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日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか
http://diamond.jp/articles/-/91467
2016年5月19日 高橋洋一 [嘉悦大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■日銀の追加緩和見送りについて
筆者は二つの見方を推測
日銀はこれ以上金融緩和しても無意味と判断したのか
5月12日、日銀は4月27〜28日に開いた金融政策決定会合の「主な意見」を公表した。多くの市場関係者は追加緩和を希望していたのに日銀は追加緩和を見送った会合なので、どのような意見が出ているのかは興味深い。
追加緩和見送りについて、筆者は黒田総裁の属人的なことと、日銀のマクロ経済に対する見方の二つからであろうと思っている。
黒田総裁は、(1)金融政策の理解しつつも、(2)元大蔵官僚の側面を持っているが、なにより(3)天邪鬼の性格である。今回は、あまりに市場の期待が出過ぎて、追加緩和の思惑が出過ぎたので、(3)天邪鬼の性格から、市場の思惑に乗りたくなかったのかしれない。
それに加えて、政府は消費増税を止めて、財政出動するだろうから、金融緩和しなくてもいいという判断もあっただろう。これは、2014年10月の金融政策決定会合で金融緩和したこととまったく逆だ。
というのは、2014年に黒田総裁は政府が消費増税を決めるのだから、それを援護するために金融緩和したという、(2)元大蔵官僚の側面の判断だった。今回は消費増税しないのだから、金融緩和が不要と考えたのかもしれない。これは(2)元大蔵官僚の側面が色濃く出ている。
要するに、(2)元大蔵官僚の側面と(3)天邪鬼の性格という黒田総裁の属人的なものが出ている。
■指標として重要なのは失業とGDP
株価や為替は二義的な意味しか持たない
それに加えて、注目しておきたい点が@金融政策の理解である。これは日銀のマクロ経済に対する見方と密接に関係している。
経済全体の指標としては、失業とGDPが重要だ。この意味で、株価や為替は二義的な意味しか持たない。GDPはやや足踏み、失業率は引き水準だが、下げ止まっている状態だ。一方、物価や賃金も伸び悩んでいる。
こうした状況を日銀はどう判断しているのかが重要なポイントである。4月の金融政策決定会合時に公表された「経済・物価情勢の展望」の中に、気になる記述がある。わが国の潜在成長率について「0%台前半」としている点だ。
そうであれば、日銀は、今の失業率水準である3%前半をこれ以上低下できない構造的な下限水準(構造失業率)とみていることになる。そう考えると、これ以上金融緩和しても無意味ということになる。
4月に日銀から公表された物価展望レポートの中に、構造失業率が3%前半になっているという資料もある(図表1)。
日銀事務から潜在成長率がゼロ前半なので「これ以上金融政策をしても意味はない」との意見があったので、黒田総裁の判断を後押ししたのではないだろうか。
■市場関係者の行動結果で
金融政策を評価してはいけない
構造失業率の見方を聞けば、その人がどのくらい金融政策を理解しているかどうかがわかる。「ダイヤモンド・オンライン」に限らずアベノミクスの金融政策について、否定的な見方が多いが、それらは金融政策の本来の目的と構造失業率について、ほとんど理解していないところからくる誤解である。
そうした人たちの多くは市場関係者であるが、彼らは、4月の金融政策決定会合後。為替は1ドル111円台後半から108円台前半へ、日経平均は後場で600円を超す下落だったから、金融政策のミスという。
しかし、市場関係者は思惑で利益のために売買しているだけなので、彼らの行動結果を日本経済全体のために行われている金融政策を評価するために使ってはいけない。
金融政策の目標は物価の安定であるが、物価と裏腹の関係である失業率の管理こそ、金融政策の究極の目標である。これは、広い意味での政府の目標として、雇用はトップランクになっているからだ。だからこそ、このパラグラフのはじめに、失業(とGDP)が重要だと書いたわけだ。
その意味で、構造失業率をどう見ているのかが重要なのだ。金融政策の否定論者は、金融政策の目標を理解できていないので構造失業率を考えていないことがしばしばだ。それでも、もし構造失業率を聞くと、4%台とかとんでもないことを言い出す。金融政策が不要であることを言いたいがための苦し紛れである。
