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「仕事がない!」欧州エリートバンカーの苦悩 月収10万円の若者が突如クルマを買い始めた中国
http://www.asyura2.com/16/hasan108/msg/789.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 5 月 20 日 14:12:26: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

(回答先: 引きこもり当事者が明かす“ブラック支援”の実態 「引きこもり」するオトナたち (第260回 投稿者 軽毛 日時 2016 年 5 月 20 日 13:32:13)

「仕事がない!」欧州エリートバンカーの苦悩

Money Globe ― from London

欧州銀行が米銀のように復活できない理由
2016年5月19日(木)
菅野 泰夫
 ロンドンで娘が通う学校の同級生の父兄は、なぜか金融機関に勤めている人が多い。多い時で月に2〜3回開催される同級生の誕生日会では、子供そっちのけで、いつも親同士で景気動向や金融市場に関する話に花が咲く。

 そんな中、昨年特に多かったのが就職に関する相談である。駐在事務所の代表という筆者のポジションが分かると、“何か私にできる仕事はありませんか?”など、誕生日会の最中に切実な表情で積極的に話し掛けられることもあった。

 確かに2015年から今年にかけて、欧州銀行の人員削減は激しかった。比較的に勝ち組であった欧州銀行も同時に人員整理を進めたため、ロンドンには仕事探しに奔走する金融マンが溢れかえっていた印象を受ける。

 「子供が3人私立の学校に通っているが、夏から仕事が見つからない」「うちの銀行では常にリストラ対象を探しているので、次は自分の番かとビクビクしている」。誕生日に用意されたイベントで無邪気に遊ぶ子供達とは対照的に、英国人に限らずフランスやイタリアなど、ロンドンに集う多国籍な親達同士で、不況下に喘ぐ欧州銀行の不景気な話で盛り下がることもしばしばであった。

バンカーの高額報酬で収益性が高まらず

 残念ながら、筆者の駐在事務所内が採用できる可能性はないのだが、調査という職業柄、希望年収を尋ねてみると、筆者と同年代(40歳前後)からの回答の多くが「年収15万〜20万ポンド(約2400万〜3200万円)+ボーナスでどうですか?」と返ってきた。

 リーマンショック以前の超高額報酬とまではいかないが、高給であることには変わりない。ロンドンの大卒バンカーは、新卒採用時から年収5万ポンド(約800万円)の初任給でスタートし、5年目までに10万ポンド(約1600万円)を超えるのが(投資銀行業務に属する銀行員の)標準的な給与体系といわれている。ただし、金融街シティの高給取り達を羨ましいと思う半面、「バンカーは45歳、ソリシター(弁護士)は55歳が定年」という格言があるぐらい、競争も熾烈だ(日本の銀行員も多くが45歳前後で出向の憂き目に会うので大差は無いかもしれないが)。

 一方で、これほどの給与体系を維持しているため、欧州銀行の収益性が改善しないことにも納得がいく。図表1は欧米の大手31行の過去6年間(2010年12月期〜2015年12月期)における経費(販管費・その他営業費用)の増減を対象国・地域ごとに示している(2010年12月期を100として指数化、内訳はユーロ圏8行、スイス3行、デンマーク3行、スウェーデン4行、英国5行、米国8行)。

 この図をみると、欧州の銀行は総じて高額報酬に代表される高コスト体質が、マイナス金利導入国が増えた2014年以降も変わっていないことが分かる。米銀と比較しても過去5年間の経費が上昇している。人件費に加えて、英国銀行に顕著であった罰金や訴訟費用の急増なども収益性低下を引き起こした原因といえよう。

図表1 欧米銀行の経費の増減推移

(出所) Bloombergより大和総研作成
今も続く財務リストラ

 コストの高止まりに加えて、財務リストラを未だに継続している点も欧州銀行の収益が思うように上がらない理由だ。

 ギリシャに端を発した2010年のユーロ危機により金融安定化に時間が掛かっている欧州では、大規模なリストラが昨年あたりからようやく本格化し始め、未だにノンコア資産の売却が続いている。それに加えて、欧州銀行はバーゼルVなどの規制強化の波に資本増強やリスクアセットの圧縮で何とか対応してきたが、破綻を恐れる規制当局による資本要件は厳格化の一途を辿っている。

