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デフレ脱却への究極の一手「ヘリコプター・マネー」の効果はどれほどか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48689
2016年05月19日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■日本政府がとるべき次の経済政策は?
5月18日に発表された2016年1-3月期の実質GDP成長率は季調済前期比+0.4%であった。「うるう年効果」を考慮すると、事実上は、ゼロ成長に近い。
筆者は、現在の日本が「リーマンショック級」の景気悪化に見舞われているとは思わない。だが、2014年4-6月期より予想インフレ率は再び低下傾向で推移している可能性が高く、その意味で、日本経済の先行きにはかなりの危機感を持っている。
筆者が試算した企業物価ベースでの予想インフレ率(日銀短観の販売価格判断DIの構成比データからカールソン・パーキン法を用いて推定)は、前期比年率換算ベースで-1.2%程度となっており、明らかに下落トレンドに転じている。
その結果、実質金利(国内銀行の新規約定金利から予想インフレ率を引いたもの)は上昇に転じている。この実質金利と設備投資(設備投資の変動率、もしくは投資率)は逆相関(実質金利の上昇局面では減少、ないしは低下)で、しかも、実質金利がやや先行する関係があるため、今後、設備投資の本格的な減速が懸念される(図表1)。
多くの局面で、設備投資の減速局面が始まると雇用環境も悪化する。ちなみに、今回の1-3月GDP統計では、実質雇用者報酬の伸び率は、季調済前期比で+1.3%、前年比で+2.7%(名目ではそれぞれ、+0.6%、+2.5%)と大きく伸びており、「アベノミクスでは賃金が全く伸びていない」との批判は現状認識として誤りである。ただ、賃金動向も今後はかなり不透明である。
このような経済環境下で最近、海外投資家、メディアを含め、日本政府がとりうる次なる経済政策として注目を集めつつあるのが、「ヘリコプター・マネー」である。
「ヘリコプター・マネー」とは、ノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者で、「マネタリスト」の総帥でもある故ミルトン・フリードマン氏が提唱した経済政策である。比較的最近では、前FRB議長のベン・バーナンキ氏がデフレ脱却のための「究極の選択肢」の一つとして指摘した。
「ヘリコプター・マネー」の原型は、「政府が(新たに)発行した国債を中央銀行が購入し、その代わりに発行した現金通貨をヘリコプターからばら撒けば、それを拾った人が、その現金を使って消費活動をすることで需要が拡大し、やがてはデフレを脱することができるだろう」という一種の「寓話」である(ミルトン・フリードマンの著書『貨幣の悪戯』に収録されている)。
もっとも、現実的に考えれば、現金をヘリコプターで撒くことは想定しづらい。しかも、それゆえ、現実的かつ具体的な政策としての「ヘリコプター・マネー」の定義は、論者によってまちまちであり、議論がいま一つかみ合っていない印象が強い(単純に「お金をばら撒く」ことを批判する論者もいるが、批判としてはまったくの論外である)。
とはいえ、筆者はこの手の経済論争には全く興味がないので、ここでは、勝手に筆者なりの「ヘリコプター・マネー」の定義を考えることにする。
■「ヘリコプター・マネー」の肝は?
いささか「俺様」的な定義になってしまうかもしれないが、要するに「ヘリコプター・マネー」とは、
@政府が国債の増発によって調達した資金を原資に、何らかの歳出拡大措置をとる
A政府が新たに発行した国債は日本銀行が購入する(この場合、国債市場を通じてか、直接引受かという区別にはそれほど大きな意味はない)
ということになる。
ここでの「国債の増発」とは、財政赤字の拡大を意味するので、「ヘリコプター・マネー」とは、「政府と日本銀行が一体となってデフレ脱却にコミットする総合的な政策パッケージ」であるといえよう。
この政策は、いわゆる「財政ファイナンス」に相当するとして、強い批判を浴びることが多い。そして、現時点で、日本銀行の黒田総裁はその実施について否定的な見解を示している。
また、全く逆になるが、「現時点で既に日本銀行は新発の国債を購入しているので『ヘリコプター・マネー』を実施している」という見方もある。
いずれの見方も、実際に政策を実施する際の運用(オペレーション)に注目している感が強いが、筆者は、「ヘリコプター・マネー」の肝は、中央銀行が実施する金融政策と政府が実施する財政政策が、「同時に」デフレ脱却にコミットすることで、民間の人々の「期待形成」を変える点にあると考える。
その意味では、これまでの経済政策が、人々の「期待(デフレ予想)」を変えるまでには至らなかったと総括し、かつ、デフレ脱却が必要であると政府が考えるのであれば、「ヘリコプター・マネー」は検討に値する政策であると考える。
■日本のデフレは重症だった
ところで、これまでの安倍政権の経済政策の運営方針は、「デフレ脱却と財政再建の両立」であった。
これはすなわち、デフレ脱却は、2%のインフレ目標にコミットした日本銀行の金融政策が担う一方、政府は、消費税率の段階的引き上げ(もしくはその後に配偶者控除や所得控除の見直し)による財政再建を担う、という役割分担を明確にするものであったと考えられる。
