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※写真は2月9日の為替相場〔PHOTO〕gettyimages
日本を再びデフレに陥れる「円高シンドローム」を警戒せよ!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48747
2016年05月26日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■今後の「ドル円レート」はどう動くのか
筆者が思いつくに、為替レートの「水準」を判断する方法としては、@金利差(実質・名目)、Aマネタリーベース比率(ソロスチャート)、B購買力平価などがある(「テクニカル分析」は「職人芸」の領域で再現可能性がほとんどないと考えているので取り上げない)。
その中から今回は、購買力平価を用いて、現在のドル円レートの水準を考えてみよう(ちなみに筆者は、@の名目金利差で考えるアプローチは為替レートを考える際には役に立たないし、特に通貨投資を行う場合には大きな損失を被るリスクがあると考えているため用いないことにしている)。
購買力平価とは、単純にいえば、「2国(ドル円レートの場合は、日本と米国)の物価水準によって為替レートが決まる」という考え方である。
「物価水準」をはかる代表的な指標としては、消費者物価と生産者物価(日本の場合は企業物価)があるが、消費者物価は、非貿易財サービス(貿易取引がなされない財、代表的なものとして、理容・美容サービスが挙げられる)を含んでいるため、通常は、生産者物価(企業物価)ベースの購買力平価が用いられる。
実際のドル円レートと購買力平価の動きを並べてみると(図表1)、両者の間には大きな乖離があり、実際のドル円レートは必ずしも購買力平価と一致するわけではないことがわかる。だが、同時に、購買力平価が長期的なドル円レートの「トレンド」を示していることもまた確認できる。
ところで、実務的には、実際のドル円レートと購買力平価の「乖離率」の動きに注目することが多い。すなわち、乖離率がプラスであれば「円安」、逆にマイナスであれば「円高」というのが一応の判断基準となる(もちろん、別の為替レートモデルを用いる場合には別の判断基準となることはいうまでもない)。
そして、実際のドル円レートが購買力平価の水準から±20%の乖離率の水準に到達すれば、+20%の場合には円安、-20%の場合には円高のピークが近づいた可能性が高く、為替レートが反転するタイミングが近いとされている(あくまでも「経験則」だが)。
■長期デフレをもたらした「円高バイアス」
ところが、実際の「乖離率」の推移をみると、1985年9月の「プラザ合意」以降、ドル円レートが円安方向に乖離する(すなわち、「乖離率」がプラスで推移する)ことは極めてまれであった。
すなわち、プラザ合意以降で、購買力平価との乖離率がプラスに転じたのは、2005年10月から2008年9月までの時期と、2013年2月以降しかなかった(図表2)
これは、プラザ合意以降、日本経済には、趨勢的に円高圧力がかかり続けていたことを意味している。そして、この為替市場における長期的な「円高バイアス」が日本に長期的なデフレをもたらした可能性を指摘したのが、スタンフォード大学ロナルド・マッキノン教授と大野健一政策研究大学院大学教授の「円高シンドローム」論である。
「円高シンドローム」論は、1990年代初めの米国クリントン政権における日米通商交渉の変化が円高バイアスを強めてきたという仮説である。
具体的にいえば、米国政府が、従来から続いてきた日米の貿易不均衡の問題を、ミクロの問題(すなわち、繊維産業から自動車、半導体等へとつながる個別産業の問題)からマクロの問題(商慣行や企業グループなどの「構造問題」に根ざす不公正な競争条件)に転換させると同時に貿易黒字を削減するように圧力をかけた結果として長期的な円高が続いた可能性を指摘している。
すなわち、日本の政策当局は、この米国サイドからの貿易黒字削減要求の圧力によって、引き締め気味の政策を採らざるを得なくなり、バブル崩壊後の緩和政策が必要な局面で、十分な緩和策を採れず、それがその後の長期的なデフレにつながったという解釈が成立する。
ただし、大野・マッキノンの「円高シンドローム」論は1990年代半ばまでの考察にとどまっており、彼らの論文や著作では、「バブル崩壊」後の日本経済の停滞によって、米国からの圧力は相当程度軽減するため、まもなく「円高シンドローム」は解消するであろうという楽観的な予想がなされている。