 大手国際金融機関への新資本規制「TLAC」等においても、次世代の規制強化に伴う調達コストを顧客に転嫁することには既に限界が来ており、さらなるリストラが求められていることは想像に難くない。

 一方、米銀はリーマンショックの直撃を受けたものの、早期に痛みを伴う人員リストラ、業務整理を断行したことが功を奏したといえよう。国別のROE(自己資本利益率)をみても(図表2)、米銀はリーマンショック後、大きくその水準を低下させたものの、債務危機以降に欧州銀行の水準を上回り、欧州でのマイナス金利導入以降さらに差が広がっていることがわかる。

 欧州銀行は、資金利ザヤの低下はもとより、米銀や邦銀と比較して流動性預金が少なく、貸出資金の調達はCPやインターバンク、レポといったホールセール調達が多い。預金流出を嫌いリテール預金からの利子徴収が出来ず、マイナス金利のコストを顧客に転嫁できずにいる状態が欧州銀行の経営体力をむしばんでいる。

図表2 欧州・米国・英国の銀行のROE推移

(注)システム上重要な銀行(G-SIBs)を主な対象とし、各国・地域の銀行を加重平均ベースで合計して計測(欧州12行、英国5行、米国8行)
(出所)Bloombergより大和総研作成
限界が近づく欧州のマイナス金利政策

 欧州ではマイナス金利の副作用が影響し、銀行の収益性を低下させていることも問題視されている。特に長期固定住宅ローンの需要の急増は、一部の欧州銀行経営環境をさらに圧迫させているといわれている。過剰な長期固定住宅ローンは、将来的に利上げ局面になったときに、バランスシートの金利リスクを顕在化させ、銀行収益の大幅な機会損失を招く。銀行もオフバランスが容易でない貸出の金利リスクをヘッジするためのコスト(大量な金利スワップ契約)を掛けざるを得ない。

 特に2011年からゼロ金利、2014年からマイナス金利政策が採用されているスイスでは、長期固定貸出増加を抑制するため、今年に入り(長期固定貸出の)住宅ローン金利をあえて引き上げ始めた。多大なヘッジコストを掛けるよりは、単純に貸出を抑制するために金利引き上げを選択している。

 結果的にスイスでは、政策当局の意図とは逆の副作用が生じている状態を意味する。これ以上マイナス金利幅を拡大させても、貸出利回り低下させ貸出を増加させるという好循環は期待できないことが示唆されている。

慢性的な需要不足は変わらず

 欧州銀行は、マイナス金利により貸出金利回りを高めることができず、金利上昇リスクに怯えながら、利益を高める方法を模索している。ECB(欧州中央銀行)はユーロ危機以降、これまでの常識を覆すような金融政策を導入してきたが、慢性的な需要不足による低インフレの状況には変化の兆しが見えてこない。

 欧州では、マイナス金利導入の意図である消費活性化や欧州銀行の企業貸出の増加が顕著に起きていないことは重要な事実として認識すべきであろう。欧州銀行は不良債権の蓄積が未だ多く、成長資金が必要な企業にも貸出やリスクマネーの供給が滞るケースが多い。利子だけを返済するゾンビ企業も依然として多く、銀行収益の悪化により、欧州債務危機の後遺症から抜け出していない状態が続いている。

 この状況を考えると、今後もユーロ圏の経済回復は停滞する可能性が高く、永続的な量的緩和やマイナス金利という未知の領域により、予想外のネガティブな結果に直面する恐れがある。英国FSA前長官のアデア・ターナー卿は、近著でデフレからの脱却に向け、家計への商品券の無償配布や、政府が無利子永久債を発行して中銀が直接引受けるなどのヘリコプターマネーの有用性を主張している。

