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赤字20億円!ミシュランガイドは生き残れるのか?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160527-00095252-hbolz-bus_all
HARBOR BUSINESS Online 5月27日(金)9時21分配信
◆売上2兆円超えの老舗タイヤメーカーの有名すぎるもう一つの顔
日本ミシュランタイヤは、売上2兆6000億円、営業利益3200億円、従業員数11万人のフランスの老舗タイヤメーカー、ミシュランの日本法人です。そして、ミシュランといえばタイヤと同じくらい有名なのがレストランやホテルのガイドブック「ミシュランガイド」ですよね。年間100万部以上が販売され、日本でも2007年に欧米以外では初となる東京版、2009年には京都・大阪版が刊行され、大きなニュースとなりました。
第41期決算公告:4月12日官報57頁より
当期純利益:4億800万円
利益剰余金:△63億5400万円
過去の決算情報:詳しくはこちら http://nokizal.com/company/show/id/1576151#flst
施設や営業時間、予算などに加え、独自の調査を行って快適性や料理などにマークを付して掲載するミシュランガイド、特にその代名詞とも言える、0から3つの「星(マカロン)」で示される料理の格付けは、影響力が大きく、日本進出時も随分話題になりました。この格付けは料理のみを対象とし、覆面調査員による匿名調査、身分を明かしての訪問調査など、世界共通のメソッドによる調査・判定基準で付与されています。
◆緑の装丁の観光ガイドブック「グリーンガイド」も有名
なお、ミシュランガイドというと、どうしても星に目が行きますが、そもそも星が付いていなくても、掲載されていること自体が既に一定の評価を意味しており、例えば通常のフランス版だと掲載されている3000軒以上のレストランの中、三つ星は30軒以下、星付きも1〜2割程度です。ただし、日本版は星付きレストランのみの掲載になっていますね。
また、単純にミシュランガイドといえば『三つ星』評価のインパクトから、レストラン・ホテルを扱った赤い装丁の「レッドガイド」が話題になること多く、今回もレッドガイドをメインに扱いますが、緑の装丁の観光ガイドブック「グリーンガイド」も有名で、他にもミシュランのガイド・地図部門では、自動車旅行向けの道路地図も刊行しています。
◆そもそも、なぜタイヤメーカーのミシュランがガイドブック?
とはいえ、今さらですが気になるのが、そもそもなぜタイヤメーカーのミシュランがレストランやホテルのガイドブックを発行しているのかということで、その歴史に触れてみたいと思います。その誕生は、パリ万博が行われた1900年、創設者のミシュラン兄弟がいち早くモータリゼーションの時代が到来することを確信、35,000部を無料配布したのが始まりです。
その内容はというと、郵便局や電話の位置まで示した市街地図や都市別のガソリンスタンド、ホテルの一覧のほか、自動車の整備方法等を載せた、ドライバーの移動や旅行をサポートするものでした。自動車での快適な移動や旅行をサポートして、結果的に自社のタイヤの売上が伸びればOKというコンセプトは、まさに現在のオウンドメディアマーケティングを思わせますね。マスコットキャラのミシュランマンといい、この辺りのミシュラン兄弟のPRセンスは凄いものがあります。
◆「ガイドはタイヤのためにある」という原則と評価基準
この「ガイドはタイヤのためにある」という原則は、現在でも引き継がれており、実際に新しい国でミシュランガイドが刊行されると、その国でミシュランタイヤを買おうと思う人が3%増えると言われています。ちなみにガイドの評価基準においても、結構タイヤとの繋がりを感じられます。
トータルパフォーマンスを掲げる、ミシュランのタイヤは(1)グリップ(2)ハンドリング(3)快適性と静謐性(4)省燃費性(5)耐久性(6)ロングライフ、といった全ての性能を追求するとしていますが、ミシュランガイドの評価基準である(1)素材の質(2)調理技術の高さと味付けの完成度(3)独創性(4)コストパフォーマンス(5)常に安定した料理全体の一貫性、と並べてみると何となく同じポリシーが感じられます。
また、三つ星評価の表現も(☆☆☆)そのために旅行する価値がある卓越した料理、(☆☆)遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理、(☆)そのカテゴリーで特においしい料理、となっており、こちらにも移動や旅行を促す言葉が並んでいますね。
◆第二次世界大戦時には、敵味方両方に重宝されたガイド