確かに、2000年代になってからは、米国が日本の対外黒字削減要求を強めることはほぼなくなったが、それでも趨勢的な円高という状況は継続し、それが日本のデフレを長期化させる一因にもなった。
そして、その円高デフレに対し、政策当局者がほとんど対策をとらず、逆に「円高容認」ともとれる行動を採っていたのも事実である(この点については、拙著『円の足枷』で詳細に触れている)。
ようやくその円高トレンドに終止符が打たれたのは、2013年以降の「アベノミクス」の局面であった(2003年4月に始まる大規模円売りドル買い介入と日銀の量的緩和によって、一時、円高局面は解消したかにみえたが、その後、緩和政策の転換から再び円高トレンドに戻った)。
現在も、実際のドル円レートは購買力平価を恒常的に上回る円安水準で推移しているが、この間、日本銀行による大胆な金融緩和が実施されてきたことは言うまでもない。
また、購買力平価自体も、従来の円高トレンドから若干の円安トレンドに転じつつある。その意味で、アベノミクスの1つの効用として、これまで日本経済を苦しめてきた「円高デフレ」を克服した点を指摘してもよいと考える。
■「円高シンドローム」再発も、なくはない
ところで、現在の購買力平価の水準(1973年平均を基準とした生産者物価/企業物価ベース)は、2016年2月時点で1ドル=約100円程度である(国際通貨研究所が発表している購買力平価は1ドル=99.18円)。そして、現在の乖離率は約15%となっている。
時系列的にみれば、「ハロウィン緩和」直後の2014年11月以降、乖離率は経験則上の円安のピークである20%を超え、2014年6月には30%近く(正確には28.7%)まで上昇した。2016年に入って以降、乖離率は低下に転じているが、それでも、現在の1ドル=110円の水準では、依然として購買力平価との乖離率は10%と過去からみると「円安」水準である。
すなわち、「水準感」でいえば、現在のドル円レートは、日本経済を再びデフレに陥れるような危機的な円高ではないと考えられる。問題は、「購買力平価」との乖離率が急速に低下しているという、これまでの円安の修正「スピード」の速さであろう。
麻生財務相は、再三にわたり、為替介入(円売りドル買い介入)の実施を示唆する発言を行ってきたが、過去の為替介入のタイミングを、購買力平価と実際の為替レートの乖離率との関係からみてみると、乖離率が-10%、すなわち、購買力平価対比で10%以上の円高局面になった段階で実施している。
この「経験則」から、現在の購買力平価で考えると、1ドル=90円程度の円高にならなければ、為替介入を実施する可能性は低いのではなかろうか。つまり、財務相の介入発言は、調整スピードを緩めるための「牽制球」と考えたほうがよいだろう。
以上より、筆者は、現状の為替レートの水準は「円高」でもないし、為替レートだけをみれば、これが日本を再びデフレに陥れるリスクも現時点では「まだ」低いと考える。
だが、決して楽観はしていない。むしろ、今後は、円高リスクに注意が必要である。その理由は、米国の通商政策である。
現在、米国は大統領選の最中であるが、民主、共和両陣営とも、保護主義的なバイアスが強まっているように感じる。先日公表された米財務省の「為替報告書」においても、経常収支黒字国に対して、為替レート操作を強く牽制する内容になっていた。
この「為替報告書」では、ユーロ圏に属し、自国の通貨政策が存在しないドイツも、「注意リスト」に入っており、その内容には疑問符がつく。また、大統領候補として有力視されているクリントン、トランプ両氏ともTPPには否定的であり、今後、ドル高が再び進み、米国産業界からの圧力が高まると、経済政策として「ドル高の是正」が全面的に出てくる可能性も排除できないのではないか。
つまり、今後の米国の通商政策次第では、1990年代初めから半ばにかけてのような「円高シンドローム」が再発するリスクがないともいえない状況になりつつあるのが気がかりな点である。
日銀短観の法人企業の販売価格判断DIから推測される企業の予想インフレ率も大きく低下しつつある。この局面での「円高シンドローム」の復活は、日本を再びデフレに陥れるインパクトを持つかもしれないので、注意が必要となる。
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