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高校卒業時点で借金6百万…過酷な奨学金返済で貧困転落続出 貧困で路上生活の若者も
http://biz-journal.jp/2016/05/post_14932.html
2016.05.02 金子勝の「JAPAN is BLACK」第3回 構成=松井克明/CFP Business Journal
ブラック企業が横行する日本。これでは、安倍晋三政権が掲げる日本再興戦略「JAPAN is BACK」 ならぬ「JAPAN is BLACK」ではないか。しかし、そんな暗闇に満ちた社会で一生懸命に働く当事者たちはまぶしい光を放っている。本連載では慶應義塾大学経済学部教授の金子勝氏が、そんな当事者の人びとにスポットを当てて、ブラックな社会の実態に迫る。
今回金子氏は、『釜ヶ崎から』(ちくま文庫)の著者で、野宿者の支援を行っている「野宿者ネットワーク」代表の生田武志氏に、
・路上生活者の支援の現状
・路上生活をする若者が増えている原因
などについて話を聞いた。
■奨学金の返済ができない若者たちが路上生活者に
金子勝氏(以下、金子) 生田さんは、現在どのような活動をされているのですか。
生田武志氏(以下、生田) ひとつは、野宿している、あるいは野宿生活になりそうな生活困窮者の支援です。最近は、ギリギリまで我慢してから相談に来る人が多いです。たとえば、被災地で仕事をしていたが、大阪に帰ってきたら仕事がなくなり、家賃が払えなくなったという人がいました。釜ヶ崎(大阪市西成区北部の通称)から電車で300円ぐらいかかる市からのSOSの電話だったのですが、そのとき50円しか持っていないと言うので、私が迎えに行きました。寝る場所もないので、西成区役所に一緒に行って相談しました。その後、鬱状態になり自傷して病院に入院。そのような経緯を経て生活保護を受けることになりました。
なお、2008年末から09年初頭に東京・日比谷公園で開設された派遣村以降、生活保護が受けやすくなりました。いわば生活保護が適正化されたので、野宿者の数は減っています。
金子 野宿からアパートに入ることで生活は改善されますか。
生田 野宿者ネットワークの活動の半分は、野宿からアパートなどに入った人への支援です。生活保護を受けて住居に入り職を探そうとしますが、安定的な仕事はなかなか見つかりません。介護職だけはあります。なぜなら介護の現場はひどいので、みんなすぐにやめてしまうからです。50〜60歳の人でも介護の学校に通い、介護ヘルパーになるというケースは多いです。
■奨学金が重荷となり生活が困窮する若者たち
金子 最近、若者からの相談が多くなっているようですね。
生田 その大半は、奨学金返済を抱えています。正社員であれば返せますが、非正規雇用では月3〜4万円の返済は困難です。奨学金を返済するために家計が圧迫され、毎月少しずつ借金がたまってしまう人が多いのです。高校や専門学校を出た段階で、500〜600万円の借金を抱えています。返済の猶予措置があることを知らない人もいます。
金子 15〜24歳で非正規雇用は48%。つまりほぼ5割だから、奨学金を返済できず生活が困窮する人が増えるのも当然ですよね。
生田 また、ひとり親家庭、虐待家庭で育った人も多いです。いざというときに頼ることのできる家族がいないと、ささいなことでもたちまち生活に困ってしまいます。先日は、住民票を置く住居がないという女性から相談がありました。親との関係がよくないため、実家に帰ることもできない。そのため、住民票の提出を求められないアルバイトばかり選んで働いていたそうです。相談に来たときは、インターネットカフェで生活しており、バイト先にはそこから通っていました。野宿者ネットワークの関係者が運営しているシェルターに入ってもらい、そこを住所にして仕事を見つけることができました。親との関係が悪く非正規雇用、そんな人にトラブルがあると路上生活に直結しかねません。
金子 家庭というセーフティネットがない人は、行き場がないのですね。