 ハイパーインフレや、期限付きの商品券をばら撒いた後の反動でさらなる需要停滞などの副作用はあるものの、金融政策のオプションとしてヘリコプターマネー等を検討する価値は高い。バーゼルVの生みの親であるターナー氏の発言は英国のみならず、欧州銀行関係者に大きな影響力を持つ。

 ただし、2016年度に入り欧州銀行は危機後の規制強化一辺倒のムードから脱しつつあることは明るい材料である。株式投資への税制緩和などを盛り込む資本市場同盟の実現促進などもその一環であり、欧州金融当局からのさらなる締め付けも収束しつつある。大規模なリストラが終了しつつある欧州銀行が、どの様な事業選択を行い、低収益モデルを打開していくのかその動向に注目したい。


このコラムについて

Money Globe ― from London
環境、会計など様々な分野で影響力を誇示する欧州の経済情勢を、現地の専門家がマクロ、為替、金融政策、M&A(合併・買収)など様々な観点から分析する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/051800003

月収10万円の若者が突如クルマを買い始めた中国

中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造

上海ディズニーと格差(3) 「住まいは便器むき出しアパート」のアンバランス
2016年5月19日(木)
山田 泰司

シューの家。むき出しの便器が目に付く

 シュー(23歳)が上海に借りている上海の家を初めて訪ねた時の衝撃は忘れられない。

 案内されて部屋に足を踏み入れると、1つしかない窓に近い最も日当たりのいい場所に、洋式の便器がむき出しになって置かれているのが目に飛び込んできたからだ。

便器がむき出しになった部屋に住む

 ここはバスルームで、居間や寝室は別にあるのかと思ったが、便器の右隣には大きな液晶モニターを載せた机、左隣には木製のベッドがある。「狭くてびっくりしたでしょう? 部屋はこの1つしかないんです。500元(約8500円)の予算だと選択肢がなくて。上海は家賃が高いから。故郷にある実家は大きいんですけどね」と恥ずかしそうにシューは言うが、部屋の広さは10畳ほどはある。この1部屋に3歳の子供と親子3人で暮らしているというから手狭ではあろうが、広さだけならこれよりも小さい部屋に暮らす人はいくらでもいるだろう。しかし、部屋の中に便器がそのままポンと置かれている部屋は初めて見た。シューは、使う際の目隠しになるよう、天井からビニールシートを吊るしていたが、窓からのすきま風でさえシートが動いているのを見ると、気休め程度にしかならないのは一目瞭然だった。かつて新聞で見たことのある、日本の刑務所で死刑囚が過ごす独居房が頭に浮かんだ。

 シューの家の大家はこの土地で農業をする上海の農家で、自分の家の敷地に賃貸住宅を建て貸し出している。店子は全員、地方の農村から出てきて上海の郊外に暮らし、近所にある工場や倉庫で単純労働や簡単な事務作業をしたり、ウェーターなどサービス業をしたりして働くシューのような比較的賃金の安い地方出身者だ。

浮き彫りになる「農民内格差」

 それにしても、大家はどんな考えで、トイレに囲いを付けなかったのだろうか。

 このコラムの1回目で温水洗浄便座のことを取りあげた際、上海には19世紀後半から20世紀半ばにかけての租界時代に建てられた古い集合住宅が、この10年に進んだ再開発でだいぶ数は少なくなったが今でも残っていて、こうした古い伝統的な住宅の中には、トイレのない物件が少なくない、それも、かつての日本によく見られた個々の部屋にトイレがない共同トイレのアパートととも違って、下水道や浄化槽が未整備だった名残で建物の中にトイレ自体がなく、「馬桶」(マートン)と呼ばれる「おまる」を使って、部屋の片隅で用を足していたのだ、ということを書いた。

