http://www.asyura2.com/16/hasan109/msg/233.html
Tweet |
2016年05月27日(金) 清水 亮
大金持ちへの最短ルート!?「プログラミング教育」はもはや不可欠。しかし拙速な「必修化」はキケンだ
できるかできないかで世界が変わる
〔photo〕iStock
「プログラミング教育必修化」をめぐる混乱
安倍首相は5月19日の産業競争力会議を通じて、あらためて小中学校での「プログラミング教育必修化」を表明しました。
そもそも安倍政権による経済政策「アベノミクス」、その「三本の矢」のなかにプログラミングを含むIT教育の推進が盛り込まれたのは、2013(平成25)年のこと。当時閣議決定された「世界最先端IT国家宣言」の要項に、プログラミングの義務教育化が盛り込まれ、そこからプログラミング教育に注目が集まりました。
プログラマーである筆者も、理想とする「すべての人がプログラミングできる世界」の実現を目指して、当時から政府へ働きかけてきました。また、その理念に則った『教養としてのプログラミング講座』、そして続編となる『実践としてのプログラミング講座』(ともに中公新書ラクレ)を刊行しています。
だから、書店に初心者向けの子供向けのプログラミングテキストが並び、町のあちこちにプログラミング教室が開校している現在のブームのような状況にはとまどいつつ、やはりうれしくもあります。
しかし今回の「必修化」表明で、現場にはかなりの動揺・混乱がもたらされたのも事実のようで、やや危惧をもおぼえています。
実際、「必修化」が表明されてからというもの、企業や学校の現場はもちろん、校長先生、官僚、さらには子どもの親など、さまざまな立場の人から、「相談に乗って欲しい」という相談が次々に届いています。
しかもその相談の特徴をひとことで表すのなら“混乱”や“困惑”、“誤解”という言葉がピッタリ。その対応に悩む毎日を過ごしています。
今すぐ義務教育に組み込めない簡単な理由
とりあえず最初に言っておきたいこと。それは、今すぐにプログラミングを義務教育化することは絶対に「不可能」だということです。
たとえば国語、算数、理科、社会、そしてプログラミング……などと、いきなり小学校で科目を増やすことは現実的ではありません。プログラミングの学習とは、いくつかの分野の知識を理解して、それを応用しながら進めることで成立するのであり、それ単体で学んでも、得られる価値はさほど多くない。
たとえば小学校3年生の算数では「変数」の概念は学びません。しかしそれはプログラミングにとって根幹を成す概念だから、変数を学ぶまでは授業を進められない、という事態になりかねない。
だからプログラミングという科目が加わり、その価値を生かすためには、おそらく教育指導要領を根本的に作りなおさなくてはならない。しかし、それを急に進めればおそらく教育現場は混乱する。かえってマイナスの影響のほうが大きくなることは明白です。
もっとも最悪なのは、ムリにプログラミングを教えた結果、子供たちがプログラミングを嫌いになった、もしくはコンピュータに対して苦手意識を持った、という状況を生むことです。
多かれ少なかれ、プログラミングに点数を付けられるわけですから、成績の悪い子も当然出てきて、「プログラミングが苦手」という意識を持つことになる。これではかえって時代に逆行してしまう。
また小学校の授業は、少数の教諭が1日を通して進めるもの。だからこそ、科目としてはじめる導入する前に検討すべきなのは、教育学部やカリキュラムの改革のほうであって、「科目として一足飛びにスタート」というのは暴論としかいえません。
大富豪の多くがプログラミング経験者という事実
誤解を解いておきますが、もちろん、プログラミングの「義務教育化」という考え自体は賛成です。
今や、スマートフォンという存在を抜きにして、経済や社会どころか、文明すら成り立たないところまで進みつつあります。
そこにきて今後、人工知能が高度化していくことを考えれば、おそらくプログラミングができる人と、できない人の差は、あらゆる面で大きく開いてしまうはずです。なぜなら人工知能を使いこなすには大なり小なり、プログラミングをする必要が絶対にあるから。
先日、人工知能にとって最難関だった「ゲーム」の囲碁で、ついに名人が敗北したのが象徴的ですが、すでに「プログラム取引」が普及した金融やコンサルティングなどの分野はもちろん、もっと一般的な企業や店舗経営において、人工知能を頼りにする日もそれほど遠くないことでしょう。
だからこそ早い段階からプログラミングを理解する必要は明らかに生じています。
現実として、これまで世に出た高名なプログラマーや、プログラマー出身の経営者の多くは13歳までにプログラミングを経験しているそうです。さらに現在の世界の大富豪、トップ20人のうち実に7人がプログラマー出身とも言われています。
そういった事情下で、国を挙げてプログラミング教育を推進する意義はあるし、筆者もそのために尽力をしてきました。ただし先述のような理由から、慎重に進めないとむしろ台無しになる可能性もある。筆者が危惧しているのは、そこです。
勉強が苦手な小学生でも人工知能を作れる?
