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国民に広く、公平に現金を配ることによって、インフレ(貨幣価値の下落)を目指す政策は可能か
国民への「バラマキ」をフェアかつ有効に行う方法はあるか?
http://diamond.jp/articles/-/90898
2016年5月11日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■達成が遅れるインフレ目標2%
2013年4月、黒田東彦日銀総裁は「2年で2%の消費者物価上昇率を達成」するという分かりやすいプレゼンテーションの下に、「異次元の金融緩和政策」を発表した。しかし、残念ながら、あれから3年以上経過したが、「2%」は達成されていない。
黒田日銀にも気の毒な面はある。一つには、予想外の原油価格をはじめとする資源価格下落だ。
また、2014年に予定通り実行された消費税率の5%から8%への引き上げは、アベノミクスの旧・三本の矢の2本目である「財政出動」を、いわば逆方向に放った愚挙だった。日本経済の足を大きく引っ張って、その悪影響が現在にも残っている。もっとも、消費税に関しては、黒田総裁自身が、金融政策の効果を過信したものか、税率引き上げに前向きだったので、一方的に「気の毒」と評するのは、不適切かもしれない。
なお、「2年で、2%」という約束にはプラス・マイナス両面がある。経済の参加者に確たる「期待」(≒将来の予想)を持ってもらうためには約束は期限を伴う具体的なものの方がいい理屈だが、約束を履行し損なうと、次に提示する約束を信じてもらうことがより難しくなる。これは「期待に働きかける」政策の本質的な難しさの一つだ。
日銀は、1月に「マイナス金利政策」を発表したが、海外経済の予想外の不振などを背景に円高が進み、今のところ十分な効果を得るに至っていない。
ここに来て、インフレ目標を達成するために注目されている政策が「ヘリコプターマネー」だ。
ヘリコプターマネーに関しては中央銀行ウォッチングの第一人者である加藤出・東短リサーチ社長の分かりやすい説明が、現在発売中の『週刊ダイヤモンド』(5月14日号)23ページの連載「金融市場異論百出」のコラムに載っているので、参照してみてほしい。
ただし、加藤氏はヘリコプターマネーにも、そもそも黒田日銀流の金融緩和にも、賛成されていないようにお見受けする。
他方、筆者は、金融緩和政策に賛成であり、ヘリコプターマネーも正しく使うなら有効で好ましいと思っているので、拙文と加藤氏の連載コラムとを読者が両方読んで下さることを期待している。
■ヘリコプターマネーとは?
ヘリコプターマネーとは、国民に広く現金を配ることによってインフレ(貨幣価値の下落)を目指す政策を指す比喩だ。
中でも今回、加藤氏が紹介しているのは、政府が国債を発行しこれと引き換えにではなく、中央銀行が政府の口座に無償でお金を振り込んで(当座預金の残高を増やす)これを財政資金に充てるやり方だ。政府は、それを原資に減税や商品券などのばらまきに使うことができる。これを「MFFP」(Money Financed Fiscal Program)と呼ぶ。
現在、日銀が民間銀行の保有する国債を大量に買ってお金(ベースマネー)を供給しているにもかかわらず、民間銀行はこれを貸出に回すのではなく、主として日銀の当座預金に積み上げている。つまり、金融システムにお金は供給されているのだが、これが銀行以外の民間経済に回っていないことが問題だ。そこで、国民の手元にあるお金を直接増やすような政策を行ってはどうかというのがヘリコプターマネー政策の基本的なアイデアだ。
加藤氏によると、国債を対価に中央銀行が政府に資金を渡す場合、その国債を償還するために、将来増税があると(超合理的な)国民が予想すると、国民は増税に備えてお金を使わなくなる可能性があるが、先のやり方だと、将来の増税がないので、インフレを目指す上でより効果的かもしれないとのことだ。
この点は、そうした効果があるかもしれないと思う一方、中央銀行が国債を引き受ける形でも、政府の債務に関しては、拡大方向にあってはその償還のための国債をまた中央銀行に引き受けさせることができるし、縮小方向にあっては将来いつでも増税できるので、大して関係ないように思う。
そもそも、中央銀行自体が政府の一部門であり、会社に喩えれば政府の連結子会社のようなものなのだから、政府と中央銀行とを別々の主体として区別することを強調する議論にあまり意味を感じない。「市中に流通するマネーを増加させてインフレにしたい」という目的があれば、中央銀行が貨幣供給するのと同時に財政赤字を拡大して「政府の債務」をたっぷり供給するのが素直な考え方だろう。
財政を出し渋る一方で、中央銀行が民間企業の株式を大量に買うような民間経済に歪みをもたらす「筋悪な」金融緩和策よりも、財政を使った需要追加でマネーの拡張を図る方が、効果が直接的であると同時に副作用が小さいのではないだろうか。
もともとアベノミクスが始まった頃から、
「ベースマネーを拡大しても、広義のマネー(≒市中に出回るお金)が増えない可能性があるが、どうするのか?」
「その場合には、財政的に需要を追加すればいい」
「それは、金融政策ではなく、財政政策ではないか?」
「目的が達成できるなら、それでもいいではないか!」
という議論があった。
ヘリコプターマネーは、目指すのがインフレなのだから、むしろ素直で本筋の政策だ。
残る問題は、(1)公平かつ効果的にマネーを撒布することができるヘリコプターがどのようなものかということと、(2)インフレが行き過ぎた時にヘリコプターを止めることができるかということの2点だ。
■公平なヘリコプターの飛ばし方
