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日本銀行(撮影=編集部)
平成バブル超え、マンション高騰…実需なき不動産投資、膨張の末の激烈な副作用
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14729.html
2016.04.17 文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役 Business Journal
金融機関による不動産業向け新規貸出額が急増している。日本銀行のデータによれば、2015年の国内銀行によるそれは総額で10兆6730億円と、平成バブルのあった1989年、ミニバブルともファンドバブルとも称された07年の水準を凌駕する状況になっている。リーマンショック後の09年には6兆9595億円と7兆円を切る水準であった。それがわずか6年の間に貸し出しは急回復。09年と比べて52%もの増加である。
この背景にあるものは何か。平成バブルは、米国を中心とした諸外国から日本に対する内需拡大要求にこたえるための金融緩和による「過剰流動性」が原因だったといわれた。当時、日本経済は絶好調で、不動産は「買って売れば」儲かるもの。つまり、銀行はいくらでも資金を融通してくれるので「度胸のある」者が常に「勝者」となる単純なゲームであった。
実際に地価は激しく高騰し、オフィスの賃料もマンションの分譲価格もうなぎ上りであった。日本社会はまだ若々しく、生産年齢人口と呼ばれる満15歳から64歳までの人口は8575万人、全人口に占める割合は69.6%、つまり人口の約7割が現役世代だ。当時の日本は、自国のマネーを自国内で貸し付けて成長を促すことができる「成長している」国であった。
07年頃に生じたミニバブルは、平成バブルが一般事業法人に資金を貸し付けたのに対して、ファンドに対して不動産証券化の手法を使った資金が貸し付けられた。ファンドはノンリコースローンといって、投資対象の不動産のみに返済原資を限定するローンを金融機関から調達して、不動産投資を行った。
このバブルは日本の不動産マーケットに「外資マネー」が流入することで引き起こされたものだ。それまで閉鎖的で、一部の大手不動産会社等によって独占されてきた不動産マーケットに投資という観点からメスが入ることで不動産の透明性が増し、REIT(不動産投資信託)などを通じて、個人などの素人でも投資用不動産を購入するチャンスが広がった。当時の日本はすでに人口の増加も止まり高齢化が進み始めていたが、国外からの投資マネーを利用して国内不動産の活性化を図ったものだったのだ。
■不動産業向け貸出金増加の根拠
そして今、不動産業向け貸出金は何を根拠に増加を続けているのだろうか。アベノミクスが掲げてきた円安・株高を促すことによる成長戦略は日本経済にとって一定のカンフル剤としての効果はあったようだ。大企業を中心とした企業収益は改善し、日本銀行や年金基金などの公的機関までをフル稼働した資金供給は株価を上昇させ、20年の東京五輪開催の決定も日本国民を「勇気づける」きっかけとなった。
不動産も一見すると好調だ。東京都心を中心に老朽化したオフィスビルの建替えラッシュが起こっている。2〜3年前に比べて2割以上も価格が高くなったマンションも、タワーマンションを中心に販売は好調だといわれている。
しかし、足元の日本経済は覚束ない。消費税増税後の個人消費は一向に回復せず、株価の上昇にも明らかに陰りが見え始めた。むしろ、不穏な世界情勢に影響され企業収益の伸びも止まり、多くの企業経営者が雲行きの怪しくなったお天気を気にしている。そんななかで日本銀行は「マイナス金利」政策を導入。金利をマイナスにしてまで金融機関にカネを出させようと鞭を振るい始めている。
今の日本は平成バブルの頃のような内需拡大に期待できなくなっている。生産年齢人口は89年と比べて790万人も減少、全体人口に占める割合も61%にまで落ち込んでいる。高齢化現象も著しく、市町村によっては65歳以上の高齢者が全人口に占める割合が50%を超えるところまで出現している。
景気の良い大企業の多くは、実は日本国内で稼いでいるわけではない。したがって、これまでのアベノミクスの後押しで稼いだマネーは国内には還流せずに、大企業の懐に収まっているだけで、中小企業、ましてや個人の懐が潤うことにつながっていない。
海外で稼ぐような大企業にはもともと「資金需要」などほとんどないことに、金融機関はとっくの昔に気づいている。それでも国はお金を「どこかに」貸し出せという。一向に業績が改善しない中小企業にはすでに限度額以上のカネをつぎ込んでおり、新たな資金供給というよりも、現状をなんとか維持するための生命維持装置を機能させることしか金融機関がする仕事はないのだ。
■魔法の杖
金融機関が緩み切ってしまった財布からお金を落としていく先は、もはや不動産しかない。不動産は金融機関にとって、貸出額を伸ばす「魔法の杖」だ。不動産は取引金額が大きく、一度の融資で多額のマネーを貸すことができるからだ。
また貸出金の回収も短期ではなく、数年から十数年に及ぶのも都合が良い。多くの金融機関の行員は同じ部署にいるのは長くて3〜4年。不動産融資を行った結果を見届けることなく担当部署を離れることができるので、あとから責任を問われることも少なくなる。
市場に出回ったマネーは、こうした金融機関の事情とあわせて、不動産に集まることが容易に想像される。そして怒涛のように流れ込む不動産向けマネーが日本経済にもたらす影響は、計りしれないものがある。
なぜなら、日本の不動産の未来は決して明るいものではないからだ。日本には積極的に不動産を買うだけの理由が存在しない。これまでの「カンフル剤」としての各種政策は一定の効果を生み出したものの、不動産に大量のマネーを向かわせる副作用はあまりに激烈だ。
すでに東京都心部の不動産の投資利回り(キャップレート)は4%前後まで低下し、マーケットリスクに対応できるリスクプレミアムは極限まで縮小している。ところが、肝心のオフィスビルやマンションの賃料水準は期待したほど上昇してこないことが明らかになりつつある。
日本国内には消費を喚起する需要がもはやほとんど残されていないのと同様に、不動産に対する需要も先細りとなっている。不動産は「ひと」や「もの」が集まってこそ輝く存在だ。しかし、これからの日本で「ひと」は減少かつ高齢化し、大量の「もの」はすでに飽和してあらたな需要を期待することはできない。需要のないところにどんなにハコをこしらえたところで、不動産という商売は成り立たない。
この行為はもはやキャパのなくなったコップに大量の水を注ぎ込むことに等しい。コップからあふれた水は行き場を失って、日本経済というテーブルを汚すことになるだろう。水に濡れたテーブルクロスをかけ替えようにも、こぼれた水をふきとろうにも、替えのクロスはなく、水をふき取る布巾にも事欠くのが現代日本の姿である。
平成バブル当時と異なり、「度胸のある」者が必ず勝利を収める時代ではなくなった。ファンドバブル時のような黒船効果も以前ほど期待が持てなくなった。日本が日本のためにお金を使う先は急速に収縮を始めている。実需なき投資は投資としての「出口」を見えにくくする。視界がどんどん悪くなっていく日本丸の舵取りは、腕っぷしがよく声のでかい航海士だけでは乗り切れない。今こそもう一度羅針盤をじっくり見て航海を続けたいものだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)
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