振り返れば、子どもの頃の筆者にとって、プログラミングとは最強の自己表現手段でした。
荒唐無稽にも思われるかもしれませんが、実は筆者、小学生のときに高校レベル程度の数学的知識を得て、原始的な人工知能を作った経験があります。
中学校では自由研究として、1年生のときに、原子爆弾の開発に携わった天才数学者、フォン・ノイマンらが研究した「セル・オートマトン」という離散計算モデルを改造、花火のアニメーションを表示するプログラムを書きました。
2年生のときには、裁判所を社会科見学したときの様子を、マウスと画像を組みわせて、地図をクリックすると、その地域の情報が出る、ハイパーテキストのプログラムを書きました。これは、今でいうWebサイトと同じ原理。
さらに放送委員もしていたので、学校全体を模した3Dのワイヤーフレームモデルを作り、それをリアルタイムでアニメーションさせるプログラムを書き、学内ニュース番組のオープニング映像を作りました。文化祭では、天文部の一員として、コンピュータを使ったアニメーションをプログラミングし、星座にまつわるストーリーを公開しました。
こう書くと「特別な子だったんでしょ」と言われそうですが、実は勉強そのものは苦手。先生に言われたことをするのも嫌いで、むしろ学校では問題児という扱いを受けていました。
ではそんな少年が、なぜプログラミングで力を発揮することができたのか?
私がプログラミングで力を発揮できたワケ
それには、おそらく3つの理由が考えられます。
1つめは、たまたま筆者の通う小中学校の隣に、市でもっとも大きな図書館があったこと、そしてバスに乗れば、国立大学の図書館に行けたこと。
田舎の大学なので、当時、その図書館は地域の人々に開放されていました。そこで分からないことは市立図書館で調べ、それでも分からないことは大学の図書館で調べることができた。そうした環境的な要素が整って、それで始めて、技術や知識を高めることできたのです。
2つめは、そうした環境的なメリットがあったことに加えて、すぐそばにプログラミングを教えてくれる大人がいたこと。
筆者の通っていた小学校に、たまたまコンピュータ好きの先生がいて、いつも昼休みにはプログラミングなどの話をして過ごしました。中学校でも、やはり数学の先生がコンピュータ好きで、休み時間になれば筆者は走って数学準備室に行き、置いてあるパソコンで数えきれないほどのプログラミングを学び、書きました。
さらには市の図書館司書の1人が、あまりに筆者がコンピュータ関連の本を借りていくのに気づき、いろいろなことを教えてくれるようになりました。
そして3つめの理由として、自分専用のコンピュータがあったことが考えられます。
ちょっと想像しにくいことかもしれませんが、筆者が少年だった1980年代当時、パーソナルコンピュータ、いわゆるパソコンは贅沢品でした。しかし自分専用のパソコンを持っている少年は、むしろ沢山いた。パソコンといえば、少年が使うのが当たり前だった、とまで言えるかもしれません。
というのも当時のパソコンは、ビジネスというより、趣味や娯楽などに該当する存在として捉えられていました。もちろんそれぞれの家庭の事情があるので一律にはいえませんが、誕生日やクリスマスプレゼントとしてパソコンをもらった人がクラスに1人や2人いても、さして珍しくもなかったのです。
しかし現代においてコンピュータは家電にも近い存在となり、それこそ一家に一台、なくてはならないものになりました。しかもコンピュータを通じて接触するインターネット上のWEBサイトには、教育上好ましくないものが数多くあるため、ほとんどの家庭で、みんなの共有のものとされ、利用には制限がつきまとう。これではいざ子供がプログラミングを覚えようと思っても、うまくいくのは難しい。
プログラミングは没頭すればするほど上達しますが、一度辞めるとすぐに腕前が落ちる。筆者自身、経営者という立場でいながら、プログラミングを日常的に欠かさず行うようにしているのは、腕をなまらせないためであり、常に新しい知識を吸収するためでもあります。
ともあれ、幸運なことなのかもしれませんが、たまたまこうした条件が揃ったこともあり、一地方都市の勉強嫌いの少年が、プログラミングを学び技術を高め、その世界へと羽ばたくことができたのだと思います。
「教育学部改革」と「プログラミング部」を
そこで筆者は2つの提案したい。
まず1つ目は、先述しましたが、教育学部におけるプログラミング学習の必修化です。教える先生のほうがその価値や魅力を理解していないと、あらゆる試みが失敗してしまうことが明らかだからです。
