加させたのだ(第38回・p5http://diamond.jp/articles/-/20185?page=5)。
これが、日本政治のリアリティなのである。増税延期賛成派の主張は、理論的には傾聴に値するものである。しかし、それが理論通りに実現するには、政治家の高い見識と強力な指導力を必要とし、政治学者からすれば、到底現実的に達成できることとは思えない。
■「高齢者のための増税」というロジックに
現役世代はウンザリしてしまった
日本経済の悪循環を断つには、安易なバラマキによる斜陽産業の延命策を、さまざまな政治的圧力をなんとか和らげてやめていきながら、増税による財政再建と社会保障の充実を行う一方で、規制緩和によって新しい成長産業を創生する「痛みを伴う財政再建・構造改革」に真面目に取り組むしかない。
しかし、増税延期は決まってしまった。そうなると、2年半後の2019年10月に予定されることになる8%から10%への消費増税のことを考えるしかできない。だが、筆者が気になるのは、消費増税に対する国民の嫌悪感が、過去には考えられないほど高まってしまっていることだ。
安倍政権が長期化したので皆忘れてしまっているが、野田佳彦政権時までは、消費増税の必要性に国民の一定の支持があったのは間違いない(第40回http://diamond.jp/articles/-/21651)。それは、「消費税は高齢化社会に対応するために必要」というロジックに説得力があったからである。毎年、約1兆円ずつ増えていく社会保障費の財源として、消費増税が必要だとコンセンサスがあったのだ。
細川護熙政権の「国民福祉税構想」、自民党税制調査会「柳沢ペーパー」の「消費税福祉目的税」の構想、福田康夫政権・麻生太郎政権の「中福祉・中負担」と「消費税10%」の提案、菅直人政権・野田政権の「税と社会保障の一体改革」は、すべてこのロジックに基づくものだった(第44回http://diamond.jp/articles/-/25358)。
しかし、このロジックはもう古ぼけてしまった。「高齢者のため」と言われても、現役世代にはウンザリした感じがあるのだ。「下流老人」などという現象はあるものの、現実には高齢者は現役世代よりもカネを持っている人が多い。
例えば、平日の昼間、電車に乗ると若いサラリーマンが汗だくのスーツ姿で立っているのに対し、どこかに遊びに行く高齢者の集団が悠然と座席を占領して座っている。道徳的な批判を受けることを承知の上であえて言えば、これは正直若いサラリーマンの方が可哀想になる。かつて、高齢者の方々が日本を今のように豊かにしたのだというのはわかる。だが、現役世代からすれば、自分よりカネを持っている人の社会保障や医療費を払うために重い負担にあえいでいる。これでは、「高齢者のため」と言われてもウンザリになるのは無理もない。
■2年半後に増税を実現するには
「若者のための増税」という新しいロジックが必要だ
そこで、消費増税の更なる延期を防ぐためには、「高齢者のため」に代わる、新しいロジックが必要になる。それは「若者のための増税」である(第126回http://diamond.jp/articles/-/87119)。
少子高齢化によって、1965年には高齢者1人を9人で支えていた(「胴上げ」という)のが、2.1人で支えるようになり(「騎馬戦」という)、2050年には1.2人で支えるようになる(「肩車」という)。若者や、将来世代は非常に厳しい状況に直面する上に、現在のバラマキによる重い負担のつけ回しを払わねばならないことになる。正直、これでは国は滅んでしまう。
この将来世代が背負う厳しい状況をなんとか改善していかなければならない。そして、それには現在の「高齢者のため」に増税するというのではなく、むしろ高齢者に「孫を助けるための増税」なのだと発想を変えてもらうべきではないだろうか。
このように言うと、高齢者の社会保障費・医療費を削減すべきだという主張につながりがちだ。例えば、増税延期決定後、小泉進次郎衆院議員が社会保障の充実は従来通りとする安倍政権の姿勢を「甘い話はない」と批判し、社会保障費・医療費の削減の必要性を示唆した。しかし、筆者はこの考え方に単純に同意はしない。
高齢者の社会保障費・医療費の単純な削減は、富裕層の高齢者にはほとんど影響がない代わりに、いわゆる「下流老人」と呼ばれる層により深刻な影響が出てしまうからだ。まさに弱者切り捨てとなってしまい、それは避けるべきである。だから、まずは予定通り増税を実行すべきだと考えるし、今回は延期でも、次回は必ず実行すべきである。ただし、これからは「増税できれば社会保障費の増加に使い、できれなければ社会保障費を削減する」という従来の発想を超えなければならないだろう。
例えば、八代尚宏氏は「年金財政悪化の主因が平均寿命の伸長にある以上、高齢者がそれだけ長く働き、税金や社会保険料を払い続けることが、勤労世代の負担増を抑制する、最も効果的な手法だ。現行の高齢者人口比率の高まりに比例して年金額を引き下げる窮乏化方式よりも、平均寿命の伸長にスライドした年金受給年齢の引き上げの方が、高齢労働者を増やすことで、少子化社会にふさわしい政策」と主張する。
また、年金の受給開始年齢の引き上げは「同一労働同一賃金原則等、労働市場改革と一体的に行う」必要があるとする(八代尚宏「増税の代わりに社会保障費削減断行で「民主主義」に切り込め」http://diamond.jp/articles/-/92233)。つまり、定年制をなくして働ける高齢者には働いてもらい、税金もしっかり払ってもらうということだ。換言すれば、これは日本型雇用制度で強制的に65歳までとされている「労働力」の定義を変えることである(井手・古市・宮崎「分断社会を終わらせる」http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4480016333/asyuracom-22 2016)。労働力の定義を変えられれば、現在の人口構成でも、実質的に労働力を増やすことができる。前述の2050年の「肩車」は、「騎馬戦」に収まる可能性があるかもしれないのだ。
要するに、2年後までに考えるべきことは、まずベースとしての2%の消費増税をしっかり実現することだ。その上で、定年制をなくして働ける高齢者には現役と同じ条件でいつまでも働いてもらい、所得税を払ってもらうと同時に、年金受給年齢を引き上げる。その理解を広げていくために、「若者のための増税」という新しいロジックを立てることだ。
もちろん、年金受給年齢は一律に上げるのではなく、働けない方には従来通り65歳から年金を支給し、「下流老人」増加を防ぐという配慮が必要だ。柔軟な制度設計がいいのは言うまでもない。
「元気な高齢者は働け」というと、「高齢者いじめ」のように捉えられて批判されることが多い。しかし、それが「孫を助けることになる」というロジックならば、高齢者の抵抗感は少ないのではないだろうか。日本人は変わったというが、今でも情に溢れた国民性だ。「孫のためなら」というロジックが打ち出されるならば、高齢者の方はもちろんのこと、国民全体に理解を得られる可能性は高いと筆者は考える。
そして、前述の通り、消費低迷の理由が将来不安にあるならば、「若者のための増税」こそ、ベストな景気対策となるのである。2年間の増税延期は決まってしまったが、その間に我々が将来のために考えるべきことは多い。政局に翻弄されるだけではない、真の政策論議が政治に求められているのではないだろうか。
<参考文献>
井手英策・古市将人・宮崎雅人(2016)『分断社会を終わらせる:「だれもが受益者」という財政戦略』筑摩選書
- 貧乏人からより貧乏な人に、若者からより苦しい若者に、所得を再分配する機能も持っているのが消費税 あっしら 2016/6/07 12:45:06
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