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燃費試験の不正行為について会見する三菱自動車工業・相川哲郎社長
三菱自の燃費データ不正、他社も同様の可能性…企業存亡の危機、自力再建は困難
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14879.html
2016.04.27 文=井上隆一郎/桜美林大学教授 Business Journal
昨年10月、当サイトで独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正について書いた。そのときのひとつのメッセージは、このような不正を世界の各メーカーが犯すかどうかは紙一重であり、他社も基準や前提の解釈により類似の不正を行い兼ねない危うさがある、という点であった。
その記事の執筆当時に念頭に置いていたのは日本メーカーではなかったし、ましてや2000年にリコール隠しなどで窮地に立った経験のある三菱自動車工業ではなかった。そんなバカなことはしないだろうという、ある種の思い込みである。
しかし、「事実は小説より奇なり」というが、現実とは想像を超えることが生じるものだ。「まさかやるはずはない」と思っていたのに、とんでもない事態が生じてしまった。三菱自による軽自動車の燃費の不正申告発覚である。
■クリティカルな要因としての燃費
燃費は今や世界の各メーカーの重要な競争上の焦点である。特に経済性を追求するコンパクトカーや軽自動車では、燃費の数字が重要なアピール項目で、その売れ行きすら大きく左右する。軽自動車の世界ではリッター30キロ、ハイブリッドを超える低燃費が一種の謳い文句になっており、各社しのぎを削っているところでもある。
今回の三菱自の場合も、比較的好評を得ているeKワゴンという車種、日産ブランドではデイズとよばれる車種で問題が起こった。日産ディズの次世代は日産自身が開発することになっていたと報じられている。それもあって、日産は現行車種のデータを一から確認していたという。その際、燃費データが公表されたものと乖離していて不審に思い、三菱自に問い合わせたことから不正が発覚したのである。
■常套手段、前提条件の操作
三菱自側が国土交通省に提出したデータの前提条件は、走行抵抗がかなり低い設定になっており、詳細は不明だが報道によればタイヤ空気圧をかなり高圧にすることで走行抵抗を大幅に減らして採ったデータだったようだ。空気圧をかなり高く設定すれば燃費は向上する。しかし、そんな空気圧で車に乗れば乗り心地も操縦性も悪化するので現実的ではない。そんな前提条件で高燃費を叩き出して、それを正式データとして国交省に提出、一般に公表されていたわけだ。10%程度の上乗せになっていたというが、本当にその程度なのか疑問も残っている。
筆者の聞いたところによれば、他社でも実車から装備を外して軽量化し高燃費データをはじいて国交省に提出している例もあるという。装備が一部ないので買う人もいないし現実に売る気もないのだが、カタログには載せていて、不正のそしりを免れているようだ。真偽は定かではないし不正とは言い切れないが、三菱自の不正行為と同罪ではないか。つまり、今回の三菱自の不正と紙一重の行為を、各社も行っている可能性があるということだ。
■かつてない窮地に追い込まれる
三菱自動車生え抜き技術者である相川哲郎社長も今回の件を率直に不正と認め、真偽、経緯、原因を究明し、再発防止策を確立すると約束している。三菱自はこの問題から逃げることはもはやできない。恐らく相川社長の辞任も逃れられまい。三菱自は00年のリコール隠し以上の窮地に追い込まれる可能性が高い。
問題は三菱自がこの窮地から抜け出すためのシナリオである。三菱グループの力も含め、自力での窮地脱却はもう困難ではないかと考えられる。外部の力に頼るしかないが、力を貸そうとする企業はあるのだろうか。国内の企業、特に自動車企業が手を貸すことはないだろう。三菱自の経営資源で魅力があるのは人材くらいだが、これは個別に引き抜けば済む話であり、退職者を待っていれば自然に流れてもくる。
■アジア外資系企業による救済
ただ、外資から見ると話は違ってくる。アジアにおける三菱自のブランドの存在感は、日本で感じるものとはまったく異なり非常に高いからだ。タイやインドネシア、中国でも高いイメージを有していて、それなりのシェアを獲得している。東南アジアで苦戦している欧米企業はもちろん、韓国、中国、場合によってはインド企業が食指を動かす可能性がある。
今回の被害者ではある日産・仏ルノー連合による救済も期待したいところだが、必ずしも自社の足しにつながるとは限らない救済は考えないドライな社風なので、望みは少ないのではないか。
しかし、外資系企業によるシャープ救済に大騒ぎした国柄である。日本の「虎の子」の自動車産業の救済をアジア企業にゆだねる度量はあるのだろうか。
(文=井上隆一郎/桜美林大学教授)
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