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不祥事をきっかけに三菱自動車が日産に飲み込まれる(撮影:尾形 文繁、今井 康一)
三菱自動車の「焼け太り」を非難できない理由 日産の傘下入りは虫がいいが利点も大きい
http://toyokeizai.net/articles/-/117884
2016年05月13日 川端 由美 :モータージャーナリスト 東洋経済
「え?こんなに早く記者会見するの?」
日産自動車と三菱自動車が共同で緊急会見を開くと聞いて、記者の誰もがそう思ったはずだ。確かに5月11日(水)深夜、「日産自動車が三菱自動車に2000億円を超える規模(その後の発表で2370億円と明示)の出資を行い、事実上、傘下に収める方向で最終的な調整に入った」とNHKが報道し、株式の34%を握る筆頭株主になるというニュースは耳にしていた。
しかし、通常、大手企業の提携にあたっては、事前にリークがあっても、デュー・デリジェンスといって、買収や提携をする前に投資対象となる企業の調査を行う過程があるわけだし、いくら急を要する決断であっても、日産側のみならず、投資を受ける三菱自動車側も役員会を開く必要がある。
■あまりにも、素早い記者会見
ところが、あれよあれよという間に、すべてのことが進み、「覚書」の段階とはいえ、当初から予定されていた日産の決算発表をずらして、5月12日(木)午後4時には日産のカルロス・ゴーンCEOと三菱自動車の益子修会長が参加しての共同記者会見を開いたのだ。
三菱自動車の燃費データ不正問題が発覚してからわずか3週間、急転直下の展開となった。結論を急ぐようだが、無事にデュー・デリジェンスが終わって、この覚書が実行されれば、ルノー・日産・三菱自動車の3社連合が誕生する。日産ルノー連合の世界販売台数は2015年に約850万台、三菱自動車は約100万台。合計すると1000万台の大台に限りなく近づく。いわゆる「1000万台クラブ」の仲間入りを果たすことになる。
世界を見回してみても、この規模を誇るのは、世界一を競うトヨタ自動車とフォルクスワーゲン(VW)、さらに70年以上に渡って世界一だったゼネラル・モーターズ(GM)の3社にすぎない。
当然、テレビや新聞メディアの報道は、三菱自動車が起こした不祥事から、1000万台クラブへの入場切符を手に入れた話にすり替わるわけで、不祥事に関する報道がしりすぼみになる可能性は否めない。
それにしても、この提携の真意とは一体何なのか。うがった見方をすれば、三菱自動車が先の見えない不祥事からの抜け道を見つけ、同時に日産も提携によってメリットを見いだせるた”出口”を見つけたようにも思える。
「燃費の不正問題が発覚した段階で、こういうことになると予想はしていない。当然、状況把握を待った。そして、益子氏との対話の中で、今回の資本提携という結論に至った。これまで、互いに信頼を築いてきた中で、いつかの段階で資本提携を行う可能性は話に上っていたが、今回の事象で加速した感はある。
今後、10〜15年後を予測すると、排ガス問題、マーケットの地理的な拡大、新分野での技術革新の必要性など、多様な課題にどう対処していくかrに頭を悩ませているのは、小規模の自動車メーカーであればどこも同じだろう。今回の資本提携は、そうした過程を経て、自動車業界として成熟していく中における自然なプロセスだ」(ゴーン氏)
益子氏の意見も、見事にコンセンサスが取れている。
「過去に、軽自動車の開発について、単独で行うのは難しいという壁にあたった当時、3つの選択肢があった。ひとつは軽自動車からの撤退、二つ目は他社からOEM(相手先ブランドによる生産)供給をうけること、そして3つめがパートナーを得て軽自動車を開発することだった。
結局、われわれは日産と共同で開発・生産をするという選択を行って、2011年にこの関係がスタートした。これがきっかけになって、ほかの協業の可能性も検討してきた。これまでにも、三菱自動車のタイ工場で日産のピックアップトラックを生産するなどの実績も積んできた。両社の関係を考える中で、資本提携の可能性は自然な流れとして、これまでも話し合いをしてきた。自然な流れの中で提携をする日を迎えたが、”その日”が燃費問題で早まった」(益子氏)
■提携でメリットを得るのは誰なのか?
