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アベノミクス立て直しにはやはり成長戦略が欠かせない
http://diamond.jp/articles/-/92486
2016年6月7日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■景気の腰を折ってしまった
1997年に実施した消費増税
6月1日、安倍首相は、2017年4月に予定されていた消費税率の再引き上げを2年半延期すると表明した。わが国にとって財政の再建は喫緊の課題だが、それ以上に“足踏み状態”にある景気を支えることが優先されると考えた結果だろう。
今回の決定に関しては、経済専門家の間でも様々な見解があるものの、足元の国内外の経済状況を俯瞰した場合、それなりの合理性のある決断だったといえる。国内経済の最大の問題は、実質ベースでの所得が増えていないことだ。それが消費の伸び悩みにつながり、国内経済の活力が盛り上がらない一因になっている。それに加えて足元の為替市場では円が強含みの傾向が見られる。今後、それが企業業績の下振れリスクを高める懸念がある。
一方、海外に目を転じると、中国や新興国の景気減速が続いている。中国経済が減速する中で、世界経済を支えてきた米国の景気も永久に上昇を続けることはできない。欧州経済の低迷や英国のEUからの離脱を巡る動きもあり、海外に起因するリスクは無視できない。こうしたリスクが顕在化すると、世界経済がリーマンショック以上の混乱に陥る可能性もある。
そうした状況を考えると、わが国はあわてて増税を進め、景気の腰を折るリスクを避けることが得策だろう。過去の例を見ても、1997年に実施された財政構造改革法による消費増税は、景気を圧迫し、長期低迷の一因となったことは記憶に新しい。
財政再建は不可避だが、景気の腰を折ってしまっては元も子もない。今は実効性のある“成長戦略”を推進し、わが国の潜在成長力を引き上げ、増税に耐えられる経済の体力を備えるべきと考える。
■足踏み状態にあるわが国の景気
消費増税には耐えられない
繰り返しとなるが、首相が2017年4月の消費増税の延期を決めたことは、それなりに説得力のある判断といえる。わが国の景気は、現在、“足踏み状態”にある。足踏み状態とは、基調として景気は緩やかな回復を続けているが、成長率、賃金動向、企業業績などの下振れが懸念され、経済の前向きな動きが徐々に弱まっている状況と考えればよい。
足踏み状態の景気を示す端的な指標がGDP(国内総生産)だ。1〜3月の実質GDP成長率は年率換算ベースで+1.7%だった。しかし、この数値は“うるう年”の効果によって押し上げられている。2015年1〜3月期の実質GDP成長率が5.4%だったことを踏まえれば、成長の勢いは明らかに低下している。
成長率の低下要因を考えると、実質ベースでの所得が伸びていないことが大きい。厚生労働省が発表する毎月勤労統計調査を見ると、2015年度の実質賃金は前年から0.1%減少した。実質賃金の減少は5年連続だ。
デフレ脱却を目指してきた安倍政権の経済政策(アベノミクス)にとって、実質賃金の増加は最も重要な政策目標といえる。所得が増えなければ消費者心理は改善せず、デフレ脱却は困難だからだ。
安倍政権は2011年11月以降のドル高、円安を活かして賃上げ環境を整備しようとした。特に、2013年4月以降は日銀が2年程度で2%の物価目標を達成するとの短期決戦型の金融緩和を発動し、円安の流れを強めようとした。それによって、政府は企業業績のかさ上げ、株価の上昇をもたらし賃上げを促そうとした。
そうした政府の努力にもかかわらず、実質賃金は増加していない。むしろ足元では、円高の影響を受けて企業業績の下振れリスクが高まっており、賃金上昇には向かい風が吹く懸念がある。法人企業統計によると、金融機関を除く民間企業は2期続けて減収減益に陥っている。企業の収益が下振れれば、賃上げは期待しづらい。リストラ圧力が高まり、所得環境が悪化するかもしれない。
実質賃金が伸びていない状況下、消費増税は消費者心理に相当な増税感をもたらすはずだ。そうなると、消費増税は景気回復の腰を折るだけでなく、デフレをさらに悪化させる恐れもある。
前回、2014年4月の5%から8%への消費増税は、駆け込み需要の反動減の影響によって、その後の景気を大きく悪化させた。当時の景気は比較的堅調だったが、増税後は2期続けてのマイナス成長となった。そして、2014年度の実質賃金は前年から3%減少した。
現在、わが国のファンダメンタルズ=経済の基礎的条件は、2014年4月の増税時よりも不安定になっている。そのため、来年の消費増税を予定通り実行すれば、景気には大きなマイナスの影響が及ぶことが想定される。実質賃金や企業業績などの動向を吟味しつつ、慎重に消費増税のタイミングを判断すべきだ。
■懸念される中国、米国の景気動向
さらに高まる円高圧力
足踏み状態にある国内経済に加え、海外の経済動向にも注意が必要だ。中国や米国の景気下振れへの懸念は円高圧力を高めるだろう。
わが国の経常黒字は国内企業などが外貨を売り、円を買うニーズが恒常的にあることを意味する。そのため、世界経済の先行き懸念が高まる場合、質への逃避の動機から、円は買われやすい。円高が進む中で増税を進めれば、景気は大きく落ち込む恐れがある。
世界経済の下方リスクを考える際、4つのファクターが重要だ。(1)中国経済の減速、(2)中東の地政学リスク、(3)欧州経済の低迷とEU離脱の動き、(4)米国経済の減速懸念だ。