さて、再び話題を1900年の誕生後の歴史に戻しましょう。第一次世界大戦にともない1915年から1918年の中断はあったもの、順調に版を重ねていたガイドでしたが、1920年からは有償での販売になっています。これは当時、ある修理工場を訪ねた際に傾いた作業台の足代わりとしてミシュランガイドが地面に積み重ねているのを見かけて「人間は金を払って買ったものしか大切にしない」と考えたミシュラン兄弟がそれまでの無償配布を中止したためです。
その後、1930年代にはレストランを星で格付けする方式が開始され、ミシュラン社員が匿名で施設の調査を行うようになります。もっとも、当初は星は一つ星のみで、次に二つ星までとなり、現在の三つ星評価になったのは1933年からです。そして、1940年から1944年の第二次世界大戦により、再び出版が中断するのですが、この時に有名なエピソードが生まれています。
1940年、ナチス・ドイツがフランスを侵攻するのですが、電撃戦の前線にいたドイツ軍兵士は、なんとミシュランガイドを携行して侵攻を効率的に進めました。そして、逆に1944年、ノルマンディー上陸作戦後の大量の兵員移動が特にフランス都市部で滞ることを憂慮(ドイツ軍が道路標識を破壊したり撤去していたため)した連合軍は、パリのミシュランと秘密協定を結んで、中断前のガイド(1939年版)をワシントンで印刷し、士官らに配布する、という手段で対抗しました。ちなみに、戦後1945年の改訂版では戦争で破壊されたレストラン・ホテルが点線で示されています。
◆大きすぎる「星」の影響力が時に料理人の人生を狂わせることも
こうして、2度の世界大戦による中断を経験したミシュランガイドでしたが、1950年には星による格付けを再開、1956年には初めてのフランス国外版として、北イタリア版が創刊され、ベネルクス版、スペイン版が続きました。その過程で、ミシュランの影響力は益々大きくなり、レストランが星を一つ獲得するとその店の売上は30%増える、とまでいわれるようになります。
確かに現在でも、星を与えられた店舗には多くの客が集まり、経営者やシェフはマスコミに取り上げられ、食品や食器の製造企業とのスポンサー契約等も舞い込んでくるなど、多くのメリットをもたらすミシュランガイドですが、逆に星を落とすようなことがあると、相当な負の影響も想定されるわけで、それに関しては次のような逸話が知られています。
1966年、パリの人気レストラン「ルレー・デ・ポルクロール」のシェフ、アラン・ジックが自殺、ミシュランの評価が下がったことを気にしたのが原因とされています。また、伝記『星に憑かれた男』の主人公であり、1980年代に天才料理人ともてはやされたベルナール・ロワゾーも2003年に自殺、有名レストランガイド誌が彼の3つ星レストランを最高点の19点から17点に落としたことに加え、ミシュランガイドでも3つ星から2つ星への降格が近いとする新聞記事が出たことも一因とされており、これらは「誰かがシェフを殺したのか?」と世間の物議を醸すことになりました。
◆運営歴100年以上のオウンドメディアは今後生き残れるのか?
このように大きな影響力を持つようになったがゆえに、時に「覇権主義、政治的」「一般感覚と離れてる」との批判もつきまとってきたミシュランガイドでしたが、近年ではインターネットの普及もあって、ヨーロッパにおける影響力は低下しています。その打開策として、2004年に第6代総責任者になったジャン・リュック・ナレ(2010年退任)が展開したのが、米国や日本といった新市場を積極的に開拓する拡大路線で、一定の成果は挙げています。
しかし、本来のミシュランが一度発売したら毎年改訂版を出す方針なのに対して、最近の日本版のみ発売されている特別版は1回限定で継続調査が無い、オーストリア版は売れ行き不振から廃刊、2010年以降ラスベガス、ロサンゼルス版は経済的事情により休刊となるなど、安定しない運営方針で権威の低下を招いている、という声もあります。
また、オンライン化の波に乗り遅れたガイド・地図事業自体は、ミシュラン全体の売上の1%に過ぎませんが、毎年約20億円の赤字となっており、現在はデジタル・トラベル・アシスト部門と統合されました。2010年にアクセンチュアがコンサルティングを行った際には「廃刊」まで含む3つのシナリオが提示されたそうですが、100年以上前に作られた歴史あるオウンドメディアがどうなっていくのか、星と同じくらい注目ですね。
決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。
【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
<写真/akaitori>
ハーバー・ビジネス・オンライン
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