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消費停滞の原因は実質賃金の低下、財政拡大では解決できない
http://diamond.jp/articles/-/91921
2016年5月26日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
先日公表されたGDP速報において、2016年1〜3月期の実質GDPの対前期比成長率は、年率換算で1.7%の増加となった。しかし、対前年同期比では、マイナス成長だ。その原因は、消費の停滞だ。
以下では、消費停滞の原因は、消費税増税ではなく、実質賃金の下落であることを示す。そして、日本が長期的にマイナス成長に落ち込んだ可能性があることを指摘する。この状態は、財政拡大によって解決できるものではない。
■成長率の低下は消費の停滞
設備投資も対前期比で3期ぶりに減少
今回のGDP速報において重要なのは、次の3点である。
第1に、この1年間の実質GDPは、ほとんど不変に留まった(図表1参照)。
実際、2016年1〜3月期の値を15年1〜3月期と比較すれば、3桁目まで一致する。正確に言えば、0.05%のマイナス成長だ。うるう年の効果を考慮すれば、マイナス幅はもっと大きいと言えるだろう。16年1〜3月期の値を14年1〜3月期と比較すれば、約1%のマイナス成長だ。
◆図表1:実質GDPの推移
(資料)内閣府
第2に、実質GDPの停滞をもたらしている原因は、消費の停滞である(図表2参照)。実質家計最終消費支出を見ると、前期からは増加しているが、15年1〜3月期と比較すると、0.81%の減少だ。
◆図表2:実質家計最終消費支出の推移
(資料)内閣府
消費停滞の原因については、次節で検討する。
今回のGDP統計で重要な第3点は、設備投資が対前期比で3期ぶりの減少となったことだ(図表3参照)。1年前の15年1〜3月期と比べても、1.12%の減少になっている。
こうなる原因は、企業が将来の生産増加を期待していないことだ。ここ数年、円安のために企業の利益は増大したが、為替レートは円高傾向に変わっており、企業収益についても楽観ができないことが背景にある。
◆図表3:実質設備投資の推移
(資料)内閣府
■消費停滞は消費税の影響だけではない
12年以降の実質賃金下落が原因
上で見たように、経済停滞の最大の原因は、消費の停滞である。
ただし、これは消費税の影響だけではないことに注意が必要である。実際、2015年と現在では、消費税率は変わっていないにもかかわらず、上述のように消費は減少している。
消費税増税による消費の落ち込みは、前回の1997年の引き上げ時にも生じた。ただし、このときには、図表4に示すように、2年後には消費税増税直前の値に戻り、その後、増加に転じた。
こうなったのは、実質所得が増加したからである。図表4に見るように、98、99年には消費税増税の影響で、実質所得が消費税増税前より低くなったが、2000年には、消費税増税前より高くなった。
◆図表4:実質賃金指数の推移
(注)2010年平均=100
現金給与額、30人以上、調査産業計
(資料)毎月勤労統計
ところが、今回は、図表2に見られるように、消費は回復していない。これは、図表4からもわかるように、実質賃金が12年以降、連続して減少していることによるものだ。
しかも、後に述べるように、社会保障の財源手当てがなされていない。このため、将来における施策の持続可能性に関して大きな不安があり、家計は消費拡大に慎重ならざるをえない状況になっている。
■成長率の落ち込みは日本経済の構造的要因
日本は長期的マイナス成長の可能性
以上で述べたように、消費の停滞は、長期的な原因によるものである。これは、消費税増税の影響でもないし、短期的な現象でもない。構造的な原因によって成長率が落ち込んでいるのだ。
図表4で見るように、実質賃金指数は、2006年のピーク102.4から、15年には95.2へと、7%も低くなっている。
これをもたらしているのは、短期的な景気変動ではなく、日本経済の構造的な要因である。したがって、実質賃金指数のマイナス成長は、今後も続くと予想されているのだ(16年においては、原油価格の下落や円高の進行により、実質賃金指数がプラス成長に転じる可能性が強い。しかし、その程度は大きくないだろう)。
この状況が変わらなければ、実質GDPの成長率がゼロないしはマイナスになることは避けられない。
政府は名目GDPを600兆円にするという目的を立てているが、それは、インフレによってしか実現できない。
■G7で賛同を得られなかった日本
財政拡大では現在の問題を解決できない
安倍晋三内閣は、以上で見たような状況に対処するため、大型補正予算による経済対策を策定しようとしている。
先週開かれたG7(主要7ヵ国の財務相・中央銀行総裁会議)において、日本は国際的な協調の下に財政拡大を行なうことを提案した。
しかし、それに対して賛同を得ることはできなかった。
それは当然のことであって、世界の先進国が直面する問題は、財政拡大によって解決できるような性質のものではないからである。
現在の状況は、潜在成長率の低下によってもたらされたものだ。日本の場合に、とくにそのことが言える。
財政拡大や金融緩和などのマクロ的拡張政策は、経済の成長率が潜在成長率を下回っている場合に、それを潜在成長率にまで引き上げることを目的とするものであって、潜在成長率そのものを引き上げることはできない。
こうした状況下で必要なのは、財政拡大ではなく、潜在成長率を高めることだ。
■持続可能性の乏しい一億総活躍プラン
人々は慎重な消費態度を変えない
潜在成長率引き上げの必要性自体は、政府の経済政策においても意識されている。
政府は、「ニッポン一億総活躍プラン」の大枠を5月18日にまとめた。また、同日の経済財政諮問会議で、「経済財政運営と改革の基本方針」(「骨太の方針」)の素案をまとめた。
ニッポン一億総活躍プラン、骨太の方針、成長戦略は、5月末に閣議決定されることとなっている。
しかし、これらについての大きな問題は、その持続可能性である。
とくに一億総活躍政策に盛り込まれているさまざまな福祉政策の実現のためには、財源手当てが必要である。しかし、それがはっきりしないのだ。税収の増加分や歳出改革の成果などを活用する方針が示されているが、税収増がいつまで続くかについては、大きな不確実性がある。また、歳出改革の中身は曖昧だ。さらに、消費税増税が予定されているのかどうかもはっきりしない。
こうした状況では、政策の持続可能性について、大きな疑問が持たれる。
したがって、人々の長期的な所得期待は好転しない。だから、人々は慎重な消費態度を変えないだろう。
■潜在成長率を高めるには
規制緩和による新技術導入が不可欠
成長のためには新しい技術を導入することが必要であり、そのためには規制緩和が必要である。しかし規制緩和は、既得権益者の利益と衝突するため、掛け声ばかりで、実態はなかなか進まない。
例えば民泊については、規制が緩和されたと言われるが、6連泊以上という制約があり、実際には利用が制限される。このため、これまでのところ届け出はあまり伸びていない。
新しい技術は、その他の分野でも可能になっている。その1つがフィンテックだ。
金融業務の本質は情報処理業務であるから、本来はもっと早くからITが導入されていて然るべきだった。しかし、金融が極めて規制の強い分野であるため、これまで十分に導入されておらず、その結果、金融サービスが利用者の需要に応えていない状況にあった。
その状況がいま大きく変わろうとしている。金融はあらゆる経済活動の背後にあるから、金融の生産性が高まれば、経済全体の成長率が大きく変わる。しかし、実際にどの程度の導入がなされるかは、規制に依存している。
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