当然、この説明だけでは拒否権を持って、役員を送り込めるほどの株式を所有するほどの大規模な資本提携を選んだ理由としては釈然としない。ハッキリ言って、現段階で三菱自動車は、ルノーと日産がアライアンスを組んだときのような資金面の問題は抱えていない。現状、三菱自動車は約4500億円(2016年3月末)の現預金を持っている一方、有利子負債は300億円程度しかなく、極めてキャッシュリッチでただちに資金繰りに窮する懸念はない。にもかかわらず、三菱自動車は事実上、日産の傘下入りを急いで決めた。
「日産との資本提携を通じて、日産から人的および技術的支援を受けて、開発風土の意識的改革ができる。今回の合意によって、協業の幅が広がる。EV(電気自動車)や自動運転といった次世代の開発についても、提携を深める。共同購入プログラムによるコスト低減も重要だ。
また、アセアンでの協業によって、さらに多くのビジネスチャンスを生む。ルノーと日産は互いを尊重し、独ダイムラーや露アフトワズ(Avtovaz)などともアライアンスで成功した経験を持っている点も心強い。三菱自動車として、信頼を取り戻すのは容易ではない。しかし、今回、日産とのアライアンスを通じて、困難な道を歩み始める力を養える」(益子氏)
一方、日産側の意図はこうだ。
「すべての決定は、デュー・デリジェンスの後に行うが、今回、早期に覚書として記者会見に望んだのは、三菱自動車がみずからを冷静に分析し、情報を開示したことが提携を選んだ最大の要因だ。これまで、5年に渡るパートナーシップを通して、オープンな対話もしてきたし、なにより、三菱自動車の潜在力を信じている。日産のサポートによって、より早い問題解決を期待する。
三菱自はアジア市場に強みがあるが、そのなかでもインドネシアでは強力なブランドイメージを誇る(三菱自動車HPより)
第二に、効果的に手を結ぶことで、日産側にも相乗効果がある。例えば、三菱自動車の東南アジアでの業績は日産を上回り、SUV(スポーツ多目的車)やピックアップトラックで素晴らしい業績を収めている。最後に、日産も以前に困難な時期があり、三菱自動車を取り巻く状況を理解できる点だ。早期に日本車メーカーがサポートを表明し、問題の解消に向かう道筋をつけることで、取引先、ディーラーまで含めて、不必要な不安を解消できると考えた」(ゴーン氏)
当然、日産側が3分の1の役員を任命でき、日産側が合意しないと、三菱自動車が何もできないことは理解している。しかし、これは力関係を示すものではなく、三菱グループに属する他の株主をまとめれば、50%以上の出資になっている。日産は三菱を絶対的に支配できる過半数超の株式を持つワケではない、「支配ではなく、力をあわせることを示した持ち株の割合だ」と、ゴーン氏は説明する。
■ゴーン氏は益子氏へ多大な信頼を寄せる
もちろん、財務面も考慮したというが、何よりも、三菱自動車と益子会長に対して、ゴーン氏の信頼が厚いことが基盤にあるようだ。
「三菱自動車への信頼に加えて、益子氏は信頼に値する人物であること、益子氏が『これだけの問題がある』と明示したことを信頼しての決定だ。トップ間の信頼、財務上における両社のメリット、日本企業に関する共感、周囲の困難を考えて、今回の協業を引き受けた」(ゴーン氏)
ただ、益子氏のコメントで気になったのが、日産からの技術支援も望んでいる点だ。過去には「ランサー」や「パジェロ」といった本格4WDに秀でていた時代もあり、エコカーでは、EVの「アイミーブやPHV(プラグインハイブリッド車)の「アウトランダーPHV」を短期間で開発した実績もある。
今回の燃費に関する不祥事も、ひとえにエンジニアのせいというわけでもない。組織として無理難題を通す体質が問題であり、燃費目標として掲げられた数値を達成できないことを正直に報告できる風土がありさえすれば、ダイハツ工業に負けても、他社と比べて燃費性能が極端に見劣りするわけではなかったからだ。
穿った見方をすれば、三菱自動車の叩き上げでエンジニア出身の相川哲郎社長が「調査委員会の報告を聞くまでは、当然、社長の責任は果たします」と引責辞任の可能性も否めない発言をしたのに対し、ゴーン氏の信頼が厚い益子氏は続投する可能性が見え隠れする。とはいえ、確実に、日産との提携に向かってマネジメントの舵は切られていく。目標は、年内の終結だ。
「デュー・デリジェンスを終えて、独禁法の問題をクリアした後、年内には案件をクローズできるように進めていきたい」と、益子氏は語る。一方のゴーン氏も、やる気満々だ。
「デュー・デリジェンスの前に具体的な行動を起こすことはないが、いざ、実行に移れる段階になったときに備えて準備はする。例えば、シナジー効果をどう出すか?人的な要因、実行体制といった要因を計画しておく必要がある」と、ゴーン氏は言う。
■そもそも今回の話は水面下で進んでいた?
