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いま、安倍首相が「消費税10%」に踏み切る理由が見当たらない すでに家計の「生活防衛」が始まっている
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48421
2016年04月14日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■消費増税問題はどう転ぶのか
7月の参院選を意識した政局になりつつあることから、来年4月の消費税率再引き上げが政治的な関心事になってきたようだ。
今回、政府は、国内のエコノミストではなく、ポール・クルーグマン氏やジョセフ・スティグリッツ氏、ジャン・ティロール氏といったノーベル経済学賞者をはじめとする、国際的な業績のある経済学者を海外から招聘し意見を求めた。
クルーグマン氏やスティグリッツ氏が来年4月の消費税率再引き上げには反対の姿勢を明確に示したことから、今回も、安倍首相は、どこかのタイミングで消費税率再引き上げの凍結・延期を宣言して選挙戦に入るのではないかという見方がコンセンサスになっている。
だが、その一方で、安倍首相は、「リーマンショック期並みの経済の失速がない限り、消費税率の再引き上げを予定通り行う」旨の発言を繰り返しているのもまた事実である。
識者の中には、消費税率の再引き上げを予定通り実施する代わりに、消費刺激のための財政措置を講じるのではないかと考える人もいるようで、正直いって、現状、消費増税問題がどう転ぶかはよくわからないというのが現状である。
ただし、いまひとつ「冴えない」日本経済の現況(後述するように消費支出に限っていえば、2014年4月の消費税率引き上げ以降は減少トレンドで推移)や、「消費税を引き上げるべきではない」との回答が過半数を超える世論調査の結果もある。
また、軽減税率のナンセンスさ(例えば、「飲食スペースがあるコンビニエンスストアでの商品購入は、店内の飲食か、持ち帰りかを店員が確認して、どちらの税率を適用するかそのつど判断する」など)を考えると、予定通り4月に消費税率引き上げを実施すると、内閣支持率が低下するのは必至ではないかと考える。
つまり、筆者には、安倍首相が来年4月に消費税率を引き上げるインセンティブが思いつかない。
■消費税率再引き上げは凍結すべき
ところで、勝手ながら、「アベノミクス」の成果を個人的に採点すると、現状では、100点満点中、65点程度ではないかと考えている(金融政策が30点満点中25点+財政政策が30点満点中15点+構造改革が30点満点中15点+景気回復加算分10点の計65点)。
「65点」というのは、決して高い点数ではない。しかも、各経済政策を細かくみれば、問題点もそれなりに残されているかもしれない。だが、総合的にみると、合格点に達しているのではないかと考えている。
特に評価できるのは、雇用環境の著しい改善である。民主党政権時と比較して、完全失業率、有効求人倍率の劇的な改善は言うに及ばす、正規・非正規社員の賃金格差の縮小も実現させている。
保守的な政治思想に対する批判やそれに便乗したアベノミクス批判ばかりがメディアで流布されている安倍政権だが、内閣支持率等をみる限り、「65点」という評価は、一般的な日本国民の評価にほぼ沿っているのではなかろうか。
だが、ここにきて、日本経済の先行きに暗雲が立ち込め始めているのもまた事実である。
例えば、内閣府が様々な消費関連指標を組み合わせて作成した「消費総合指数」をみると、2014年4月の消費税率引き上げ(5%→8%)以降、消費支出の「水準」が大きく低下していることがわかる(駆け込み需要とその反動を調整しても消費水準の低下という事実は変わらない)(図表1)。
このような状況下で来年4月、当初の予定通り消費税率の再引き上げを実施した場合、景気(特に消費とそれから波及する内需)のさらなる悪化からアベノミクスに対する評点も大幅な減点になってしまう懸念がある。
すでに実現している通り、消費税率の引き上げが、個人消費を中心とした内需を減速させることは間違いない。これは、今回の消費増税の議論では、増税積極派の多くも認めつつあるように思われる。
筆者も中長期的な課題として財政再建は重要だと考えるが、不透明さを増す世界経済情勢から外需に景気の牽引役としての役割を期待できない状況、そして、前回の消費税率引き上げ以降の消費の減少を考えると、「あえて内需の減速を甘受して財政再建を優先させる」選択に対して、国民の合意を得ることは難しいだろう。
