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年金だけでは苦しい老後 就業と資産運用でカバー
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO02710140U6A520C1945M01
2016/5/29 NIKKEI STYLE
現役時代に十分な資産形成ができず、老後の年金生活に不安を覚える人もいるだろう。しかし高齢者を積極的に雇う職種で働いたり、お金の使い方を見直したりすれば、身の丈に合った家計の青写真を描くのは難しくない。年金が主な収入となる65歳以降のポイントを知っておこう。
東京都のAさん(66)は昨夏からマンション管理員として働いている。年金は夫婦で月20万円ほどあるが、賃貸マンションの家賃が月10万円かかり、年金だけでは家計のやり繰りが厳しかったからだ。手取り収入は週6日勤務で月13万円余り。「とりあえずお金の不安がなくなった。夫婦で老後を楽しみたい」と語るAさんの表情は明るい。
■月約6万円赤字
総務省の家計調査によると、働いていない高齢の夫婦2人世帯の収入は平均で月21万3000円で、ほとんどを年金が占める。一方、食費、水道光熱費といった生活費のほか社会保険料なども含む支出は月27万5000円。差し引き約6万2000円の赤字を埋める必要がある。Aさんには貯金が1000万円近くあるが「病気や介護などのリスクを考えると取り崩せない」と考え、働くことにした。
65〜69歳で働く人の割合は男性が52%、女性が32%。ただしこれまでのキャリアを生かせる職種や待遇で再就職した人は少ない。高齢者を積極的に新規採用する業界は限られるからだ。マンション管理員はその一つで、東京しごと財団(東京・千代田)によると、2014年度に同財団の支援で就職した65〜69歳の15%を占めた。70歳定年の会社が多いが「昨年ごろから70歳以上の新規採用も出てきた」(高齢就業支援係)。
ビル清掃のスタッフとして働く人も目立つ。1日2〜3時間の勤務が多く、時給は1100円ほどだ。学生アルバイトの不足もあり、高齢者の短時間勤務は外食や小売業などにも広がっている。「モスバーガー」を展開するモスフードサービスでは「早朝のフロア清掃や野菜カットなどで60歳以上の新規採用アルバイトが活躍している店舗もある」(広報IRグループ)。
一方、無駄な支出を削ることも家計の赤字の削減につながる。家計調査では高齢夫婦世帯の食費は外食を含めて平均で月6万2000円。ファイナンシャルプランナー(FP)の横山光昭氏は「買い物の習慣を見直せば4万〜5万円に抑えられる可能性が大きい」と話す。同氏の家計相談サービスでは「こだわり食品を取り寄せたり、高級ワインを飲んだりして食費がかさんでいる世帯が多い」という。
横山氏によると、そもそも食費や水道光熱費、交際費といった支出項目ごとに毎月の家計を把握している世帯は少ない。「面倒でも家計簿を付けて支出が見えるようにするだけで、無駄遣いを見直すきっかけになる」と助言する。
都内に住むB子さん(66)は夫と30代の長男と3人暮らし。長男は精神障害があるが、毎月の生活は夫婦2人の年金27万円で賄えている。この30年間ずっと家計簿を付け、予算を立てて暮らしてきた。「住宅ローンも完済できるなど、やり繰りに自信がついた」と話す。B子さんはモザイク画、夫は自然写真の趣味を楽しみ、夫婦で晩酌も欠かさないという。
生命保険文化センターのアンケートによると、「ゆとりある老後生活費」は平均で月35万4000円。これを目安に老後資金をためる人もいるが「もっと少ないお金で楽しく暮らせるのではないか」(B子さん)という声は多い。
■過大なリスク禁物
退職金の運用も老後の家計の支えになる可能性がある。厚生労働省の調査では、一時金や年金による退職給付がある企業は全体の76%で、大卒で定年退職すると平均1941万円の退職金が出る。仮に2000万円を利回り年3%で運用できれば月5万円の収入になる。
ただし金融商品の選び方によっては過大なリスクを抱えかねないので慎重に考える必要がある。最近は退職金の運用先として一時払いの外貨建て個人年金保険を勧める金融機関が少なくないが、為替リスクをよく理解せずに多額の投資をすると、家計の重荷になりかねない。投資初心者はコストの安いインデックス型の投資信託などが候補だ。
大手銀行での勤務経験があるFPの高橋忠寛氏は「退職金が振り込まれた金融機関から投資を勧誘する電話がくることがあるが、まずは自分で老後の家計の収支計画を作って投資の必要性を検討すべきだ」と指摘する。
退職して年金生活に入ると仕事や友人づきあいで外出したりすることが減るので、支出を低く見積もりがち。しかし高齢になるほど医療や介護の出費がかさむ可能性があるため、支出は退職直後と同じ水準で見込むのが無難だ。物価上昇率は年1〜2%で90歳程度まで試算し、足りない分を資産運用で補うのが一案だという。(表悟志)
■シルバー人材登録、月数万円の収入も
60歳以上の高齢者でシルバー人材センターに登録して働く人は多い。市町村ごとに公益社団法人が運営し、駐輪場の管理、建物の清掃、草刈りなど軽作業の就業機会を提供する。安定収入が得られるとは限らないが、全国シルバー人材センター事業協会(東京・江東)によると、月8〜10日働いた場合、おおむね3万〜5万円の収入になる。
講習を受けて植木の手入れ、家事援助などの技能を身につければ、収入を増やしやすい。グループ単位で仕事をすることが多く、地域の高齢者同士のコミュニケーションの場にもなっている。東京都の登録会員は2014年度で60歳代が約3割、70歳代が約6割を占める。
[日本経済新聞朝刊2016年5月25日付]
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