ある経済学者は今の失業率が構造失業率であり、常に完全雇用であると強弁したこともある。もし、常に完全雇用であれば、政府としてこれ以上楽なことはない。まったくお笑いである。
■今回の日銀の行動は解せない
日銀の構造失業率の見方に異論
その上で、筆者は日銀の構造失業率の見方に異論がある。日銀の見方が正しいとすれば、物価や賃金が伸び悩んでいる現状と矛盾する。
さらに金融緩和を行えば、失業率は今の3%前半から2%後半へ引き下げることができ、そうなったときに、物価や賃金が上がり出すとみている。筆者のこの立場から見ると、今回日銀が金融緩和して、政府は7月の参院選前に財政出動することが最適解になる。この意味で、今回の日銀の行動は解せない。
「正義のミカタ」(朝日放送)より
この話は、5月7日に放送された「正義のミカタ」(朝日放送)で紹介したこともある。
12日に公表された金融政策決定会合の「主な意見」の中に、興味深い記述を見つけた。
・失業率の低下テンポが弱まっている。過去の経験則によれば、失業率が3%を切らないと物価が2%になるのは難しい。3%前半の失業率を構造失業率と呼び、これ以上下がらないようなイメージを与えるのは誤解を与える
筆者は、日銀内にもまともな意見を持っている人がいることがわかり、安心した。
■構造失業率は3%前半ではない!?
筆者なりの推計を示す
では、構造失業率が3%前半ではないとして、実際はいくらぐらいなのだろうか。以下に、筆者なりの推計を示したい。
構造失業率の推計には、UV分析による方法とフィリップス曲線による分析(特にNAIRU(インフレを加速させない失業率)の推計)がある。
本コラムでは、厚生労働省「職業安定業務統計」による欠員統計の利用が可能であるので、UV分析を若干アレンジしたい。UV分析とは、縦軸に失業率(U、通常は雇用失業率)、横軸に欠員率(V)をとり、失業率を需要不足失業率と構造的・摩擦的失業率に分解し、その動向から構造失業率を算出するものだ。
まず、1963年からのUV図を描いてみよう。欠員率=(有効求人数−就職件数)/(有効求人数−就職件数+雇用者数)、雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)として、計算している。
これを見ると、1980年代は安定しており、左下方にシフトして構造的失業率が低下し、90年代には逆に右上方にシフトし構造的失業率が高くなっていることがわかる。動きとしては右回りになっていることもわかる。
そこで、最近の2002年1月から2009年7月までの経路(図表3黒線)をみると、やはり右回りになっている。もっとも、リーマンショックがあったので、右下までこないままに右回りで一周している。
最近の2009年8月から現時点までの経路(図表3赤線)を見ると、筆者の予想線(図表3点線)の通りに右下に向かって下がっている。ここで、右回りになるとすると、さらに左下に下がり、完全雇用は図のようになると、筆者はみている。その点に対応する失業率は2.7%程度であり、これが筆者の考える構造失業率である。
■筆者も同意する
金融政策決定会合の「主な意見」
なお、12日に公表された金融政策決定会合の「主な意見」には、マイナス金利に関する以下のような興味ある記述もある。
・現在の金融政策は継続すべきである。住宅ローンや企業向け貸出の金利低下など、マイナス金利政策導入において意図した主な作用は、実体経済に有効に働いている。副作用として懸念された金融機関の貸し渋りは、現時点ではみられない。
・マイナス金利政策導入は長期金利を30ベーシスも引き下げたため、予想インフレ率の低下にもかかわらず、予想実質金利を大きく引き下げている。したがって、現在は、世界経済の動向を注視しつつ、この大幅引き下げが実体経済にもたらす影響を見守る段階である。
・マイナス金利政策と量的・質的金融緩和を異なるものとする議論があるが、どちらの政策も自然利子率より低い水準に実質金利を引き下げるという点で、同じものである。
・マイナス金利政策に対する反対論には、銀行収益の悪化を指摘するものが多いが、経済全体が活性化して初めて銀行も安定した収益を得られることを忘れている。
これらは筆者も同意である。これらについては、まもなく出版される拙著『「マイナス金利」の真相』(KADOKAWA)を参照していただきたい。
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