この2つの政策目標は、ある意味、二律背反的である。デフレ脱却のためには、需要を刺激する必要がある一方、増税による財政再建は、借金の返済を優先するため、需要を減少させる政策だからだ。
すなわち、デフレ脱却という政策目標からみれば、増税による財政再建は、金融緩和というアクセルと同時にブレーキを踏む政策に他ならない。政府は当然、このことを理解していたと思われるが、より強くアクセルを踏むこと(すなわち、大胆な金融緩和を実施すること)によって、デフレ脱却は十分に可能であると考えていたのだろう。
だが、2014年4月に実施した消費税率の引き上げ(5%→8%)は、想像以上に家計消費に大きなマイナスの影響を及ぼし、それまでは予想を上回るペースで進んでいたデフレ脱却プロセスをも滞らせる結果となりつつある。特に、前述の企業の予想インフレ率は、消費税率引き上げ直後の2014年4-6月期から反落している。
また、敢えて「フェア」に議論すると、デフレ脱却プロセスの遅れの原因として、消費税率引き上げ以外の影響を指摘することも可能かもしれない。
1991年以降の日本において、企業が想定する「中長期(5年)の期待実質成長率」と予想インフレ率の関係をみると、リーマンショック前までは、前年末時点の予想インフレ率が上昇すれば、翌年の期待実質成長率はそれなりに上昇するという関係があった。すなわち、中央銀行によるリフレ政策によって予想インフレ率が上昇すれば、企業の成長期待も高まるという関係があった。
だが、リーマンショック後はその関係が失われている。リフレ政策によって予想インフレ率が上昇しても、企業の成長期待は必ずしも高まっていない様子がみてとれる(図表2)。
理由はよくわからないが、これが日本における「長期停滞」の実態であるとするならば、もはや金融政策だけでデフレを克服することは困難であるかもしれないという解釈になる(これについては、このグラフだけでは結論づけられないのでさらに考察を深める必要があるが)。
ともかく、2014年4月から現在に至る日本経済の推移を考えると、デフレ脱却と財政再建を同時に実現させようとする現在の安倍政権の経済政策は、下手をすると、「二兎を追うもの一兎も得ず」にもなりかねない状況に陥りつつある。これは、財政再建を図りながら、デフレ脱却を目指せるほど、日本のデフレは軽度なものではなかったということを意味しているのだろう。
そして、そのような状況をみて、そろそろ政策当局は、デフレ脱却に集中すべきという見方が世界的に広がりつつあるのが、この「ヘリコプター・マネー」議論が台頭してきた背景ではないかと考える。
■「長期停滞」を克服する政策手段
ところで、経済政策における「コミットメント」の重要性については、米国における「大恐慌」の研究においても既に実証されている。
例えば、ブラウン大学のガウティ・エガートソン准教授は、米国が大恐慌から脱出できたのは、金融政策と同時に財政政策、及びその他の政策(賃上げ要求を含む)が、一体となって「デフレからの脱出」にコミットしたためであるとの論文を発表している。
また、同氏は、米国経済が、一旦、大恐慌を克服しながら、1937年に再びデフレに陥ってしまった原因について、デフレを十分に克服する前に財政再建に舵を切ろうとした可能性を指摘した論文も発表している。
彼は、同論文で、財政再建路線への転換を示唆したことによって、政府によるデフレ脱却へのコミットメントが揺らぎ、人々が再デフレを想定した経済活動に転換したことが、現実の再デフレにつながったとも結論づけている(もちろん、中央銀行の「出口政策」が早すぎたことも大きな要因の一つである)。
このような考え(政府・中央銀行が一体となってデフレ脱却にコミットする)は、米国の経済学界で勢いを強めている。
例えば、著名な経済学者であるポール・クルーグマン氏や、ローレンス・サマーズ氏は、日本に限らず、先進国の「長期停滞」を克服する政策手段として、金融政策・財政政策が一体となった需要促進政策の必要性を論じてきた。
彼らの他にも、著書『国家は破綻する』で、財政赤字の拡大に警鐘を鳴らしたハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏までもが、日本政府が「ヘリコプター・マネー」政策を実施することに対し、理解を示している(ちなみに、前述のガウティ・エガートソン氏も「長期停滞」についての理論モデルを提示している)。
以上より、6月以降、日本の経済政策が、為替・株式市場の大きな注目点になる可能性が出てきた。なお、財政政策への要請としては、消費刺激策としての減税や各種給付金の他、防災のための公共投資や安全保障のための歳出増なども想定される。
また、財政支出の拡大は、基本的に、どのオープンマクロモデルを用いても理論的には円高要因になりうるが、これを相殺するための金融緩和が実施されれば、中立になるため、ここでいうところの「ヘリコプター・マネー」では中立であると思われる。
さらに、国債増発ではなく、特別会計等の「剰余金」を経済対策の原資に用いる案が浮上する可能性もあるが、「剰余金」の多くが国債で運用されているため、これらを用いる場合にも、国債増発と同様の効果が期待できるだろう。
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