生田 活動の2つめは、野宿者襲撃問題への対応です。野宿者を襲撃するのは主に少年グループで、暴行、エアガン射撃、放火などが全国で日常的に起きています。しかし、公的統計も存在せず、マスコミも報道することが少ないために、ほとんど知られていません。実は1970年代半ばから途絶えることなく続いています。
背景には、野宿者に対する差別意識と社会の側のストレスの充満があると思われます。「ホームレスは怠け者で働かず、税金も払わずに広い公園を使っている」という思い込みが多くの人にあります。ただそれは、「自分は好きではない仕事をやらされ、狭い家に住み、高い税金を払っている」という意識を投影しているだけなのかもしれません。子供たちにも、「自分たちは学校に行かなくてはいけない、親のもとでしんどい。それに比べてホームレスは働かずのうのうと生きている」といった意識があるのかもしれません。このように考える人たちのストレスを解決しないと、野宿者への差別はなくならないのかもしれません。
■知的障害者に対する社会の偏見
金子 ほかに考えられる要因はありますか。
生田 襲撃した子供たちをみると虐待家庭が多いようです。自分でも抑えきれない怒りやストレスがたまっていて、それが何かのきっかけに放出されるということがあるのです。集団でひとりの弱者を追い詰めるという意味で野宿者襲撃といじめは似ています。特に野宿者襲撃は貧困者に対するヘイトクライムとして、社会的に位置づけられるべきだと思います。
相談に来る若い人には発達障害のあることが多く、職場で人間関係を築きにくいという面があります。聴覚過敏で職場にいること自体が難しい若者もいます。いま、人間関係をつくったりコミュニケーションをとることが難しいため、バイトすらできない高校生が増えていますが、こういった若者は貧困化していく可能性が高いかもしれません。
金子 人間は本来、多様なものが交じり合い、さまざまなことを体験しながら多くのものを習得するのに、社会の分断が進んで孤立する方向に向かっています。
生田 襲撃への対応として、小学校から大学まで野宿問題に関する授業を2001年から行っています。これは劇的な効果があります。野宿者が実際に話したり、私が経験を話したりします。川崎市では、こういった取り組みの結果、襲撃事件の数が半減しました。私は15年間で400回くらい授業をしていますが、多くの場合、授業のあと子供たちも「夜回りをしたい」と言ってくれるのです。釜ヶ崎では子供夜回りもあって、学習会をしておにぎりをつくり、大人と子供が夜回りをします。襲撃を減らし、野宿者と子供の相互の理解がつくられる効果的な方法です。
金子 生田さんが活動を始めたときにはなかったような問題が増えていますね。
生田 5年たつと風景が一変し、10年たつとほとんど別の問題になっているという感覚です。90年代前半までは、野宿者はほとんどが日雇い労働で、90年代後半には一般の失業者、そしてDVなど家族の問題や失業によって女性や若者が野宿をするようになりました。野宿の現場も、路上や公園からネットカフェ、ファストフード店、個室ビデオなどに変化していきました。精神障害、知的障害の問題も明らかに増えています。
金子 状況が少しずつ変わって、次々に新たな問題が発生し、また別の場所でも同様の問題が発生していくという感じですね。
生田 「釜ヶ崎の全国化」と呼んでいるのですが、釜ヶ崎で起きた問題が全国各地に広がっていくイメージです。
金子 『釜ヶ崎から』は、当事者として日雇いで働きながら生活困窮者を支えるルポとして考えさせられることが多いですね。ありがとうございました。
(構成=松井克明/CFP)
●野宿者ネットワーク代表 生田武志
1964年6月千葉市生まれ。同志社大学卒業(専攻は数学史)。大学在学中から釜ヶ崎の日雇い労働者・野宿者支援活動にかかわり、卒業後は日雇い労働者として働く。2000年、群像新人文学賞評論部門優秀賞受賞。2001年から各地の小、中、高校などで「野宿問題の授業」を行う。野宿者ネットワーク代表。現在は、釜ヶ崎の児童館のアルバイトや原稿書き、授業、講演などで生活している。活動は無報酬。
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