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日清食品「カップヌードル」
日清カップヌードルが八方塞がり…中止CM擁護の声が大きくなるほど苦境が深刻化
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15027.html
2016.05.10 文=垣田達哉/消費者問題研究所代表 Business Journal
4月、日清食品の「カップヌードル」のテレビCM放送が開始から1週間ほどで中止になったことが話題となった。
日清にとって本当に難題なのは、クレーマーからの批判ではなく、同社を応援してくれる有名人の声が思いのほか大きくなってしまったことで、「引くに引けなく」なってしまったことだ。「負けるな」「初心を貫け」「日清は正しい、クレーマーが間違っている」などと応援され、いつの間にか消費者と喧嘩をしなければならないような状況に追い込まれてしまった。社内でも「やっぱり続ければよかったんだ。良識ある人はわかってくれているんだ」などと中止反対派の声が大きくなっているのではないか。
日清は、同じコンセプトのCMは継続するとしているが、今回中止になったCMより柔らかくなると、応援してくれていた人が「なんで妥協するんだ。もっと過激にすればいいのに」となり、その逆だと「そこまでやれとは言わなかった」となる可能性がある。
同じようなCMを放送して売上が一時的に上がれば、日清は応援派の人に「そらみろ、俺が言ったように間違ってなかっただろう。売れたということは、消費者が支持してくれたということだ。クレーマーに勝ったんだ」と言われる。
しかし、そもそも日清は消費者と対決したいわけではないだろう。たとえその相手が「クレーマーだとしても」である。ましてや「勝った」「負けた」と言われたり、「信念を貫く」「貫かない」という問題にしたいわけでもないはずだ。にもかかわらず、「消費者に叩かれたからCMを中止にした」「消費者から批判されたから中止した」という言い方をされるのは、日清としては非常に迷惑だろう。日清としては、「消費者の皆さまから、多くの貴重なお声、ご指摘をいただいたので、検討した結果中止させていただきました」というかたちにしたい。
■消費者の区別なし
消費者を相手にする業界では一般的に、クレームを「批判」ではなく「苦情」「ご指摘」「ご要望」「ご意見」「ご忠告」と呼ぶ。消費者をクレーマーと呼んだり、「消費者に叩かれた」「消費者に批判された」というような消費者に対して失礼な表現は使わない。「貴重なご指摘、ご意見をありがとうございました」とする。
また、企業にとって消費者とは、自社製品の購入者以外も含む。なぜなら、これから買ってくれるかもしれないからだ。新規のお客が増えれば、企業にとってこんなにありがたいことはないので、消費者を区別することはない。ましてや、消費者を一方的に批判者、因縁を付けている人だと決めつけることなどしない。
それを十羽ひとからげにクレーマーだと決めつけ、消費者を不愉快にさせることを言う第三者の人たちは、企業にすればまさに「ありがた迷惑だ」。しかし、これも口が裂けても言えない。なぜなら、そういう人たちも同じ消費者、お客だからだ。
■消費者がヘビークレーマー化の恐れ
もうひとつ、消費者を相手にする企業が注意しなければならないことがある。
カップヌードルという若者向け商品の特徴からすると、CMに対しクレームを言っている人たちは、それを食べながらパソコンや携帯電話に向かって入力している可能性がある。そんな日清からすると貴重なお客に、「日清は有名人を使って、『批判している人たちは客ではなくて、ただ因縁を付けているチンピラだ』と代弁させている」と誤解される可能性がある。もちろん、「そんなことを日清がすることはない」と頭でわかっていても、自分たちの存在を否定されると偏屈になるのが消費者だ。
そう誤解した消費者が、手も付けられないようなヘビークレーマーになってしまう危険性がある。そうなると、今度はほかのメーカーのカップ麺を食べながら、嵐のごとく不平不満をぶつけてくるかもしれない。消費者を相手にしている企業にとって、ヘビークレーマーをひとりでも少なくすることは命題である。
さらに心配なことは、ここまで「あのCMは良かった」「好きだった」という有名人を含む消費者の声が大きくなると、今まで気にしていなかった消費者が「どんなCMだったかな」とインターネットで見るようになる。そして「あの人が『良かった』と評価するということは、逆に『悪かった』と思う人が多いのではないか。どんなCMかじっくり見てみようかな」という視点で見る場合と、そうではない(素直に見る)場合では、印象が変わってくる。
「ああそうか、ここがみんなが嫌だと言っているんだ」
「すごい上から目線だし、確かに消費者をバカにしているみたい」
「女性を馬鹿にしている。女性はカップヌードルを食べないと思って、無視したのかな。不愉快だと感じる人がいるのも無理ないな」
「なんでこんなCMをつくったのかな。やっぱり大企業だから、何をやっても許されると思っているんだろうな」
「応援する声が強くなって風向きが変わってきたから、有名人使って褒め殺し作戦に出たんだ」
日清は消費者からこのように思われる危険性がある。
■日清の本音
消費者はわがままであり、あまのじゃくだ。企業にとっての命題は、そんな消費者をいかに味方につけるかだ。素直でない消費者は「本当、いいCMだ」とはなかなか思ってくれない。「こんなCMのどこが良いのだろう。どうせ日清にオベンチャラしたい人が、良かった、好きだと言っているだけなのだろうな」となる可能性がある。
ましてや、自分が嫌いな有名人が褒めていると、それだけでその企業が嫌いになることもある。だからCMは好感度が高い人を使うのだ。「ファンになってくれとは言わないが、せめて嫌いにはならないでくれ」という傾向が、大企業になればなるほど強くなる。日清としては「CMのことなんかどうでもいい。カップヌードル食べておいしかったと言ってくれ」というのが本音だろう。
筆者は事業者向けの講演で、「クレームが多い企業ほど消費者に期待されている証だ。期待しているからこそ何かを伝えたいのであって、期待していない企業には何も言わない。クレームが多いことを喜ばなければいけない」とよく言っている。今回のCMに関しても、日清が注目されているからこそ多くの反響があったのであり、どうでもいい企業には、誰も何も言わない。
大企業は、お客からのどんな声に対しても誠意をもって対応している。その声を聞いてどうするかは、それぞれの企業の判断であり、外部の人間には計り知れないものがある。
日清の本音は、「著名人の皆さん、良識のある皆さんだからこそ、そっと見守っていただけないでしょうか。私たちの大切なお客に向かって機嫌を損ねるようなことは言わないでいただけないでしょうか」ということではないか。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)
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