 しかし、シューが住んでいるような住宅は、この10年ぐらいに建てたものだから、ベニヤ板で囲うなりした独立したトイレのスペースはいくらでも作れたはずである。それを作らなかったというのは、トイレに対する感覚の違いということもあるのだろうが、上海人が地方出身者を「田舎者の農民工」とさげすむ様を町で、ネットで、雑誌で嫌になるほど見聞きしてきた私には、「便器を付けてやっただけでもありがたく思え」という大家の心の声が聞こえるような気がしてならない。上海の農民が、地方の農民を差別するという構図である。心の声を聞いたというのはあながち私の勝手な妄想ではない。なぜって、大家たちが自分たちで住む立派な母屋の方には、独立したトイレの個室をちゃんと設けていて、昨今では日本みやげの温水洗浄便座まで付けているのだから。

 今から15年前、「昔ながらの上海人の生活を体感する」などと鼻息荒くトイレのない昔ながらのアパートに住み、半年にわたっておまるの生活を経験し四苦八苦した私は、トイレのない生活がいかに不便かということは身をもって実感している。それでも、むき出しの便器を用意されるぐらいだったら、元からトイレがない部屋でおまるで用を足す方が、ずっと精神の安寧を保てるように思う。

住まいに不釣り合いなクルマ

 さて、シューが便器むき出しの部屋に住むことを余儀なくされているのは、共に物流倉庫で働く夫婦の世帯収入が8000元(約13万6000円)と、家族3人であれば食うや食わずという生活にはならないものの、上海のいわゆるホワイトカラー1人分相当と決して多くはない一家の収入を考えてのことであり、「自分たちは中学しか出ていないから子供は大学に進ませたい」(シュー)という子供の教育費などに回すため、と私は思い込んでいた。

 だから、シューの家を初めて訪れてから1年も経たない今年の1月、「シューがクルマを買った」と聞いた時には、彼の家を見た時よりもさらに、私は驚いたのである。便器むき出しの家に住む彼らのどこに、クルマを買う余裕があるのか、と。

 シューが買ったのは上海GEが中国で製造しているビュイック・エクセル(中国名・別克英朗)。1.5リッターのコンパクトセダンで、価格は14万元(238万円)だ。上海は自動車の総量規制をしているためナンバープレートは競売制で、落札価格は直近で8万5000元(約145万円)と、クルマ1台分程度にまで高騰している。ただ、地方出身者は総量規制のない故郷でナンバープレートを取得するケースも多く、シューも実家のある江蘇省で申請したためこの費用はかからなかったのだという。

 上海では今、シューと同じような境遇にある20代前半の夫婦たちがこぞってマイカーを買い始めている。「シューと同じような境遇」とは、出身は地方の農村で、学歴は中卒か高卒、職を求めて上海にやって来て、家賃は安いが交通の不便な郊外に住み、仕事は単純労働の、世帯所得6000〜1万元(約10万〜17万円)、といった層のこと。上海の最低賃金は2190元(約3万7000円)なので、世帯収入6000元というのは、現在の上海では底辺に限りなく近い水準だと言える。


マイカーを手に入れてVサインのウェイ夫妻。中国吉利は2010年、ボルボを買収した中国の自動車メーカーとして一躍有名になった
 シューの友人で四川省の農村で中学を終え上海に出て来たウェイ夫妻(24歳)も春節(旧正月)を間近に控えた今年1月、マイカーを買った。中国の自動車メーカー吉利のSUVで、購入代金の9万2000元(約129万円)は、「親にも少し援助してもらって一括で払った」(ウェイ)。シュー同様、ナンバープレートは高額な上海を避け故郷の四川省で申請した。

 月々にかかる費用は、「週末ぐらいしか乗らないので、ガソリン代の200元(約3400円)程度」。駐車場は「この辺は上海でも農村だから、道路に適当に止めておいても大丈夫」なのだという。