公平なヘリコプターの飛ばし方は、何通りか考える事ができる。財政的な需要拡張としては、従来、しばしば公共事業が登場し、現在も「国土強靱化」、「インフラ整備」といった掛け声の下で、公共事業支出を拡大しようとする意見があるが、この種の支出は、お金の行き先が偏ることと、現在、建設業には供給余力が乏しいことを考えると、上策であるようには思えないし、少なくとも、広く国民にお金を配るという意味での「ヘリコプターマネー」のイメージにはふさわしくない。
国民に広く公平にお金を配る方法としては、以下のようなものが考えられる。
(1)ベーシックインカム
公平、確実で、実施のコスト面でも効率的な再分配政策としてベーシックインカム(国民に均等に現金を配る政策)があり、たとえば年金、雇用保険、生活保護などをベーシックインカムに切り替えて行くことが「素晴らしい」ことについては本連載で何度か述べてきた。
仮に実現可能なら、ベーシックインカムを単に既存の社会保障支出を置き換えるだけでなく更に拡大して、金融緩和と組み合わせる手がある。大規模で公平なヘリコプターである。
仮にインフレが行き過ぎた場合には、ベーシックインカムの縮小と金融引き締めを組み合わせるといいので、マネーのバラマキばかりでなく吸い上げにも使える。
ただし、大規模な制度変更なので、当面のデフレ脱却策としては間に合わない公算が大きい。現段階では「夢の巨大ヘリコプター」である。
(2)負の所得税
日本では、「給付付き税額控除」という、これが普及することを嫌って受けの悪い名前をつけたのではないかと勘ぐりたくなるようなネーミングで議論されているが、マイナンバーが普及し所得補足が完全になると、再分配の効果としては、ベーシックインカムと似た状態を実現できる。
低所得者にお金が配られるという意味で、もともと再分配政策を欠いた政策パッケージであるアベノミクスの補完効果がある。
ただし、マイナンバーの普及の遅れを見ても、こちらも建造に時間が掛かって、当座の役に立ちにくいヘリコプターである。
(3)減税、特に消費税率引き下げ
現在の税制が「公平」なものであるという建前を尊重すると、全ての税を均等に引き下げるのが論理的には公平なバラマキだということになる。
全ての税率を調整するのは面倒なので、たとえば消費税率を8%から5%に引き下げるという方法があろう。現状と比較して、約8兆円の税収を国民に購買力として戻すことになる。
消費税はしばしば「逆進性」が問題になる。だとすれば、これを引き下げることの分配論的効果は、低所得者に対して優しいはずだから、「正しさ」の面でも問題は無かろう。
何よりもいいのは、このヘリコプターがすぐに飛び立てることだ。
与野党どちら側か分からないが、次の国政選挙の公約に使う政党があっていい。
(4)給付金、特に「子ども手当」
お金を配るという意味では給付金もヘリコプターである。
安倍政権は、いわゆる新三本の矢(あれは「矢=手段」というよりも「的=目標」だが)の中で、出生率の向上を掲げた。
この趣旨に叶う給付金は、子どものいる家庭にお金を配る「子ども手当」だろう。「将来にわたって払う」と約束して、子作りのインセンティブを高めるといい。与党は、かつて民主党政権が使った名前なので「子ども手当」というネーミングが気に入らないかもしれないが、分かりやすいし、いいものはいいので、大らかに使うといい。
これは、子どものいる家にしかお金が降ってこないので、純粋にはヘリコプターマネー的ではないが、検討に値しよう。
当面の政策という意味では、(3)の減税、特に消費税率の引き下げが最も現実的だと思われる。小売業界には、「消費税率引き下げ感謝セール」を大いに奨励したらいい。
■ヘリコプターは止められるか
前出のコラムで加藤出氏は、「一度それを行うと歯止めがかからなくなるリスクがある」ことを理由に、ヘリコプターマネー政策を問題視しておられるようだ。「わが国の場合、規律を働かせながらMFFPを管理していけるほど民主主義は成熟していないだろう」という見立てだ。
ヘリコプターマネーでインフレを作ることができる点には否定的でないようだが、その先が心配だという論調だ。
歯止めが掛からなくなるリスクがあるという議論は、ネット界隈では「岩石理論」などと呼ばれることがある。坂道に岩石をいったん転がしてしまうと、勢いが付いて止まらなくなるといった状況を比喩に使う議論で、「いったんインフレが起こると、ハイパーインフレになってしまうリスクがある、ああ恐ろしい!」と論ずるのが、典型的な話法だ。
「…のリスクがある」という議論を論理的に全否定することは難しい。ただ、デフレ脱却を重要と考える立場からは、「インフレ目標はインフレ率が高くなりすぎた場合にも役割を果たす。目標よりも高いインフレ率になれば、金融(この場合財政も)引き締めを行えばいいし、それを事前に決めるのがインフレ目標政策の意味でもある」と論じたい。
確かに「加減」というものは難しいし、それを誰が調節するのかという問題はある。ただし、無調整のまま現状を固定するといった決定も一つの調節状態だ。いずれにしても、貨幣価値がより適切になるように調節する努力は必要なのだから、ヘリコプターマネーが有効な手段であるなら、「程度を加減して」使えばいいのではないだろうか。
現実にあっては、ゼロインフレがいきなりハイパーインフレになるわけではあるまい。上限のインフレ率に関して、目標を事前に決めて、バラマキの大きさを徐々に大きさを変えながらヘリコプターを飛ばしてみてはどうだろうか。わが国の民主主義はそれほど大したものではないが、このくらいのことは決めて、実行できるのではないだろうか。
そういえば、筆者は大学時代の指導教官から「マネー、特に不換紙幣は、人間が作った人工的なモノなのだから、貨幣価値を調節してはいけないなどと思い込むことは全く馬鹿げている」と教わったことがある。
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