具体的な方法として、たとえば教育実習の現場で、必須科目である国語・算数・理科・社会の授業内で部分的にプログラミングを取り入れてみてはどうでしょう。
たとえば、算数なら「鶴亀算をプログラミングで解く」、国語なら「品詞を使って文章を書く人工知能を作る」とか。図画工作の授業で「コンピュータを用いてフラクタル(自己相似形)アートを作ってみる」のも面白いですし、音楽で「自分専用の楽器を作ってみる」のもいい。
あらゆる科目とプログラミングが結びつくことを、まず教育実習の段階で先生に理解してもらい、プログラミングを活用した教育手法についての勉強会を開催するのを提案します。
こうした授業を取り入れて、どの学校でもプログラミングに理解を示す先生が数名いる、という状態になるには、早くても数年かかるはず。補助教員のような形で詳しい方に入ってもらい、プログラミングのところだけ手伝ってもらう、という流れも考えられるかもしれません。
とにかくそうして環境が整ったあとの段階として、科目としての「プログラミング」導入を前提とした、学習指導要領の全面刷新へ進む。すべてが実現するのには、少なくとも10年ほどの期間が必要になるように思われます。
そしてもう一つ提案したいのが、小中学校におけるクラブ活動や部活動として、「プログラミング部」を設立すること。現状でも、「パソコン部」などの名目で設置されている学校がありますが、やることはゲームやパソコンいじりなどになっていて、プログラミングと距離が置かれている場合も少なくない。
そこで純粋にプログラミングを目的とした部を設置して、興味関心や、すでに一定の知識を持ったような子どもが、よりプログラミングと触れあいやすい環境を整えあげることが有意義だと思います。
さらに、子供たちが目指す目標を設定してあげる、という意味で全国的なコンテストを開催してみてはいかがでしょうか。夏休みの自由研究で絵を描いて、それを2学期に絵画コンテストに応募するようなイメージです。現在、筆者らも角川アスキー総研と共同で、小中学生向けのプログラミングコンテストを開催すべく、進めています。
個人個人の生徒のことを考えれば、校外のプログラミング・スクールがさらに充実されることも期待したいところです。
筆者は小中学生にプログラミングを教える教室を秋葉原で開講していますが、そこでは、簡単なビジュアル言語を用いた「ゲームプログラミング」から始まり、現在のプログラミング事情を考えたとき、必須言語でもあるJavaScriptを使った「3Dプログラミング」、「人工知能プログラミング」の初歩までを1年以内にマスターできることを目指した授業を行っています。
通う子どもは小学4年生くらいから中学3年生までとさまざまですが、「学びたい」という熱意をもってやってきているので、誰もが真綿が水を吸収するかのようにプログラミングを自分のものとして身に着けている。そんな彼らのようすを見ていると、心強くも感じています。
最後に繰り返しますが、これからの時代、プログラミングができるかどうかで見えてくる世界は大きく変わるはずです。
それがはっきりしているからこそ、これからの時代を担う子供たちが、プログラミングに苦手意識を持ったり、つまらないところで挫折したりすることなどないよう、その教育の方法については、慎重に議論を重ねてほしいと切に願っています。
瞬時に完成、挫折ゼロ。とりあえずスマホ一台あれば学び、楽しめる。そんな新時代のプログラミング教本が、ここに誕生
清水亮
1976年新潟県生まれ。株式会社UEI代表取締役社長兼CEO、株式会社ドワンゴ会長室第三課課長。電気通信大学在学中、米Microsoft Corpにて家庭用ゲーム機開発や技術動向の研究・教育に携わり、文部科学省の委託事業などを経た後、98年にドワンゴ入社。エグゼクティブゲームディレクターとして携帯電話事業を立ち上げ、2002年に退社。CEDEC(ゲーム開発者向け技術交流会)設立などにかかわり、03年より現職。04年度に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定され、05年より東京大学大学院情報学環履修生。08~10年九州大学大学院非常勤講師。著書に『教養としてのプログラミング講座』『実践としてのプログラミング講座』(ともに中公新書ラクレ)など。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48749
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民109掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。