バブル期の日本との共通点と危うさ

 一方で、購入を見合わせたケースもある。


試験前最後の路上教習でいきなりエンストし苦笑いのシュンと、教習中のほとんどの時間をダッシュボードに足を投げ出し、スマホでSMSをしていた教官。これでもシュンは教官のことを「いい人だ」と言っていた。お国柄の違いというほかない
 シューの隣の物流倉庫で働いていた、やはり農村出身のシュン(24歳)も、友達がこぞってクルマを買おうとしているのに刺激された。そして、まずは運転免許だということで、母と妻の了承を得て、家の貯金から1万元(約17万円)を出し昨年、教習所に通った。実地で1度不合格になったものの2度目で無事合格。「さあ、旧正月前に今度はクルマを買うぞ。日産のティアナが欲しいな。でも、お金がないから中古でいいや。え? 2009年製でも11万元(約190万円)もするの? でもローンで買えばいいや」などと楽しそうに夢を膨らませていた。

 ところがそれから程なくしてシュンはリストラに遭い、クルマの購入も当面見合わせざるを得なくなった。それでも、クルマを買おうとしていたほどなんだから、それなりに蓄えはあるんでしょ? と尋ねると、「うーん、無収入が2カ月目に入ったら、貯金は底が見え始めちゃうかな」との答え。そうなのか、それじゃあティアナのローンの途中でリストラされていたら大変なことになっていたねと重ねて聞くと、「払えなくなったらローン会社にクルマを取られてそれでチャラだからそれほどのプレッシャーはないだろうけど、でも、危なかったね」。


シュンが通った上海のある教習所。どんな環境を想定したのか深い森の中に設けられた所内の教習コースと、信号のないひたすらまっすぐな道が続く路上コース
 「日本経済新聞」(2016年4月22日付)によると、中国の自動車メーカー上場8社の2015年12月期決算は、8社のうち7社が前期比2ケタの増収、特に15年10月から始まった小型車減税を背景に、小型車に強い中堅メーカーが収益を大きく伸ばしたと伝えている。

 バブル全盛期の1980年代、日本では若者が6畳のワンルームに住んでBMWなどの高級車を買うという現象があった。中国の現状も、80年代の日本と類似していると言えるのかもしれないが、便器むき出しの独居房のような部屋に家族3人で住んでクルマの費用を捻出したシューや、リストラでローンが払えなくなってもクルマを取られるだけなのでそれほど怖くないというシュンのケースを目の当たりにすると、彼らのマイカー購入は、実に危ういところで支えられているものだということが分かる。

敗残感漂う家よりも贅沢な車内が購入に走らせる

 それにしても、彼らがここに来てこぞってマイカー購入に走っているのはなぜなのか。

 先の日経新聞の記事にもあったが、中国は昨年10月、排気量1.5リッター以下の自動車購入税をそれまでの1万2000元(約20万円)から6000元に半減した。シューとウェイも「減税が買う1つのきっかけにはなった」と言う。しかし、「それが最大の理由ではない」とも言う。それでは、最も大きな理由は何かと尋ねると、購入を見合わせたシュンも含め3人とも「なぜって……欲しいからだよ」と繰り返すのみ。ただそのうちシューが「クルマに乗っていると、金持ちになった気分にはなるな」とつぶやいた。それを聞いた他の2人は、「そうそう、クルマの中って、自分の家よりゴージャスだもんね」と同調した。

 自分たちで明確に意識はしていないが、恐らくこれが、クルマを渇望する最大の理由なのだろう。当然のことだが、彼らとて、便器むき出しの家が快適だとは思っていないのだ。

 シュー、ウェイ、シュンの3人のうち、便器むき出しの家に住んでいるのはシューのみだ。ただ、彼らの家におじゃました際、共通して毎回感じるものがある。それは、部屋に漂う投げやりで、殺伐とした、よどんだ空気。さらに踏み込んで言えば、敗残感である。

 上海では今年に入って郊外の家賃が高騰、シューとウェイも今年の春節を機に家賃が倍の1000元(約1万7000円)になった。不景気で、シュンのように突然失業するケースも増加。生活のプレッシャーは確実に増している。

