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中国・北京でナイジェリアのブハリ大統領との署名式に臨む習近平国家主席(2016年4月12日撮影、資料写真)。(c)AFP/KENZABURO FUKUHARA〔AFPBB News〕
世界市場のリスクシナリオ〜中国で高まる路線対立、権力闘争のリスク 高まる世界株式警戒論、だがその根拠は薄弱
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46914
2016.5.24 武者 陵司 JBpress
世界株式に悲観論が強まっている。スタンレー・ドラッケンミラー氏やカール・アイカーン氏など少なからぬ老練の投資家がリーマンショック類似の株式ショックがあり得る、との懸念を表明している。確かに昨年夏以降の度重なる世界的株式急落、新興国・中国の市場不安などを、市場の本格的下落の予兆である、とする見方も排除できなくなっている。
しかし、悲観論の最も重要な根拠は、循環論、つまりリーマンショック以降の株高が5年を経過し長期下落局面に入る日柄である、とするチャート上の見解であるが、チャート上の懸念を除けば経済的、政治的株式暴落の理由は、根拠薄弱と言えるのではないか。
経済的政治的要因として、1. 米国経済拡大の成熟化、2. 米利上げがもたらす悪循環、3. 世界的供給過剰=需要不足、4. 政治的懸念、英国のEU離脱や米大統領選挙、4. 米国企業業績の増加息切れ、5. 割高な株式バリュエーション、等が指摘さていれるが、それら一つひとつはリーマンショックとは程遠い、軽量級の要因である。
市場に存在する強い警戒論、G7など各国政策当局による手堅い景気配慮を見ると、現状が過剰楽観やバブル形成といった、暴落を引き起す環境とは対極にあることが、明らかである。特に世界の中核を担う米国経済が近い将来リセッションに陥る可能性がほとんど考えられないことは重要である。
唯一中国の破壊力の可能性は排除できない
ただし、中国経済危機が進行し、世界金融危機が勃発するとなれば、中国の巨大な過剰供給力と潜在的不良債権が市場に突然の破壊力をもたらす、という可能性を完全には排除できない。そもそも、世界貿易の縮小、石油をはじめとする商品市況の悪化と過剰供給力、世界経済と世界の株式市場の不安定化はひとえに、中国リスクが無視できなくなったことにある。
その中国で新たな最も警戒すべき事柄が発生している。それが政策路線対立と権力闘争の表面化である。
■中国の長く続く清算過程が始まった
中国では年初来の金融緩和と財政出動により、落ち込み続けていたミクロ指標(電力消費量、鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量)などに一服感が出ているが、経済失速を覆すことは困難であろう。英国のエコノミスト誌(5/7号)は、「中国債務危機が起きる事は必至、問題はいつ起きるかだ」という記事を掲載し、債務の対GDP比は10年前の150%から260%という危機水準に達した、中国はこれまで貸し出しを預金の75%に抑えてきたが、それが今ではほぼ100%まで高まり、資金ひっ迫と古典的金融危機が現実味を帯びている、と述べている。
そもそも中国の過剰投資は、例えば過去2年間余りのセメントの消費量が米国の過去100年分とほぼ同等という事実に見られるごとく、度肝を抜く規模であった。その結果もたらされている著しい設備過剰、住宅在庫、非効率の公共インフラが、巨額の潜在的不良債権になっていく。人類の歴史上最大の過剰投資を行った中国において、長く続く清算過程が始まったと覚悟が必要である。
その清算過程は3段階の危機深化を経過していくことになるだろう。その第一は金融危機(通貨危機から全盤的信用収縮へ)、第二は経済危機(不動産バブル崩壊・企業破たんから失業の激増へ)、第三は政治体制危機(雇用不安から体制危機へ)、である。この3つが同時に惹き起これば世界は直ちに混沌に投げ込まれ、世界大不況に陥るだろうから、何としても回避しなくてはならない。
この長く続く清算の過程を如何に害小さく遂行するか、壮大な作戦と国際協力が必要な時代に入っている。
■路線対立の顕在化、権力闘争に進展か
そうした緊張が高まる局面で、路線対立という大きなリスクが顕在化しつつある。それは習近平国家主席と李克強首相の相克の表面化である。
3月初旬の全国人民代表大会では壇上の習主席は、汗びっしょりで長時間のスピーチをした李首相に対して拍手もせず握手もせず、衆人環視の下で李首相に対する無視を露わにした。産経新聞紙(5月19日)上で石平氏は「『太子党』という勢力を率いる習主席と、『共青団派』の現役の領袖である李首相との闘いは当然、最高指導部を二分する派閥闘争として展開していくしかない」と展望している。
それは公共投資などの景気対策を最重視する守旧派と、経済構造改革を推し進めようとする習政権指導部との対立とも重なって展開されている。
共産党機関紙の人民日報(5月9日)は習主席の発言をにおわせながら、「カンフル剤の景気対策はバブル再発を招く、今後U字やV字回復は不可能で、L字型になる。1、2年では終わらない」と守旧派を批判し、低成長時代という現実の受け入れを迫っている。
ウォールストリート・ジャーナル紙は5月18日の社説で、「習主席が遂行しようとしている供給サイドの構造改革(減税、規制緩和、ゾンビ企業の整理と財政金融の刺激策の抑制)は中国にとっては(長期的には)必要なものである。しかし、官僚たちは景気刺激に重心を移しているし、李首相も改革を支持しているものの、ケインズ政策(財政刺激策)にも前向きで、習政権の供給サイドの構造改革はスムーズではない。」 何よりも習政権のサプライサイド改革には「より自由な市場経済の構築をレーニン型の一党独裁統制政治によって成し遂げようとしているという根本的矛盾がある」と厳しい評価をしている。
そもそも改革の最も重要な対象である国有企業や共産党体制が既得権益そのものであり、共産党の統制力強化を改革につなげることには無理があると言われている。とすれば毛沢東主席の文化大革命のように、既存の党組織を否定解体する新たな権力機構を構築するしかないが、習近平政権の最近の言論統制や個人崇拝的傾向の復活は、そうした試みが進行しつつあることをうかがわせる。
■中国共産党体制の分岐、大いなる不確実性
しかし、インターネットが普及し市場経済の恩恵を人々が享受している今日、文革的な二重権力構造の創出は困難であろう。習政権のサプライサイド改革は、景気の悪化と反対派の抵抗により頓挫する可能性が高いのではないか。
そうなると厳格な汚職追及や言論弾圧で敵を多く作ってきた習主席の権力基盤が揺らぐことになる。習体制が続くか、李首相への権力移転に進むのか、中央政府の統制力が劣化するのか、中国の共産党独裁体制の岐路が近づきつつあると言えるのではないか。
それは中国の政策選択において多大な不確実性をもたらし、世界の地政学を大きく変え、しいては世界経済パフォーマンス、市場パフォーマンスを左右することになる。
米国をはじめリベラルデモクラシーの諸国は、政治的リベラリズムに親和的な李首相のプレゼンスの高まりを期待し、それは世界の株式市場に対しても好材料と受け止められるだろうが、その過程は著しく読みにくい。
◎本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第161号(2016年5月23日)」を転載したものです。
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