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「吉呑み」の赤ちょうちんを掲げる、吉野家新宿四丁目店
ちょい飲み、異例の長いブームの裏にスゴい秘密…「安い印象」与えるメニューの仕掛け
http://biz-journal.jp/2016/05/post_14936.html
2016.05.01 文=橋本之克/アサツーディ・ケイ シニアプランニングディレクター Business Journal
■2年連続でヒット商品に選ばれた「ちょい飲み」
「ちょい飲み」がブームといわれるが、これは単なる一過性のブームではない。実は有力ヒット商品ランキングに、2年連続で選ばれるという非常に希少なヒット商品なのだ。情報誌「日経トレンディ」(日経BP社)が発表した2015年の「ヒット商品ベスト30」では「アップルウォッチ」「ペッパー」「おにぎらず」などを上回り、7位にランクインした。さらにその前年の14年にも「日経MJ ヒット商品番付2014」で、「NISA」「ふるさと納税」「富岡製糸場」などと並び「前頭」にランキングされていたのだ。これだけヒットが長く続く事例は珍しい。
ちょい飲みとは、ファストフードやファミリーレストランなどで、軽いつまみを食べながら飲むものだ。吉野家が先陣を切って15年に「吉呑み」という名称で始めた。その後、約1年の間に多くの外食企業に導入されている。
この数年、外食産業は長く続く不況で厳しい状況に置かれている。ある大手外食チェーン幹部によれば「ちょい飲みサービスは、売上アップにつながる起死回生の起爆剤」だそうだ。
企業の立場で見ると、このサービスは非常にメリットが多い。まず夜間や午後など、客数が減るアイドルタイムに客を呼ぶことができる。また、原価率の低いアルコールを提供することで、客単価を上げて利益を出せる。さらに店舗の多くは客席が長居する構造になっていないため、回転数を上げることも可能で、基本メニューを活用することができるため大きな設備投資も必要ない。
こうした企業側の事情で参入が増えて話題になることも、ヒットの要因となる。しかし、お金を出すのは顧客だ。消費者が、ちょい飲みしたいと思わなければブームになることはあり得ない。
確かにちょい飲みにはさまざまな魅力がある。まずは安さだ。低価格の基本メニューに加えて、他のつまみや飲料も安く抑えられている。また気軽に行ける点も魅力だ。過去に食事したことのあるチェーン店なら店内の雰囲気もわかり、ひとりでも入りやすい。もともと食事の店だから味も一定レベル以上だ。
しかし、これらが理由のすべてだろうか。2年連続でヒット認定されるほどの商品ならば、思わず消費者がちょい飲みしてしまうような、心理的な要因も働いているのではないか。
■「せんべろ」より「ちょい飲み」を選ぶ「リスク回避」の心理
今回はちょい飲みしてしまう心理を、行動経済学の視点で読み解いてみたい。行動経済学は、人間が常に合理的だとする典型的な経済学と違い、リアルな人間の行動や判断を実験や観察で究明する学問だ。
ちょい飲み心理に関して第一に考えられるのは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏らが唱えた「損失回避」の影響である。これは何かを得るよりも、失うことへの拒否感が強いために起きる心の働きだ。この影響を受けると人間は損得に関して不合理な反応をする。
例えば、ある実験では同じ金額に対して、これを失う悲しみは得る喜びの2倍以上という結果が出た。他の実験からも人間は損失を、または損失につながる「リスク」を必要以上に避けることが証明されている。
よく考えれば、単に安く酒を飲むならば、居酒屋が選ばれても不思議はない。最近は「せんべろ」(「千円でベロベロ」の略語)と呼ばれる低価格の居酒屋も人気だ。場合によっては、こちらのほうが意外なメニューがあったり、安く上がる可能性もある。それにもかかわらずファストフードやファミレスを選ぶ顧客が多かったため、ちょい飲みはヒット商品となった。
この心理を読む大前提は、いまだ続く不況下での消費者の懐事情の厳しさだ。飲みに行くなら、確実に安く済ませられる「確信」が欲しい。居酒屋やダイニングバーでは、お通しが高かったり、一品の量が少なく割高だったり、思った以上に高くつくことがある。せんべろの店だろうと、通い続けて全メニューを制覇しない限り失敗はありうる。
実は、企業がつくるメニューには、人間心理をふまえた買わせる工夫が凝らされている。例えば、全メニューのなかで極端に安いつまみが一つあるだけで、客は全体的に安い印象を受ける。これは行動経済学で「ハロー効果」と呼ばれるものだ。人間が何かを評価するとき、目立ちやすい特徴に引きずられて他の評価が歪められるのだ。
一方、ファストフードやファミレスのチェーン店のメニューは平凡だがわかりやすい。馴染みのメニューも多く、会計は明朗で不安はない。ちょい飲みする理由として、しばしば「安さ」があげられるが、重要なのは「金額が低い」だけでなく「高くつく不安がない」ことなのだ。
リスク研究の第一人者ポール・スロヴィック氏は、リスクを高める要因の一つに「未知性因子」をあげている。人間は昔からあるもの、馴染みのあるものに対してはリスクを感じにくいのだ。
チェーン展開するファストフードやファミレスは、街でよく見かける。多くの人は、何かしら食べたこともあるだろう。これらの経験もちょい飲み=低リスクの印象につながる。ちょい飲みが選ばれる他の理由である「気軽さ」「一定の味レベル」も、そのチェーン店を知っていたり入ったことがあるからこそ感じることだ。「未知」でない安心感が「リスク回避」につながり、それがちょい飲みのヒットにつながっているのだ。
■あらゆる消費はリスクと隣合わせ?
あまりいわれていないことだが、「あらゆる消費はリスクと隣合わせである」と筆者は考えている。
商品やサービスが世に溢れる現在では、すべての良し悪しを検討することは不可能だ。従って「ハズす」可能性は必ず残される。残るはこのリスクを避けるか、受け入れるかの判断だ。通常、不況下ではリスクを避ける意識が高まる。
外食の場合、飲むのが好きな人は、期待を裏切られる可能性があっても、他にない味や雰囲気を求めてさまざまな飲食店へ行く。これは、本人は意識していなくとも「リスク」を伴う行動だ。懐に余裕がある人や、飲食での支払い額を気にしない人は、このリスクを受け入れる。従ってちょい飲みには、さほど魅かれないだろう。
しかし、世の大多数はそうではない。懐にリスクを許容する余裕はないのだ。従って今後も、世の景気が上向いて、中流から下流までがそれを実感できるようになるまでは、リスク回避によるちょい飲み人気は続く可能性が高い。
(文=橋本之克/アサツーディ・ケイ シニアプランニングディレクター)
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