 シューは「上海でマイホームを買うなんて100%無理」と断言する。真面目に働いてもトイレすらまともにない家にしか住めない。せめてもの贅沢でクルマを買って、週末ぐらいは家族で日常を忘れたい――こんな思いが彼らをクルマの購入に走らせている。

近くて、とてつもなく遠い上海ディズニーランド

 親友であり、職種、家庭環境、資産状況も似たり寄ったりのシュンが、リストラでクルマの購入を諦めたのを目の当たりにしたシューとウェイは、一括で買ったとはいえ、さすがに少し怖くなっているようだ。「でもほら、失業しても、クルマがあれば、ウーバー(Uber)や滴滴(Didi)みたいな配車サービスで稼げるじゃないか。シュンも無理してでもやっぱりクルマを買った方がいいよ」とシュー。ウェイも、「そうそう、6月にはディズニーランドも出来るしさ。この辺は交通がとにかく不便だから、ディズニーランドや空港に行く人を乗せる需要はこれからもっと増えるよ」と続ける。これを聞いたシュンは、「そうだね」と少し明るい顔になった。

 彼らの住む辺りは浦東空港まで直線距離で2キロ足らずの所にある。さらに6月に開園する上海ディズニーランドへも直線距離なら10キロ程度だ。一方で、都心部からはというと、例えば日本人の居住者も多い婁山関路というエリアからの直線距離は、浦東空港が50キロ、上海ディズニーランドは37キロあまりだが、浦東空港へは地下鉄が直結しているほか、リニアモーターカーや空港リムジンバスもあるので、1時間半あまりで着く。一方で上海ディズニーランドも開園に合わせてオープンする地下鉄を利用すれば1時間程度と、公共交通機関を使ったアクセスは便利だ。

 ところが、直線距離では断然近いシューたちの住む辺りは、公共交通機関の整備とは無縁の陸の孤島だ。地下鉄を使って浦東空港やディズニーランドに行くため最寄りの地下鉄駅まで出る路線バスはあるものの、本数は1時間に1本。自宅を出て最寄りの地下鉄駅に着くまでに既に2時間近くかかってしまう。さらに認可されたタクシーもこの辺りには乗り入れない。仕方なく彼らは、地下鉄に乗るために白タクを利用している。

 中国から世界への玄関である浦東空港、豊かな中国を象徴する最新スポットである夢の国・上海ディズニーランドにほど近い場所に住みながら、現実的な距離はとてつもなく遠い。念願叶ってマイカーを手に入れたシュンが、初めてディズニーランドを訪れるのが、白タクか配車サービスの運転手としてではなく、客としてであればいい、と思う。


このコラムについて

中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造
「世界の工場」と言われてきた製造大国・中国。しかし近年は、人件費を始めとする様々なコストの高騰などを背景に、「チャイナ・プラス・ワン」を求めて中国以外の国・地域に製造拠点を移す企業の動きも目立ち始めているほか、成長優先の弊害として環境問題も表面化してきた。20年にわたって経験を蓄積し技術力を向上させた中国が今後も引き続き、製造業にとって不可欠の拠点であることは間違いないが、一方で、この国が世界の「つくる」の主役から、「つかう」の主役にもなりつつあるのも事実だ。こうした中、1988年の留学から足かけ25年あまり上海、北京、香港で生活し、ここ数年は、アップル社のスマートフォン「iPhone」を受託製造することで知られるEMS(電子機器受託製造サービス)業界を取材する筆者が、中国の街角や、中国人の普段の生活から、彼らが日常で使用している電化製品や機械製品、衣類などをピックアップ。製造業が手がけたこれら「モノ」を切り口に、中国人の思想、思考、環境の相違が生み出す嗜好を描く。さらに、これらモノ作りの最前線で働く労働者達の横顔も紹介していきたい。本連載のサブタイトルに入れた「速写」とは、中国語でスケッチのこと。「読み解く」「分析する」と大上段に構えることなく、ミクロの視点で活写していきたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258513/051800029  

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