減速を続ける中国経済が抱える、最大の問題の一つは債務の増加だ。すでに民間企業が抱える債務はGDPの200%を超えた。鉄鋼業界などでの過剰な生産能力のリストラを考えると、不良債権処理は急務だ。
そうした状況にもかかわらず、中国の住宅市場では急激な価格上昇の動きが見られる。そうした状況は長期間続くことは考え難い。むしろ、そうした動きの反動による景気減速のリスクには注意が必要だ。
■懸念される中東の地政学リスク
産油国の動向やテロ
その一方で、中東の地政学リスクをみると、産油国の動向やテロの影響が大きな懸念材料だ。サウジアラビアとイランの対立から産油国の増産凍結がまとまらず、原油価格は下落してきた。足元では原油価格は持ち直しているが、サウジアラビアはシェアの拡大を重視し、再度、原油価格には調整圧力がかかりやすくなっている。原油価格が下落すれば産油国の財政不安が高まり、世界の金融市場に混乱が広がる恐れがある。
中東の地政学リスクは欧州のリスクにも影響してきた。シリアからの難民がテロに関与していたからだ。その結果、率先して難民受け入れを主張したドイツへの批判が高まった。財政危機のさなか、ドイツが各国に財政緊縮を求め、景気低迷を招いたことへの批判も強い。景気を刺激するためにECBが導入したマイナス金利は金融機関の収益力を悪化させ、先行きのリスクは高まっている。
その結果、難民、移民問題への批判や経済運営に対する不満が、EUからの離反を求める動きにつながった。英国ではEU離脱(Brexit)の是非が国民投票で判断される。結果次第では英国経済の先行き懸念が高まるだけでなく、他国の追随を生むかもしれない。徐々にBrexitに対する懸念は高まっており、金融市場でもポンドが急落するなど不安定さが増している。
「頼みの綱」である米国経済も、徐々に景気のピークに近づいている可能性がある。労働生産性の改善が進まず、企業業績への期待は抱きづらい。すでに労働市場が完全雇用の状態にあると考えられるだけに、さらなる景気拡大は期待しにくくなっている。米国がドル安を志向しているだけに、先行きは慎重に考えるべきだ。
今のところ、これらのリスク要因が大きく顕在化しているわけではない。しかし、新興国の債務がリーマンショック前の水準を超え、主要国の財政出動が困難になっていることを考えると、状況次第ではリーマンショック級、あるいはそれを上回る経済の危機的状況が到来するとの懸念は払拭しきれない。
■国内経済の回復のため
注力すべき政策のポイント
先述した通り、今回、安倍首相は、国内景気の腰折れのリスクを回避すべく消費税率再引き上げを先送りする決定を行った。しかし、当然ながら、それだけで国内経済の回復を持続することは難しい。
わが国経済の長期的成長を考える上で、今、行うべき政策は山ほどある。まず、実効性のある成長戦略を進めて、わが国経済の潜在成長率を高めることが重要だ。潜在成長力が高まれば、消費増税に耐えられる経済基盤を作ることが可能になる。
それと同時に、財政面では十分に手が付けられてこなかった歳出面の改革が必要だ。社会保障の制度改革などを断行して、財政支出に思い切ったメスを入れることは避けて通れないプロセスだ。
わが国ほどの経済規模になると、特定の政策や改革で経済の課題を解決することは難しい。国内での少子化、高齢化という中長期的に景気を圧迫するリスクが高まっているだけに、政府はいくつかの策を組み合わせて構造改革を進める必要がある。
成長戦略では企業の積極的な経営を促すための規制緩和を強く進める必要がある。“同一労働同一賃金”の考えを具現化し、正規・非正規雇用間の経済的格差を是正することは急務だろう。
実質賃金が増えていない状況は、わが国の経済が増税に耐えられるだけの体力を持っていないことに等しい。デフレ脱却のためにも、労働市場に関する規制緩和を進め、雇用形態にかかわらず個々人の資質、能力に見合った報酬を得られる環境を整備することは不可欠だ。
そうした取り組みを進め、企業の活動意欲を高めることがイノベーション=創造的破壊を進めることにも繋がるだろう。労働市場の需給がタイトな状況が続いているだけに、今は改革を進めるチャンスといえる。
社会保障面では、現役世代の負担で高齢者の社会保障を支える仕組みを変える必要がある。公的年金を積み立て方式にシフトする、医療のサービスレベルにあった自己負担を求めるなど、現行の歳入の範囲内で社会保障制度の持続性を高めることが必要だ。社会保障関連費用の増加は財政悪化の主な原因であるだけに、迅速な取り組みが求められる。
成長戦略、財政再建、そして構造改革を進めるためには、ある程度の景気回復力が不可欠だ。そのため、状況に応じて政府は補正予算を組み、景気を支える必要がある。その場合、歳出の削減が進まない限り財政の持続力が低下することは、肝に銘じなければならない。
こうした取り組みこそがデフレ脱却を達成し、安定した経済成長を目指すアベノミクスの本質だろう。実質賃金の増加を支える経済基盤を整備するためには、成長戦略を軸としたアベノミクスの立て直しと推進が必要だ。消費増税を行って景気の腰を折ることは避けなければならない。
再度、強調するが、1997年、橋本政権は財政構造改革法を推進し、3%から5%への消費税率引き上げを行った。この結果、景気はさらに悪化し、財政再建は棚上げされ、わが国は経済対策が必要な状況に追い込まれた。今回、その轍を踏むことだけは避けなければならない。
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