そもそも、このスピード感で記者発表ができた背景には、もともと軽自動車以外でも提携や協業の話が水面下で進んでいたのだろう。そのことについて、ゴーン氏も益子氏も隠そうとはしない。
念のためおさらいしておくと、2011年に両社の共同出資によって軽自動車の企画およびプロジェクトマネジメントに特化する「NMKV」なる合弁会社が設立されている。今回の不祥事の本丸ともいえる部分だ。筆者は、「本来、合弁会社で両社のコンセンサスを得て企画した軽自動車でもあるんだから、日産にも、多少は収束に向けた責任があるのでは?」という印象を持っているが、三菱自動車は終始、日産をかばっている感じがする。資本提携の覚書まで話が進んだあとは、三菱自動車が一手に責任を追って「日産はあくまで被害者」という立場を取る姿勢の目的は明確だ。
会見時にも、ゴーン氏と益子氏は、互いに自己責任を取る姿勢を貫いている。
「資本提携について、国や公的機関からの要請はない。あくまで互いに将来の成長を考えて決断だ。軽自動車の燃費不正問題については、私どもが開発の責任を追っていた。日産に責任があるという認識はなく、その責任の一端として、今回の提携にいたったという認識はない。三菱自動車の国内販売店を日産の販売店に変更することは考えていない。正常な状態に戻して経営できるように、三菱自動車が責任を持って面倒を見る」(益子氏)
「日産はあくまで三菱自動車の株主であり、株主として、当然、サポートはする。が、線引はしている。三菱自動車は三菱自動車、日産は日産として、商品やマーケットにおける責任をそれぞれに持つ。三菱自動車には、説明責任をもってあたってもらう。過去にも、今後も混乱はない」(ゴーン氏)
三菱自動車にとっては、名誉の傷つきを最小限に抑える出口であることに加えて、過去にダイムラーやPSA(プジョーシトロエングループ)との提携に失敗してきた経緯から、まだ資金的に余裕がある段階で、企業風土を越えた提携に長けたルノー日産とアライアンスを選択できたのは不幸中の幸いだ。
現在、ルノー日産アライアンスと提携関係にあるダイムラーにしても、過去には三菱自動車やクライスラーとの提携を失敗してきた経緯がある。が、今年の決算を見ても、アライアンスによる効果を得ている。
「従来のダイムラーは、まず提携をしてから『何を協力できるか?』というプロセスを踏んでいたが、ルノー日産とのアライアンスはその逆だ」と、過去に三菱やクライスラーとの提携を解消した経験を持つダイムラーの現CEOであるディーター・ツェッチェ氏が、ゴーン氏に向かって言ったことがあるという。
まるで、三菱自動車と日産の提携では「何を協業できるか?」が先にあるとでも言いたげだ。実際、共同での購買、プラットフォーム(車台)の共用などで相乗効果を出すだけではなく、開発や生産拠点なども共有できる。インドネシアに強い三菱自動車の強みを活かすだけではなく、南米、中東、欧州でそれぞれの強みを活かしての協業も視野に入ってくる。機能面でも、三菱自動車は自社に金融サービスを持っていないが、日産はその機能を持っているなど、メリットはたくさんある。
■再建シナリオを描きやすくなった
まだ覚書の段階ではあるが、相乗効果を見越したプランを発表できることで、三菱自動車が再建へのシナリオを描きやすくなったのは事実だ。冒頭で触れた通り、世論も、三菱自動車の不祥事から、一転してルノー・日産アライアンスに三菱自動車が加わったことに目が向く。
不祥事を起こした割に、世界有数の規模を誇るアライアンスの一員になるというのは、なんとも甘く虫のいい話ともいえ、「焼け太り」と非難されることになるかと思いきや、そうした声も多くない。
燃費に関する不祥事は、引き続き、厳しく追及すべきだが、一方で、いくら三菱自動車が自動車メーカーとして小さなほうだとはいえ、裾野の広い自動車産業の頂点にある大企業であり、三菱自動車の今後の行方次第では下請けメーカーや販売店などをはじめ、深刻な影響を受けることもありえる。
であれば、シャープが鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたときのように、「外国企業の手に委ねられるよりは、日本企業の傘下に入ったほうがマシ」という安堵感の方が支配的だ。三菱自動車の不祥事に振り回された側としては、なんだか釈然としないが、日本経済に与える効果という意味では、今回の提携を非難する理由も見当たらない。
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