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超富裕層の「税金逃れ」が止まらない! 〜これが「パナマ文書」問題の本質だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48483
2016年04月21日(木) 深見浩一郎 現代ビジネス
世界中を激震させたパナマ文書。タックス・ヘイブンとは何か、解決策はあるのか、パナマ文書の今後とは――。『〈税金逃れ〉の衝撃』著者であり、公認会計士・税理士の深見浩一郎氏がパナマ文書問題の本質に迫る。
■パナマ文書の衝撃
パナマ文書は、これまで見えないとされていたものを、白日の下にさらけ出してしまった。タックス・ヘイブンのペーパーカンパニーは、魔法陣で隠された貸金庫みたいなものだから、その中味が暴露された衝撃は大きい。
モサック・フォンセカは、世界第4位のオフショア法律事務所だ。オフショア法律事務所は、ロンドンやニューヨークに事務所本部を構える「普通」の大手法律事務所に比べて、その業務内容に著しい特徴がある。
外国投資信託に関するファンド業務やオフショア法人、すなわちタックス・ヘイブンのペーパーカンパニーに関するオフショア業務に、ほぼほぼ特化しているのだ。
今回モサックから出た情報は、タックス・ヘイブンに設立されたペーパーカンパニーの契約情報、それらの法人と金融機関との取引情報など、過去40年分の情報だ。情報のほとんどが文字情報とすると、2.6テラは膨大な情報量だ。
ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)のおよそ世界100の報道機関からの、約400人のジャーナリストが分析作業に参加できるようにするまでには、共同作業が可能になるように、情報をデータベース化することからまず始めなければならなかったに違いない。
分析が進み、「税金逃れ」を行っていた政治家などの名前が続々と明らかになったことで、パナマ文書は注目を浴びることになった。過去にも、独裁者が海外で不正蓄財を行っていたことはよく知られていた。
したがって、民主化の進んでいない新興国や、いまだ全体主義の風潮から脱していない旧共産圏の元首の名が出ることには、それほどの驚きはない。
しかし、アイスランドの首相に続き、英国首相ジェームズ・キャメロンの名前までもが出てくるに至って、パナマ文書のもたらす問題の本質が露わになった。
■キャメロン首相の危機感
2013年、イギリスではスターバックスUKの租税回避問題が、国民的な関心事となった。業績順調と喧伝されていたスタバUKが、なんと8年間も法人税を全く払っていないことが分かったのだ。
これが、多国籍企業特有の巧妙な租税回避によるものだったために、キャメロン首相は、その年にイギリスの北アイルランドで開かれたサミットの議長として、多国籍企業が行っている国際的な租税回避を厳しく批判し、その問題解消に取り組むことを宣言した。彼が租税回避阻止の急先鋒となった訳だ。
その後、英国国民によるスタバへの草の根の抗議活動は不買運動へと発展し、スタバUKは、法的根拠はないにもかかわらず、法人税相当額の納付を自発的に行う事態に追い込まれた。
だがその一方では、緊縮財政を推進するキャメロンの保守党政権は、イギリスの消費税である付加価値税の増税、こども手当の一時凍結と庶民への負担を強いる反面、所得税の控除拡大と法人への減税という富裕層優遇政策を依然として継続していたのだった。
パナマ文書から判明した租税回避は、キャメロン首相の亡父が行ったものであり、金額的にもそれほど大きいものでなかった。にもかかわらず批判が集中した理由は、公平公正であるべき立場の首相が信義則を違え、国民の目に極めて不道徳的と映ったことにある。
世界の税務署長になりますと言いながら、影ではこんなことをしていたのか――国民からは、そんな落胆の声が聞こえて来る。このままでは、スタバを自発的な寄付にまで追い込んだ国民の怒りの鉾先が自らに向かってくるのではないか、そう危機感を募らせているのは、他ならぬキャメロン首相本人だろう。
租税回避対策を管轄するOECDは、すでにパナマ文書情報流出事件を租税回避阻止の絶好の機会と考えており、伊勢志摩サミットでも主要議題として取り上げられる可能性が高い。
■タックス・ヘイブンとは
タックス・ヘイブンとは、税金が免除されるか、著しく低い税率の国と地域の総称だ。日本に近いところでいえば、地域であれば香港であり、国であればシンガポールがその分かりやすい例だ。2015年度に公表されたタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)のランキングによると、香港は世界2位、シンガポールは4位のタックス・ヘイブンだ。
モサック・フォンセカのようなオフショア法律事務所は、世界各地のタックス・ヘイブンに多数存在する。一定の費用を払いさえすれば短時間で容易に法人を設立することができ、銀行口座の開設もできる。
いずれの場合にも、依頼者に代わって代理人であるオフショア法律事務所が手続きをしてくれるので、依頼者の実名が表に出ることはない。タックス・ヘイブンでは依頼人の秘匿性が非常に重視されるので、タックス・ヘイブンに設立されたペーパーカンパニーは、法という魔法陣で守られた、見えない隠し金庫と化すわけだ。
これが、「税金逃れ」のためにタックス・ヘイブンに資金が流入する理由である。TJNによると、タックス・ヘイブンに置かれている民間金融資産の額は、推計で最低でも21兆ドル、最高に見積もれば32兆ドルとされている。1ドル100円で換算すれば、2,100兆円〜3,200兆円である。2014年の世界の名目GDP合計額はおよそ78兆ドル。