以上より、来年4月の消費税率再引き上げはいったん凍結すべきではないか、さらにいえば、「1〜2年の再延期(先送り)」と期間を区切るのではなく、マクロ経済状況に明確にコミットすべきだと考える(例えば「名目GDP600兆円を実現するまで消費税率の引き上げは行わない」といったように)。
■家計の「生活防衛」傾向が強まっている
確かに「デフレ脱却と財政再建を両立させる」ことも立派な政策目標であるかもしれないが、前回の消費税率引き上げ後、「ダッチロール」しているような日本経済の状況をみると、二つの相反する政策目標を同時に達成することは極めて困難であると考えられる。
特に、デフレ脱却の道半ばで、景気押し下げをもたらす消費税率引き上げを実施するとどのような事態になるかは、最近の家計行動の変化にも如実に現れている。
例えば、2015年半ば以降の家計消費の傾向として、「フローの貯蓄率(ここでは、100%−平均消費性向、つまり、収入のうちどのくらいの割合を貯蓄に回しているかを示す)」が大きく上昇している点が指摘できる。
また、この「フローの貯蓄率」の上昇は、家計のデフレ予想の高まり(グラフは内閣府の消費動向調査における1年後の物価見通しで、「上昇する」割合から「下落する」割合を差し引いたものを物価予想の代理指標として用いている)と連動している(図表2)。
さらにいえば、家計収支の黒字(貯蓄増分、及び、借入金の返済、有価証券の購入などの合計額)の増加ペースと比較して、預貯金の増加ペースが早いことも指摘できる(図表3)。
もちろん、低所得者層を中心に、消費税率引き上げによる物価上昇が実質所得の減少となって消費支出を抑制している側面も否定できないが、純粋に所得が足りなくて消費が減少しているのであれば、給付金や商品券などを支給することで消費の減少はある程度抑えられる。場合によっては、それらの支給で所得を補填しながら、消費税率の引き上げを実施することも可能であろう。
だが、家計が意図的に貯蓄、しかも、ほとんどゼロ金利の預貯金を増やし始めているとすれば話は変わってくる。
前回の消費税率引き上げの際、一部のエコノミストは、「消費税率引き上げによる税収増は将来不安を払拭させ、それが逆に消費を拡大させる」という「逆ケインズ効果」の可能性を指摘していたが、これは全く実現していない。見事なまでに外れている。
むしろ、家計は、来年4月が近づくにつれ、生活防衛のための予備的な動機から貯蓄を増やしている可能性が高い。そして、これが消費支出を減少させ、消費減による景況観の悪化をみて、再デフレ懸念を強め、それによってさらに貯蓄を増やすという「自己実現的」な生活防衛傾向が強まっていると推測される。
もっといえば、再デフレ懸念は円高をもたらし、円高は株安をもたらすので、貯蓄形態も、ほぼ金利がゼロにもかかわらず、預貯金に集中してしまう。
■まずはデフレからの完全脱却を!
このような悪循環を断ち切るためには、いったん財政再建目標を棚上げし、「デフレからの完全脱却=名目GDP600兆円目標の実現」にフォーカスしてコミットすべきであろう。
政府が、マクロ経済状況に明確にコミットした消費税率再引き上げスケジュールを提示すれば、日銀を含めた「統合政府」全体での経済政策スタンスにも一貫性が出てくるのではないか。
財政再建も確かに重要である。だが、現在の経済状況の下で強引に消費税率を引き上げたところで、消費が一段と減少すれば、トータルでみた税収は減少し、その対策で財政支出を拡大させて、財政状況がますます悪化する、というのはこれまで幾度となく経験したことである。同じ失敗は避けたほうがよいのではなかろうか。
ただし、税制は、将来の「日本のあり方」を決める重要な政策である。税制のあり方は、社会保障をはじめ、様々な財政支出をどのような税の組み合わせで賄っていくかだけではなく、所得の再分配や、日本経済全体の生産性の向上、イノベーションの促進などにも深く関わってくる重要な問題であるはずだ。
あくまでも財政の素人の個人的な見解に過ぎないが、所得税の累進性の見直し、資産課税、相続・贈与税のあり方など、税制全体の抜本的な見直しは、もっと時間をかけて議論すべきテーマであって、その間にデフレからの完全脱却をはかれれば、増税はもっとスムーズに実現するのではないかとも考える。
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