その全てが税金逃れの資金であるわけではないが、世界のGDPの4分の1以上、あるいは半分弱の規模の金融資産がタックス・ヘイブンにあることになる。このことは、世界経済においてタックス・ヘイブンがビジネス上、もはや欠かせない仕組みとして機能していることを示している。
例えば、航空機リースにおいて、タックス・ヘイブンのペーパーカンパニーに航空機を所有させ、その法人の株式を担保にすれば、リースを実行する銀行にとってはメリットが大きい。加えて利息への源泉課税がないなどの利点もあるので、ビジネス目的で設立されるペーパーカンパニーは後を絶たない。
他の例では、パナマ船籍の船舶は、維持費と雇用の面でのメリットから、世界の約20%を占めている。この船の所有者は、他でもないパナマのペーパーカンパニーだ。
この二つはいずれも、法人税を逃れることがペーパーカンパニー設立の理由ではない。だから、パナマ文書で日本の法人の社名が公表されたとしても、それだけで一概におかしいということはならない。一件ごとに内容を吟味し判断しなければならないだろう。
■大衆が問題に気付いていない
タックス・ヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、本来課税されるべき収益をそこへ不正に蓄財したとしても、パナマ文書のような情報流出がない限り、その事実を把握することは困難だ。
問題の根源はこの秘匿性にあるが、しかしそれ以上に問題なのは、この租税回避の被害者自身に、自分が被害者であるという自覚が全くない事だ。
租税回避によって税源が密かにタックス・ヘイブンに移動すれば、本来の税収を確保することができず、結果的に社会保障費などが各国の財政を圧迫する。
それがまさに今日、世界の先進国で起きていることであり、そのために世界各国では社会保障費の削減と増税の議論が起きている。わが国でも社会保障のための消費税増税が議論を呼んでいるが、このように租税回避は、巡り巡って一般庶民の懐を直撃しているのだ。
すなわち、パナマ文書は庶民にとって極めて身近な問題なのだ。我々が頼りにする民主国家の持続可能性に関わる問題なのだから。
最近、世界の下から36億人分の資産と同額の資産を、たった62人の超富裕層が保有していることが報道された。その額、じつに206兆円。この低金利時代において、彼らの資産はこの5年間で44%も増大したという。超富裕層だけに向けられた、極めて有利な投資案件があるからだ。それが租税回避だ。
今日、世界では格差が拡大し、著しい不公正が生じているが、この主要な原因の一つは、まさにこの租税回避にあるのだ。
■タックス・ヘイブン2.0の始まり
全世界の経済システムにすでに浸透してしまっているタックス・ヘイブンを地球上から抹殺することは、もはや不可能だろう。通常のビジネスの枠組み内で利用する分には、その存在を容認せざるをえない。
タックス・ヘイブン対策の中心は、現在、OECDが担っている。タックス・ヘイブン対策の基本はあらゆる情報の透明化にある。タッスクヘイブンと、それを利用する法人・個人の全体像を掌握することが、その最終目標だ。
このための施策として現在、進められているのが、非居住者の預金情報を各国で相互に共有化する預金情報の自動交換制度と、会社別・国別に各国の子会社の納税情報を把握するための、国別の事業報告の収集制度の確立だ。
これらの制度によって、個人であれば、日本に住む日本人が海外に有する預金口座の情報を国税庁が把握できるようになる。また多国籍企業であれば、どの国でどれだけの利益を上げ、どれだけ納税しているのかの詳細が分かるようになる。国際的な情報共有が進み、国際的なデータベースが完成した時、タックス・ヘイブンにおける資金の透明化が可能になる。
さらに将来的には、世界の資金決済システムにおいては、世界共通の識別タグを添付されない限り、資金移動が許可されないことになるかも知れない。そのタグが世界の税務当局共通のデータベースに登録され、全ての資金が追跡可能な状態に置かれれば、タックス・ヘイブンによる現在のような租税回避はなくなるだろう。
しかし、それはタックス・ヘイブン1.0の終焉に過ぎない。
なぜなら、バーチャル通貨など、税務当局の規制をすり抜ける新しい手段の開発はやまないだろうと予想されるからだ。欲望は海水であり、飲めば飲むほど渇きが増す。どこかで、タックス・ヘイブン2.0はすでに始まっているに違いない。
■パナマ文書の今後
今のところ、パナマ文書は謎だらけである。南ドイツ新聞に「John Doe(名無しの権平)」と名乗って情報を送りつけた、この動機も分からない人物は、本当に実在するのだろうか。
また、報道によれば、モサック・フォンセカはハッキングによって情報漏洩がなされたと主張している。もしそれが事実であれば、業界4位の事務所のサーバーだけでなく、もっと上位の事務所にもハッキングを済ませ、手に入れたデータの最適な公表タイミングを探っているかも知れない。
合法を謳う租税回避が、非合法活動によって遣り込められてゆくという、この極めて今日的な展開から、まだ今しばらく目が離せない。
深見 浩一郎
1956年生まれ。東京都出身。公認会計士・税理士。大手都市銀行、大手国内監査法人、外資系コンサルティング会社を経て、2001年に独立。現在、深見公認会計士事務所代表、株式会社ERC代表取締役。
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